〜「アトラク=ナクア」のこと〜
序
お気に入りのゲーム、アリスソフトのビジュアルノベルゲーム、アトラク=ナクアについてです。
随分昔のことです。私のパソコンがまだPentium-Proの200Mhzだったころですから相当昔です。
会社の同期が貸してくれたソフトの中にこいつがいました。
飽きっぽいのでゲームとかあまり最後までやれた試しがないんですが、珍しくエンディングまでたどり着きました。
ほとんど自分で操作する部分もなくゲームというより戯曲を読んでいる感覚なのですが、きれいなストーリーに引き込まれ休日を一日つぶしてしまった覚えがあります。
当時、欲しくなったので自分で買おうと思ったらなんだか限定品とかで買えなかったのですが、昨年廉価版になって再販されたらしく買うことができました。
世の中では有名でもないようですが個人的には非常にお気に入りです。
なので、なんとなく思いつくままにだらだら書いてみました。
ゲームやったことを前提に書いてますのでやってない人は一応ご注意。
蜘蛛と少女の物語(STORY&REVIEW)
一応、ゲーム自体の紹介くらいはということで…。
REVIEW
お店ではゲームのコーナーで売っていますが中身はどちらかというと小説を読んでいるという感じです。
煩雑な操作はまったくなく、クリックをするだけでストーリーは流れていきます。
マルチシナリオの戯曲といったほうがいいかもしれません。
題名はクトゥルフ神話(残念ながら何だか知りません)に出てくる蜘蛛の神様の名前だそうです。
一応「18歳未満立ち入り禁止!」のゲームなので「エロス」&「スプラッタ」な描写がいっぱい出てきますが。それを跳ね返して余りあるものがあります。
パッケージによると最初の限定発売は平成9年ということです。製作はアリスソフト(C)
昨年再販されたものはおそらく現在も売っています。
定価は2800円(税別)。供給媒体はCD-ROMで最近はやりのDVD型の縦長ケースで売られています。
一応、対応などを書いておくと
OS:Windows95/98/NT/2000
CPU:Pentium-100Mhz以上
メモリ:32MB以上
HDD:80MB以上
ディスプレイ:640×480以上、6万色以上
年齢:18歳以上
ということで世の中の大半のパソコンで動きそうです。
STORY
永遠の刻を生きる蜘蛛の化身「比良坂初音」、彼女は宿敵「銀」との戦いで深手を負います。
傷ついた体を癒すため、餌となる人得るために、とある学校へと降り立つ彼女。彼女はそこでとある少女と出会います。
少女の名は「深山奏子」。銀との再戦に備える初音と彼女を「姉様」と慕う奏子の2人を中心にお話は進んでいきます。
全体的に凄惨なお話です。また、それがありのままであるため、いろんな意味で悲しいお話です。
終わりがハッピーエンドかといわれればよくわかりません。ただ良くわかる必要もない気がします。
ネット上のレビューなどでは「ストーリーが難解」「解説が少ない」といった評をみました。
けれども、むしろ良くわからないあたりが好きです。解らなくてもお話として成立していれば十分です。
「比良坂初音」のこと〜悲劇〜
本編の主人公、赤い目と黒い髪・黒い制服、赤と黒のコントラスト
美しい容姿を持つ蜘蛛の化身。
永遠を生き、気まぐれに妖しを用い、人を捕らえ・食らう絶対者。
超越者として人を俯瞰した視線。
日本語として耳に美しい古めかしい独特の言葉。
序盤、結界を張り、圧倒的な力を持って君臨する初音。
方や後半、銀と奏子の間で揺れ動き崩れていく初音。
絵を書くとおかっぱな前髪と微妙なアルカイックスマイルが非常に描きにくいです。なかなか似ません。
まあ、そんな「よた」は置いて
悲劇とは何でしょう?
それが世界の「不条理」に対する嘆きだとすれば世界は決して悲劇的では無いでしょう。
そこには回帰すべき「条理」が存在し世界は総体として意味のあるものたりうるのですから。
だとすれば
初音の置かれた状況はこうした「悲劇」よりもなお「悲劇的」であるといえるでしょう。
物語の出発点ですでに彼女に意味や条理などというものは存在しません。
彼女は自分を慕い、自分のそばにいることに意味を見出そうとする奏子語りかけます。
それは同時に、かつての自分に対する自嘲的な語りかけでもあります。
幾百年もの時を経て、初音は娘に語り掛ける。
(馬鹿ね、同じだろうと違っていようと、どうせ花などすぐ枯れるわ……)
(それが……)
(それが長いときを手に入れるという事よ、かなこ……)
永劫を生きる中で初音にとって既に世界はそこにあるだけ、「きまぐれ」という偶然の集合にすぎません。
彼女は人のように自己の意味付けなど必要としません。
かつては人として意味を求めたかのも知れません。
過去の銀との関係は「流れる時」=世界の意味を得るためだったでしょう。
しかし永い刻の中で彼女はそんなものは超越してしまいます。うんざりしてしまったというべきかもしれません。
彼女にとって世界はそこにあるだけです。戦いすらもはや意味はありません。
「化物」という名に相応しく、初音や銀は人とは全く異なる視点で世界を捉えています。
そこでは意味の存在が拒絶された視点です。
しかし、かつての自分に似た少女との出会いは彼女を超越者の視点から引きずり降ろします。
最初は気まぐれであったのかもしれません。
しかし、初音は奏子を贄でも無く、敵でもない「人」して扱います。
そして、初音は二人の間に張り巡らされた意味の世界にじわじわと絡め取られます。
戦いのさなか初音は逃げるように奏子を置き去り、銀の元へと駆けて行きます。
しかし、初音は奏子を振り切ることができません。
(――忌々しい、この、耳…!
ひとの形をしているくせに、聞こえ過ぎる。
…かなこの嗚咽ばかりが、いつまでも、いつまでも…!)
目の前にいる奏子にだぶるかつての自分、手繰られるかつての記憶
かつて人であったという限界が彼女を人の間に縛り付けます。
彼女は奏子の想いが痛いほどに理解できてしまいます。
故に彼女は奏子に応えます。
しかし、同時にその想いの結末が空虚であるということも知っています。
銀には神の視点しか存在しません。彼はもとより人ではありません。
しかし初音はかつて人であったため意味の彼方を知りつつ神にはなりきれません。
意味を求めつづけることに終わりの無いことを知りつつ、人の間では意味があるかのように振舞わざるを得ません。
人はどこまで行っても神にはなれないのでしょう。
彼女は人を真似た姿で戦いに赴きます。そこに勝利など存在しないことを確信しながら。
そして最期までその姿を解きません。
世の無為を悲劇として叫ぶのは簡単です。
しかし、その無為を知りつつなお有為であるかの如く振舞う初音はより悲劇的ではないでしょうか?
それは偽善なのかもしれません。
けれども、結末の絶望を知り、意味を演じきることの出来る人を私は大好きです。
「深山奏子」のこと〜無人境のコスモポリタン〜
初音と並ぶもう一方の主人公。
初音の棲付く学校の生徒。とある事件から初音と知り合う。
廃墟の中で泣きながら何かを探している。いつまでも、いつまでも。
そんな姿が似合いそうです。
人を殺め、家からも疎外され、この世のとの繋がりをなくしていく彼女。
彼女は彼女に居場所を与えてくれた初音に惹かれます。その思いは信仰といっても良い一途さです。
少なくとも彼女にとってその正体など問題ではありません。
彼女にとって人の世界との最後の繋がりである和久を失ったとき、彼女の居場所は初音以外に無くなります。
そして最後に残った初音もまた彼女の前から消え去ります。
「わかってます、でも、私、もう外の世界なんて要らないんです…!
姉様…姉様だけが……だから……どこにいても同じ、
いいえ、外の世界には邪魔なものばかりだから……だから…っ…!」
人との繋がりを無くす。自分の居場所が無くなる。
寂しさに耐えられなくて、また別の居場所を探す。
そこにも永くはいられず、また別の場所を探しに行く。
彼女は初音以外に居場所は無いといい、初音とずっと一緒に居たいといいます。
初音の場合そうした気持ちは永いときの中で色褪せてしまったのかもしれません。
しかし、奏子にとってはそれが永遠に真実である必要はどこにもありません。
彼女にとってそれを叫んだ瞬間は間違いなく真実であったのですから。
未来に対して希望を抱いているわけでも諦めている訳でもない。
そんな薄い説明やあざとさではなく
その一瞬においてそう叫ばざるをえない姿。
どうしようもない中でどうしようもないままにもがいている。
やむにやまれぬありのままの想いに動かされる彼女の姿。
彼女が初音の子供とどう暮らしたのか再び悲しい結末が繰り返されたのか、
そんな詮索や心配は必要ないでしょう。
ともかくも彼女が初音との最期の瞬間を精一杯生きていたのは間違いありません。
ありのままに想い表現する。とても大変なことだと想います。
大概はそもそもありのままというものがよく解らなかったりします。
そこで大概は一通りの理由を付けて終わりにします。
しかし、心を揺らがせるものは良くわからない生の感情や行動にこそ含まれているような気がします。
その他の人々〜要はお気に入りですね〜
といってもたくさん書くのは疲れるのでお気に入りの二人だけちょこっと。
八神燐〜Deus ex machina〜
銀と人の間に生まれたものの末裔、銀を祀る神社の娘。
銀に蜘蛛とされ初音との戦いの尖兵となる。
1人のキャラクターというよりはこの物語の裁定者。
彼女によって物語は終わりへと向かいます。救いのあるなしにかかわらず。
でも普段は初音に百科事典をぶつけたりする(過失&未遂)お茶目さん。
オドロク初音姉様はなかなか見られません。
ソフトボールの授業、外野であわあわボールを追いかける大変さ、良くわかります…。
葛城和久
関西人。転校生。それ故に初音と同じく異邦人。奏子とはお互いに周りに溶け込めないもの同士、次第に仲良くなります。
奏子にとって人の世界への唯一の出口となります。
関西人が描く関東の関西人(ややこしい)。「To
Heart」の保科智子同様、それだけでキャラクターがたちます。関東人に対する「偏見」を十二分にあらわしてくれます。でも割と当たってたりします。経験上。同じく関東にいる関西人としては変なところで思い入れがあります。
絆
世の中には他にもこいつの好きな人がたくさんいます。
私の見つけたアトラク=ナクア関連のサイトです。
結
夏休みの宿題で何が一番嫌でしたか?私は読書感想文が一番嫌いでした。
ついでに先生に「読書感想文に粗筋を書いてはいけません。」といわれたことは無いですか。私は言われました
そんな人間が書いたうっとおしいものを最期まで読んだ人、ありがとうございます。
途中で嫌になった人、ごめんなさい。次回があれば努力します。