鷺沢 萠
同年代の人が、もうこの世にいないというのは、かなりショックでした。

ウェルカム・ホーム!  2編収録 新潮社  発刊:2004.03.20
主人公:渡辺 毅(オーナーシュフ・フードコーディネーター・38歳) 松本英弘(大手通信会社家長・38歳)/松本憲弘(英弘の息子・小6)/斉藤美佳子(カフェチェーンの本社店舗開発部在籍・30歳)

あらすじ:渡辺毅のウェルカム・ホーム
「ぼくの家には、お父さんがふたりいる。」という書き出しの、憲弘の作文(←作成中)をつい覗いてしまった毅は、慌てた。
この作文じゃ……ふたりのお父さんって……ホモ疑惑が振りかかるってー!!

妻を亡くし、仕事に忙殺され、幼子を抱え困り果てていた松本英弘。
受け継いだ洋風レストランを潰し、妻から離婚され、 父親から勘当を言い渡され、ホームレス寸前だった渡辺毅。
大学時代の友人同士で、互いの利害が一致したから、一緒に暮らし始め、その時、5歳だった憲弘は、もう小6で「すげぇイイコ」に育ったよなぁと涙もろくなってる2人。
毅が一人突っ込みをしながら、松本親子と恋人の美佳子さんとの状況を語ったり、会話している情景がほんわかとしてて、読んで本当によかった。




佐野 洋子
「100万回生きたねこ」は、読んだことがない……

コッコロから   (株)マガジンハウス  発刊:1993.07.22
主人公:佐々木 亜子(美術学校生) 沢野 正則(東大法学部3年)/ケン(亜子の幼なじみ)

あらすじ
こけしのような容貌の亜子。
笑ってないのに笑ってるように見える愛嬌のある顔のおかげで、周囲の大人たちのコッコロからの愛情にまみれて生きている。
でも、男性と付き合った経験は一切なし。男と手をつないだ最後の記憶は、小学三年の時の幼なじみのケンが最後……それでも、ケンの母親すず子さんが、
「亜子ちゃんは本当に大物を掴む。私が保証する」と言ってくれる。けれど、先の保証より今の保証の方が大事なの。そんな清く正しい彼女が、横断歩道のど真ん中で美貌の男に、キスされた!!……額にだけど。

たまたま見かけた亜子の笑みに、ほぼ一目惚れした沢野正則。2代続く美貌弁護士一家の一人息子で、自宅はお屋敷、軽井沢に別荘がある裕福なお坊ちゃん。対して、中流家庭で父母兄の4人家族が、うり二つならぬうり四つの容貌の佐々木亜子。
「笑うと、君、本当に笑っている」という普段の顔が笑っているように見える顔の持ち主。その笑顔に可愛いを連発する正則が、なんか初々しくていいの。東大に入るために少年時代をすっ飛ばしてきたと自嘲する彼。正則が「やるだけ」相手の女性と別れるすったもんだに偶然巻き込んでしまった亜子に出会えて、本当に運が良かったと嬉しそうに言うんだよね〜。
初めて男性から、恋愛対象と見られた亜子の舞い上がりも、わくわく感が伝わってきて読んでてとても幸せになります。男はずーっといないものだと思っていた亜子に正則という存在ができて、「やばい」とうろたえているケンとか。
「変な顔してもてないと思って人生なめるなよ」←とっても失礼な告白をケンがしたりして、困ってしまう亜子ちゃんがいいわ〜。
愛嬌のある顔もいいのかなーと思えてしまう作品……でも美人に生まれたかった(笑)



柴田 よしき

ワーキングガールズ・ウォーズ  連作短編集:7編所収 新潮社  発刊:2004.10.20
主人公
墨田翔子・大手総合音楽企業の企画課の係長・37歳
嵯峨野愛美:旅行会社のオーストラリア、ケアンズの現地採用社員・29歳
神林麻美:墨田祥子の部下
八幡光雄:墨田祥子の部下
川越七海:墨田祥子の部下
加奈みどり:アルバイト

あらすじ
こぼれたマニキュアが、休憩室の畳にべったりとついていた。色は、アーミーグリーン。
こんな汚い色のマニキュアをしている女性はただ一人。
神林麻美、去年入社してきた期待の新人で周囲の受けのいい女の子だった。彼女は、男の前だけ素直ないい子になる。そして、翔子にだけ偏屈な態度を取ってくるのだ。突っかかってくる彼女の相手をしなければならないほど、仕事は暇じゃないのに。彼女は、能力はあっても、うっとおしい存在だった。

姉御肌の女性2人が、職場の陰険な人間関係やトラブル、「嫌な予感のする」お客様対応などを、鮮やかに解決(?)
仕事や人間関係に疲れた墨田翔子が、オーストラリア、ケアンズで見たペリカンに、心癒されて、ファイトする様子はなんだか可愛らしい。

やってられない月曜日  連作短編集:7編所収 新潮社  発刊:2007.08.20
主人公:高遠寧々(たかとお ねね):大手出版会社の経理部勤務・ドールハウス系のフィギュア作家・28歳 百舌弥々(もず やや):寧々の同僚・経理
小林樹(こばやし たつき):寧々の同僚・編集2課
島 :寧々の上司・係長
坂上浩介(さかがみ こうすけ):元俳優・女性週刊誌編集者
黒田翔子:寧々の従姉・総合音楽メーカー勤務 ・38歳

あらすじ
氷河期時代といわれた就職難の年に、大手出版会社にコネ入社した高遠寧々の配属先は経理部だった。希望していた部署ではなかったけれど、それで仕事を疎かにすることなく、ひたすら、正確に数字をはじきだす日々を過ごしている。
でもコネを使ってまで大手出版社に入ったのは、経理がしたかったからじゃない。忸怩たる思いを抱えながらも、会社勤めをしている寧々の楽しみは、住宅模型を作ることだった。

大手出版会社の経理に勤める寧々の容貌は自他共に認めるブスらしく、その上、性格は杓子定規というかキツメ。そんな彼女が同僚とやりあったり、大親友の弥々とだべったり、そして事件に巻き込まれたりしております。
寧々の趣味が、リアルな住宅模型制作で、弥々は男同士の同人誌制作。寧々のオタクぶりが語られるところが楽しい。
「男の匂いなんかより、模型材料の匂いの方がずーっと、セクシー、なの」

小袖日記  連作短編集:5編所収 文芸春秋  発刊:2007.04.25
主人公:小袖(彰子が香子の助手として雇った女房・数え18歳・経理事務員だった「あたし(破局した不倫に動揺中・30手前)」が落雷で意識を飛ばされた先の宿主) 香子(紫式部・小袖の雇い主)
夕顔(胡蝶の君が通っている)
雅(清瀬の君の正妻・胡蝶の君の元婚約者)
末摘花(常陸の姫・涼風の君が通う)
葛野(がすらの・末摘花に仕える)
山吹の上(胡蝶の君の正妻・葵)
若菜姫(胡蝶の君が通う年上の女性・六条の御息所)
利子(としこ・明石の君)
あかね(明子・利子付きの侍女・胡蝶の君のお手付き)
小紫(香子の姪・左大臣の息子が入れ込んでいる・御年10歳/楢山洋子が憑いている)

あらすじ
ほんの束の間の遊び気分でしていた不倫の結末が、妻が妊娠したから別れようという相手からの言葉だったことに、がく然とした「あたし」
動揺したまま、家を飛びだした彼女は、公園で当てつけの自殺をするつもりだったが、その馬鹿らしさに気付いた瞬間、落雷にあい意識を失った。
目覚めた先に見たものは、おかめ、おかめの大群だったのですっっ。

「あたし」はどうやら、1000年前に意識が飛ばされたらしく、いや別次元に飛ばされらしく……。源氏物語の作者である香子に源氏物語のネタを提供している「小袖」という女性の中に居座ってしまってます。
と、いうことで、 「夕顔」「末摘花」「葵」「明石」「若紫」を書き上げるために、小袖が頭を突っ込んだ男女のあれやこれやが書かれてます。
光源氏のモデルとなった男君たちの中で「胡蝶の君」がなんだかなーという人でありまして、彼が引き起こした「夕顔」「葵」「明石」は物悲しいです。
「明石」の結末は好き。胡蝶の君を選ばなかった彼女が素敵だった(選んだ彼女の卑近さが際立った……)
あと、「末摘花」はやっぱり可笑しみ路線でありました。うむ。


杉野 きこ
1957年、甲府市に生まれる。

春はセピア色 ニューロマンス16 サンリオ  発刊:1986.01.05
ヒロイン:山崎 愛葉(新鋭のグラフィック・デザイナー) ヒーロー:辻 雄一(サリエ化粧品会社副社長)

あらすじ
広告大賞を受賞し、フリーとなっていた愛葉は、最近落ち目になっている化粧品会社サリエから、CMのデザイナーをしてくれないかとの依頼を受けた。自由に作ることができると期待して、プロジェクトに加わったものの現実は、広告製作部の上前部長との確執に神経をすり減らす日々だった。モデルを決めるのも、ロケ地も、完成したポスター群からどれを選択するのかを決定する全てにおいて、部長と意見が噛み合わないのだ。部長は、サリエの化粧品を売る気がないのではないかと疑いたくもなる。そんな中、販売戦略のトップである副社長辻雄一がアメリカから帰国してきた。彼は、CMのロケ地で暴漢に襲われかけていた自分を助けてくれた日本人だった……

愛葉を手に入れるまでは強引すぎるほどの雄一ですが、その後のケア、手を抜き過ぎ(苦笑) キャッチコピーは、「辻雄一、詰めに甘い男」ですかね……。公私の区別なく(職権も乱用気味で)、愛葉に迫りまくったのに(この辺りの展開、好みデス)、手中に収めた愛葉に対してのガードの低さは如何なものかと。愛葉に仇なすもの(井川さよ子)は、まず排除でしょー。プロジェクトの裏切りもしている、そのさよ子に大事に接しているのが……理解不能。
それより、雄一の腹心のできる部下が一体、誰だったのか、すっごい気になるんですけど……読みとばしたのかな?


瀬尾 まいこ

卵の緒 2編所収 マガジンハウス  発刊:2002.11.21
「卵の緒」
鈴江育生(小学4年→中学1年)/池内(育生のクラスメート・登校拒否中)/鈴江君子(育生の母・27歳→)/浅井秀祐(たぶん課長・30歳→・愛称朝ちゃん)
「7's blood」
里村七子(高3)/山本七生(七子の異母弟・小6)/野沢(七子の彼氏)/島津(七子のクラスメート・1歳年上)

あらすじ
「卵の緒」…鈴江君子さんには、自分の好きな食べ物を分け与えてしまいたくなるくらい大事な、大事な存在がいる。それは、一人息子の育生。生真面目で、君子さんが知っている中で一番優しい男の子で、出会った時、何よりもいとしいと思えた存在だった。

「7's blood」
亡くなった父には愛人がいて、異母弟がいることを七子は、知っていた。
でも、それは七子にとって、全く関係のない絆だったのだ。母が、その異母弟である七生を引き取るまでは。
七生の実母が傷害事件をおこし、刑務所に収監されている間、預かることになったのは、
「七生の周辺にいる大人の中では、自分が一番まともだったから」という母のあまりに太っ腹な行動の結果だった。
なのに、七生が来てすぐに、母は病に倒れて、 長期入院。
2人だけで暮らす生活が始まったが、あまりに七生の物分かりがよ過ぎて、七子は居心地の悪さを感じていた。

続編を読んでみたいなぁと思わせる余韻をもつ作品。
「卵の緒」の主人公育生の出生の状況とか、重めの内容であるにも関わらず、説明者である君子の愛情まみれの言動のおかげで、暗い展開になっていません。君子さんと朝ちゃんの恋愛関係のほのぼのさが微笑ましい
「7's blood」の七子さんの投げやりな生活信条と七生くんの度が過ぎるほどの気配りから始まる物語。遠慮していた七生くんが次第に打ち解けていく姿が、いい感じ。
七生くんにとって七子さんが、とても大切な存在なのだと感じさせる場面で、きちんと彼女が向きあっていく姿にホロリ。
2人で、散髪しあう最後の場面は、キュンときます。


図書館の神様 マガジンハウス  発刊:2003.12.18
早川 清〈きよ〉(高校国語講師・文芸部顧問・アレルギー持ち・23歳)

早川 拓実 (清の弟・大学生)
垣内(高三男子・唯一の文芸部員)
松井(清の同僚・体育講師)
浅見
(ケーキ店主・清の不倫相手)

あらすじ
一途に打ち込んでいたバレーボールを辞めることになったのは高三の時だった。勝つ筈だった試合で負けた後のミーティングで、清はミスした部員に対して言い過ぎたらしい。清には自覚はなかったが、周囲の人間はそう受け止めていた。そして、ミスした部員が自殺したのだ。
非難は清ひとりに集中し、退部せざるをえない状況の中、バレーボールから一切、手を引くことになった。
バレーボールへの情熱が再燃したのは、しばらく経ってからで、したい気持ちと踏ん切りがつかない状況で、煩悶してた清の背中を押したのが、不倫相手の浅見さんだった。
「高校の部活動の指導で、バレーボールに携われば」という意見に、清は勇んで高校講師となった。しかし顧問になったのは、文芸部のだった。それも、部員はたった1人……。

文学に全く興味のなかった清が国語講師となって、高校に赴任。そこで、バレーボール部の顧問になりたかったのに、与えられたのは文芸部。
部員の男子生徒(垣内君)は、何故、文芸部?という体育会系の体つきをしているからか、スポーツをすることをつい清は勧めてるし……。
垣内君に感化されて文学作品を読み出してる清(立場が反対だ)の文芸部に対する心境の変化や、不倫相手の浅見さんとの関係とか、懐いてくる弟拓実の優しさとか、同僚の松井先生の体育教師だなぁと思うデリカシーの無さにムッとしつつ(なのにポイントの押さえた気配りを披露されたり)、淡々と1年間が進行していきます。

優しい音楽 3編所収 双葉社  発刊:2005.04.30
鈴木千波(女子大2年・英文科在籍・19歳) 永居 タケル(設計事務所勤務・23歳)

あらすじ:【優しい音楽】より
朝の忙しい通勤時にいきなり、永居は若い女性鈴木千波に呼び止められた。
何とかして永居と知り合いになろうと積極的に話しかけてくる千波であったが、彼女の言動には、歯にものが詰っているような違和感を感じずにはいられなかった。
それは、2人が恋人同士になっても消えず、彼女から発せられていた……。

どの作品も、どうにもこうにも好きになれないなーと思う状況設定や性格の女性が中心に据えられて話しが展開。
身勝手な女性とか男性が根幹に関わって、それを主人公が「良し」としている作品が、どうやら私は苦手だということが、この本を読んでわかった……。