南極とグリーンランドの氷床
                                 2007年4月29日 寺岡克哉


 さて、いよいよ、融解すると海面を大きく上昇させるという、「氷床」について
見て行きたいと思います。

 「氷床」は、海氷や棚氷のように海に浮いている氷ではなく、「陸上にある氷」
です。なので、それが融けると、もろに海面を上昇させてしまうのです。

 だから、もしも「氷床」が融解してしまったら、とても深刻な問題になり
ます!


 現在、このような問題をかかえる氷床は、「南極大陸」と「グリーンランド」に
存在しています。

 それではさっそく、それぞれの氷床について、見て行くことにしましょう。


                * * * * *


(1)南極大陸の氷床

 南極大陸は、およそ1300万平方キロメートルの面積があります。それは、
日本のおよそ34倍の広さです。

 そして、そのような広大な土地の95パーセント以上が、「氷床」に覆われてい
ます。その平均の厚さは2450メートルです。

 「氷床」の体積は、およそ3000万立方キロメートルで、地球上に存在する
すべての氷のうち、約90パーセントが南極大陸にあると言われています。

 もしも、その氷がすべて融けたとしたら、海面を60メートルぐらい上昇させて
しまうでしょう。


                * * * * *


 しかしながら今までの定説によると、南極の氷床は、ちょっとやそっとの気温
上昇では「融けない!」と考えられていました。

 それよりむしろ、
 気温が上昇することによって海水の蒸発量がふえ、
 そのために南極における降雪量がふえ、
 その降った雪が堆積して「氷床が拡大」し、
 逆に、「海面を下げる方向に働く」のではないかと考えられていました。

 (しかしその効果は、今後100年間でマイナス8センチ程度と考えられていま
す。だからそれによって、今後100年で50センチ程度とされる海面の上昇を、
食い止めることは出来ません。)

 そしてまた、南極大陸の現在における氷床の動向も、増えも減りもしないか、
あるいは若干増えているのではないかと、今までは考えられていました。


                * * * * *


 ところが最近になって、南極大陸の西側、アムンゼン海に流れる6つの氷河の
流れが、「加速している」という報告がなされました。(2004年 サイエンス誌)

 さらには、2002年の4月から2005年の8月のあいだに、年間で152立方
キロメートルの「氷床」が減少したという報告もあります。(2006年 サイエンス誌)


 そのような報告を受けてかどうか知りませんが、IPCC(気候変動に関する政府
間パネル)の第4次報告では、

 グリーンランド氷床と南極氷床の一部の流出速度が増加。
 グリーンランド氷床と南極氷床の融解が、1993年から2003年にかけての
海面水位上昇に寄与。

 という見解を表明しています。


 どうやら、従来の定説が覆って、現在すでに南極の氷床は融解を始めて
いる
ようです。


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(2)グリーンランドの氷床

 グリーンランド氷床の現状は、南極の氷床よりも深刻です!

 グリーンランドの面積は218万平方キロメートルで、日本のおよそ6倍です。
 そこに、285万立方キロメートルの氷が乗っています。平均すれば、氷の厚さ
は1300メートル程度になるでしょうか。

 グリーンランドの氷床は、南極の氷床にくらべると、10分の1ぐらいしか氷の
量がありません。
 しかしながら、もしもその氷がすべて融けたら、海面を7.2メートル上昇させる
と言われています。だから決して、侮ることはできません。

 そしてとくに深刻なのは、南極の氷床よりも、グリーンランドの氷床は融け
やすい
と考えられていることです。

 たとえば、南極の氷床が融けて海面を2メートル上昇させるには、8度の温暖
化が必要とされる研究報告があります。
 しかし同じ報告で、グリーンランド氷床の場合は、たった2度の温暖化で、
海面が2メートル上昇
するとしています。

 さらには、グリーンランド周辺の気温が3度ぐらい上昇すると、「氷床の融解
が止まらなくなる!」
と考えられています。
 その場合、西暦3000年までに海面が3メートルていど上昇し、最終的には
5〜7メートルの海面上昇になると予測されています。

 一方、グリーンランド氷床の「現状」としても、融解の速度が、2004年以降
から加速の一途をたどっているという報告があります。
 それによると、グリーンランド氷床の融解は、過去5年間で3倍に加速し、
1年あたり240立方キロメートルの氷が消失したと思われます。
                                (2006年 サイエンス誌)


                * * * * *


 上でお話したような、グリーンランド氷床の「完全融解」を防ぐためには、気温
の上昇を2度以下に抑えなければなりません。

 そのためには、大気中の二酸化炭素濃度を、475ppm以下で安定させる
必要があります。

 さらにそのためには、2050年の世界における温室効果ガスの排出量を、
1990年レベルの50パーセント以下(つまり半分以下)に削減する必要が
あるのです。

 たしかに、「氷床の融解」による海面上昇は、数百年から千年ぐらいの時間
スケールで、ゆっくりと進みます。

 しかし、「取り返しのつかないレベル」にまで、氷床の融解がいちど進んで
しまったら、もう絶対に止めることが出来ません。

 そして、その「引き金」を引いてしまうかどうかは、まさに、いま現在の問題な
のです。

 もう本当に、「待ったなし」の状態になっているのです!



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