問題は温暖化の速さ     2006年4月9日 寺岡克哉


 「恐竜の生きていた時代は、大気中の二酸化炭素が今の10倍ぐらいあり、
気温もずっと高かった!」

 「かつて地球の歴史において、そのような状況はすでに経験済みなのだ!」

 「しかしそれでも、地球の生命は滅びなかった!」

 「だから、いま進行している地球の温暖化など、そんなに大きな問題ではない
のだ!」

 と、このような意見を主張する人がいます。そしてまた、そのような考えに同調
する人も多いことでしょう。
 しかしながら、かつて気温の高い時期があったことと、いま進行している地球の
温暖化とは、質的にまったく異なるのです。
 というのは、現在の温暖化のスピードがとても速いからです。いまの地球温
暖化は、非常に速いスピードで進行しており、それで深刻な問題になっているの
です。

 しかし世間一般では、温暖化のスピードについて、あまり問題にされていない
ような気がします。
 それで今回は、
 「現在の温暖化が、過去のものに比べてどれぐらい速いのか?」
 「温暖化のスピードが速いと、なぜ深刻な問題になるのか?」
について、お話したいと思いました。

                  * * * * *

 いま進行している温暖化のスピードは、過去のものに比べて、どれぐらい速いの
でしょう?

 たとえば何100000000年も前の大昔に、「氷河期」から「温暖な気候」に移り
変わったことが何回かありました。
 そのようなときは、気温が10度ぐらい上昇したみたいです。しかし、氷河期から
10度の上昇なので、いまの気温より10度高かった訳ではありません。温暖期で、
いまの気温より7度ぐらい高かった程度でしょうか。
 しかしそれは、数10000000年もの時間をかけた変化でした。これを100年
当たりにすれば、だいたい0.00005度ぐらいの気温上昇
になります。

 ごく最近の時代になって(といっても、ここ数100000年の話ですが)、もっと速い
スピードの気温上昇が、何回も起こっていたことが分かっています。
 その中でもいちばん最近のものは、約20000年前に起こりました。このときは、
およそ6000年間で8度ぐらい気温が上昇しました。(これも、氷河期からの気温
上昇なので、いちばん温暖になったときで現在と同じぐらいの気温でした。)
 それを100年当たりにすれば、だいたい0.1度ぐらいの気温上昇です。

 このように、現在進行している「100年で4度」という気温上昇は、かつて
地球が経験したことのない、とても速いスピードなのです!


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 ところで、温暖化のスピードが速いと、なぜ深刻な問題になるのでしょう?

 それは、環境の変化に対して、生物の適応スピードに限界があるからです。
 つまり、地球環境があまりにも速く変わると、生き物たちが、その環境の変化に
適応できなくなるのです。それで、あまりにも温暖化のスピードが速いと、たいへん
深刻な問題になって来るのです。

 その例として、森林の移動速度の問題があります。
 たとえば日本ぐらいの緯度では、気温が4度上昇すると、500キロメートルぐらい
南に移動したのと同じになります。
 つまり、札幌が仙台ぐらいの気候になり、東京は鹿児島よりまだ南の、九州の
南端ぐらいの気候になるのです。

 これを逆に考えると、森林は、100年で500キロメートル北へ移動しなければ
なりません。なぜなら森林は、生えている木の種類によって、「適度な温度」という
ものがあるからです。
 つまり温帯の木は、熱帯に生えることが出来ず、寒帯の木は、温帯に生えること
が出来ないからです。だから地球の温暖化にともない、それぞれの森林が「北へ
逃げる」ことになります。

 ところが森林の移動速度は、だいたいの種類の木が100年で40キロメートル
ぐらで、移動の速い木でも100年で200キロメートルぐらいです。そしてとくに、
移動の遅いブナ林などは、100年で20キロメートルぐらいしか移動できません。
 これでは、100年で500キロメートルの移動など、できる訳がありません!
 北へ逃げ遅れた森林は、高い気温のために弱り、そのうえ南方からやってくる
病害虫にことごとく被害を受け、最悪の場合は壊滅してしまうかも知れません。

 ところで、「陸上の生態系」を主に担っているのは森林です。
 たいへん多くの生き物が、森林によって生かされています。だから森林の壊滅
は、陸上の生態系の壊滅を意味するのです。
 たとえば、10000年かけて気温が4度上昇するのならば、まったく問題はない
のです。それでも森林は北へ移動することになりますが、しかしそれは、森林の
移動スピードに調和し、ゆっくりと南方の森林と入れ代わっていくことでしょう。

 このように、いまの地球温暖化は、「気温上昇の大きさ」が問題なのではありま
せん。
 (もちろん、それも大きな問題なのですが、いちばん深刻な問題ではありません。
なぜなら、4度ぐらいの気温上昇など、過去の地球はいくらでも経験しているから
です。)

 いちばん深刻なのは、温暖化のスピードが速すぎることなのです!



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