革新的生産スケジューリング入門

製造業を革新する<計画とマネジメント>の技術ノート

新しい仕組み作りにチャレンジする人、仕事のあり方をかえたいと願っている中堅エンジニアのために

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今回のノート Note this week

システムズ・エンジニアのための共通言語が存在する

わたしの働くプラント・エンジニアリングの業界には、通称「P&ID」と呼ばれる図面がある。正式にはPiping & Instrumentation Diagram。日本語に訳せば『配管計装図』だが、そう日本語で呼ぶ人はおらず、普通は「ピーアイ」と略す。いわゆる化学プラントの基本設計を表す図面であり、そこに構造も要素も制御もすべて書かれている。きちんと描かれたP&IDがあれば、どんな機器構成からなり、どんな働きをするのか、ほとんど全て見て取れてしまう。プラントがほぼ作れてしまうと言ってもいい。だからどこの会社でも機密扱いになっている。P&IDがどんなものか、サンプルをお見せできればいいのだが、そういう訳でわたしも勝手に開示できないので、せめてたとえば以下のサイトを見て雰囲気をご覧いただきたい。

 Diagrams for Understanding Chemical Processes 
 Piping & Instrumentation Diagram, P&ID 

このP&IDという図面は、いわばプラントの分野における『回路図』のようなものだ。電気における電気回路図と同じで、世界中、ほぼ同じ記法で書かれている(多少の方言はあるが)。だから専門の者が見れば、他社のプラントであっても完全に理解できる。P&IDはプラント業界の共通言語だと言ってもいい。そして、それゆえ、化学や石油業界の顧客にかわって、プラント工場の設計と製造を請け負う『エンジニアリング会社』という商売が成り立つのだ。もしP&IDという図面が存在していなかったら、あるいは記法が各社バラバラだったら、誰も工場づくりをアウトソースできず、われわれもビジネスをやっていけない。共通言語があるから、はじめて業界が機能分化し、専門会社ができて技術を集中・発達させることができるのだ。

そしてたぶん、電気業界だって、事情は同じことだろう。電気回路図が国ごと、会社ごとにバラバラだったら、電子部品業界など成り立つまい。他国でメンテナンスできず、輸出もできない。電子立国日本、などと’90年代は呼ばれたが、輸出で経済を支えられたのは、回路図という共通言語がすでにあったからなのだ。

ちなみにエンジ業界でP&IDを作成する設計職種を、プロセスシステム・エンジニアと呼ぶ。長いのでプロセス・エンジニアと呼ぶことも多い。職種名からお分かりの通り、一種のシステムズ・エンジニアである。わたしもキャリアの最初は、この職種だった(が、へそ曲がりの性格のためか、だんだん横道にそれてしまったのだ^^;)。P&IDは化学プロセスのシステムとしての表現であり、主な設計成果物である。そして化学プラントはシステムである。それは文系・理系を問わず、この業界にいる全員の常識だ。

そういう世界に育ったせいか、他の分野に関わったとたん、システムという意識の薄さ、システム設計における共通言語の不在に驚くのである。わたしの目から見れば、自動車だって、月ロケットだって、水道インフラだって、計算機だって、工場だって、みんなシステムである。まあ発達した業種には、それなりに共通する図面類はあり、だから業界が成り立つのだろう。だが、少しでも業界を横断して、他の分野に学ぼうとしたとき、あるいは共通の知恵を育てようとしたとき、共通言語がなかったら、どうしたらいいのか。

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更新情報 Update information

タイム・コンサルタントの日誌から」に、「システムズ・エンジニアのための共通言語が存在する」を追加しました(2017/04/19)

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ワースペース白幡」の「気まぐれ批評集 書評」に、「(書評)2016年のベスト3」として『★★★ トマス・アクィナス 肯定の哲学』(山本芳久著)・『★★★ 教皇フランシスコ』(オースティン・アイヴァリー著)・『★★★ ジャングル・クルーズにうってつけの日』(生井英考著)を追加しました(2017/02/03)

プロジェクトマネジメント ワンポイント講義」に、「結果オーライのマネジメントでいいのか? − 成果の予見可能性を高めるために」を追加しました(2017/01/26)

プロジェクトマネジメント ワンポイント講義」に、「結果オーライのマネジメントでいいのか?」を追加しました(2017/01/21)

わたしが幹事をつとめる「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」で、本間峰一氏による『システムトラブル相談センターの概要と開設の背景』との講演をいただきました。大勢の方のご来聴に感謝します(2017/01/17)

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ワースペース白幡」の「気まぐれ批評集 書評」に、書評『★★ AさせたいならBと言え』(岩下修著)を追加しました(2016/12/15)

生産マネジメント ワンポイント講義」に『ムリ・ムラ・ムダ:どれが一番いけないか?』を追加しました(2016/12/10)

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タイム・コンサルタントの日誌から」に、「なぜ、製造業のIT化が進まないのか? 〜お金をちゃんと投資しよう」を追加しました(2016/11/28)

お知らせ:

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→2016年11月以前の更新履歴

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