ジャンヌ・グラント
日本メールオーダー社で6作品刊行。
主人公たちの老人に対する暖かな視線や態度が好印象。ヒーローがヒロインに深く惚れ込んでいる作品が多いです。手に取る機会がありましたら、是非。オススメ作家さんです。

テネシーから来た男 71 (株)日本メール・オーダー  発刊:1983.11.19
ヒロイン:パトリシア・ロワリイ(デパートのアシスタントバイヤー・24歳/愛称トリシャ、ティシュ) ヒーロー:カーン・ロワリイ(テネシー山中のキャンプ場経営・ロワリイ財閥の御曹子)

あらすじ
数週間前に事故に遭ったと、母親からの電話で口を滑らせたときは、こんな事態を呼び起こすとは思いもしなかった。
都会以外で暮らすことなど全く考えてもいない母親が、テネシー山中に慌てて駆けつけてきたのだ。
それも、5年前にカーンの元を去っていた妻ティシュを付き添わせて。
キャンプ場を開設するために、彼女には辛酸を舐めさせた。新婚生活がキャンプ場の開墾だったのだ。
都会育ちの彼女が、泥まみれになりながらも本当によくやってくれていた。
テネシーの雄大な自然に、彼女が馴染んでいくのを息を潜めていつも観察していた。
結婚初夜に、溢れ出した恋情を抑え切れずに無理矢理、身体を開かせて、ティシュの心に傷を残してしまったから。
夫として愛想を尽かされかけている恐れをひた隠しにして、がむしゃらに働き続けたことが、さらに彼女を追いつめていたのだと理性的に考えられるようになったのは、彼女が逃げ出して2年も過ぎた頃だった……。

カーンが、ティシュに心底、惚れ込んでます。出会った頃から、彼女にぞっこん。
ロワリイ家の事業を切り回していくことに、喜びを全く見出せていないカーンは酒に憂さを晴らそうとしてたところに、ティシュが登場。
「ほかのことをすればいいわ。自分のやりたいことをね。それがいまのあなたには必要だわ」
子どもが、一端の口をたたいてと斜に構えるカーンに、14歳の時に目の前で両親を交通事故で亡くしたティシュが、人生の何たるかをきちんと反論するんですよね。
でも色んな面で、大人になり切れてなかったティシュに、カーンは自分の事情のあれやこれやを押し付けてしまい新婚生活は破綻。
五年後、再会した時、魅力的な女性に成長したティシュに更に惚れ込んでいってしまうカーン。
今回は、彼女が求愛してくるまで待とうと堅く決意はしているのですが、所かまわず、つい、手がでてます。彼女が魅力的になったのは、他の男との体験があるんではないかと責めてます。
反対に、カーンの側には、魅力的な未亡人レアがいて、2人の仲をティシュが嫉妬していることに彼が嬉しそうだったりするのがいじましい。
ティシュが、キルトや刺繍の店を出したいという夢を心ひそかに暖めていたことを知って、今度は彼女の夢を叶えなければと動き回ってます。


夢、いつの日か 114 (株)日本メール・オーダー  発刊:1984.09.20
ヒロイン:リー・セクストン(公認会計士・25歳) ヒーロー:ブライアン・ハザウェイ(建築家・35歳)

あらすじ
ブライアンが共同経営している設計事務所の節税対策のためにやってきた公認会計士のリー・セクストンは、みるからにお堅い職業婦人だった。
彼女はもの静かに、着実に仕事をこなしていく。
しかし、単なる会計士としか見ていなかった彼女は、節税対策が首尾よくいった記念のパーティの席上、ブライアンに爆弾を落とした。
「赤ちゃんが欲しいんです。妊娠させてくれたら1万ドルに差し上げます、人工的にです」

義父に強姦されかかった過去をもつリー。極度の男性恐怖症で、結婚は絶対にしないと思ってます。
しかしながら、赤ちゃんが欲しい、母親になりたいという願望を捨てることが出来ていません。
熟考を重ねて、赤ちゃんの父親として、選んだのがブライアン・ハザウェイ。
リーが爆弾発言を落とした時から、ブライアンは、社交生活を断っているリーの世話を嬉々としてやってます。
リーとは友人同士で、仕えていることにもなる執事のロバート。年老いた彼を、リーがとても大切に思っている場面が好き。


春へのプレリュード 133 (株)日本メール・オーダー  発刊:1984.12.20
ヒロイン:ミシャローナ・ホイッタカー(翻訳家・29歳/愛称ローナ、ミーシャ) ヒーロー:マシュー・ホイッタカー(刑事事件弁護士・38歳)

あらすじ
裁判所で予定の時間よりも一時間以上、拘束されてようやく事務所に戻ってきたら、秘書のアイリーンがわけの分からないことをのっけから言い出した。ホイッタカーを名乗る若い女性が、マシューの帰りを待っていると言うのだ。母親はとうに亡くなって、ホイッタカー家には女性はいないのに。
オフィスの扉をあけて、問題を起こしている女を追い出そうとしたマシューは、そこに、 ミーシャを見つけた。
8年前に事故死した弟リチャードの元妻だった女性だった。
リチャードと父が、ミーシャが不倫をして不義の子を産んだと騒ぎ立て、ホイッタカー家から追い出した時、何とか力になりたいと強く願って差し出した手をはねのけられたつらい思い出が甦った。

マシューは、交通事故死した弟リチャードの離婚した妻、ミーシャに結婚当初から思いを寄せていたようなので、ちょっと禁断っぽい感じ。ちょくちょく弟夫妻のところに夕食をしに来訪している時点で、怪しいよねー。他の人間には冷酷な視線をビシバシと投げつけるのに、ミーシャにだけは甘々とろとろ視線。
リチャードとミーシャの夫婦仲がこじれ出した時も、ミーシャ側に立ってます。マシューと父親が、疎遠となったのもミーシャ側の立場にたったせいかなぁと都合よく感じ取って読了。
それだけミーシャのことを思っていたのに、離婚の時も、リチャードが事故死した時も、彼女が一切、自分を頼ってくれなかったことに怒りを抱いてたようです。
離婚してから9年も経って、金銭的な援助が欲しいと今さらやってきたミーシャに、燻っていた怒りをぶつけて、また彼女が頑なになってしまうという事態を引き起こしてます。なんとか、親しい仲を復活させようとマメに電話したり、一緒に出かけようと手はずを調えたりと頑張るマシュー。
離婚時にホイッタカー家が吐いた暴言に、ミーシャが今なお傷ついていることを理解していて、それを徐々に正そうと根回しをしていた模様です。


愛と悲しみのワルツ 146 (株)日本メール・オーダー  発刊:1985.03.20
ヒロイン:ローレン・シェパード(鋳造会社の人事部長・旧家の令嬢・28歳/愛称「妖精ちゃん」) ヒーロー:バーソロミュー・アーサー・リーズ(鋳造所の工場経営・36歳)

あらすじ
場末のバーで酔っぱらっていた老人をそれとなく、気配っていたバックは、その老人を目指して一目散にやってきた女性から目を離すことができなかった。
彼女は場違いとしか言いようがない上品さで、根気よく老人を労っている。
どうやら彼女が、酔っぱらった老人が自慢していた孫娘のローレンらしい。
華奢で小さい身体の彼女が、バーテンダーに嫌味な脅しを掛けられながら孤軍奮闘している姿に、バックは手を貸さずにはいられなかった。
「つれだすのを手伝いましょう」
助力をすんなり受け入れるものと疑いもしなかったバックは、やんわりとした拒絶の言葉にしばし唖然とした。
そう、最初の出会いの時から、彼女の為なら何でもしてあげたいと思っていたのに、彼女にとってそれは重荷でしかなかったのだ……。

シェパード家を破産に導いた祖父は、金曜日になると場末のバーで飲んだくれてしまう。
祖父が放蕩をしている間に、身体の余り強くなかった妻が誰にも省みられずに病没してしまったのが金曜日だったから。
祖父と、自分勝手な10歳下の妹の世話を焼き、どこもかしこも修理の必要な屋敷の手入れ、そして勤務先の会社で任されている膨大な仕事量。
命を削っているかのように働きづめのローレンの生活に、バックがメスをいれていくこととなります。
それは、彼女が少しでも楽になるように、目の下のクマがなくなればといいと思って手を出しているのですが……。
生活が楽になっていくことを感謝するべきだと、ローレンもわかっているんですよね。
でも、今まで、解決しようと頑張ってきたけれど、解決の道にすらたどり着けないでいた問題をあっという間に片づけていくバックに対して、ローレンは心が軋むんですよ。
できなかった自分の無能さを思い知らされて、バックの財力、行動力を妬んでしまうそんな自分が情けなくて……。
到頭、与えられてばかりいることに押し潰されて自分が駄目になってしまうと、ローレンが疲労の余りに口走ってしまいます。
「いつも美しく輝くように幸福な女であってほしかったのに、そう思ってしたことが、きみを不幸にするだけだったとわかったとき、ぼくは家に帰って泣いたよ」
どれだけ、ローレンのことが好きかと大告白するバック。好みの作品でありました。


言いつくせぬ想い 169 (株)日本メール・オーダー  発刊:1985.07.20
ヒロイン:アン・ブレイク(銀行員・31歳) ヒーロー:ジェイク・リバード(銀鉱山主・34歳)

あらすじ
出会ったのは、アンが3歳、ジェイクが6歳の時だった。アンの祖母と、ジェイクの祖父が隣人同士という家族ぐるみのつき合いだった。
と、言ってもジェイクの両親は、事故で亡くなっていたし、アンの母親は夫を亡くした後、再婚と離婚を繰り返してアンの生活は、無茶苦茶だった。どれだけアンが、不安の中で息をしていたのか、ジェイクは理解していた。
アンが、安定した生活を心の底から求めていることも。
アンが18歳の時に、あの母親が亡くなった。祖母宅で、落ち着いた暮らしをしていたアンは、あんな母親でも亡くなったことで、心の拠り所を失って虚ろになっているのが痛々しかった。ただ、慰めるだけのつもりが、恋人同士の関係となって、至福の時を2週間。
その頃、ジェイクはアラスカ沖漁猟の冒険旅行に出るかハーバードで最終学年を過ごすかの選択に迫られていて、悩むことなくアラスカ行きを選んだ。
アラスカに一緒に行って欲しいというジェイクの言葉に、アンは同意してくれなかった……。

アンの元にほぼ3年ごとに戻ってきて、数週間から数ヶ月間、寄りを戻してはアンを置いて旅立っていくジェイク。結婚間近になっていたアンの婚約をぶち壊したりということも、ジェイクはやらかしてます。
なんて身勝手な男なんだーっっと思っていたら、ジェイクはアンにいつも
「一緒に行こう」と、一応は誘ってるんですよね。でも、アンは一緒に行くという選択をどうしてもすることができないでいます。
安住を求めるアンと、放浪癖のあるジェイク。
どちらの生き方に歩み寄っていくのかが、この物語では描かれてます。
デトロイトからアイダホの銀鉱山に行くまでの旅程と当地での暮らしを2週間。一緒に暮らしてみて、やっていけるかどうか判断して欲しいとジェイクが押し切ってきます。まあ、背水の陣ですわ。
不安な気持ちを抱え続けているアンの支えとなりたいジェイクですが、生き方が破天荒すぎて、ちょっとなぁ……。
毎日がお祭り状態という暮らしは、しんどいと、インドア生活大好きな人間は思うのでありました。


素顔のままで 14(エメラルド・ロマンス) (株)日本メール・オーダー  発刊:1984.07.20
ヒロイン:エリカ・マクラリー(主婦・見事な赤みがかった金髪の持ち主) ヒーロー:カイル・マクラリー(木工製作所経営)

あらすじ
飲んだくれの父親が亡くなった。
その時になって、自分は父親の借金だらけの木工製作所を本当は処分したくないことに気付いた。
故郷に戻って荒れ果てた仕事場を修繕しながら、フロリダで展開していた事業の方を清算し、借金を減らす算段に明け暮れた。半年してようやく、息をつけるようになったが、それでもしなければならない仕事は山積みだった。
その間、愛妻のエリカが文句一つこぼすことなく、付き従ってくれたことにカイルは、昔の自分を思い出してどこにも発散できない怒りに心が乱れて仕方がなかった。
浴びるように酒を飲む合間にする片手間の仕事だけが、父親の生活だった。父はカイルのことなど毛一筋も気にしていなかった。そんな父親にカイルは、盲目的に忠実だったのだ。
あの時の父親と今の自分にどれだけの差があるのだろう。
上流階級出身のエリカのしなやかな指は今、荒れ放題で、優雅なドレスを着こなしていた身体は、着古したTシャツとペンキのシミがとび散ったカットオフジーンズをつけている。
あの頃の自分のように、エリカはただ、夫に忠実なだけではないのだろうか。その忠実さが消えた時、自分が父親を捨てたように、エリカもまた去ってしまうのではないか……。

思い悩んでいることを口に出さず、悶々と悩み続けるカイル。忠実ではない本当の愛情を示して欲しいとエリカに願ってるんですが、自分の過去も含めて説明しないとわかんないわよー。
内にこもったままのカイルに、どうしたらいいのか不安で仕方がないエリカ。
そんな、すれ違いをしかけている2人の元に、カイルの大学時代の親友モーガン・シェインが訪ねてきます。
モーガンは、カイル達が結婚した当初からエリカのことが気になっていたようで(エリカに出会ってから付き合う女性は赤毛の女性ばかり)、今回、生活が激変したことで夫婦仲が壊れるのではないかと期待をしてます。というより、ぶち壊しにやってきた……。
2人の男性から、求愛を受けた(カイルのは全くもって分かりづらいんですけどね……)エリカの困惑や如何に。
カイルとモーガンが、エリカの愛情を得ようと、水面下で火花を散らしてます。
モーガンに対して、妹のような、姉のような、母性愛に近い情を寄せていたエリカ。
カイルには心の底から愛情を注いでいたのに、それを「夫に忠実」なだけと思い込まれる不運さ。
終始、エリカはカイルにぞっこんだったので、モーガンには勝ち目がないんですよね。その上、モーガンは欲情を抑え切れずに自滅しておりました。
モーガンとてやり切れない複雑な感情を親友のカイルに抱いてます。彼の父親は、仕事の上では自分の息子より、カイルの方を欲しがっていたから。本当に欲しいものは全て、カイルが持っていってしまったと思い込んでます。
そしてカイルは、貧しさから抜け出すためにがむしゃらに働いて、人も羨むような富をつかみ、その戦利品ともいえる上流階級出身のエリカを妻にして。端から見れば、立身出世の道を野心の赴くままに突き進んでいるかのようですが、カイルにとってエリカとの出会いは奇跡そのもの。
「きみにはじめてあったとき、きみはまるで暗い世界に輝きだした太陽の光のようだった」
カイルとエリカの今までの絆とともに、仲が良かった3人の関係が、変化していく物語。