第1回「今、なぜBOMが問題なのか」
第2回「設計部品表(E-BOM)と製造部品表(M-BOM)の乖離」
第3回「受注生産とBOMの姿」
第4回「BOM再構築プロジェクトのために」
(上記は三菱電機のホームページ「e-F@ctory」コーナー"BIZ-Strategy"に、2006年7月から8月にかけて連載した解説講座です)
BOMは製造業にとってのDNAである。製造業とは、モノ(マテリアル)の加工を中心とした付加価値創出によって成り立つビジネス・モデルの一種だ。その中心情報がBOMである。いいかえれば製造業とは、BOMデータに記述された製品構成情報を、具体的な原資材マテリアルの上に、くり返し転写することで価値を生み出す業態だ。
拙著「BOM/部品表入門」(日本能率協会マネジメントセンター・刊)にも書いたとおり、BOMはあらゆる分野業界のメーカーにとって必要である。「部品表」という訳語は機械製品・電気製品など組立加工業ばかりを連想させるが、本来の英語であるBill of Materialはもっと広い。製鉄・金属・石油・化学・医薬品・食品・飲料・繊維・ゴム・ガラス・素材・半導体・・等々の、部品概念とは無縁の分野でも、BOMは基準技術情報として必要とされる。
にもかかわらず、BOMデータの構築・整備・保守という仕事は、なぜか、主要な業務プロセスとして製造業で位置づけられていないように感じられる。私は多くの顧客と仕事をしてきたが、BOM部という部門名にも、BOMマネージャーという役職にも、お目にかかったことがない。会計部門は、年に2回の棚卸し作業によって、物品の現状と帳簿上の保有を厳密に一致させるよう指示する。その調査結果は棚卸し在庫誤差率としてベンチマークされる。しかし、BOMデータを棚卸しして製造指図や製造実績とつき合わせ、BOM精度向上を測っている企業はきわめて少ない。なぜだろうか?
理由は、BOMデータの構築・保守が、複数部門にまたがる、『クロス・ファンクショナル』な仕事だからである。そして、日本の企業の縦割り組織は、クロス・ファンクショナルな仕事、“横串を通す”仕事を苦手としている。以前ならば、設計部門がBOMを管理していれば良かったかもしれない。しかし今日においては、「設計→生産準備→購買→製造」といった機能部門間のワークフローが、ウォーターフォールのように単純にきれいには流れていかない。流すべき情報の質も量も増えすぎ、しかも変化のスピードも速すぎるのだ。
APS(先進的生産スケジューリング)システムや、ERPによる生産管理システムの構築プロジェクトにおいても、BOMデータの内容・精度が低いために、途中で行き詰まったり、方向修正を余儀なくされるケースが珍しくない。これを防ぐためには、初期のコンサルティングの段階で、その会社のBOMデータの品質水準をチェックする必要がある。そして、遺憾ながら、この段階で「現状の御社に導入するのは時期尚早です」と言わざるを得ない場合が少なくないのである。
ではこのまま、会社のDNAが混沌としていくのを認めて良いのか? 生産管理や設計のシステムが古ぼけて行くままにしていいのか? そんなことはあるまい。ならば、答えは一つしかない。全社レベルで、BOMデータを再構築すべきなのだ。
BOMデータ構築はIT(情報技術)と深くかかわっている。データにはコンピュータ・システムという安住の場所を与えてやらなければならない。では、どのシステムに住まわせるべきか? CADシステムか生産管理システムか、はたまたMES(製造実行システム)か。
私の答えは、どれでもいいが、どれでもない、である。なぜなら、BOMデータが現に混沌としているのなら、既存の情報システムには、どこか運用上機能上の問題点があったはずだからだ。そこを正さずに、データだけ再整備しても、とおからず元の木阿弥であろう。
では、完璧なる情報システム・パッケージをどこからか導入すれば、この問題は解決するのか? 予算の問題は脇に置くとしても、私はそこまで楽観的ではない。解決する場合もあるだろう。しかし、BOMデータの構造特性は、分野業種により、かなり異なっている。化学工場のBOMはパソコン工場のBOMとはだいぶん違う。ITの言葉でいえば、データモデルがかなり違うのだ。
業種の差を乗り越えられるような、抽象化したデータモデルをつくることは不可能ではないし、「BOM/部品表入門」では、ある程度それを意識して『工順(ルーティング)』などの概念を記述したつもりである。しかし、抽象化レベルを上げすぎると、現実のお仕事に適用するまでの手間が大変になるものだ。だから、あらゆる製造業にぴったりと合うような、ワンサイズのスーツなど、ないと考えた方がいい。
もう一つの問題として、設計CADから製造・物流の統御まで、ありとあらゆる業務プロセスをカバーできるようなパッケージは、今のところまだ存在していないのである。BOMの案連部門は、拙著の目次を見ていただければ分かるとおり、少なくとも1ダース以上ある。これらを全員満足させられるソリューションはまずありえない。
だとしたら、どうすべきか。私がおすすめするのは、自社にフィットした、中立なBOMプロセッサを、できれば自社で作り上げることである。それをマスターとして、設計・生産管理・製造実行・購買・会計などの個別システムにフィードしてやる仕組みを作ることだ。これならば、自社のDNA情報の根幹を、特定のパッケージ・ベンダーに依存せずに済むはずである。
BOMデータの(再)構築はクロス・ファンクショナルな仕事である。その具体的なすすめ方は「BOM/部品表入門」に詳述したので、ここではくり返さないが、現有のBOMデータの調査と洗い直しがベースである。
BOMデータ調査を効率的に進めるためには、なんらかの簡単なデータ収集ツールを使うことが望ましい。Excelのような表計算でも、簡易なPCデータベースでもいいだろう。自社の身の丈にあった道具を使えばいい。しかし、紙の調査票も、使い方によっては十分有効だ。紙の帳票は非常に柔軟性があるからである。BOMデータの調査・整理の途上では、思いもかけぬ例外事象に突き当たることもしばしばある。そういうときには、手書きで切り抜けられるフレキシビリティがありがたい。
最初は紙の調査票をつかって、ある程度しぼりこんだサンプル対象を選び出し、パイロット的にBOMデータ調査を行なう。その上で、しっかりした収集ツールをつくって全数調査に進むという、2ステップのやり方が堅実だろう。
BOMデータの収集整理に用いる調査票のフォーマットは、その企業の規模・業態や生産方式に応じて、個別に使いやすいものを制定することをお薦めする。
以下に添付する調査票は、ひとつのサンプルである。
この例は、単一の工場で製品・資材をハンドリングする企業を想定している。同一製品や同一資材が複数工場ある場合には、購買や在庫を集中化するかどうかで、帳票の形を変えたほうがいい場合があろう。
また、作業の便を考え、工順(ルーティング)とBOMの表を1枚にまとめてある。これは、同一の工順が複数の代替BOMを持つケースには適合しないので、ご注意いただきたい。工場・BOM・工順・リソースなどの代替性のレベルを勘案して、帳票の結合や分割を決めるべきである。
なお、複数の帳票で同一のデータ項目を重複して記入する場所がある。情報技術的に言うと、厳密に正規化されておらず、冗長な部分が残っている訳だ。これは、紙の上での一覧性・作業性を考慮した結果である。次のステップに進んで、PC用のデータベース・ツールなどを利用しインプット・データを集積する場合は、その点に注意して入力されたい。
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