日本の中期目標 1
                              2009年4月5日 寺岡克哉


 今回は、温室効果ガスの削減における、

 日本の中期目標として出されている「5つの案」について、

 見てみたいと思います。



 さっそくですが、

 政府の中期目標検討委員会 (座長は、前日銀総裁の福井俊彦
さん)によって、

 3月27日に発表された5つの案は、以下のようになっています。


(1)2020年までに1990年にくらべて、4%増。

(2)同、 横ばい〜3%減。

(3)同、 7%減。

(4)同、 15〜16%減。

(5)同、 25%減。



 新聞各社の報道を総合すると、それぞれの案における具体的な
方針は、次のようになっています。


 (1)は、現状の省エネ努力をつづけた場合。

 (2)は、先進国全体で25%削減することを想定し、各国の分担と
して、二酸化炭素1トンあたりの削減費用を等しくした場合。

 (3)は、最先端の省エネ機器に入れ替えが進んだ場合。

 (4)は、政府による省エネ機器導入などの義務づけを行い、さらに
対策を強化した場合。

 (5)は、ほぼ全ての機器を、最先端の省エネ製品に切りかえ、企業も
生産量を調節する場合。


 あと、さらにもう1つ案があるのですが、3月27日の時点では結論が
出なかったので、4月上旬までに6案のすべてを固めるそうです。


               * * * * *


 これらの案について、どう思うかですが・・・



 まず、科学的な立場から言えば、

 地球温暖化による「深刻な被害」を避けるためには、

 2020年までに、先進国の温室効果ガス排出量を、

 1990年にくらべて、25〜40%削減する必要があります。



 だから、科学的な知見に基づくならば(つまり本当に、温暖化による
深刻な被害を回避したいならば)

 最低でも、(5)の25%削減案を、取らなければなりません!



               * * * * *


 ところで、(2)の削減案・・・

 日本が、横ばい〜3%しか削減しないのに、

 先進国全体で25%の削減になるとは、

 ずいぶん虫の良すぎる話です。



 しかも、京都議定書における日本の目標が6%減なのに、

 この案は、それよりも後退しています。

 常識的に考えれば、こんなものが、世界に通用するわけが
ありません!




 事実・・・

 中期目標検討委員会における議論では、

 「日本の削減率が小さいと、先進国全体の大幅削減につながらない」

 という試算結果も提出されていました。



 ところが・・・

 3月27日の、中期目標検討委員会による発表では、

 「日本の数値が小さくても、他の先進国が日本と同じレベルの努力を
することで、先進国全体では比較的大きな削減が可能になる」

 という、日本にとって都合の良いものだけが公表されたのです。



 関係者の話によると、政府内には、

 「両方の分析を公表するべきだ!」との意見もあるみたいです。

 しかしながら、経済産業省などが難色を示しているようです。


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 (1)の4%増は、全くふざけています!

 よくも、こんな案が、恥ずかしげもなく公表されたものです。

 厚顔無恥にも、ほどがあります。


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 (3)の7%減も、まったくナンセンスです!

 というのは、京都議定書における目標でさえ6%減であり、

 それくらいの削減では、ぜんぜん地球温暖化の抑制にならない
ことが、

 いまや明白になっているからです。

 (しかし、国際的な取り組みを始めたという点で、たしかに、京都
議定書には重要な意味があります。)



 とにかく中期目標が、この7%削減案に決まってしまったら、

 「日本は、まったくやる気なし!」との痛烈な批判を、

 世界中から浴びることになるでしょう。



 ところが政府内では、

 この「7%削減」と、下で述べる「15〜16%削減」の、2つの案に
対して、

 「中期目標としての実現性が高い」という声が、多く集まっている
みたいです。

 つまり、この7%削減案が、有力な選択肢の一つになっている
わけです。



 が、しかし、日本の中期目標が、

 「7%削減案」に決定することがあっては、絶対になりません!



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 (4)の15〜16%減が、政府が考えている最大の削減案
という気がします。

 しかしながら、この案であっても、

 世界からは、「不十分」との批判を受けてしまうでしょう。



 とくに、「最新の科学的な知見」によると、

 世界における温室効果ガスの排出が、劇的に削減できた場合でも
(つまり、もっとも海面が上昇しない場合でも)、

 2100年までに、1メートルの海面上昇が避けられないとなって
います。

 なので、科学的な立場から言っても

 この15〜16%削減案では、まったく不十分です。


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 (※おことわり)

 「1メートルの海面上昇が避けられないのら、温室効果ガスの削減
なんか無意味だ!」などと主張するのは、まったくナンセンスです。

 なぜなら、温室効果ガスを大量に排出しつづければ、事態はさらに
深刻になるからです。
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 ところで、政府や産業界の動向をみると、

 (5)の「25%削減案は回避したい!」という思惑が、

 見え隠れしているように感じます。


 それについては、次回でお話したいと思います。



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