BOM構築調査法


「生産革新のためのBOM(部品表)再構築入門」

数年前、三菱電機から依頼を受けて、「e-F@ctory」という同社のWebサイトに、BOM(部品表)に関する文章を書いた。今はそのurlはリンク切れになっており、同社のサイトを検索しても見つからない。サイトのリフォームにともない、この種の一般解説的文章は削除されたのだろう。そこで、当時の文章を、一部ブラッシュアップして、ここに再掲することにする。内容的にはとくに古くなってしまった部分も見あたらない。製造業におけるBOM(部品表)の構築と改善は、いつでも古くて新しい課題なのである。なお、ここでは分量の関係で2回に分けて掲載する。(2013/11/04)

<今、なぜBOMが問題なのか>

不況の長いトンネルを抜けて、いま日本の製造業は元気を取り戻しつつある。そして多くの企業で、この機会に生産全体のあり方を見直したい、という気運が高まっているようだ。

製造業とは、物品(マテリアル)を産出・加工し、付加価値をつけて販売するビジネスだ。その資材調達から出荷までの加工と物流の仕組み、ならびに受注から納品までの情報の流し方を総称して、「生産システム」と呼ぶ。

そしてBOM(Bill of Material=部品表)とは、その生産システムのDNAである。BOMとは、製品がどの部品資材から成り立ち、どのような手順をへて組み上げられるかを規定する、生産の基準情報だ。生命がDNAの遺伝情報をもとに細胞や体を組み立てていくように、製造業は基準情報としてのBOMにしたがって、資材から製品を組み立てていく。

ところが近年、そのBOMデータの内容に問題がある、と考える会社が増えている。数万点に及ぶBOMと部品マスタを作り直した電子機器メーカー、2年近くかけて配管材料コード体系を再構築したプラントメーカー、設計思想に立ち戻ってBOMを再構成しようと奮闘中の機械メーカー等、多大な時間と労力をかけて見直す動きが、業界を問わず進んでいる。いったい、なぜだろうか。

それは、生産のDNAであるべきBOMの情報が混乱し、社内のあちこちに、複数の相矛盾するBOMが乱立したり、あるいは基準の役を果たせずに毎回使い捨てにされたりする事象が起きているからだ。

なぜBOMが分裂するのか。皮肉なことだが、BOM情報を必要とする部門がきわめて多いからだ。BOMとマテリアル・マスタには、部品構成以外に工程や原価やリードタイムや購入先やオプションや保守履歴など、多種多様な情報が関係している。いわばBOMは企業内の情報のハブなのである(下図)。にもかかわらず、縦割り組織や分業病の影響で、社内にBOMを統一的に保守する責任部署が存在しないケースが多いのだ。

BOMが混乱してくると、新製品の投入や設計変更の実施スピードが、確実に遅くなる。そればかりか、工場の生産量を拡大したり、海外にグローバル展開をはかったりする際に、とんでもない副作用が出てくる−−部品点数と部品在庫量の無秩序な増大である。工場の中はモノが有り余ったいるにもかかわらず、必要なものが見つからない、という状態になる。企業内のサプライチェーン・マネジメントが運用不能になるのだ。こうして、直接製造作業に関わらない間接工数ばかりが増えていく。結末は、原価上昇による赤字である。

<ERPパッケージはBOM問題を解決できるか>

この状態を解決するために、ERPなど基幹情報システムの導入に期待する人もいる。たいていのERPパッケージの生産管理機能は、MRP(=Material Requirement Planning)の考え方がベースになっており、その中核にはBOMマスタがあるからだ。

だが、ちょっと待ってほしい。そもそも製造現場で一度も働いたことのない若き“ERPコンサルタント”たちに、BOMの作り方や生産システムの動かし方など本当に分かるのか? じっさい、多くのプロジェクトで、「BOMデータの作成はお客様の責任です」と言われ、導入直前の1ヶ月間で急ごしらえのBOMをばたばたと登録するだけで終わっている。

そもそもMRPは規格品見込み生産・大ロット・余裕ある標準リードタイム・豊富な機械設備などを前提とした、'70年代米国の生産思想の産物だ。個別仕様・超短納期・ぎりぎりの工場設備、そして受注/見込み生産混在の自分の会社に、どうフィットしたらよいのか?

生産管理の観点から日本とアメリカの企業を比べてみると、その違いにしばしば驚かされる。米国製造業の特徴は、抜きがたい大量見込み生産指向である。標準品・大ロット生産による生産効率をあくまで追求したがる。これに対してわが国の特徴は、小ロット・プル型を中心としたリーン生産方式であり、また顧客要求へのきめ細かな対応である。個別対応の傾向は、とくに消費財よりも生産財において明瞭だ。生産財の取引においては、産業機械であれ電子部品であれ化学素材であれ、買い手は際限ない個別仕様を要求してくるのが常である。サプライヤーはしたがって、受注生産の形態を強いられる。

そこで受注生産の業界では、ユーザが浜の真砂のごとく出してくる個別要求に応えるため、個別設計のサービス能力が決め手になる−−多くの人が、そう信じている。いかにも日本得意の「すりあわせ型」文化である。しかし、個別設計を続ける限り、企業の中のBOMの数は無際限に増えていく。なぜなら、BOMというのは、一種類の最終製品につき、一つずつ必要だからだ。「あとは類推で考えてくれ」という訳にいかないのが、生産システムのDNAたるBOMの宿命だ。まして、個別設計ということは、見積や受注の時点ではBOMが確定しておらず、BOMの作成と資材発注が並行して進むということだ。従来のMRPではとても対応できない流れである。

<受注生産とBOMのあり方>

ところで、生産システム効率化のための定石は、いうまでもなく「標準化」と「平準化」にある。設計における部品構成や図面の標準化、生産における能力や負荷の平準化によってこそ、生産性の向上が計れるのだ。しかし毎回、設計図面からBOMを起こすやり方では、標準も平準も困難で、とても競争力が保てない。それでは、どうすべきか。

先進的な企業は、その答えを、モジュール化とATO生産方式に求めている。

モジュール化とは何か。それは、製品を機能単位の要素(モジュール)に分解し、その組み合わせによって仕様のバリエーションを実現する考え方である。たとえば、パソコンは筐体・マザーボード・CPU・HDD・モニタ・キーボードなどから組み立てられるが、CPUの速度、HDDの容量などの組合せにより、膨大な仕様のバリエーションが生まれる。

そこで、無限にも思える要求仕様を、比較的少数のモジュールから組立てられれば、中間部品レベルでの標準化が可能になる。これを『バリエーション・リダクション』の発想と呼ぶ。

さらに、素材部品ではなくモジュール(中間部品)の形で在庫を持っておき、注文を受けたら即座にモジュールを組立てて出荷する方式が考えられる。これなら、モジュール製造工程の平準化も可能になる。これが、ATO(Assemble to Order)生産方式である。

すなわち、受注生産と一口に言っても、じつは下記の3種類があるのだ。
(1)設計から始まる、ETO(Engineer to Order)=個別受注生産、
(2)受注後に部品手配からはじめる、MTO(Make to Stock)=繰り返し受注生産
(3)モジュール化が前提の、ATO(Assemble to Order)=受注組立生産
さらに、これに消費財で普通行われる見込み生産が加わる
(4)需要予測にもとづき製品を作りだめする、MTS(Make to Stock)=見込生産

して、今や少なからぬ先進的企業が、ATO生産方式を目指そうとしている。理由は、ETOやMTOでは受注リードタイムが長くなりすぎ、また標準化・平準化ができないため競争力が上がらないからだ。逆にMTSでは製品在庫のリスクが大きくなりすぎる。だから、生産財・消費財を問わず、ATOに向かう潮流があるのだ。

無論、モジュール化とATOを実現するためには、各モジュール間で組合せのインタフェースを規格化することが大事な条件である。したがって、その実現のためには、設計を根本から見直す必要があり、BOMの姿にも改革が求められるのである。

<設計部品表(E-BOM)と製造部品表(M-BOM)の乖離>

BOM再構築の課題の中でも、もっとも多く見られる悩みが「設計部品表と製造部品表の乖離」だ。ふつう、前者はEngineering BOMを略してE-BOMと呼び、後者をManufacturing BOMの略でM-BOMと呼ぶ。

設 計部品表(E-BOM)とは、設計部門が作成する部品表のことで、最終製品を構成する全部品をリストアップしたものである。製品の構成図(断面図)の各部 品に@AB・・といった番号をつけ、その右側に番号・部品名称のリストをつけたものを、誰しも見たことがあると思う。この部品構成リストがE-BOMの原 型である。

たとえば、『冷し中華』という製品を考えてみよう。冷し中華一人前は、図1左に示すように、茹で麺・たれ・錦糸玉子・チャーシュー細切・きゅうり細切から組み立てられる。

機械・電気など組立加工系の業種におけるE-BOMは、最終組立に使う部品のリストであるため、伝統的にはしばしば、部品間の階層構造を持たない「サマリー型部品表」の形をしていた。もっとも、現代のインテリジェントなCADシステムは、自動的に部品リストをE-BOMとして出力する機能もある。さらに必要ならば、製品→モジュール→サブモジュール→部品、という階層構造を定義することもできる。

と ころが、工場はこのE-BOMだけでは仕事ができない。冷し中華の例で端的にいえば、材料の手配はどうしたらいいのか? まさか茹でたての麺を毎回買って くるわけにも行くまい。購買には、図1右に示すような購入材料リストが必要である(これを購買BOMと呼ぶこともある)。

 [図1 設計BOMと購買BOM]

E-BOMから、購入材料リストを作成するためには、それぞれの部品をどんな材料からどのよ うな手順で製造するかを示す表が必要になる(図2)。これを製造部品表(M-BOM)と呼ぶ。製造部品表は、通常は生産技術部門による工程設計の結果とし て作成され、主に製造現場において生産管理で用いる。

M-BOMの特徴は、部品の親子関係を示す「ストラクチャー型部品表」 の形になることだ。また、工順(Routing=加工順序)の情報が付加される。生産管理にMRPシステムを用いている企業では、さらに親子関係に「標準 リードタイム」を設定し、生産スケジューリングに利用する。このM-BOMは、生産技術部門がE-BOMを元に作成するケースが多い。

 [図2 製造部品表(M-BOM)]

それでは、なぜ多くの企業がE-BOMとM-BOMの乖離に悩んでいるのか。その理由は、大きく4つある。

(1)品目コードの不統一

本 社設計部門では、部品コードを定めずに「部品の図番」や「部品規格番号」や「名称」だけで済ませる場合がある。一方、工場では購買先を決めてから品目マス タを登録するケースが多い。その段階で、はじめて部品に品目コード(Part Number)がふられる。この品目コードは、本来であれば本社設計部門に伝達され、図面やCADの属性に登録されるべきだが、部品点数は多いし、マスタ 登録のタイミングはバラバラだし、おまけにしばしばマイナーチェンジが行われたりするので、実際にはなかなか簡単ではない。

その結果、全社で品目のコード体系の統一がとれなくなり、E-BOMからM-BOMへの「翻訳」作業が必要になってしまう。しかし、これでは手間がかかるし、誤りが入り込みやすくなる。

(2)代替部品の使用

材料手配の都合上、工場では一時的な代替部品を使用することがある。サプライヤー側や購買・外注の都合で素材・品番が変わることもある(この事情は、とくに海外工場に多い)。そのため、設計と現物に食い違いが生じてくるのである。

(3)副資材や包装材料の追加

製品設計図には、副資材や包装材料はふつう記載されないため、E-BOMにないことが多い。したがって、工場では手配が必要になる。したがって、独自にM-BOMに追加せざるを得ない。

(4)設計変更の発生と在庫切替タイミングの食い違い

設 計部門において仕様改訂や品質改善のため設計変更が発生した場合、本来はM-BOM側も同期して修正すべきである。しかし、工場は仕掛りや部品在庫のため に、M-BOMをすぐには切り替えられない。「手元にある在庫を使い切ってから修正しよう」などと考えている内に、次の設計変更通知が来たりする。

こうして、いったんE-BOMとM-BOMが乖離しはじめると、問題点がいろいろ発生してくる。まず、新製品導入スピードが遅くなる。また、品質クレームやアフターサービス対応が難しくなる。どのロットはどんな部品構成で作ったか、トレースできなくなるからだ。

中でも、もっとも深刻なのは(1)の品目コードの不統一である。企業のマテリアル・マネジメントが混乱し、モノが有り余っているのに必要なモノがない、という状態が生じてくる。コードが無ければ設計の標準化も困難だ。モジュール化や、前回述べたATO生産方式(Assemble to Order=受注組立生産)の実現は夢物語になる。

それでは、どうすべきか。この背景には、開発設計と生産現場の乖離がある。マネジメント・レベルで、まず問題認識が必要であろう。その上で、BOM維持体制と責任分担の確立、品目コード体系の統一、そして適切なBOMプロセッサの導入などの施策が必要になるのである。

<BOM再構築プロジェクトのために>

市場が回復中の機をとらえ、今日、多くの企業が生産の革新にチャレンジしている。その鍵がBOMの再構築にあることを、これまでの話でご理解いただけたと思う。

需 要は増えてきたのに、思ったように増産できない企業がある。第一の理由は、仕様の個別対応の手間が多くて、設計部門がボトルネックになっためである。第二 の理由は、部品マスタの無秩序な増大や変更で、資材購買と在庫管理が混乱するからだ。材料が無ければ工場はモノを作れない。第三の理由は、標準モジュール 化の欠如で、工場の負荷平準化が困難なことにある。これらはすべて、BOMに関わる問題だ。

BOMの問題は、生産のグローバル展開の 足かせにもなってきた。なぜ、国ごとに違う図番体系や品目コードになってしまうのか? マスタが欠如していたからである。あの自動車産業でさえ、国別仕様 と供給可能部品によって生じたバラエティに悩んできた。いまから10年近く前、トヨタは社内に4種類のBOMをかかえており、その一元化と再構築のため に、驚くほど巨額の費用と工数をかけてとりくまざるをえなかった。

ちあみに、正確に言うとBOMは『部品表』ではない。部品表という日本 語は、何となく組立加工産業のみを連想させる。しかし「部品」に縁のない食品・素材・化学・電子材料・医薬品・アパレル業界などでも、BOM(Bill of Material=マテリアルの集計表)は存在するし、同じように重要なのである。

それでは、どうしたらBOMの再構築が進められるのか。

まず、第一に、これは情報技術だけの問題ではない、 と強調しておきたい。複数のデータベースをつなぐツールや、ERP・PDMパッケージ等の導入で、事足れりと考えないこと。むしろ、BOMの運用ルールこ そ問題なのだ。誰が、何をいつ登録するのか。どうメンテしていくのか。いつ廃止にするのか。いかに標準化をはかるのか。設計(E-BOM)と製造(M- BOM)の乖離をどう防ぐのか。運用ポリシーがあって初めて、必要なITツールが決まる。

もうひとつ重要なことは、あるべきBOMのマスタと、現実のBOM履歴データを区別することだ。設計はBOMのあるべき姿を規定する。これ はマスタだ。しかし、製造の現実では、様々な理由から代替部品を使ったり、歩留りのために予定以上の材料を使ったりする。顧客サービスや在庫管理のために は、個別の履歴をとっておく必要がある。つまり、製造指図や製造報告に付随したBOMのトランザクション・データを、マスタとは別に持つべきなのだ。

そして、何よりも大事なことは、中心となる『マテリアル・マスタ』の再統一だ。これを部品マスタ、あるいは品目マスタなどと呼ぶ会社もある。呼び名はどうあれ、設計・購買・生産技術・工務・製造・物流・・すべての部門が使用し関係している基準データだ。これがバラバラの状態を放置してはいけない。

BOM 再構築プロジェクトのあり方は企業の状況や生産形態によって様々だが、その流れの一例を、図4に示す。いずれの場合でも、最初に着手すべきは、何のために BOMを再構築するのか、どのような問題を解決し、どんな能力を得るために行うのかを明確化する事である。これを、経営トップや企画部門が中心になって社 内に宣言する。そして、遂行体制を確立する。

いうまでもなく、BOM再構築には、クロス・ファンクショナルな活動=プロジェクト・チーム体制での取り組みが必要になる。プロマネを任命し、スタッフと時間と費用を与えて、これを推進していくべきだ。誰かの片手間で済む仕事ではないのだから。

 [図3 BOM再構築プロジェクトの流れ(例)]

つぎに、BOM活用の現状と課題を、関連する各部門(製造業ならば営業を含むほとんど のライン部門が関係すると思っていい)で調査し、把握する。そこから、あるべきBOMデータの設計に進む。マテリアルのコード体系、BOMに付随すべき属 性項目等を整理するのである。このとき、主要ユーザ部門を相手に、テスト収集を行い、実用に耐えるデータ設計となっているかを検証しながらすすめる方がい いだろう。

そして、BOMデータの収集と整理のフェーズに進んでいく。データを、マテリアル、マテリアルの親子(階層)関係、工順(=加 工手順、レシピ)にしたがって整理していく。このとき活躍するツールがBOMプロセッサだ。またモジュール化設計を進めている場合は、モジュールの組合せ で実現できる製品仕様・性能との関係を定めていく。これは受注用コンフィギュレータの基礎になるから、営業部門の参画も望ましい。

データが収集できたら、クレンジング作業や整合性チェックを経て、ターゲットとなる情報システムのデータベースに登録する作業となる。ここは特にIT部門に活躍してもらうべきステップだ。

そして最後に、BOMの運用フローと保守体制の構築を行う。BOMは生き物である。今後も長い間、データを維持・登録・修正しながら使っていかなければならない。その体制と責任分担を決めて実行するのである。

そ して、ひとつ助言させてもらえるなら、このプロジェクトには外部の目を取り入れた方が良い。さもないと声の大きい部署の「部分最適」で終わる可能性が大だ ろう。BOMを再構築し、生産システム全体を生まれ変わらせる仕事を成功させるためにも、全体最適を目標に高く掲げるべきだ。そうして、日本のより多くの 企業が、活気と余裕を取り戻すことを祈ってやまない。

<参考図書>
 


なぜBOM(再)構築は重要か

BOMは製造業にとってのDNAである。製造業とは、モノ(マテリアル)の加工を中心とした付加価値創出によって成り立つビジネス・モデルの一種だ。その中心情報がBOMである。いいかえれば製造業とは、BOMデータに記述された製品構成情報を、具体的な原資材マテリアルの上に、くり返し転写することで価値を生み出す業態だ。

拙著「BOM/部品表入門」(日本能率協会マネジメントセンター・刊)にも書いたとおり、BOMはあらゆる分野業界のメーカーにとって必要である。「部品表」という訳語は機械製品・電気製品など組立加工業ばかりを連想させるが、本来の英語であるBill of Materialはもっと広い。製鉄・金属・石油・化学・医薬品・食品・飲料・繊維・ゴム・ガラス・素材・半導体・・等々の、部品概念とは無縁の分野でも、BOMは基準技術情報として必要とされる。

にもかかわらず、BOMデータの構築・整備・保守という仕事は、なぜか、主要な業務プロセスとして製造業で位置づけられていないように感じられる。私は多くの顧客と仕事をしてきたが、BOM部という部門名にも、BOMマネージャーという役職にも、お目にかかったことがない。会計部門は、年に2回の棚卸し作業によって、物品の現状と帳簿上の保有を厳密に一致させるよう指示する。その調査結果は棚卸し在庫誤差率としてベンチマークされる。しかし、BOMデータを棚卸しして製造指図や製造実績とつき合わせ、BOM精度向上を測っている企業はきわめて少ない。なぜだろうか?

理由は、BOMデータの構築・保守が、複数部門にまたがる、『クロス・ファンクショナル』な仕事だからである。そして、日本の企業の縦割り組織は、クロス・ファンクショナルな仕事、“横串を通す”仕事を苦手としている。以前ならば、設計部門がBOMを管理していれば良かったかもしれない。しかし今日においては、「設計→生産準備→購買→製造」といった機能部門間のワークフローが、ウォーターフォールのように単純にきれいには流れていかない。流すべき情報の質も量も増えすぎ、しかも変化のスピードも速すぎるのだ。

APS(先進的生産スケジューリング)システムや、ERPによる生産管理システムの構築プロジェクトにおいても、BOMデータの内容・精度が低いために、途中で行き詰まったり、方向修正を余儀なくされるケースが珍しくない。これを防ぐためには、初期のコンサルティングの段階で、その会社のBOMデータの品質水準をチェックする必要がある。そして、遺憾ながら、この段階で「現状の御社に導入するのは時期尚早です」と言わざるを得ない場合が少なくないのである。

ではこのまま、会社のDNAが混沌としていくのを認めて良いのか? 生産管理や設計のシステムが古ぼけて行くままにしていいのか? そんなことはあるまい。ならば、答えは一つしかない。全社レベルで、BOMデータを再構築すべきなのだ。

BOMプロセッサとデータモデル

BOMデータ構築はIT(情報技術)と深くかかわっている。データにはコンピュータ・システムという安住の場所を与えてやらなければならない。では、どのシステムに住まわせるべきか? CADシステムか生産管理システムか、はたまたMES(製造実行システム)か。

私の答えは、どれでもいいが、どれでもない、である。なぜなら、BOMデータが現に混沌としているのなら、既存の情報システムには、どこか運用上機能上の問題点があったはずだからだ。そこを正さずに、データだけ再整備しても、とおからず元の木阿弥であろう。

では、完璧なる情報システム・パッケージをどこからか導入すれば、この問題は解決するのか? 予算の問題は脇に置くとしても、私はそこまで楽観的ではない。解決する場合もあるだろう。しかし、BOMデータの構造特性は、分野業種により、かなり異なっている。化学工場のBOMはパソコン工場のBOMとはだいぶん違う。ITの言葉でいえば、データモデルがかなり違うのだ。

業種の差を乗り越えられるような、抽象化したデータモデルをつくることは不可能ではないし、「BOM/部品表入門」では、ある程度それを意識して『工順(ルーティング)』などの概念を記述したつもりである。しかし、抽象化レベルを上げすぎると、現実のお仕事に適用するまでの手間が大変になるものだ。だから、あらゆる製造業にぴったりと合うような、ワンサイズのスーツなど、ないと考えた方がいい。

もう一つの問題として、設計CADから製造・物流の統御まで、ありとあらゆる業務プロセスをカバーできるようなパッケージは、今のところまだ存在していないのである。BOMの案連部門は、拙著の目次を見ていただければ分かるとおり、少なくとも1ダース以上ある。これらを全員満足させられるソリューションはまずありえない。

だとしたら、どうすべきか。私がおすすめするのは、自社にフィットした、中立なBOMプロセッサを、できれば自社で作り上げることである。それをマスターとして、設計・生産管理・製造実行・購買・会計などの個別システムにフィードしてやる仕組みを作ることだ。これならば、自社のDNA情報の根幹を、特定のパッケージ・ベンダーに依存せずに済むはずである。

BOMデータ調査のすすめ方

BOMデータの(再)構築はクロス・ファンクショナルな仕事である。その具体的なすすめ方は「BOM/部品表入門」に詳述したので、ここではくり返さないが、現有のBOMデータの調査と洗い直しがベースである。

BOMデータ調査を効率的に進めるためには、なんらかの簡単なデータ収集ツールを使うことが望ましい。Excelのような表計算でも、簡易なPCデータベースでもいいだろう。自社の身の丈にあった道具を使えばいい。しかし、紙の調査票も、使い方によっては十分有効だ。紙の帳票は非常に柔軟性があるからである。BOMデータの調査・整理の途上では、思いもかけぬ例外事象に突き当たることもしばしばある。そういうときには、手書きで切り抜けられるフレキシビリティがありがたい。

最初は紙の調査票をつかって、ある程度しぼりこんだサンプル対象を選び出し、パイロット的にBOMデータ調査を行なう。その上で、しっかりした収集ツールをつくって全数調査に進むという、2ステップのやり方が堅実だろう。

BOMデータの収集整理に用いる調査票のフォーマットは、その企業の規模・業態や生産方式に応じて、個別に使いやすいものを制定することをお薦めする。

BOM調査票(サンプル)

以下に添付する調査票は、ひとつのサンプルである。

この例は、単一の工場で製品・資材をハンドリングする企業を想定している。同一製品や同一資材が複数工場ある場合には、購買や在庫を集中化するかどうかで、帳票の形を変えたほうがいい場合があろう。

また、作業の便を考え、工順(ルーティング)とBOMの表を1枚にまとめてある。これは、同一の工順が複数の代替BOMを持つケースには適合しないので、ご注意いただきたい。工場・BOM・工順・リソースなどの代替性のレベルを勘案して、帳票の結合や分割を決めるべきである。

なお、複数の帳票で同一のデータ項目を重複して記入する場所がある。情報技術的に言うと、厳密に正規化されておらず、冗長な部分が残っている訳だ。これは、紙の上での一覧性・作業性を考慮した結果である。次のステップに進んで、PC用のデータベース・ツールなどを利用しインプット・データを集積する場合は、その点に注意して入力されたい。

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