第2回 ラテン語発音の基本
     <二重母音>



<母音 補足>
 ラテン語の母音は,前回の解説どおり5つなのですが,母音として発音される文字がもう一つあります.それは,”Y”です.

‥‥ ”I” の文字とまったく同じ発音で [] となる
 ”Y”はもともとラテン語の中には無かった文字で,ギリシャ語の発音を写すために新たに加えられたものです.したがって古い発音では i と u の間のような発音,ドイツ語の uウムラウトのような発音でした.高校生のころ "Kyrie" は[キュリエ]のように発音するのだと教わった覚えがありますが,それはここからきています.しかし,ローマ式発音では ”I” とまったく同じに発音します.
 ローマ式発音以外の発音による演奏については,後に論じることになると思いますが,特別の意図がある以外は古典ラテン語的に発音したり,ドイツ式,あるいはフランス式などの発音の仕方で演奏することは意味がありません.特に,一つの演奏の中に古典的発音やローマ式発音,ドイツ式発音などが混在するような仕方はまったく意味がないばかりでなく,混乱しているとしか言い様がありませんので,注意が必要でしょう.


<二重母音>
 1つの音節の中に2つの母音が隣接されている時,これを二重母音といいます.音節が分かれていれば,2つの母音が隣接して出てきても二重母音ではないので,それぞれの母音をはっきり別々に発音するようにしましょう.しかし,1つの音節内で出てきた場合は,二重母音として若干発音に注意が必要です.
 たとえば Lauda Sion という語について観察してみましょう.au と io という2つの隣接した母音がありますが,後者は単語を音節で区切ると Si-on で二重母音ではありません.したがって, i ,o をそれぞれ別々にはっきり発音するようにします.それに対して前者は,Lau-da で一つの音節内に隣接が出てきますので,これは二重母音です.二重母音ははじめの母音を発音した後発音器官が柔らかく動いてあとの母音の発音に移行していきます.つまり,a と u の間に移行していく音(おん)が柔らかくはさまるという形になります.この移行していく音を「わたり音」といいます.この「わたり音」は,単語として発音する時にはあまり気にする必要はないように思いますが,演奏する場合には「わたり音」を意識することによってあとの母音が綺麗に発音されるようです.ラテン語の母音は,それに対応する日本語の母音に対して,どれも広めに口を構えました.このことが日本人には本当に難しいのです.意識しないと,ラテン語を発音しているようで,すぐに日本語の狭い母音になってしまいます.「わたり音」を意識しないと,あとの母音が日本語の母音の発音になりやすいのですが,意識することによって,日本語の母音にない口の広さを保ってあとの母音に移行することができます.また,「わたり音」を意識することによって,前の母音と後の母音をなめらかにつなぎ,二重母音としてのまとまり感がでてきます.したがって,二重母音は前の母音からできるだけ素早く後の母音を発音するのではなく,ある程度の時間をとってわたり音を感じながら母音を移行させるとよいわけです.
 整理してみます.二重母音とは,
   <前の母音>+<わたり音>+<後の母音>
です.このわたり音があるために二つの母音の輪郭がなめらかにつながります.それに対して,二重母音でない2つの母音の隣接は,ひとつひとつの母音の輪郭がはっきり際立ちます.
(補:二重母音でない母音の隣接であってもわたり音が無いわけではありませんが,非常に素早く次の母音に移行するためほとんど知覚されません.その結果わたり音よりもそれぞれの母音の輪郭がはっきり知覚されます.)
 二重母音には,降り二重母音(前の母音が強調される)と昇り二重母音(後の母音が強調される)の別があります.降り二重母音を歌う場合には,前の母音で伸ばし,次の音に移る直前に後の母音が入る,という方法をとります.Lauda でしたら,[la--uda] であって,[lau--da] ではないということです.昇り二重母音は,ラテン語では短母音化しています.

 個々の二重母音についてもう少し詳しく見ていきましょう.二重母音については水嶋先生が3つのタイプに分類されており解りやすいので,ここではそれに従っていきたいと思います.

1) 本来の二重母音‥‥‥AU, EU, EI
 それぞれつづり字通りに発音します.
 ただし,ラテン語の母音は日本語の母音に比べてどれも広さを持っているため,我々日本人には AU は「アウ」ではなく「アオ」,EU は「エウ」ではなく「エオ」のように聞えます.しかし決して「AO」や「EO」ではなく,ラテン語母音の「AU」「EU」です.(ラテン語の「U」の母音は日本語の「ウ」の母音に比べて非常に広く,また唇も丸めて発音することを思い出しましょう.) 

2) 短母音的二重母音‥‥AE, OE
 つづり字は2母音ですが,発音は「E」の1母音です.
 それぞれ古くは,AI, OI であったものが AE, OEと変化し,さらに後ろの母音が強調されてAE, OE と綴りながらもどちらも「E」と発音されるようになったものです.

3) 子音的なもの‥‥‥‥QU*, NGU*, I, Y
 これらは,つづり字の上からは母音のようにみえますが,発音は子音的になります.
 QU*‥‥Qの後のUは[]と半子音化されます.
         qui, quem, quodなど
 NGU* ‥NGの後のUも[]と半子音化します.
         lingua, sanguisなど
 I ‥‥‥ alleluia という語において〜ia は[]と半子音化されます.
 Y‥‥‥ Raymunndus という語において Ray〜は ra--i〜ではなく, rai--〜と発音されます.




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