柏木 彩
1951年生まれ。福島県出身。

蛍火の牧場で ニューロマンス26 サンリオ  発刊:1987.12.20
ヒロイン:及川 泉(雑誌編集者・24歳) ヒーロー:菊池 拓也(牧場主・35歳)

あらすじ
経済界の重鎮である及川総一郎の末娘、泉は父の影響力、支配下から自立しようと必死だった。短大を卒業後、両親の猛反対を押し切り、雑誌の編集者の職に就き、一人暮らしを手にできたからには元に戻るつもりは更々なかった。そんな中、雑誌の企画で遠野物語を中心に岩手県を通年で紹介する大仕事を任せられる事になり、泉は俄然、張り切って取材に出かけるのだった。

泉を獲得しようと頑張る男達が3人(父親を入れると4人) 4人とも「強引」でひと括りできちゃうのが、なんというか似たり寄ったり感が出ちゃってます。題材的に恋愛波乱要素が多い割には(そりゃ、3人から求愛されてたらねー)、淡々と話しが進行。泉のお嬢様ぶりが際立ち過ぎているのも、ちょっと違和感があるかな(いや、単に私がスレ過ぎてるせいか……)
取り敢えず、泉の周りを椅子獲り合戦のようにぐるぐるしている男性陣を軽く(笑)紹介。

菊池拓也: 「インテリな牧場主」
玄人裸足のカメラマンとしての腕と獣医師の免許を持つ。いつかは中央競馬に自分のところの馬を出走させたいと思っている。都会の人間を軽蔑(してる割に、泉にすぐに手を出そうとしているあたりが……)

村井隆: 「スポーツ馬鹿」
一流の野球選手。 泉からインタビューを受けて彼女に好意を持つ。いつもは女性に追いかけられる、又は自分が誘えば断られたことがなかったので、今回もがんがんと暴走中。
田代雄一:「すかした不良」
カメラマン。泉の取材に以前、同行して彼女をものにしようと迫るが、けんもほろろに断られ恨みを持つ(というか、まだ諦めてない……)
及川総一朗: 「権力志向満々の支配者」
経友連会長・及川グループ総帥・泉の父。40を過ぎてからできた娘ということで、過保護これに極まれりという泉の生き方はもちろんのこと、何から何まで口を出さずにはいられない保護者ぶり。


角野 栄子

魔女の宅急便 その1 福音館書店  発刊:1985.01.25
主人公:キキ(一人立ちしたばかりの魔女・13歳) ソノ(下宿先のパン屋のおかみさん)/とんぼ(飛ぶことを夢見る少年)

あらすじ
かあさんは、由緒正しき魔女。とうさんは、妖精や魔女についての伝説、民話を研究している民族学者。
そんな2人の間に生まれたキキは、10歳の時、かあさんの
「ちょっとだけ、飛んでみない?」という言葉にまんまとそそのかされて、魔女になることを決めたのでした。
それから3年。
13歳になったキキに、生れ育った町を出て、一人立ちしなければならない時がやってきました。
生まれた時から一緒にいるクロネコのジジだけを連れて、かあさんからはほうきを、とうさんからは赤いラジオを譲り受け、キキは自分を受け入れてもらえる場所を目指して、満月の夜に飛び立ったのでした……。

宮崎駿のアニメ映画の原作本。土台の出来事はほぼ同じ。
原作の方では、キキが小さなミスをするものの、順風満帆に魔女としての一人立ちの第一歩を踏み出します。起伏に欠ける展開のため、安心して読めるというか、ちょっと退屈かも。
ロマンスは、初恋(片思い)の芽生えが、甘酸っぱい感じ〜。


キキと新しい魔法 魔女の宅急便その2 福音館書店  発刊:1993.06.30
主人公:キキ(一人立ちして1年過ぎた魔女・14歳) ソノ(下宿先のパン屋のおかみさん)/とんぼ(飛ぶことを夢見る少年)/モリ(小さな弟の面倒をよく見る少女・町外れに住む)

あらすじ
「空を飛ぶ」
キキが使える魔法はこれ1つだけ 。でも、世間の人は魔女だから、どんなことでもできると思い込んでいろいろと言ってくる。
「おとどけもの」 だって、100kgはあるカバから悪意(?)の手紙まであって、キキを悩ませます。
心を込めて仕事はしているけれど ……ほうきの手入れが後回し。
そして、とうとう飛んでる最中に、ほうきが空中分解、キキも落ちてしまうのでした。

「空を飛ぶ」が好きで魔女になったから、それだけで満足だったキキ。
でも色々なものを届けている内に、「死」に触れ合ったり、「飛ぶ」だけでは解決できない事態に陥ったりします。
自分の仕事に悩みながら、模索するキキが描かれてます。
とんぼにライバル登場か? 調子のいい犬(タチ)を飼っているイクくんと仲良く散歩するキキ。イクくんと大事な秘密の場所を分かち合ってます。


キキともうひとりの魔女 魔女の宅急便その3 福音館書店  発刊:2000.10.20
主人公:キキ(くしゃみの薬と空飛ぶ魔法を生業とする魔女・16歳) ソノ(下宿先のパン屋のおかみさん)/とんぼ(飛ぶことを夢見る少年)/ケケ(傍若無人な女の子・12歳)

あらすじ
ケケと名乗る少女と関わりを持ったキキの周りは、なんだかざわざわ。
彼女に仕事を勝手にされてしまったり、仲良くしている人たちの間にはいられたり……。ケケととんぼさんが仲良く話す様子に、キキの胸が痛い。
そして、ジジまでもが、なんだかおかしな行動ばかり取るんだもの。
キキの心の中で、色んな気持ちでざわめくばかり。

嫉妬、競争心、見栄等の感情が散りばめられている作品。押し出しの強いケケには言い返せず(でも心の中で愚痴ったり)、ジジには当ったりするキキ。……読んでてかなり、どよーん。
とんぼが町を出て上の学校にいくのですが、空を自由に飛べる魔法を持つ(どこにでも行ける)キキが、彼の帰りを「待つ女」という選択肢を取るのかと、なんだか悔しかったり。


キキの恋 魔女の宅急便その4 福音館書店  発刊:2004.03.10
主人公:キキ(くしゃみの薬と空飛ぶ魔法を生業とする魔女・17歳) ソノ(下宿先のパン屋のおかみさん)/とんぼ(飛ぶことを夢見る少年)

あらすじ
遠い町の学校に行っているとんぽさんから手紙が届いた。
今年の夏は、とんぼさんと2人でいろいろなことをやってみたいと思っていたのに、届いた手紙には、
「 帰省せずに学校近くの山に籠りに行く」と書いてあった。
キキは、夏休みの予定を1人で決めてしまったとんぼさんに、憤りを感じずにはいられなかった。

自分で選んだ結果が今の状況なのに、何もかもが不満だらけのキキ。思春期ですねー。
とんぼさんとの仲はちょいと進展。病床についてしまった母親を助けるために、奮闘するあたりがヤマ場となっております。
それにしても、預かった荷物の扱い方が不注意過ぎるというか、ぞんざい過ぎるよ、キキ。「おとどけもの」に対するキキの姿勢が、う〜んと首を傾げてしまうことが多いから、のめり込めない作品なのかも。


加納 朋子
この作者さんは、私の中で「ななつのこ」のスイカアイスと記憶されてますが、スイカアイスがどう活躍(笑)したのかは、全く覚えてません……。

虹の家のアリス アリスシリーズ第2弾
連作短編6作所収
文藝春秋  発刊:2002.10.30
市村 安梨沙(探偵助手・20歳) 仁木 順平(探偵事務所長)/市村 英一郎(安梨沙の元婚約者)

あらすじ:【虹の家のアリス】より
相変わらず閑古鳥の探偵事務所で、依頼人を待っているだけでは仕事はやってこない。
と、ばかりに営業活動をすることになった仁木順平は、助手市村安梨沙の母方の伯母篠原八重子が開いているマナー教室に顔を出した。
表向きは、安梨沙とその父親との確執でできた溝の橋渡しを、彼女にしてもらうためであったけれども。
教室にやってくる生徒さん方が、いつ何時、依頼人に早変わりするやもしれないのだから。

前作を読んだ筈なのに、覚えていなーい。うっすらと記憶に引っかかっていたのは、青山産婦人科医院(双子)の事件だけ。今回も、こちらの医院で事件が勃発して、安梨沙さん、暗躍してます。
あと、 安梨沙さんの元婚約者である英一郎さんの失地回復があるかも?という含みを残して、次作乞うご期待!! あれほど、優しい青年だった英一郎がどうして、性格が悪くなったのかというのがちょっとご披露されたりしてます。


レインレイン・ボウ 連作短編7作所収 集英社  発刊:2003.11.30
牧 知寿子(OL・25歳) 渡辺美久(専業主婦)/小原陽子(大手出版編集者)/善福佳寿美(保母)/井上緑(看護婦)/坂田りえ(就職浪人中)/三好由美子(管理栄養士)/片桐陶子(OL)/長瀬里穂(OL)

あらすじ
牧知寿子が死んだ。25歳という若さで心不全で亡くなったのだという。
高校時代ソフトボール部に所属していた知寿子の仲間達が、お通夜、告別式に集まった。
「チーズ(先輩)」と呼ばれていた彼女が高校を卒業してからの7年間。心臓に持病を抱えていた彼女が、何故だかソフト部に入部し、社会に出てからは残業の日々だったらしい。
そして、彼女と一番、仲が良かった長瀬里穂はお通夜はもちろんのこと告別式にも顔を出さなかった。2人の間に何があったのか……

高校を卒業した後の社会生活の中で、それぞれが偶然に何らかの接点を知寿子と交わしたことを接ぎ穂に、話しが展開していきます。
気に入ったのは以下の作品(登場人物)
【ひよこ色の天使】  保育士と父子家庭の園児とその保護者
【緑の森の夜鳴き鳥】 看護婦と胃潰瘍もちの医大生
【雨上がりの藍の色】 食堂の管理栄養士と三魔女と縁故社員


スペース 駒子シリーズ第3弾
連作短編2作所収
東京創元社/CRIME CLUB  発刊:2004.05.28
入江駒子(短大生・19歳)/駒井まどか(短大生・18歳) 瀬尾隼水(作家)/八重樫春一(バス運転士)

あらすじ:【バック・スペース】より
一卵双生児の「まどか」と「はるか」
双子なのに母親の愛情が「はるか」に多く注がれていることに苦しむ「まどか」
弱い者に対して過多な干渉をしてくる母の気配りに息が詰まりそうな「はるか」
「まどか」が短大通学のために家を出たことで、対人恐怖症がひどくなった「はるか」の行動は?

「ななつのこ」「魔法飛行」に続くシリーズの第三作品目。「まえがき」で、できれば前作を読んだ上でとの「作者からのお願い」が記載。……読んだんだけど……覚えていない私は再読しないといけないなぁと思いつつ、読まずにこちらの本を手に取ってしまいました。
この本だけでも充分に楽しめましたが、前作で出てきていた(らしい)登場人物の意外な一面が披露されているようです。
駒子とまどかの恋に踏み出す第一歩目の緊張感が、ドキドキ。


てるてるあした 「佐々良」シリーズ2
連作短編集(7話)
幻冬社  発刊:2005.05.25
雨宮照代(夜逃げ中・15歳) 鈴木久代(元教師)・沢井やす子(やせ細った幽霊)

あらすじ
金銭感覚が普通の人とは違った両親がとうとう夜逃げをしなけければならない事態に陥った。
進学校に合格して、入学を楽しみにしていた照代は、一転して夜逃げに同行させてくれと頼み込まなければならない状況にあった。
両親は、照代を遠い親戚に預けて、自分たちだけで逃げるつもりらしいのだ。
「まるで駆け落ちみたい」
とはしゃいでいる父や母は、ことの重大さを認識していないらしい。
母の遠い親戚にあたる女性が住んでいる田舎町に、照代は苛立ちやら悔しさやら怒りやら、そして大きな不安を抱えて降り立つのだった。
「佐々良(ささら)」と書かれた駅に降り立ち、遠い親戚にあたる鈴木久代さんの住む家を照代は探し始めた。
……町は照代を歓迎などしていないとばかりに暴風雨が吹き荒れ始めている。

15歳でどん底を味わっている照代のとげとげした精神状態が、徐々に溶けていく過程が描かれている作品。
あと、2話目に登場してくる女の子の幽霊が一体、誰なのかという謎解きが入りながら物語が進んでいます。
照代のとげとげが爆発して、言い放つ言葉がマイナス思考全開だったりするんですが、妙にストンと心に入ってきます。
私、後ろ向きなところが多いからなー……。
……前作である「ささら さや」を読んでいるのは確かですが、登場人物しか覚えがない。
ホントにだめだめな記憶。


少年少女飛行倶楽部 文芸春秋  発刊:2009.04.25
佐田海月(あだ名くーちゃん・中学1年)

大森樹絵里(あだ名じゅじゅ・中学1年)
斎藤神(あだ名カミサマ・飛行グラブ部長・中学2年)
中村海星(飛行グラブ副部長・中学2年、野球肘で野球部を休部中)
中居朋(別名ルナルナ・中学1年)
餅田球児(野球部リタイア組、中学1年)
戸倉良子(別名イライザ・中学1年)
立木(飛行クラブ顧問)
星川(立木の遠い親戚・スーパー経営)

あらすじ
絶対に在籍しなければならないクラブをどれにするか悩みに悩んでいた佐田海月こと、くーちゃん。
体育会系は苦手なので、問答無用でパス。といって、文科系は放送部、美術部、ブラスバンド部しかない。運動部の厳しさと大差ないブラスバンド部など問題外だし、ミュージカル仕立ての放送劇に力を入れている放送部も絶対に駄目、工作など別に嫌いではないので美術部にというほどの気持ちもない。迷いに迷っているくーちゃんに幼馴染みの大森樹絵里こと、じゅじゅがチラシを1枚持ってきてくれた。
それが、飛行クラブとの出会いだった。

いろんなことを背負い込んでいる海月ですが、作中で一番悩み事が小さい。
大森樹絵里は、くーちゃんにものすごく依存。
斎藤神は障害を持つ姉に対して複雑な気持ちを抱いている。
中村海星は、野球肘になったので当分の間、野球禁止。
餅田球児は、野球部をどうしてもやめたいと両親に言っているのですが理解してもらえません。
戸倉良子は、口は災いの元が原因で、友人がおらず。
中居朋は、高所平気症なせいか、とんでもない高いところいても恐怖を感じないため大惨事を引き起こしかけること数回。
そんな面々が、大空を飛ぶことを目指します。くーちゃんが部活の推進力。


七人の敵がいる 集英社  発刊:2010.06.30
山田陽子(出版会社編集者/旧姓小原)

山田信介(陽子の夫)
山田陽介(陽子の息子)
山田日向(故人・陽子の従妹)
山田俊枝(信介の母)/加代子(信介の姉)/美佐子(信介の妹)
玉野遥(看護師・次女鈴香が陽介と同学年)
五十嵐礼子(ヤンママ・息子連音が陽介と同学年)
村辺(手癖が悪い・娘真理が陽介と同学年)
上条圭子 (PTA会長)

あらすじ
時に「ブルさん」と呼ばれることのある山田陽子は、出版会社の編集者としてばりばりに働いていた。「ブルさん」とは、ブルドーザーのごとく仕事を片づけていく陽子の様を、昔、担当していた作家がエッセイに書いたことに由来していた。
息子の陽介が小学校に入学してからは、その辣腕はフル回転で行使されつつあった。
PTA活動、夫及びその実家、学童の父母会、自治会、担任の先生、そしてPTA会長。

正論と権利をぶちかまして言いたい放題の感がある陽子さんですが、結局のところ、有言実行型の上に気配りの人で、お人よし。総じて、貧乏くじをひいているような気がしないでもない……。
敵を四方八方に作りつつ、要所要所に味方ができてるので人脈作りのプロです。仕事のできる人は、小学校を含む、地域社会での役割もきちんとこなしていくのかも。そういう生き方は、全く楽ではありませんが。
そんな陽子さんに、惚れちゃっている人は老若男女問わず多々いるような感じで、その辺を想像しながらニマニマと読了。



河上 朔
運営サイト:『therehere

wonder wonderful(上下) イーストブレス  発刊:2008.10.01
こかげ:27歳・会社員 ひなた:こかげの妹・19歳
ザキ:ディーカルアの国王・ひなたの恋人
ルカナート:近衛隊長・ザキの側近
ディレイ:ザキの異母弟
イルサム:ザキの母方の大叔父
ユーリア:ディレイの母親

あらすじ
こかげの8歳下の妹、ひなたは3年前から、異世界にあるディーカルア王国を度々、訪れている。今回も、数日もすればこちらに帰ってくるだろうと安易に考えていたら、初めて、ディーカルアを夢に見た。
高熱に苦しんでベッドに臥しているひなたを見たのだ。
夢から覚めたこかげは、ドラッグストアに駆け込んで、熱に効きそうな薬とか飲料をありったけかいこんで、スポーツバックに詰め込んだ。
そして、ディーカルアの王宮の庭に落ちた。

ディーカルア王宮に突然、やってきたこかげに、ひなたの周囲の人たちは、警戒心いっぱいで出迎えます。もう針のむしろ状態。そんな状況に陥ったこかげが、ディーカルアで自分の居場所を作り上げていく物語。
ザキが抱えている闇とか、ユーリアが陥っている闇とかを優しくぬぐい去る強さがスゴイ。


北村 薫
「スキップ」が大好き。

街の灯 連作短編3編 文藝春秋  発刊:2003.01.30
花村英子(商事会社社長令嬢・15歳前後) 別宮みつ子(運転手兼、英子の護衛/愛称ベッキーさん←こう読んでもいいのは、英子だけ)

あらすじ:「銀座八丁」より
女性が運転手をするのは、やはり珍しいから、学校の門前で待機している別宮を一目見ようとする女生徒が随分といた。それでも、まさか、桐原侯爵家令嬢である麗子様までもが興味を持とうとは思いもしなかった。
「今日、帰りの車がありませんの」と、暗に送って欲しいと望まれるままに、侯爵家まで車を向けた英子であった。
前庭には、丁度、侯爵家の跡取り息子で、麗子様の自慢の兄、参謀本部付き陸軍大尉の桐原勝久がいた。その彼が、別宮の所作を見ていきなり
「上着を脱いでみろ」 と命令してくるのだった。

昭和初期の「私小説」に見られる貧乏物語とは対極となる、財力がありそれなりに良い家柄のお嬢さんが、殺人事件を解決したり、愚兄のご学友が出してきた暗号文を解いたりしてます。
女子学習院在校生の花村英子と、それを送迎する車の運転手の別宮みつ子。この別宮さん、かなり謎なお人で、剣道、射撃の腕はかなりのもの、その上、英語もできるお人らしい。
そんな別宮にちょっかい(?)を出した勝久さんは、かなり彼女のことを気になっているご様子。
そして、英子とその兄雅吉の学友である大町六助との暗号対決、サキソホーンを玄人裸足で演奏する由里岡光輔。英子が2人の内、どちらを選ぶのか……という英子と別宮の恋愛模様は残念ながら書かれてません(笑)
続編で恋愛小説に発展するのかなぁ、と期待中♪


玻璃の天 連作短編3編 文藝春秋  発刊:2007.04.15
花村英子(商事会社社長令嬢・16歳前後) 別宮みつ子(運転手兼、英子の護衛/愛称ベッキーさん←こう読んでもいいのは、英子だけ)

あらすじ:「想夫恋」より
箏の名手として名高い清浦綾乃さんが熱心に読んでいる本が何であるか、ひとめで分かった。
この夏に出た、岩波文庫の一冊だ。
それは、英子もまた、読み出したら止まらなくなった本だった。
『あしなが おぢさん』
アメリカの女流作家、ジーン・ウェブスターの作で、英子は外の作品もまた読みたいと思ったほどのものだった。
強く湧いた親近感のままに、英子は綾乃さんに声をかけた。
本をお貸しし、互いに他愛のない文通をしあっていた2人だったが、ある日、綾乃さんのお母様が憔悴を滲ませた様子で英子を訪ねてきた。
どうやら、綾乃さんがどこかに行ってしまわれたらしい……。

ベッキーさんの過去が垣間見られる短編集。
相変わらず、陸軍大尉の桐原勝久の上から見ているちょっかいがあったり。
英子さんは、陸軍少尉の若月英明さんが新たに知己となってます。爽やかな包容力のあるお人らしい。
うーん、世相が暗くなっていく時期に入りかけの、微かだけど確実にその存在を突き付けてくる不穏な影が物語を包んでます。


鷺と雪 連作短編3編/直木賞受賞作品 文藝春秋  発刊:2009.04.15
花村英子(商事会社社長令嬢・17歳前後) 別宮みつ子(運転手兼、英子の護衛/愛称ベッキーさん←こう読んでもいいのは、英子だけ)

あらすじ
「不在の父」
神隠しにあったかのように5年前、子爵邸の玄関先から忽然と姿を消した滝沢子爵の消息について。
「獅子と地下鉄」
老舗和菓子店の評判の跡取り息子が、真夜中に補導。夜中に上野界隈を彼がうろついていたわけは? 
「鷺と雪」
能面の展覧会場で、同級生のご令嬢が気を失ったわけは? 陸軍少尉の若月英明さんが選択した道。

登場人物の人生の岐路が描かれます。
英子さんは進学決定。桐原道子さんは、婚約内定。
相変わらず、陸軍大尉の桐原勝久がベッキーさんに時局の流れを上から目線で話すんですが、ベッキーさんが発した言葉は、本当に彼にとって護符になったのかしら。護符にされたら叶わないよなーとも思うのですが。
「人間の善き知恵を信じます」
陸軍少尉の若月英明さんが、英子さんに大切にしていた本を送り届けたりするのも切ない。
言葉が情景を描き出す。
「騒擾ゆき」
そして、ああ、とうとう突入してしまったと、最後の一文で深くため息。


語り女たち 短編集17編 新潮社  発刊:2004.04.15
語り手:語り女たち(17人) 聞き手:彼(空想癖のある惣領の甚六)

あらすじ
30過ぎてから視力が落ちてきた「彼」は、細かい文字を読み耽るのが面倒になってきた。
ならば、市井の人の体験談を聞いてみるのも一興だろうと、アラビアの王に物語を語った若い娘を倣って、 全国の雑誌や新聞に、語り女の募集を載せたのだった。
ひっそりとやってくる女性達が話し出す摩訶不思議な体験談に、耳を傾ける彼だった。

あらかじめのおことわり(笑)として、
「語り女と彼との間にロマンスは芽生えません」
竹林の精からはじまって、梅木の精で終わる短編集。何人かの女性が彼に「恋」を語るわけで気に入ったのは、「水虎」「梅の木」
「水虎」:気になる女性に自分の異形を打ち明ける場面が、微笑ましい。
「梅の木」 :幼き頃に執着した梅の木に逢いたくて旅に出た老人が、最期に言葉を交わした相手は、梅の木が転生した女性だった。


語り女たち 短編集/8編所収 集英社  発刊:2009.08.30

あらすじ:『微塵隠れのあっこちゃん』
デザイン会社に勤めている二宮あつ子は、今抱えている仕事に続発するトラブルに苛立つばかりだった。デザイン会社とクライアントの仲を取り持つ広告代理店の営業、五堂大輔が、本当に使えない輩だったのだ。

『マスカット・グリーン』不倫のきざし
『腹中の恐怖』手紙が告げる「生」の行き先
『微塵隠れのあっこちゃん』呪いの忍法?
『三つ、惚れられ』鬱屈している後輩の気分解消法
『よいしょ、よいしょ』甦ってきた過去
『元気でいてよ、R2-D2』お引っ越しの理由
『さりさりさり』姉妹の分相応
『ざくろ』走馬灯の記憶?

ホラー風味はどうも苦手……まぁ、良かったと思ったのは『微塵隠れのあっこちゃん』



樹生 かなめ
BL作家。時に設定が「キワモノ」となることが多い。他の作品のレビューは『コチラ』(BL区域となってますのでご注意下さい)

炎の中の君を祈る クリスタル文庫  発刊:2004.10
清水昭利(東郷孝明研究所第1研究室長・35歳)
近藤慶介(東郷孝明研究所第3研究室長・27歳)
甘利嘉伸(東郷グループ次期後継者・常務)
諏訪琢磨(東郷孝明研究所警備員・24歳)
阿久津(東郷孝明研究所所長・近藤慶介の父)
支倉泰寛(國生マフィアの最高幹部)

あらすじ
清水博士が、介護現場の「聖母」として精魂込めて作り上げた新型アンドロイドが、ピンク産業に流れている事が発覚した。
何事にも穏やかで、静謐ともいえる雰囲気の清水博士が、事態の改善を出資者である東郷グループに恐慌一歩手前の状態で打診するものの、一向に進展がない……。
到頭、ぶちキレた清水博士に最後まで食らいついていったのは、さて誰か?

介護問題や、アンドロイドの人権など、重い題材が根底に。
清水博士の慈しみを一心に浴びて育ったアンドロイド達が行き着いた果てが、ひどくやり切れない。


 

桐野 夏生
1951年、金沢市に生まれる。「愛のゆくえ」で第2回サンリオロマンス賞佳作に入賞。

愛のゆくえ ニューロマンス4 サンリオ  発刊:1984.12.30
ヒロイン:風間 砂丘子(美大生/愛称サキ) ヒーロー:高見 野歩(脳外科医)

あらすじ
たった1人の身内である母からの仕送りは、食費をまかなうだけで精一杯で、苦学生を絵に描いたような生活をしているサキは、家庭教師とホテルの厨房でのバイトをこなして美大の学費を稼いでいた。親友メイのマンションに居候をさせてくれなければ東京での学生生活は望めなかった。そのメイが地下鉄の階段から転げ落ちて救急車で運ばれたとのバイト先に入った連絡にサキは、病院に急いだ。メイを診てくれた高見医師は、症状の説明をし終わった後、無遠慮にサキを上から下まで露骨に視線を送るのだった。

野歩←ノブと読んで下さい……お父さんが、山歩きの好きな方のようです(苦笑) 亡くなったお兄さんには登志(トシ)と名付けてるんで。
病室の前で心配そうに立ち尽くしていたサキに一目ぼれしたお医者さん。ホテルの厨房から慌てて駆けつけた白のゴム長姿だったのにね♪ それにしても行動が素早いです。出会ったばかりなのにいきなりホテルに誘うし、次にはしっかりキスして胸まで触るんだもの。なんとか、サキとの接点を探ろうと頑張ってるんですが……ストイックなサキにとって、ちょっと(かなり)エロおやじ(笑) 年の差11年と、母子家庭育ち、総合病院の跡取り息子として育ってきた環境のギャップは広かった。
末期癌に冒された母雪子が、せめて安らかに過せるための個室入院費用を工面するために、大学を辞めてヌードモデルになったサキ。後はホステスでもしてと、決心したところに救いの手が。費用の肩代わりをするから結婚しろと迫るお医者さん……これでサキを手に入れることができると喜んでしまったと自嘲する告白もありまして、ロマンスの王道だわ〜♪
傑作集5冊組の中で一番、面白かった作品。


熱い水のような砂 ニューロマンス17 サンリオ  発刊:1986.02.20
ヒロイン:小津 杳子(CMプロデューサー) ヒーロー:フィリップ・コンウェイ(冒険家・スコットランド貴族/愛称フィル)

あらすじ
スポーツ時計のCM出演者のことで、杳子は頭を悩ませていた。ほぼ内定していたスポーツマンがスキャンダルを起しメーカー側が変更を求めたのだ。メーカー側へのプレゼンテーションを明日に控えているのに、タレントが決定していないのは致命的だった。そんな中、「ニューズウィーク」の表紙を飾る冒険家のフィリップ・コンウェイは一目見て、起用したいと思わせる何かがあった。メーカー側もフィリップの起用に乗り気になったが、彼からは拒絶の言葉が返されたのみで、杳子は、なんとか出演をして貰えるよう交渉の為に、彼が居住しているハイランドに赴くのだった……

読みごたえのある骨太な作品となってます。そのせいか、ロマンス色は薄くなってるように感じかな? 杳子の上司である梶井とテレビ番組の核となるタレントのフィルの間で、彼女の恋愛感情の行方が書かれてる作品。サハラ砂漠で行方不明になった友人エドを探すためのスポンサーとして、杳子が仲間に入ることになり、男ばかり9人の中に女性が1人。……フィル、露骨に威嚇しまくってました(笑) 自分の運転する車に乗せたがるし、ちょっかい出したがるし、二人で行動したがるし。えぇ、フィルの杳子に対する独占欲はひしひしと伝わってきて、なかなか良かったです。
フィルの開けっ広げの嫉妬と梶井の陰湿な嫉妬の対比が、密やかに描かれていて、権力を持っている男の陰湿な嫉妬は、怖いよナーとつくづく思いました。


真昼のレイン ニューロマンス22 サンリオ  発刊:1986.07.20
ヒロイン:北園 冬子(テキスタイルデザイナー・26歳) ヒーロー:矢作 有一(建築家・34歳)

あらすじ
海藤汽船の令嬢、海藤弥生が、ゲストハウスを建てるということで、内装を冬子に依頼したいと申し出があった。設計は、日本に凱旋帰国した天才建築家矢作有一がするらしく、顔合わせとして海藤邸に呼ばれた冬子は、庭に立つ男性矢作有一を見て、色を失った。そして、話しかけてきたもう1人の男性遠野達郎をみて、更に動揺を深めた。
大雨だった9年前のクリスマス・イブに出会った二人の男性がそこにいたのだ。忘れ去りたいと願っていた記憶が鮮やかに蘇る……12月の雨は大キライ……

しっかりとした構成と文体で書かれているんですが、好き嫌いが別れる作品だと思われます。矢作有一の強引な迫りっぷりは、好みなんですが、冬子が、矢作有一の防御壁に遠野達郎と付き合い、同時進行でやっちゃうってのが……私の好みじゃないデス。9年間、矢作有一を想っていたのなら、そのまま押し通して欲しかったなーと清純路線(笑)が好きな私としては、読みながら突っ込んでました。「バカッ、遠野にホイホイとついてくんじゃないッ」 ……その上、矢作・遠野両名が冬子一筋じゃないってことがなー(泣)
海藤弥生が以前、描いた油絵の題名が「熱い水のような砂」という文があって前作となんらかの繋がりがあるのかな♪と期待したんですが、何もありませんでした。残念ッと思った私は、スピンオフ中毒かもしれない……。

 

古戸 マチコ
オンノベサイト「へいじつや」にて、笑いとしんみりが絶妙に塩梅されている作品を公開中。

やおろず イーストプレス  発刊:2007.12.28
高原 澄香(大学生・コンビニでバイト) 家神さん:高原家の家神さん(澄香の曾爺ちゃん、直道さん
荒神さん:かまどの神様
野呂 淳平:澄香のバイト仲間
ミチカタ:道祖神

あらすじ
大学一年にもなった高原澄香の怖がりっぷりには定評がある。
そんな彼女にまとわりつく神々さんたちの物語。

プロローグ:澄香ちゃんがどうして、神々さまが見えちゃう体質になったのか。
第一章 節分の段:鬼の「男を上げる」ために澄香ちゃんが奔走。
第二章 雛の段: 夫婦喧嘩真っただ中のお雛さまとお内裏さまを飾ることになった澄香ちゃん。
第三章 忌み神の段:呪いのわら人形を常時持参しているバイト仲間、野呂くんに喝を入れる澄香ちゃん。
第四章 道祖神の段: 夫婦和合の象徴である道祖神「ミチカタ」にどうして奥さんがいないのか、調査を開始してみると……?
第五章 和合の段: 溝ができてしまった野呂くんと仲直りをしようと用意したアイテムは?
第六章 家神の段: 家神さんの過去
エピローグ:澄香ちゃんと家神さんのファーストコンタクト。


やおろず 弐 でこぼこな恋、始めました イーストプレス  発刊:2009.04.10
高原 澄香(大学生・コンビニでバイト)

家神さん:高原家の家神さん(澄香の曾爺ちゃん、直道さん)
荒神さん:かまどの神様
野呂 淳平:澄香のバイト仲間
ミチカタ:道祖神
みっちゃん:ミチカタの幼妻
マレビト:神社の氏神
賽河原壱子: 大学の学科助手、26歳
松田誠:松田酒店跡取り、壱子さんの婚約者

あらすじ
神さん達と面白可笑しく(?)すごしている澄香ちゃん。アパートには新しい神様がやってきたり、呼んでもいないのに妖怪まで出没。出かけてみれば、ノロ君絡みで新しい神様と遭遇。
そして、とうとう氏神様のお願いごとまで相談にのることとなり……。
家神さんとの新しい絆をがっちり(?)築くお話しとなってます。

第一章 荒神の段
友人が訪ねてきた時のコンロの扱い方が大層拙かったせいか、荒神様のご機嫌がよろしくなく、魚焼きグリルの奥に引き篭もってしまったまま、数日。その上、実家から、澄香ちゃんが愛用していた電子レンジが送られてきて……。
電子レンジの神が、荒神様に師弟愛を押し売り状態のお話し。
第二章 厠の段
澄香ちゃんに「冷遇」されて、プチ家出をしてしまった便所の神様。下水溝で妖怪の河童をひろって戻ってきてみれば、家中のものが「カッパ巻き」に夢中。
便所の神様が、大人の容姿に大変身してます、たった数十秒だけですが(笑)
第三章 祝福の段
招き猫と関羽は商売の神様で、店を流行らすためにはあれやこれやと、ノロ君と急接近中。
第四章 マレビトの段
近所の神社の秋祭りに参加することになった訳。マレビトさんの恋情。
第五章 澄香の段
澄香ちゃんは、ノロ君と家神さんのどちらを選ぶのか
番外編 修行の成果
家神さんの恋情は叶うのか? 澄香ちゃんは「悪女」認定vv

 

此君 那由子
1956年、西宮市生まれ。「優しい天才」で第2回サンリオロマンス賞佳作受賞

優しい天才 ニューロマンス4 サンリオ  発刊:1984.12.30
ヒロイン:灌野 令子(大学院生) ヒーロー:黒須 映(写真家)

あらすじ
非嫡子として生まれた令子は、高校の時に看護婦であった母を交通事故で亡くした。その母が勤めていた病院で担当していた青年、信が令子の恋人であったが、病魔には勝てなかった。信が亡くなってからも彼は、令子の心の支えだった。ある意味、本当に令子のことを親身になって気にかけてくれる人をもたないまま、令子は26歳になっていた。妖精研究を京都の大学院で専攻し、その博士論文をこの夏に仕上げるつもりだったところに、親友の真理から東京で割のいいアルバイトをしないかと誘いがあった。作家鴻上誠一の雑用係りとして週に4日というバイトだった。真理からの注意事項はただ一つ、鴻上家に出入りする芸術家の中で「黒須映」という写真家の手練手管には気をつけてだった……

黒須映の「餌付け大作戦」という作品。自分と夕食を一緒にすることという、けったいなアルバイトを提案して、夕食のみならず、なし崩し作戦で昼食、朝食の世話まで下僕のようにまめまめしく令子に仕えてます(笑) ストーリー的に惜しいなーと思う点は、最初は若手作家の佐久間良武との賭け「理屈をこねる令子をモノにする」から発生してるのが、どこで恋愛感情に移ったのかよくわからない点。ハッ!! 最初からめろめろ〜んだったのかも♪ そう考えれば、生真面目な令子を大金持ちで女性に不自由していないプレイボーイの映が、ひたすらアプローチするっていう話しだわ……そう記憶しとこうかな(笑)
妖精研究を令子がしていて、作中童話でハイランドの「水の馬」の妖精の話しが出てくるんだけど、それだけで、この本、読んで良かったと思ってる私……ふっ。


強気にレイディ(短編集) ニューロマンス6 サンリオ  発刊:1985.06.20
ヒロイン:フリーティ・ローランド(ロマンス小説家) ヒーロー:ワート・ムアコッド(悲劇脚本家)

あらすじ:「いとしの悲劇信奉者」より
貸家を上下に分けて同居しているロマンス小説家のフリーティと悲劇作家のワート。 プレイボーイであるワートのロマンス小説に対する偏見への復讐として、自作の短編に登場するヒーローは、みなワートの言動を切り張りをして書いたものだった。ワートの作品がブロードウェイで上演され、好評を博した後、彼の夜遊び女遊びは激化した。そんな中、貸家の隣のアパートが火事になり……

「何度もこうしたいと想ったんだけど、白鳥のように汚れない風情だから手がだせなかった」 プレイボーイの告白っていいです♪ フリーティの寛大で天真爛漫な言動が、ワートの心を鷲掴みにしてしまったようです。一度は手に入れたのに逃げられて、脚本家ならではの画策で、おびき寄せて掴まえてしまう手際の良さは、流石、売れっ子(笑)
「『雑草』の物語」の講師と学生の関係における恋愛感情の駆け引き、「夢の馬」の夫婦間の愛情の浸透圧も好みの作品でした。


一夜のコンチェルト ニューロマンス24 サンリオ  発刊:1987.06.05
ヒロイン:村野 沙帆子(バッハ専門のピアニスト) ヒーロー:尾角 道顕(NYフィル指揮者)

あらすじ
ニューヨークでの仕事を受けたのは、間違いだっかもしれない……サホコは今さらながら、音楽プロデューサーであるアントン・ブロコウの仕事依頼を断りたくなった。ベートーベンの「皇帝」を尾角道顕の指揮下で、私が弾くなんて……。
7年前のニューヨークで、サホコは曇りなき人生を歩んでいくであろう道顕の人生に、汚点を残すようなことを仕向けてしまった。その事件の後、ニューヨークを離れ、ピアニストになるための勉強をザルツブルグで再出発したのだった。一時は諦めかけたピアノに傾ける情熱が、バッハを弾かせるならサホコにと言われるようになっていた。世話になったアントンから依頼でなければニューヨークでの仕事は、断っていたに違いない。そして、道顕からの「ベートーベンを弾くのなら、一緒に仕事をしてもいい」という返事にも怖じ気づくのだった

互いに相手のことを「高嶺の花」と思い込んでいるのですが、どちらかというと、道顕の方が分が悪いです。真摯にピアノに打ち込んでいる沙帆子を知っている上に、男慣れしてないことも十分過ぎるほど知ってる道顕が、泥酔しいたとはいえ無理矢理、抱いちゃったんだもんなー。今まで、女性に対して誠実でなかったツケが、一挙に噴出したというか……道顕、人生最大の大ピンチ(苦笑)で、沙帆子に逃げられてしまいます。悔やんで悔やみ切れなくて、それでもなんとか諦めていた時に、一緒に仕事をする話しが舞い込んできて、色々と、えぇ、本当に色々と画策する道顕。
最初に会話した時の沙帆子の「ベートーベンは大嫌い」をしっかり覚えていて、それでも彼女が自分の指揮下で弾いてくれるなら「望み」はあるかもと暗い情念に取り憑かれてる姿が素敵♪