CO2の地中保存       2006年9月17日 寺岡克哉


 ここでは、前回でお話した二酸化炭素の処理のうちの、「地中保存」について
すこし詳しく見ていきたいと思います。

 地中保存とは、火力発電所などから発生する二酸化炭素を回収し、それを廃油
田(石油を採りつくした後の廃坑)などに保存するというものです。

 保存する場所としては、廃油田のほかに、天然ガスの廃坑や、岩塩を採った後
の廃坑など、いろいろな場所が考えられています。


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 ところで「地中保存」のアイディアは、とくに二酸化炭素の処理のために考えられ
たのではありません。もともとは、「石油の増産」が目的だったそうです。

 油田のなかに、液状にした高圧の二酸化炭素を入れると、原油と二酸化炭素が
まざって粘度が下がり(つまりドロドロだった原油がサラサラになり)、動きやすく
なって原油が外に押し出されます。そのようにして、それまで採ることができなかっ
た部分の原油を、採りだすわけです。

 もちろん、一部の二酸化炭素は、原油といっしょに噴出します。
 しかし大部分は、そのまま地中のなかに保存されるのです。(原油といっしょに
噴出した二酸化炭素は、回収してまた再利用します。)

 このように、二酸化炭素の地中保存は、もともと石油の増産のための「手段」
として考えられたのでした。


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 ところで、二酸化炭素の「投棄」や「保存」のためには、その前にまず、火力発
電所などの廃棄ガスから、二酸化炭素を「回収」しなければなりません。

 その二酸化炭素を回収する技術のいくつかも、このような「石油の増産」のため
に開発されたのでした。

 だから、現在すでに存在する既存の技術か、あるいは、そのちょっとした延長
技術で、二酸化炭素の回収はすでに可能になっているのです。

 もちろん、「回収コスト」の問題はあります。しかしながら、このような「二酸化炭素
の回収技術」が確立していなければ、後で述べようと思っている「海洋投棄」も、
じつは行うことが出来ないのです。


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 ある試算によると、廃油田をつかった地中保存により、世界全体で630億トンの
二酸化炭素が処理できるそうです。

 しかし、その対象となる油田における、石油の資源量は2兆バーレルもあり、その
石油を使うと2000億トンもの二酸化炭素が発生します。

 つまり、「廃油田」を二酸化炭素の処理場としていたのでは、その油田から採りだ
した石油による二酸化炭素の、およそ3分の1しか処理できないわけです。

 だから原理的に、廃油田とはべつの処理場がどうしても必要になってきます。


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 廃油田とはべつの処理場として、「帯水層」という場所が注目されており、これは
日本の研究者によって提案されたそうです。

 帯水層とは、地下の岩盤のなかに海水などが閉じ込められたもので、油田や
ガス田の近くに多くあります。
 この「帯水層」のなかの水には、天然ガスが溶けていることが多く、日本でもその
ような天然ガスを採掘しており、商業的にも採算がとれています。

 そのガスを採ったあとに、天然ガスよりも水に溶けやすい二酸化炭素は、ガスの
およそ15倍の量を、帯水層の水のなかに溶かし込むことが出来るそうです。
 今お話した、日本で天然ガスを採掘している帯水層の場合では、およそ240億
トンの二酸化炭素が処理できるそうです。
 そしてそれは、日本全体が出す二酸化炭素の、じつに20年から30年分に相当
すると言われています。

 これは、けっこう有望な話です。
 しかし、その実施にあたっては注意が必要です。
 とくに、二酸化炭素による風化作用で、岩盤が弱体化して漏れ出すことなども
考えられ、環境に対する影響などさまざまな検討が必要です。


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 ところで、最後に一つ注意して頂きたいことがあります。

 それは、「地中保存」のためにどうしても行わなければならない、二酸化炭素の
「分離」や「回収」、そして「液化」には、やはり相当のエネルギーが必要
だと
いうことです。

 だからそれは、やらなくて済むならその方が望ましい、「緊急避難的な対策」
なのです。

 そしてこれは、後でお話しようと思っている「海洋投棄」についても、まったく同じく
言えることです。



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