生物多様性について 2009年7月12日 寺岡克哉
新聞報道によると、このたび環境省が、
初の「生物多様性白書」なるものを、まとめたそうです。
いま、熱帯雨林の伐採や、地球温暖化などの影響によって、
地球に棲む生物の「種」が、急速に減りつつあります。
その現状を、「大量絶滅時代」であると位置づけ、
地球規模での「種の保護」を訴えています。
私も、以前のエッセイ210で、
現在は、「六回目の大量絶滅」が進行中であることを書きました。
それは、私が地球温暖化のレポートを書き始めるようになった、
「根本の動機」でもあります。
なので政府が、「大量絶滅時代」として公式に認めたことを、
私は評価したいと思っています。
* * * * *
ところで、白書にまとめられた「生物多様性」とは、ごく簡単に
言ってしまうと、
「長い生命進化のなかで形成された、生物の世界における、
さまざまな多様性」のことです。
この「生物多様性」には、大きく3つのレベルがあります。
まず、おなじ「人類」という種の中でも、それぞれの「個体」により、
いろいろな多様性があります。
たとえば、それぞれの人により、あるいは、さまざまな生活環境に
よって、
寒さに強かったり
暑さに強かったり
病気にかかり難かったり
筋力が強かったり
飢餓に強かったり
繁殖力が旺盛であったり・・・
と、いろいろな多様性が存在します。これを、「個体の多様性」と
いいます。
また、地球上には、3000万種を超えるとも言われる、
とてもたくさんの「種」が存在しています。
これを、「種の多様性」といいます。
さらには、森林、湿地、干潟、サンゴ礁など・・・
地球上には、さまざまな生態系が形成されています。
それを、「生態系の多様性」といいます。
* * * * *
以上が、生物多様性における「3つのレベル」と言われるもの
です。
しかしながら、
これら「個体の多様性」、「種の多様性」、「生態系の多様性」は、
それぞれが独立しているのではありません。
長い生命進化の歴史のなかで、お互いに関連し合っています。
たとえば、いろいろな種の生物が集まって、さまざまな生態系が
作られています。
つまり「種の多様性」により、「生態系の多様性」が形成されるの
です。
また、いろいろな生態系は、さまざまな生活環境をつくります。
そして、それら色々な環境に、それぞれの生物個体が適応しよう
とします。
つまり「生態系の多様性」が、「個体の多様性」を促(うなが)して
いるのです。
さらに「個体の多様性」が、どんどん大きくなって行けば、
いずれ将来的には、「異なる種に分かれる(分化する)」ことも
あるでしょう。
つまり「個体の多様性」が、「種の多様性」に繋がっていくのです。
「生物多様性」という概念には、そのような歴史性や関連性も、
すべて含まれるのです。
* * * * *
生物多様性が失われると・・・
地球の生命圏は、生物の多様性によって、強靭なものになっています。
つまり、さまざまな生物がいるからこそ、
地球の環境が少しくらい変わっても、かならず生きのこる生物があり、
「地球の生命」が存続できるわけです。
だから生物多様性が失われると、地球の生命圏が脆弱(ぜいじゃく)に
なってしまいます。
また、生態系の多様性は、
生態系の生産力(たとえば漁業資源など)、
保水力、
土壌浸食の防止、
廃棄物の分解、
浄化作用、
気候の調節作用
などとして、働いています。
さらに、
世界で処方されている薬のおよそ40%は、自然界から得られる
さまざまな動物、植物、微生物による生産物です。
ペニシリンや、ストレプトマイシンなど3000種以上の抗生物質は、
おもに土壌中の菌類から得られました。
また、5000種以上の薬用植物が、漢方薬の原料として使われて
います。
これらはみな、生物多様性による恩恵です。
だから生物多様性が失われると、それらの恩恵が受けられない
ばかりか、
地球の生命全体が、危機に陥ってしまうのです!
* * * * *
話をもどして、
このたび政府が、初めて「生物多様性白書」をまとめたのは、
来年の10月に名古屋で行われる、
「生物多様性条約 第10回締約国会議」を前にしているから
です。
この「生物多様性条約」とは、
@生物の多様性の保全
A生物多様性の構成要素の持続可能な利用
B遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な分配
を目的とした、国際条例です。
この条約は、
1992年に、ブラジルでの「地球サミット」で調印式が行われ、
1993年に発効しました。
2008年5月現在では、191ヶ国が締約しています。
日本は、1992年に署名し、1993年に締結して、18番目の締約国
となりました。
そして1994年以来、およそ2年ごとに「締約国会議」が開かれて
おり、
その10回目の会合が、来年に名古屋で行われるのです。
* * * * *
ところで・・・
来年の、2010年に行われる締約国会議は、けっこう重要な位置づけ
になっています。
というのは、「2010年目標」というのが存在するからです。
この「2010年目標」とは、
「締約国は現在の生物多様性の損失速度を2010年までに顕著
に減少させる」というもので、
2002年にオランダで行われた、第6回締約国会議において採択
されました。
来年に名古屋で行われる、第10回締約国会議では、
その「2010目標」が、一体どれくらい達成されたのか、問われること
になるのです。
* * * * *
ところが・・・
国際自然保護連合(ICUN)が、7月2日に発表した最新報告によると、
「2010年目標は明らかに達成されない!」
とのことです。
この報告でICUNは、
「世界は、集団絶滅に向かって急速に突き進んでいる!」
と、警告しています。
レッドリストに掲載されている絶滅危惧種、4万4838種のうち、
869種は、すでに絶滅したか、
野生絶滅(自然の状態では絶滅したが、人工飼育や栽培によって、
かろうじて種が保たれている状態)になったと、
見なして良いそうです。
さらには、絶滅寸前の290種を合わせると、全部で1159種にも
上ります。
とくに両生類は、生息地の消失や、菌類による感染症などで、
3分の1もの種が、絶滅の危機にあるといいます。
鳥類では、8分の1の種が、絶滅の危機にあり、
哺乳類は、4分の1近くの種が、絶滅の危機にあるそうです。
来年の、名古屋で行われる締約国会議では、
さぞかし「反省的な色合い」が、濃くなるのではないかと思います。
しかし、それだけでなく、
種の保存に向けた、実効性のある取り決めについても、
大いに話し合ってもらいたいと思います。
* * * * *
つねづね私は思うのですが・・・
人類が引き起こした地球温暖化で、人類自身が苦しむのは、
まだ「自業自得」だと言えるでしょう。
しかし、なんの過失もない、
たくさんの動植や、植物たちをも巻き添えにして、
あらゆる生命を、大いなる苦しみに陥れてしまう・・・
そんな権利は、人類にあるはずが無いし、
とても罪深いことであり、畏れ多いことだと思うのです。
そのような
「大自然や生命にたいする畏怖の念」というのが、
いまの人類には、欠落しているように思えてなりません!
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