ブナ林の危機 2007年8月26日 寺岡克哉
地球温暖化により、気温が約4℃上昇すると、およそ90%のブナ林
が消滅すると予測されています!
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ところで「ブナ」とは、温帯の地域に生える樹木のことです
冬になると葉っぱを落とす「落葉樹」で、大きくなると30mの高さまで
生長するものもあります。葉っぱの形は楕円形で、薄くてやや固めです。
そのブナの生える林、つまり「ブナ林」は、日本を代表する天然林です。
そしてそれは、北海道の南部から、九州の鹿児島県まで、日本に広く
分布しています。
とは言っても、ブナは「暑さに弱い木」なので、本州の太平洋側や、
四国や九州では、山地の上部にしか生えません。
ブナ林の面積は23000平方キロメートルで、日本の天然林の17%に
あたります。
(天然林と人工林を合わせた、日本の森林全体に対してだと、ブナ林は
およそ10%ぐらいを占めています。)
ブナ林は、保水力が高く、クマなどの大型動物の住みかにもなっていて、
とても豊かな生態系をつくっています。
青森県と秋田県にまたがる、世界遺産の「白神山地」も、このブナ林で
有名なところです。
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ところが・・・
地球温暖化によって、このブナ林が「消滅の危機」にさらされています。
ブナは暑さに弱いので、温暖化によって気温が上昇すると、涼しい場所の
北方へと逃げて行かなければなりません。
たとえば日本の場合、温暖化によって気温が4度上昇すると、およそ500
kmぐらい南に移動したのと同じ気候になります。
つまり、北海道の札幌が、仙台と同じぐらいの気候になるのです。あるい
は東京の場合だと、鹿児島市よりさらに南の、九州の南端と同じぐらいの
気候になります。
だからブナ林は、たとえば100年間で気温が4℃上昇する場合、その
おなじ100年間で、500km北に移動しなければなりません。
しかし、ブナは移動速度の遅い樹木で、100年間に20kmぐらいしか
移動できないのです。
これでは、とても間に合いません!
その結果、ブナ林は気候の変化に適応することが出来ず、消滅するしか
なくなってしまいます。
詳しい研究によると、
約3℃の気温上昇で、およそ60%のブナ林が消滅。
約4℃の気温上昇では、およそ90%のブナ林が消滅
するそうです。
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ところで、ブナ林が消滅すると、一体どうなるのでしょう?
一般的には、幅広い気温の地域に分布する、「コナラ林」に移り変わって
行くと考えられています。
また、「シイ」や「カシ」などの、常緑広葉樹(1年中葉っぱが緑色で、冬に
なっても葉が落ちない木)も進出してくるでしょう。
だから、「森林そのもの」が消滅する訳ではありません。
しかし、ブナ林を基本にしていた、豊かな生態系は消滅してしまい
ます!
そしてそれは、世界遺産の「白神山地」といえども、決して例外では
ありません!
また、さらには、「林業」にも影響を及ぼすと考えられています。
つまり地球温暖化によって、スギやヒノキの造林地の環境が、ブナ帯から
シイ・カシ帯に移り、造林地で競合する樹木の種類が変わると予測されて
いるのです。
だからやはり、ブナ林が消滅すると、かなり大きな影響を受けてしまうの
は避けられないでしょう。
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