海の魚への影響 3 2008年3月9日 寺岡克哉
前回の後半では、欧米において重要な漁業資源になっている、「大西洋
のタラ」についてお話しました。
その続きとして今回は、「日本近海の魚たち」について、見て行きたいと
思います。
* * * * *
(b)日本近海の魚たち
まず手近な資料のなかに、とても大ざっぱですが、日本周辺の魚たち
について、地球温暖化が進んだときの予測がありました。
それによると、日本近海の水温が最大で2.9℃上昇した場合の漁獲
量は、
北海道沖のサンマが30%減少。
太平洋のマイワシも30%減少。
日本海のマダイやトラフグも30%減少。
西日本近海のマアジ、マダイ、マサバは30〜70%減少。
となっています。(世界の環境地図 p89 青春出版)
その主な原因は、たぶん「水温の上昇」や「海流の変化」によって、魚の
棲んでいる場所が変わってしまうのでしょう。しかし、次のような要因も、
けっこう大きいのではないかと考えられています。
つまり、温暖化によって水温が上昇すると、海洋の表層に「暖かくて
軽い水」が覆いかぶさります。そうすると、冷たくて重い「深層水」との混合
が弱くなるのです。
ところで深層水には、栄養がとても豊富に含まれています。なので、それ
との混ざり具合が悪くなると、海洋表層の栄養が減少してしまいます。
その結果、太陽の光がとどく表層で、光合成によって生きている「植物
プランクトン」の数が減ります。
そうすると、それをエサにしている「動物プランクトン」の数も、減ってしま
います。
さらには、それらのプランクトンをエサにしている「小魚」が減り、最終的
には、小魚をエサにしている「カツオ」や「マグロ」にまで影響が及んでしまう
のです。
また、その他に考えられる要因として、水温が上昇すると「マイワシの稚魚
の死亡率」が高くなるそうです。
そしてこれは、マイワシに限らずサンマやサバについても、同じような影響
を受けると考えられています。
後でお話しますが、サケやスケトウダラも、稚魚のときの水温がその後の
生存率に大きく影響します。そして前回にお話した、タイセイヨウダラについ
ても、一部の科学者がそのような指摘をしています。
だからこれは、魚類一般に言えることなのかも知れません。
* * * * *
(c)瀬戸内海や大阪湾の魚たち
瀬戸内海と、それに続いている大阪湾は、陸に囲まれた「内海(うちうみ)」
になっています。なので、外海との水の交換が、あまり為されません。
それに加えて、これらの海域は水深が浅いこともあり、気温が高くなると、
水温の上がりやすい環境になっています。
おそらく、そのためなのでしょう。近年の瀬戸内海や大阪湾では水温が
上昇しており、それまで居なかった南方系の魚が、相次いで確認される
ようになりました。
たとえば、広島湾では2006年までに、南方系のソウシハギやミナミイケ
カツオ、あるいは「クロカンパチ」と呼ばれるスギなどが捕獲されています。
また、山口県の上関町沖では2007年に、東インド洋から西太平洋の
熱帯に棲んでいる有毒魚の「サツマカサゴ」が、瀬戸内海で初めて捕獲
されました。
一方、大阪湾では3年前に、暖海系のクロマグロの群れが定置網に
かかったそうです。
さらには、それまであまり見ることのなかったハナザメやシロシュモク
ザメなども、大阪湾で獲れているそうです。
そして猛暑だった2007年には、沖縄近海など亜熱帯付近の海に棲んで
いるロウニンアジや、リュウキュウヨロイアジが確認されています。
ちなみに、これらのアジは大型の種で、大人になると1.8メートルにもなる
そうです。
このように、瀬戸内海や大阪湾には、続々と南方系の魚が進出してきて
いるのです。
* * * * *
(d)北海道のサケ
ここで、北の海の魚たちにも、すこし目を向けてみましょう。
たとえば北海道大学の研究によると、地球温暖化がつよく進んだ場合、
2099年には北海道産のサケが「ほぼ壊滅状態になる」恐れがあるそう
です。
北海道で生まれたサケの子どもは、ふ化後1年目の7月〜10月に、
知床半島とサハリン、そしてカムチャツカ半島に囲まれた、オホーツク海
の「三角海域」で過ごします。
そして、その三角海域におけるサケの子どもの「生存率」が、その後サケ
が大人になり、ふたたび北海道に帰ってくる割合、つまり「回帰率」を決め
るそうです。
ところで、サケの子どもが生き残るには、水温が8〜12℃でなければなり
ません。
しかし地球温暖化がつよく進むと、2050年には、その生存に適した水温
の「三角海域」が18%減って、82%の面積になります。
そして2099年には、なんと三角海域が74%も減り、たった26%の面積
になってしまうみたいです。
とくにサケの子どもが、北海道の近海からオホーツク海へ向かう7月〜
8月は、とても大切な時期です。
しかし2050年になると、その時期には「三角海域」が北海道から遠のき、
サケの子どもがオホーツク海へ渡れなくなります。
その結果、サケの生存率の減少は避けられないそうです。
そして2099年になると、それがもっと酷くなります。三角海域がさらに
北海道から遠くなり、サケ資源へのダメージは計り知れないと考えられて
います。
* * * * *
(e)スケトウダラ
「スケトウダラ」はタラの仲間ですが、マダラよりも小型の種で、全長は
60センチぐらいです。
ふだんは、水深200〜500メートルぐらいの所に棲んでいますが、産卵
の時期には70〜250メートルまで浮上してきます。
日本人にとって、スケトウダラはとても大切な魚です。たとえば、メスの
卵巣はタラコや辛子明太子にされ、魚肉はカマボコやソーセージの原料
となります。
スケトウダラを、「煮魚」や「焼き魚」にして食べることは、普通ほとんど
ありません。だから多くの人にとって、「スケトウダラを食べている」という
感覚が無いでしょう。
しかし実は、日本人が知らず知らずのうちに、たくさん食べている魚なの
です。
このようにスケトウダラは、とても大切な漁業資源です。しかし冬季に
水温が高くなると、漁獲量が減少すること。とくに、産卵のために沿岸に
寄ってくる群れの、減少することが確認されています。
たとえば1973年〜1974年ごろの高温期には、北海道の宗谷や留萌
地方では、産卵場が消滅してしまいました。
つまり「スケトウダラ」は、地球温暖化の影響を受けるであろうこと
が、すでに分かっている魚なのです!
スケトウダラの卵や稚魚が生存できる水温は、だいたい1℃〜8℃ぐらい
の範囲です。
そして産卵期にあたっている2月〜3月に、水温が7℃以上の暖かい水
が沿岸を覆うと、漁獲量の激減することが分かってきています。
たとえば1990年以降では、東北地方の海域におけるスケトウダラの
漁獲量が、激減してしまいました。
しかも一方で、1990年代から暖かい水が沿岸を覆うことが多くなり、
それと非常によく一致しているのです。
産卵時期の水温が高くなると、スケトウダラは、産卵に適した冷たい水の
ところまで潜ってしまいます。なので、その時期の水温が高ければ、浅い
沿岸には群れが来なくなり、それで漁獲量が激減すると考えられています。
これから将来、さらに地球温暖化が進むと、現在のスケトウダラの漁場、
とくに産卵場が消滅してしまう恐れが懸念されています。
そして事実、上で話したように、過去に水温が上昇したときは北海道で
産卵場が消滅してしまったのです!
だから、この懸念の信憑性はすごく高いのではないかと、私は思ってい
ます。
* * * * *
以上、3回にわたり、地球温暖化による「海の魚への影響」について見て
きました。
私の力不足のために、取り上げた魚の種類が、すごく限られてしまいまし
た。しかしそれでも、地球温暖化が海の魚たちに対して、とても大きな影響
を与えることが分かって頂けたのではないかと思います。
とくに「漁業資源」になっている魚は、ただでも「乱獲」によって大きなダメー
ジを受けています。そして今後、その上さらに、地球温暖化の影響が魚たち
を襲います。
これから地球温暖化が進んで行くと、今よりもっと漁業資源の確保が難しく
なるでしょう。そのことも視野に入れて、海の環境保護や、資源保護を考えな
ければなりません。
ちかい将来・・・
もう、今までと同じようには、魚を食べ続けることが出来なくなるかも知れ
ません。そのことは、私たちも覚悟しなければならないように感じます。
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