林業・水産業への影響  2007年7月1日 寺岡克哉


 農業、林業、水産業などの一次産業は、地球温暖化による気候の変動に
大きく影響されます。

 そして前回では、「農業」にたいする地球温暖化の影響について、大まかに
見てきたのでした。

 今回はその続きとして、「林業」と「水産業」にたいする影響について、ザッと
見て行きたいと思います。


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(1)林業への影響

 日本における林業では、スギ、ヒノキ、マツなどが主に植林され、あちらこち
らの山で育てられています。
 そのうちで、「スギ」についての研究報告がありますので、ここで紹介したい
と思います。

 まず調べてみて驚いたのですが、現在すでに、関東の平野部などでは
「スギの衰退」が起こっているそうです。
 この「スギの衰退」とは、葉のつき方が悪くなったり、多くの枝が枯れたり、
さらにひどい場合は、樹木全体が枯れて死んだり(枯死)することです。

 そのような「スギの衰退」について実態調査が行われ、さらには、その調査
に基づいて原因の究明が行われました。
 その結果、
 気温が高くなると、スギの「光合成」が低下すること。
 生育のための水分が不足すると、スギの健全性を著しく損ねること。
などが確認されました。

 つまりスギは、「雨の量が少ないと育たなくなる」のです。


 ところで、いま存在している「スギ林の分布」と、現在の気候から見積もら
れる「雨量の分布」をくらべると、スギの育成に適さない土地(スギの非適地)
は1パーセントほどあります。
 しかし100年後の気候予測では、「スギの非適地」が全体の10パー
セントにまで及ぶ
みたいです。

 さらにまた、地球温暖化が進むと、雨の量が変わる(増える場所と、減る
場所がある)だけでなく、気温が上昇して「水分の蒸発」も活発になります。

 このように「雨の量」だけでなく、「水分の蒸発量」まで考慮に入れると、
 蒸発よりも雨量の方が増えると予測される九州北部などでは、スギにとって
反って良い環境になるぐらいです。
 しかし東北の一部と、関東の平野部では、「スギの非適地」が新たに
現れる
ようです。

 とくに関東の平野部では、現在でもスギが衰退しているのに、さらにそれに
拍車をかけることになりそうです。


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(2)水産業への影響

 日本の国は、南北に長くのびています。

 つまり日本には、北の「冷たい海」もあれば、南の「暖かい海」もあるわけ
です。

 なので日本の海には、「温帯系の魚」と、「亜熱帯系の魚」がいます。

 ところで、それら「温帯系の魚」と「亜熱帯系の魚」の居るところは、最高
水温がおよそ29度になる海域を境にして、はっきりと分かれているそう
です。

 つまり海の魚は、けっこう水温に敏感なのですね。

 そして現在、その「水温が29度の境目」は、九州南部の沿岸にあります。
 しかし、地球温暖化によって水温が上昇すれば、それが中国や四国の沿岸
や、さらには西日本の沿岸まで北上すると予測されています。

 このように水温が上昇すれば、それにともなって獲れる魚の種類や、漁獲
量が大きく変化してしまうのは間違いないでしょう。

 私は魚の生態に詳しくありませんので、どんな種類の魚が、どのように居場
所などが変わるのか、申し訳ありませんが今はちょっと分かりません。また
何か詳しいことが分かりましたら、その時にでもご報告したいと思っています。

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 ところでまた、地球温暖化によって、「プランクトンの数」がどうなるのかを
調べた研究があります。

 「プランクトン」は、海の食物連鎖の、いちばん底辺にいる生物です。
 だから、もしもそれが減ったりすれば、プランクトンを食べている小魚や、
さらにその小魚を食べている「大きな魚」も減ってしまい、とても大変なことに
なります。

 これに関しては、「過去の観測データ」の分析によって得られた結果があり
ます。
 それによると、1970年から1980年代にかけて、千島海流(親潮)が流れ
ている海域の表層で、リンや窒素などの栄養が減少していました。
 そしてそれが原因で、「植物プランクトン」や「動物プランクトン」の数も
減っていることが分かりました。


 これは地球温暖化により、(たぶん表層の水が温かくなって)、中層や深層
の水と「混ざりにくくなった」からだと考えられています。

 中層や深層の海水には、リンや窒素などの栄養がたくさん含まれていま
す。だから水が混ざりにくくなると、海洋表層の栄養が少なくなるのです。

 将来、温暖化がもっと進めば、その影響はさらに大きくなって行くでしょう。
 つまり、海洋表層の栄養がさらに減り、そのためプランクトンもさらに減っ
て、漁業資源の減少することが予測されるのです。

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 海でも岸の近く、つまり沿岸では、「藻場(もば)」についての調査と研究が
されています。

 「藻場」とは、ホンダワラやアマモなどの海草が、たくさん生い茂っている
場所のことです。そこには魚などが多く集まり、豊かな生態系が作られてい
るのです。

 現在、温暖化による海水温の上昇で、アイゴなどの暖かい所にいた魚が
藻場にやってきて、海草を食い荒らすこと(食害)が問題になっています。

 また、水温が高くなると、ひどく成長の悪くなる海草もあるみたいです。
 なので、「水温」と「海草の生長」との関係などが、いま現在調べられている
所です。


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 以上、「林業」と「水産業」にたいする地球温暖化の影響について、ザッと
見てきました。

 やはり、ここで取り上げた例は非常に少なく、いろいろな樹木や、さまざま
な魚、あるいは他の海産物などが、どんな影響を受けるのかとても気になる
ところです。
 また後の機会に、詳しい情報などが入手できましたら、ご報告したいと思っ
ています。

 最後に、前回の繰り返しになりますが、日本は食料自給率のとても低い国
(たったの40パーセント)です。
 だから将来、地球温暖化によって、もしも「世界的な食糧危機」が起こって
しまったら、日本はとても大きなダメージを受けてしまうでしょう。

 これからは、日本の食料自給率を上げて行くことが、どうしても必要のよう
に思います。



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