ライチョウへの影響    2007年11月4日 寺岡克哉


 「ライチョウ」は、氷河期からの生きのこりで、すごく寒い気候に適応した
鳥です。

 だから暑さに弱く、地球温暖化の影響がとても心配されます。

 ここでは、そのようなライチョウにおける、温暖化の影響について見て
みましょう。


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 ライチョウは、全長が37cm。体形はちょうど、トサカの無いニワトリのよう
な姿をしています。

 この鳥は、夏と冬とで、羽や毛が生えかわります。つまり、夏は「こげ茶色」
をしていますが、冬になると羽毛が「真っ白」になります。

 世界におけるライチョウの分布は、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸の
高緯度地方。たとえば、北極域や山岳などの「ツンドラ地帯」に住んでい
ます。

 しかし日本では、北アルプスや南アルプスなど中部山岳地帯の、しかも
標高2400m以上の高山だけに住んでいます。
 これは、氷河期のときは平地に住んでいたのですが、現在の温暖な気候
になるに従い、高山へ追いやられて行ったと考えられています。

 そんな高い場所に住んでいるライチョウは、「植物を食べる鳥」で、高山
植物の葉、花、芽、実など、さまざまな部分を食べます。

 ところで2005年の調査では、日本国内におよそ3000羽のライチョウが
いると推定され、そのうち2000羽が、北アルプスに住んでいるとされてい
ます。

 またライチョウは、国の特別天然記念物に指定されており、さらには、
絶滅危惧種U類(絶滅の危険が増大している種)にも指定されています。


 むかし私は、北アルプスに何度も行ったことがあり、実際にライチョウを
見たことがあります。

 夏山でも見たことがありますが、とくに冬山の地吹雪の中から、突然に
真っ白なライチョウが目の前に現れたときは、神様の使いか、妖精でも見た
かのような不思議な気持ちになったのを、今でも覚えています。


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 上でも話しましたが、ライチョウは、2400m以上の高山だけに住んで
います。それぐらいの寒い場所でなければ、ライチョウは生きられないの
です。

 だから、地球温暖化によって気温が上昇すれば、ライチョウはさらに高い
場所へ追いやられることになります。

 ところが山というのは、上にとんがっています。つまり、高い場所になれば
なるほど、面積が小さくなります。
 なので、地球温暖化が進行すれば、ライチョウの住める場所がどんどん
狭くなってしまうのです。

 たとえば、ライチョウが住むのに適した場所が200m上がって、2400m
以上だったのが2600m以上になると仮定してみます。これは、1.3℃の
気温上昇に相当します。

 そうすると北アルプスでは、2400m以上だと約250平方キロメートルの
面積があるのに、2600m以上では約140平方キロメートルの面積しか
なくなってしまいます。
 もしもそうなれば、北アルプスに現在2000羽いるライチョウが、1100羽
しか住めなくなってしまうのです。

 そしてまた、標高2400mの水平面上では、こちらの山とあちらの山が
地続きになっている場合でも、標高2600mになると、山と山のあいだの
低い場所、たとえば「鞍部(あんぶ)」や「峠」によって分断されることがあり
ます。

 つまり、「生息地の分断」が起こるわけです。
 そうなると、せまい場所に小グループで分断されたライチョウたちは、
食物の確保が難しくなったり、近親交配が進んだりして、絶滅するリスク
が高くなるのです。


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 いま話した北アルプスの場合は、それでもまだ良い方です。しかし
南アルプスの場合になると、事態はもっと深刻です。

 現在、南アルプスには、700羽のライチョウがいます。
 しかし、生息に適する標高が2400m以上から2600m以上へと上がる
と、住むことのできるライチョウの数が270羽に減ってしまいます。

 そして、この270羽というのは、個体群が維持できるギリギリの数だと
考えられています。

 ところで・・・
 上でも話しましたが、生息地が200m高くなることは、1.3℃の温暖化に
相当します。
 しかし実際の地球温暖化は、1.3℃の気温上昇で収まらないかもしれ
ません。
 現在、人類は2℃以下の温暖化に抑えようとしていますが、かなり厳しい
ハードルのようにも感じます。(それを実現するためには、2050年までに、
1990年レベルの半分まで温暖化ガスを削減しなければなりません。)

 もし、すこしでも下手をすれば、4℃ぐらいの温暖化が起こっても、まったく
不思議ではない状況です。

 そうなってしまったら、もちろん人類もタダでは済みませんが、ライチョウ
たちにとっても、たいへん厳しい話になるのは間違いありません。



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