日本の中期目標 7
                             2009年5月17日 寺岡克哉


 札幌で5月11日に、

 「地球温暖化対策の中期目標に関する意見交換会」 (いわゆるタウン
ミーティング)というのが開かれ、それに私も出席しました。

 そして(幸運なことに?)私にも、発言する機会が与えられました。

 今回は、そのことについて、ご報告したいと思います。


              * * * * *


 意見交換会は、「ホワイトキューブ札幌」という会場で、午後5時30分
から始まる予定でした。

 私は、5時すこし過ぎに会場についたのですが、まだ4〜5人ほどしか
人がいなかったので、

 「こんな調子で、ちゃんと人が集まるのかなあ?」と思っていました。

 しかしその心配には及ばず、意見交換会がはじまる5時半には、用意
されていた席がすべて埋るほど、人がたくさん集まりました。


              * * * * *


 意見交換会が始まると、まず最初に、

 司会者である、内閣官房参事官補佐の、黒川陽一郎さんから、

 本日の一般参加者は、130人であること。

 また、政府は現在、中期目標に対する意見を、一般からひろく募集して
いますが(パブリックコメント)、

 現時点で、およそ3000通の意見が寄せられていること。


 以上の2つについて、報告がありました。


             * * * * *


 その次に、

 内閣官房参事官である、小宮義則さんから、

 政府での中期目標にたいする議論の、今までの経緯について
説明がありました。

 つまり、政府が示した削減案は、2020年における温室効果ガス
排出量が、

 @ 1990年比で   +4%
 A   同      +1〜−5%
 B   同        −7%
 C   同      −8〜−17%
 D   同        −15%
 E   同        −25%

 の6つであり、削減量が多くなればなるほど、経済に対する影響も
大きくなるという話です。


 しかし、Eの25%削減案でも、GDPがマイナス成長になる訳では
なく、

 また、あまりにも小さな削減値を、中期目標として定めてしまうと、
「国際社会から納得してもらえない!」

 などの説明も、しっかりとありました。


               * * * * *


 そして次に、

 経済界や環境NPOなどの各団体から、意見表明がありました。(札幌
会場では、関係団体として3つが参加していました。)

 まず1番目に、北海道経済連合会が、「+4%案」の支持を表明しま
した。

 2番目に札幌商工会議所が、「+1〜−5%案」か、あるいは国際的
な状況によっては「+4%案」を支持すると表明しました。

 そして3番目に、環境NPO法人の「北海道グリーンファンド」が、
「−25%案」の支持を表明しました。



 北海道経済連合会の主張は、私の予想通りでしたが、

 札幌商工会議所が、「+4%案」ではなく、「+1〜−5%案」をいちばん
に支持したこと。

 そして北海道グリーンファンドが、−30%などの「−25%以上」では
なく、「−25%案」を支持したのが、

 私には、ほんの少しだけど意外に感じました。


              * * * * *


 意見交換会としてプログラムの最後に、一般参加者からの発言が
求められました。


 時間の関係から、発言できたのは18人で、その意見分布は以下の
ようになりました。

 @   +4%    12人
 A +1〜−5%   0人
 B   −7%     1人
 C −8〜−17%  0人
 D   −15%    0人
 E   −25%    3人(私も含めて)


 また、その他に、

 具体的な目標値を言わず、「可能なかぎり多く削減するべきだ」
と主張した方が、1人。

 支持する目標値を言ったのか、言わなかったのか、私には聞き
取れなかった方が、1人いました。


              * * * * *


 上の意見分布・・・

 あるていど予想はしていましたが・・・

 それにしても、まったくもって酷(ひど)い状況です!



 たとえば4月20日に行われた、東京での意見交換会でも、

 「+4%案」を支持する人が、いちばん多かったと聞いていますが、

 しかし札幌では、それよりもさらに分が悪くなっています。



 あまりにも、「+4%案」を支持する意見が多いものだから、

 途中で、参事官の小宮さんから、

 「4月20日に東京で行われた意見交換会には、斉藤環境大臣も出席
されて、”+4%案では国際社会を納得させるのは難しい”と発言
なさっていました。」

 という、フォローが入ったほどです。



 まあ、ざっと見渡した感じ、

 一般参加者の9割くらいは、「企業側から動員されたらしい」ような人々
でしたし、

 いまは不景気なので、経済への悪影響を心配する気持ちも、分から
なくもないのですが・・・



 そしてまた、

 おそらく企業側の人間は、

 地球温暖化の深刻さなど、本当には理解していないのでしょう。



 しかし仮に、そうだとしても、

 京都議定書の目標値でさえ「1990年比 −6%」なのに、

 中期目標として、平然と「1990年比 +4%案」を支持するという
のには、

 まったくもって、その神経を疑ってしまいます。

 これは間違いなく、「京都議定書からの後退」を意味します!


 こんなことを、世界に向かって表明したら、日本は世界中を敵に回す
ことになるでしょう。


                * * * * *


 ところで私も、

 一般参加者のなかで最後の最後に、発言をする機会が与えられま
した。

 それを以下に、ご紹介しましょう。(発言時間が、2分と短く決められ
ていたので、じつは原稿を用意していました。)



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 私は、選択肢E 1990年比 −25%に同意します。


 その理由ですが、

 最新の科学的な知見によれば、2100年までに最低1mの海面上昇
が避けられず、下手をすれば2mになる可能性さえ指摘されたからです。

 これは、今年3月にコペンハーゲンで開かれた、「気候変動に関する
国際科学会議」によって、報告されました。

 もはや可能なかぎり、最大限の削減をしなければならないのは、明白
になっています。



 ところで、1990年比25%削減の場合、限界削減費用が8万2000円
となっていますが、

 それならば、CCS(これは、二酸化炭素の分離・回収・地中貯留のこと
ですが)、

 それの方が、二酸化炭素1トンあたりの処理コストが7000円〜
1万5000円で、ずいぶん安上がりです。

 このコスト値は、地球環境産業技術研究機構(RITE)の資料によります。



 なので、電力、製鉄、セメントなど、二酸化炭素の大口排出産業に
対して、

 「CCSを法的に義務付ける」という政策も、実施するべきだと思います。

 法的に義務付ければ、今後10年で、CCSが爆発的に進むのでは
ないかと考えます。

                                    以上です。

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 この私の発言に対して、内閣官房参事官の小宮さんから、直々の
コメントを頂きました。

 それによると、

 「CCSに関しては、研究者側の意見として、2030年頃には可能に
なりますが、2020年までに実用化するのは難しいとされています。」

 「なので、今回の中期目標の対策として、CCSは取り入れなかった。」

 のだそうです。



 私はその時、

 「まず先に、法的に義務付けてしまえば、CCSの実用化研究自体が
爆発的に進むのだ!」

 と思ったのですが、議論の場ではないので、発言は出来ませんでした。



※ 限界削減費用とは、大ざっぱな意味として、二酸化炭素を1トン
 削減するのに必要な費用のことです。


                * * * * *


 今回、札幌で行われた意見交換会について、全体としての感想
ですが・・・



 たとえば昨年は、「北海道洞爺湖サミット」が開かれたこともあって、

 北海道ではマスコミなどで、ずいぶん「エコ・キャンペーン」をやって
いました。


 また、それが理由なのか知りませんが、北海道知事の、高橋はるみ
さんが、

 麻生首相直轄による「地球温暖化問題に関する懇談会」の、メンバー
になっています。


 だから北海道は、日本全国のなかでも、環境意識が高い地域だろう
と思っていました。

 が、しかし、私のその認識は、見事に裏切られました!



 立派なスーツを着た、大企業のお偉いさんらしき人々から、つぎつぎと
「+4%案」を支持する意見が出されると・・・


 私としては、

 「自分の存在が、何となく場違い」というか、

 どんよりと空気が重苦しくて、イライラして息の詰まるような「閉塞感」
というか、

 「梃子(てこ)でも、絶対に動かないぞ!」というような、

 「とても厚い大きな壁」を、どうしても感じてしまいました。



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