ヒストリカル
バーバラ・カートランドから転んできたので、イギリス摂政期の歴史物に好みが多いです。
と言いながら、節操なく読んでるような……。

エリザベス・ロールズ
子爵の誘惑 HS-189 (株)ハーレクイン  発刊:2004.08.05
ヒロイン:ソフィー・マーズデン(牧師の娘・25歳) ヒーロー:デイヴィッド・メルヴィル(ヘルフォード子爵・30半ば)

あらすじ
こんな田舎道で、馬車を飛ばすなんて呆れるにもほどがある。
ソフィーは道に飛び出した少年を馬車から身を挺して庇うという荒技のおかげで被った肩の痛みよりも、無謀な馭者への怒りに打ち震えていた。
助け起こしてくれた紳士の容貌や緑の瞳が、どれほど素敵で目を奪われたとしても、苦言を呈することにためらいはなかった。

その相手が、ソフィーが借りている館の持ち主であるヘルフォード子爵その人であったと気付いたのは、数日後のことだった。

12年前、結婚まで考えていた女性に裏切られたヘルフォード子爵は、女性不信の塊。しかし、大伯母から跡継ぎを残す義務があると結婚をせっつかれて、重い腰をしぶしぶ上げることになります。
裏切られるのは金輪際お断りということで、感情を伴わない結婚をしようと動き出します。
最終的に絞った花嫁候補は、優美で目を見張るような美貌の持ち主であるレディ・ルシンダ。
ヒロインであるソフィーの対極として、このレディ・ルシンダが、自己中心的で性格の悪さはピカイチという女性像を、見事に体現。
突き詰めて考えてみれば、ソフィーとルシンダの間で揺れ動いているヘルフォード子爵ってそもそも何やってんだかと、呆れるばかりなんですが……情欲に取り憑かれちゃって悶々と悩む子爵は艶っぽくて、ムフフフ〜。
ルシンダがソフィーに仕掛ける卑劣なやり口も、ライバルの常套手段で安心(?)
気軽に楽しく読める作品となっております。


乙女の告白 HS-202 (株)ハーレクイン  発刊:2004.12.05
ヒロイン:マーガレット・フェロウズ(家政婦・19歳/愛称メグ) ヒーロー:マーカス・セント・ジョン・エヴリン・ラングリー(第8代ラザフォード伯爵・35歳/愛称マーク)

あらすじ
メグをこき使っていた吝嗇家の大おじが亡くなった。
領地や屋敷を受け継ぐ事になっているラザフォード伯爵が、当地に視察にやってくるまでに、なんとかしてメグは立ち退かなければいけない。放蕩者だと世間で評判の伯爵と、屋敷で勝ちあえば、既に、醜聞を引き摺っているメグの評判が更に地の底を這うこととなる……。
しかし、インフルエンザに罹ってしまったメグの身体は、肺炎を併発していて、ベッドから頭を上げる事すらできないほど重症だった。
意識が朦朧としていたせいで、とてもハンサムな紳士が看病してくれだしたことに、メグは何の疑いも思い浮かばなかった。

メグの両親は、既に醜聞に塗れて亡くなっています。愛人と情事に耽っていた母の現場を押さえた父が、2人を殺害した後に自殺を遂げたという陰惨な出来事が理由で冷遇され続けるメグ。
対して、放蕩者という噂を欲しいままにしているマークは裕福なラザフォード伯爵家の第8代当主。姉を始め親戚一同から、跡継ぎをはやくと望まれ、その為には今すぐにでも結婚をと、せっつかれています。
マークが、善意でした看病のおかげでメグの名誉は傷つけられたこともあって、結婚することとなる2人。
感情(愛情)の交えない結婚生活を望むマーク。既に好意以上の思いを抱いてしまっているメグは、自分の気持ちを隠さなければいけない状況に陥ります。
そして、マークの事を恨んでいる男、ブレイズ・ウィンターボーン准男爵の下劣な情欲の犠牲になりかけたりと、女性としてはつらい試練にさらされることに。
傷ついたメグを思いやることのできるマークですが、愛情を抱くことへの恐怖心から、つい冷たく接してしまったりと紆余曲折。しかし、その恐怖心から徐々に解き放れたれていくに従ってマークとメグの仲は進展していくこととなります。そして、悪辣なウィンターボーンにもきちんと制裁が下されます。


仕組まれた縁組 HS-242 (株)ハーレクイン  発刊:2006.02.05
ヒロイン:ペネロペ・フォリオット(長女・愛称ペニー) ヒーロー:ピーター・アウグストス・フロビシャー(第7代ダーレストン伯爵・32歳)

あらすじ
先妻メリッサが亡くなったのは 、ワーテルローの戦いで重傷を負いながらも生還した夫ピーターを待ちわびる素振りも見せず、情人と駆け落ちをしよう馬車を駈けさせている最中の事故だった。
それ以来、ダーレストン伯爵であるピーターは、女性全般に対して冷めた目で見ることしかできなくなっていた。
伯爵家の跡を継ぐ人間も信頼できる者だからと、再婚もせずに過ごしていたが、その後継者が事故死という事態に陥り、状況が変わった。
このままでは、ダーレストン伯爵は一族の中で一番、品性下劣なジャック・フロビシャーを長としなければならなくなるのだ。
到頭、ピーターは再婚相手を探すという一番したくないことのために、重い腰を上げざるを得なくなった。

ピーターが選んだのは、何度か、舞踏会、公園、音楽会で顔をあわせたことのあるフォリオット家の長女(ペニー)。彼女は、4年前、異母兄の不注意による落馬事故で視力を失っているというハンデを背負っています。
ペニーの傍らには、いつも大型犬の「ジェラート」がいて彼女の守護神を務めています。
跡継ぎが欲しいだけで、妻となる女性に対して愛情を持ちたくないピーターの勝手な心情にペニーは翻弄されていくこととなります。
そして、爵位とペニーの貞操を何としてでも奪いたいジャックと、ピーターの情人であった女性の暗躍の中、物語が展開。
2人のロマンスは、ペニーに愛情を抱きたくないと、距離をおいて接するピーターですが、それに併せて彼女自身が壁を築き出すと、心がもやもやするという中で進展していきます。


婚礼の夜に HS-256 (株)ハーレクイン  発刊:2006.06.05
ヒロイン:マティルダ・フランシス・キャベンディッシュ(子爵未亡人・25歳/愛称ティルダ、レディ・ウィンター) ヒーロー:クリスピン・アンソニー・マルヴァーン(セント・オーモンド公爵・35歳/愛称クリス)

あらすじ
クリスは、ミス・ペンバートンに求婚することを目的に、田舎の本邸で開いた身内だけのパーティに、彼女とその付添いを招待した。
玄関ホールで大おばの出迎えていたクリスは、ミス・ペンバートン達を乗せている馬車がやってくるのを見たことでその場に止まる羽目に陥ってしまった。この社交シーズン中、求婚をやめてしまおうかと思うくらい、あの付添いをしていた老女はいただけない存在だった……。
クリスは、重くなる気分を押し隠し、正面玄関に停まった馬車から、客が出てくるのを待ち受ける体勢を整えた。
しかし、驚いたことに、初めに降りてきたのは、5歳ぐらいの愛らしい少女だった。そして、女神かと思わせるほどの美女が続き、これは、訪問する場所を彼女達が間違えたのではないかと声をかけようとした時に、ミス・ペンバートンが降り立った。
ミス・ペンバートンから女神の素性の紹介を受けたクリスは、 彼女の態度から微かに滲み出ている冷たさに首を傾げるのだった。

7年前の社交界デビューの時に、クリスが発した心無い言葉は、忘れることのできない傷をティルダに残しています。そのクリスが、この招待されたパーティの間に、年若い従妹に求婚をする予定ということで、付添い役として同行してきます。
ティルダのことをひと目みて、惹かれる始めるクリス。彼女の機知ある会話に心が弾み、そして、彼女のことを誤解しているせいで、嫉妬に苦しみます。
もう完璧自分で自分の首を絞めている妄想屋さん。35歳にして初めて恋に落ちたクリスは、ティルダが従弟と仲良さげにしていることに嫉妬がめらめら。従弟(26歳)とティルダが同年代でお似合いのが、更に気にくわなくて、悶々としている姿が、可愛いのなんのって。妄想が大暴走しているので、言動が大暴投。楽しいです。
クリスの領地での密猟をしているのは誰かというプチ謎解きをスパイスに、ロマンスが進行していきます。愛娘が手負いの猟犬に襲われかけたのを身を挺してかばうティルダの姿が格好いい。
そして、深い傷を負ったティルダの手当てをしている場面でのクリスの献身ぶりが艶。


シルヴィア・アンドルー
奇妙な家庭教師 HS-252 (株)ハーレクイン  発刊:2006.05.05
ヒロイン:オクタヴィア・ペトリー(伯爵家の末娘・家庭教師・22歳) ヒーロー:エドワード・バラクラフ(大富豪・外務省の助言役・30歳)

あらすじ
エドワードはロンドンから離れたくなかった。
既に、秋の社交シーズンに向けて、交わされた約束や、招待をいくつも受けている。
春に突然、事故死した長兄夫婦の忘れ形見、リゼットとビップ姉妹に心を配るのは当然のことだか、自分の社交生活を犠牲にするのは気が進まなかった。
本来なら次兄夫婦がすることなのだ。義姉のジュリアが、脚を骨折さえしなければ……。
その上、もともと水と油のように気のあわないジュリアが、手配した家庭教師の態度は、エドワードにとって耐えがたいもので、ついに後先を考えずに、クビを言い渡すのだった。
早急に、次の家庭教師を探さなければ……と、思案していたエドワードの元に、ピップが若い女性をつれてやって来た。

田舎の由緒ある屋敷を受継いだオクタヴィアは、老齢の父との生活からすこし羽根を伸ばすために、ウィチフォードに向かいます。そして、屋敷を眺めていたところ、ピップに声をかけられ、あっという間に家庭教師希望の若い女性という立場に立つこととなります。
バラクラフ家、オクタヴィアが話そうとしていることを最後まで聞かない人ばかり(笑)
リゼットとピップ姉妹の伯母ジュリアがやって来るまでの2ヶ月間を家庭教師として過ごすこととなるオクタヴィア。
家庭教師としての腕前は一流で、エドワードは彼女の魅力に目を離すことが出来なくなっていきます。そして、小さなトラブルが2人の距離を縮め、抱擁したりキスすること数回。
身分違いのロマンスは、互いの抑制でなんとか進展せずに済むというのが、前半部分。
後半は、オクタヴィアが伯爵家の末娘だということがわかり、そしてリゼットの社交界デビューの手助けをしている内に、エドワードは、独身生活を謳歌しているだけの人生に満足できない自分に気づいていくこととなります。
リゼットの幼馴染みの男性が、彼女と無理矢理、結婚しようと画策するのを搦めて物語がすすんでいくのでありました。
メモ:バーバラ・カートランドの家庭教師ものの展開にそっくり。 本に厚みがある分、物語に起伏が出るというわけではないんだなぁ……と、バーバラ・カートランドの凄さを改めて認識しちゃった作品。


デボラ・ヘイル
美女と悪魔 HS-185 (株)ハーレクイン  発刊:2004.06.05
ヒロイン:アンジェラ・レースウッド(伯母夫妻の家に厄介になっている) ヒーロー:ルーシャス・アーサー・ダヴェンドリ(男爵・退役軍人/通称ルシファー卿)

あらすじ
ワーテルローの戦いでルーシャスは、敵兵の銃弾を顔に浴び、目を痛めた上に、英国一と謳われていた美貌には醜い傷痕が残った。その傷痕に対する人々の視線に耐えかねて、放蕩三昧に暮らしていたロンドンでの生活を捨て去り、先に祖父が隠棲した田舎の領地へと赴くのだった。
痛めた瞳は、太陽のまぶしさに耐えられず、顔に残った傷痕を噂する輩の視線も疎ましく、ルーシャスの生活は昼夜が逆転することとなった。
真夜中に、黒い仮面を身につけて山中を彷徨い歩く彼を、近在の人たちは、「ルシファー卿」と戦慄きながら呼んだ。
そんな彼が、太陽が沈んでいないのにも関わらず、屋敷を出たのは、ある女性に頼みごとをするためだった。
あと、3ヶ月という余命幾ばくもない祖父を喜ばせたいという思いにルーシャス取り憑かれてしまったのだ。
祖父の大のお気に入りであるアンジェラに、偽装婚約を申し込み、祖父が亡くなるまでの間、独り身を貫こうとしている孫に対する心配事を減らしたかった……。

作中で、取り立てて大きな事件が起こるわけでもなく、淡々と偽装婚約が展開されていきます。
醜い傷痕に自分自身が耐えられないルーシャスは、うじうじと、かなり内に籠って悩みまくり。
対して、嫁き遅れ気味のアンジェラは、色気づき過ぎてて、ルーシャスに媚を振りまいてます。随分と女っ気のない生活をしていたルーシャスにとって、それは、もう禁断の果実。
アンジェラのその仕草に、この醜い自分にも好意を持ってくれるのかと、期待もしてしまうわけですが……一夜を共にした後の明るい陽の中で、曝された傷痕に彼女が嫌悪の情を見せた事で希望が霧散することとなります。
アンジェラが、「驚いただけ」だと言い訳しても、拒絶されることに敏感になっているルーシャスにすれば、それは痛恨の一撃となり、更に内に引き篭もってしまうこととなります。
なんというかこの作品は、ルーシャスがひたすら、うだうだと悩みまくる物語。
ちなみに、ルーシャスの真夜中の山中徘徊は「天文学」に夢中になっているためです。


トルーダ・テイラー
伯爵と愛人 HS-26 (株)ハーレクイン  発刊:1997.10.05
ヒロイン:マドレーヌ・ヴォーボンヌ(農夫の娘・老侯爵の愛人・20歳/愛称マディー) ヒーロー:リュシアン・ド・ヴァロリ(レニエ伯爵・30歳初め/愛称リュク)

あらすじ
友人であるモピリエ侯爵フィリップが大切に囲っている愛人マドレーヌに、
「きみに彼は年を食っていすぎはないか」
そう尋ねたのは、リュシアン自身が彼女を愛人として囲いたいと思ったからだった。レニエ伯爵であるリュシアンの周りには美しい女性が、我こそは彼と情事に耽ろうと群がっている状態だった。しかし、マドレーヌの返事は、
「この世で一番わたしのパトロンになっていただきたくないのはあなたよ!」
リュシアンは、まさか自分の申し出が断られるとは思いもしなかった。
そのやり取りは、2年前に秘めやかに催さわれた夜会の一幕だった。
そして、今、革命の嵐が吹き荒れ始め、貴族の大半がパリを脱出しだしていた。
リュシアンが危険なパリに居残っていたのは、余命幾ばくもないモピリエ侯爵とともにマドレーヌが脱出していないからだった……。

フランス革命の嵐が吹き荒れる時代背景の中、話が展開していくこととなります。
世情は血なまぐさく波乱含みなのですが、マドレーヌに関しては最初から最後まで浮き沈み(特に沈み)に欠けてます。沈みがないので、浮くことの気持ちよさを感じられないというか。
マドレーヌは身分差で悩む様子も余り見せず、愛人として扱われることが彼女の「逆鱗」となってます。
口悪く言えば、たかが「農夫の娘」が何を偉そうな態度を取ってるんだかと、反感が湧いてくることしきり。父娘のような関係だったとはいえ、侯爵に囲われて贅沢三昧に暮らしていた上に、彼女に遺された財産に対しての優越感が滲み出ていたり……その謙虚のなさというか自信の強さは、どうしてなのー?
リュシアンの言動を早とちりして、非難を浴びせかけて、拗ねて、いじけて……なかなかに、素っ頓狂なヒロインを堂々と演じてくれてます。


ニコラ・コーニック
伯爵夫人の出自 HS-254 (株)ハーレクイン  発刊:2006.06.05
ヒロイン:ジェマイマ・メアリー・ジュエル(煙突掃除人の元締めの娘・21歳/愛称ジェム) ヒーロー:ロバート・ガイ・リューシャス・カベンディッシュ・セルボーン(15代セルボーン伯爵・26歳/愛称ロブ)

あらすじ
両親と祖母の命を奪った疫病のおかげで、愛すべき領地と屋敷は荒れ放題になっているらしい。
その復興に、ロブは多額の資金を必要としていた。
父の遺言状は、明朝に挙げられる従妹の結婚式に列席する若いレディの中から花嫁を選び出し、4週間以内の結婚をしなければ3万ポンドに及ぶ遺産の相続からロバートを外すと記されていた。
そして、祖母の遺言状には
「この遺言状を読んだ日から、百日、禁欲すれば4万ボンドを相続できる」
父の遺言状を開示された時は腹立たしさが吹き出たが、祖母のは大笑いするしかなかった。
父と祖母は、書類を見せあえば良かったのだ。

従妹の結婚式にいた若い女性の中で、ロブが見初めたのは煙突掃除人の娘ジェマイマ。
品のある物腰をもつ彼女(一流の女学校出身)にロブは便宜結婚を申し込むこととなります。
最初は、身分違いもあって断ろうとしていたジェマイマですが、父親から意に染まぬ結婚を暴力で強いられている状況から逃げ出すために、ロブの提案を受け入れ結婚することとなります。
密やかに結婚し、別居しながらそれぞれの相続条件をクリアした後で離婚すればいいという思惑の元に動き出したのですが、ロブの母方の祖母に早速、結婚したことがばれてしまい、あとはなし崩しに同居生活へ。
ロブは、ジェマイマを一目見た時から、彼女に惹かれているのでもう悶々の毎日(笑)
禁欲なんてくそくらえだーーーと思っている様子に、ムフフフ。
ジェマイマの兄ジャックの恋愛模様や、ジェマイマがロブに対して全面的に信頼することへの難しさをからめて、2人の絆を深まっていく様子を描いていきます。
ロブの妻の座を狙っていた従妹のオーガスタがえらく俗物で、ジェマイマの出自をパーティの席上で暴露するというクライマックスや、ジェマイマにそっくりな幼女の出現、兄ジャックをまず頼ろうとするそのジェマイマの様子に嫉妬してまうロブなどエピソードが積み上げられていて、読んでて楽しかった作品。


パトリシア・F・ローエル
灰色の伯爵 HS-219 (株)ハーレクイン  発刊:2005.06.05
ヒロイン:セアラ・キャサリン・モーリー(慈善事業に身を入れてる・24歳/愛称ケイト) ヒーロー:チャールズ・エリック・ジョゼフ・ランドルフ(コールドベック伯爵・35歳)

あらすじ
幼い時に母を亡くし、12歳で父が逝ってしまった後、キャサリンは叔父夫妻に育てられることになった。後見することで得られる財産が目当ての彼ら元での暮らしは、孤独だった。
父が遺してくれた信託財産を受け取れる25歳まで、あと半年。勝ったことのない博打にのめり込む叔父と、いつもめそめそ泣いてばかりの叔母から自立できるまであともう少しだと我慢を重ねていたのに。
叔父は、返済するあてのない負債をコールドベック伯爵に肩代わりしてもらう代わりに、キャサリンとの婚約を勝手に承知してきた。
「何度かダンスをしたけれど、特にわたしに興味があるように見えなかった」
あの機械人形みたいな伯爵が、世間でも有名な癇癪持ちの私とどうして結婚をしたがるのか……。

感情を表に出せないでいるチャールズ。遺伝的なものもあって、髪に白髪が混じっている上に灰色を身にまとうのを常としている彼。
対して、情熱的で生き生きとしているキャサリン。
赤い髪もサファイアのような瞳も、有名な癇癪持ちであるという噂の何もかもが、チャールズにとっては魅了の対象となってます。
そんなキャサリンに惚れ込んだものの、自分が結婚相手に選んでもらえる脈がないのは、先日の気の無いダンスからも判る通りで、何としてでも彼女を手に入れたくて、叔父の負債の肩代わりを盾に掻っ攫うように結婚までこぎつけてます。
感情を表に出せてないチャールズですが、その惚れ込みようは読んでて一目瞭然♪
大きな出来事では、伯爵の領地で起こった連続殺人事件の犯人が、キャサリンを標的にしたことや、小さなことではちょっとした夫婦喧嘩とか慈善事業での最中におこった出来事で、チャールズが感情を表わしていく術を身に付けていく様子が、丹念に描かれてます。
連続殺人事件の描写で、血なまぐさいところがあるので、そういうのが苦手な方はご注意を。

 

フランセスカ・ショー

ミス・デーンの憂鬱 HS-61 (株)ハーレクイン  発刊:1999.04.05
ヒロイン:アントニア・デーン(没落旧家の出・24歳) ヒーロー:マーカス・アリントン卿(裕福な領主・30歳)

あらすじ
母が亡くなった後、人が変わってしまったかのように放蕩の限りを10年間以上、尽くしていた父ハンフリー・デーン卿が亡くなった。その2週間ほど前に、跡取りであった兄も遊蕩の末に急逝していた。
アントニアに遺された財産は、父と兄が積み上げた借金がほとんどで、返済を完了した時には、うち捨てられたライ・エンド館が手元に残っただけだった。
その館は母が存命中、 家族全員で居していたところで、父が遊び呆け出してからロンドンに住まう大伯母に引き取られたアントニアにとっては、10年ぶりの帰郷だった。
その故郷の町で、アントニアを待ちかまえていたのは、領民のことを髪の毛一筋も思いやらなかった父と兄の散々な評判。
そして、隣人であるマーカス・アリントン卿の失礼な態度だった。彼は、あろうことか初対面に近いアントニアの唇を強引に奪うという暴挙に出ていたのだ。

「どこかお高くとまっていて、傲慢なところがあるのよ」と、姉から分析されているマーカス。ついつい尊大な態度を取ってしまっているので、彼の善意をアントニアは疑ってしまいます。本意を弁舌爽やかに説明せず、憎まれ口をたたくから余計に、アントニアの態度を硬化させてしまうわけです。
それでも、ロマンスは進行するのですが、「愛してる」の一言もなく求婚しちゃうのは、如何なものか………。
お約束のように、マーカスの直近の愛人も出現し、波風を立たせております。
これといって、大きな事件もなく展開していくので、ちょいとばかし肩透かしを喰らった感じの作品。その上、マーカスの求愛行動にはアントニアへの熱意が感じられないぐらいという、なんだかなーという仕上がりとなってます。