悩み苦しむ価値        2005年8月28日 寺岡克哉


 「生きていても意味がない!」
 「自分は役立たずだ!」
 「私が存在することは、皆に迷惑をかけるだけだ!」
 「生きるのが、辛くてたまらない!」
 「まるで、毎日が拷問のようだ!」
 「なぜ、こんなに苦しんでまで、生きなければならない!」
 「なぜ、死んではいけない・・・ 」

 私は、このように「悩み苦しむこと」にも、意味や価値があると考えています。

 こんなことを言えば、「悩み苦しんでいる人間の気持ちも分からずに、いい加減で
勝手なことを言うな!」と、怒りを感じる人がいるかも知れません。
 しかしそれでも、私はあえて、悩み苦しむことにも意味や価値があると主張したい
のです。

 もちろん、悩み苦しむことをあえて勧めたり、悩み苦しむことを強制したり、あるい
は悩み苦しんでいる人にさらに精神的な苦痛を与え、追い打ちをかけようというの
では決してありません。

 悩みや苦しみは、できるだけ早いこと解決し、それから解放されるに越したことは
ありません。
 そしてまた、自殺を考えるほど悩み苦しんでいる方には、なんと申し上げたらよい
のか分からないほど、気持ちを十分に察しているつもりです。

 しかしここではあえて、悩み苦しむことの意味や価値を、すこし肯定的に考えてみ
たいと思うのです。
 悩み苦しむことは、単なる不幸や不運ではなく、なんらかの意味や価値が必ず
存在することを、ぜひとも知って頂きたいからです。

                * * * * *

 ところで「悩み苦しむこと」には、一体どんな価値があると言うのでしょう?
 それには、大きく分けて3つあるのではないかと、私は考えています。


 まず第一に、人生に対する理解や洞察が深くなります。

 自分はなぜ存在するのか?
 生きる意味とは何か?
 人間とは何か?
 生命とは何か?
 いったい、何を生きる目的にすれば良いのか?
 いかに生きれば良いのか?
 幸福とは何か?
 なぜ、不幸や苦しみが存在するのか?
 死とは何か?

 これら人生の根本的な問題を、悩み苦しみながら考え続けることにより、それらに
対する理解や洞察が深くなって行くのです。
 人生に対する理解や洞察が深くなれば、それだけ人生が充実して行きます。人生
の価値や満足度が、それだけ高くなって行きます。
 だから悩み苦しむことには、しっかりと意味や価値があるのです。


 そして第二に、悩みや苦しみに対する「耐久力」が高くなります。

 たとえば大会社の重役や、官僚、大学教授などの社会的な成功者・・・ つまり
「エリート」は、ちょっとした挫折ですぐに自殺をする傾向があるようです。

 それは、人生に対する深い悩みや苦しみを、経験したことが無いからです。その
ような経験がないので、それをうまく解決し、処理する能力に欠けているのです。
 人生について深く悩み苦しんだことのない人間は、人生に対する根本的な理解
や洞察が、どうしても欠如しています。
 そのため、「挫折」や「自己喪失」、「自己存在の無価値感」などの、人生の根本
的な問題に直面すると、どうすれば良いか分からないのです。

 社会的な成功者は、一見すると「強者」に見えます。しかし、たいへん脆弱な所も
あるのです。
 それは、「人生の根本的な問題」に悩み苦しむチャンスが、与えられなかったから
に他なりません。やはり、「悩み苦しむこと」には意味や価値があるのです。


 第三に、他の人間を救う能力が身につきます。
 なぜなら自分が悩み苦しむことによって、今度は、他人の悩みや苦しみが理解
できるようになるからです。
 いろいろと悩み苦しんだ経験が多ければ多いほど、さまざまな悩みを抱えた、
たくさんの人々を救えるようになるのです。

 もちろん、自分がいくら悩み苦しんだからと言って、すべての人間を救える訳が
ありません。
 しかしながら、たとえば釈迦やキリストといえども、「すべての人間を救うこと」は
出来なかったのです。

 私は、悩み苦しむ人々1000人のうち、1人でも救える可能性があるのならば、
それこそが大変に価値あることだと思っています。

                  * * * * *

 死にたいのに、なかなか死ぬことができず、苦しみながら生き長らえている
こと・・・。
 しかしそれには、かならず意味や価値があります。
 悩みや苦しみに耐えて生き続けることは、決して無駄ではないのです。

 いろいろな悩みや苦しみを経験すればするほど、人生に対する理解や洞察が
深くなります。人生の困難に打ち勝ち、「生きぬく力」が強くなります。他人の辛さや
苦しみが分かるようになります。
 そしていつしか、あなたは他の皆から頼られる「価値のある存在」になること、
絶対に間違いありません。



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