民主党の温暖化対策
2009年9月6日 寺岡克哉
8月30日の衆議院選挙で、民主党が308議席をとり、「政権交代」が
確実になりました。
今までの自民党政権に比べて、いろいろと政策が変わるでしょうが、
「地球温暖化対策」についても、決して例外ではありません。
「日本の中期目標」も、これまでとは違ったものになるでしょう。
今回は、そのことについて、見て行きたいと思います。
* * * * *
まず最初に、民主党が「実際に言っていること」について、確認して
おきましょう。
以下は、
民主党のマニフェスト(政権公約)から、温暖化対策に関連した部分を、
抜粋したものです。
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29.目的を失った自動車関連諸税の暫定税率は廃止する
【政策目的】
○課税の根拠を失った暫定税率を廃止して、税制に対する国民の信頼
を回復する。
○2.5兆円の減税を実施し、国民生活を守る。特に、移動を車に依存する
ことの多い地方の国民負担を軽減する。
【具体策】
○ガソリン税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税の暫定税率
は廃止して、2.5兆円の減税を実施する。
○将来的には、ガソリン税、軽油引取税は「地球温暖化対策税
(仮称)」として一本化、自動車重量税は自動車税と一本化、自動車
取得税は消費税との二重課税回避の観点から廃止する。
【所要額】
2.5兆円程度
30.高速道路を原則無料化して、地域経済の活性化を図る
【政策目的】
○流通コストの引き下げを通じて、生活コストを引き下げる。
○産地から消費地へ商品を運びやすいようにして、地域経済を活性化
する。
○高速道路の出入り口を増設し、今ある社会資本を有効に使って、
渋滞などの経済的損失を軽減する。
【具体策】
○割引率の順次拡大などの社会実験を実施し、その影響を確認
しながら、高速道路を無料化していく。
【所要額】
1.3兆円程度
42.地球温暖化対策を強力に推進する
【政策目的】
○国際社会と協調して地球温暖化に歯止めをかけ、次世代に良好な
環境を引き継ぐ。
○CO2等排出量について、2020年までに25%減(1990年比)、
2050年までに60%超減(同前)を目標とする。
【具体策】
○「ポスト京都」の温暖化ガス抑制の国際的枠組みに米国・中国・
インドなど主要排出国の参加を促し、主導的な環境外交を展開
する。
○キャップ&トレード方式による実効ある国内排出量取引市場を
創設する。
○地球温暖化対策税の導入を検討する。その際、地方財政に配慮
しつつ、特定の産業に過度の負担とならないように留意した制度
設計を行う。
○家電製品等の供給・販売に際して、CO2排出に関する情報を通知
するなど「CO2の見える化」を推進する。
43.全量買い取り方式の固定価格買取制度を導入する
【政策目的】
○国民生活に根ざした温暖化対策を推進することにより、国民の温暖化
に対する意識を高める。
○エネルギー分野での新たな技術開発・産業育成をすすめ、安定した
雇用を創出する。
【具体策】
○全量買い取り方式の再生可能エネルギーに対する固定価格買取
制度を早期に導入するとともに、効率的な電力網(スマートグリッ
ド)の技術開発・普及を促進する。
○住宅用などの太陽光パネル、環境対応車、省エネ家電などの購入を
助成する。
45.環境分野などの技術革新で世界をリードする
【政策目的】
○1次エネルギーの総供給量に占める再生可能エネルギーの割合
を、2020年までに10%程度の水準まで引き上げる。
○環境技術の研究開発・実用化を進めることで、わが国の国際競争力
を維持・向上させる。
【具体策】
○世界をリードする燃料電池、超伝導、バイオマスなどの環境技術の
研究開発・実用化を進める。
○新エネルギー・省エネルギー技術を活用し、イノベーション等による
新産業を育成する。
○国立大学法人など公的研究開発法人制度の改善、研究者奨励金制度
の創設などにより、大学や研究機関の教育力・研究力を世界トップ
レベルまで引き上げる。
46.エネルギーの安定供給体制を確立する
【政策目的】
○国民生活の安定、経済の安定成長のため、エネルギー安定供給体制
を確立する。
【具体策】
○エネルギーの安定確保、新エネルギーの開発・普及、省エネルギー
推進等に一元的に取り組む。
○レアメタル(希少金属)などの安定確保に向けた体制を確立し、再利
用システムの構築や資源国との外交を進める。
○安全を第一として、国民の理解と信頼を得ながら、原子力利用に
ついて着実に取り組む。
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以上が、民主党のマニフェストからの抜粋です。
この中でも、とくに重要な項目について、すこし詳しく見て行きたいと
思います。
* * * * *
☆CO2等排出量について、2020年までに25%減(1990年比)、
2050年までに60%超減(同前)を目標とする。
これは、「日本の中期目標を、1990年比で25%減にする!」と、
言っています。
今までの中期目標は、1990年比で8%減なので、それよりも大幅に削減
量が増えることになり、「ものすごく画期的な前進」です。
私は、日本の中期目標に関する
パブリックコメントに投書したり(エッセイ377)、
タウンミーティングに参加したり(エッセイ378)して、
「1990年比25%減」を主張してきました。
なので、民主党の政権公約におけるこの部分は、私の主張とまったく一致
するものであり、とても嬉しく思っています。
しかし、上のような活動を通して、とても強く感じるのですが、「経済界から
の大きな反発」を招くのは、絶対に確実でしょう。
もうすでに、日本経団連、日本鉄鋼連盟、日本自動車工業会、電気事業
連合会、石油連盟などが、民主党に注文をつけ出しています。
とくに日本経団連は、9月2日に臨時の正副会長会議を開き、民主党に
対して1990年比25%減の再考を求め、早急に働きかけを強めること
に決定しました。
民主党には、経済界に屈することなく、ぜひ頑張ってもらいたいと
思います。
一方、「2050年までに60%超減」というのは、長期目標のことですね。
エッセイ387でレポートしてますが、ラクイラ・サミットにおいて、「先進国
は2050年までに、温室効果ガスの排出を80%以上削減する」と、宣言
しました。
なので、「2050年までに60%超減」というのは、サミットの首脳宣言と
矛盾はしていませんが、「掲げている数値がすこし小さい」という感が否め
ません。
いずれ、この数値は修正されるのではないかと思います。
* * * * *
☆全量買い取り方式の再生可能エネルギーに対する固定価格買取
制度を早期に導入する。
これも、ものすごく画期的なことです!
たとえば「太陽光発電」の全量が、固定価格で買取られるようになれば、
太陽電池が爆発的に広がって行くでしょう。
「家庭用太陽電池」の普及に、拍車をかけるのはもちろんですが、「大規模
太陽光発電」による、売電ビジネスも可能になるでしょう。
エッセイ360〜368で詳しくレポートしてますが、太陽光発電を大々的に
導入すれば、化石燃料のすべてを、太陽電池で賄(まかな)うことも、
原理的に可能です!
2050年までに、温室効果ガスの排出を80%以上削減するには、(原子力
を使わないならば)太陽光発電が最も有力でしょう。
この民主党の政策は、それを実現可能にするものです。
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☆1次エネルギーの総供給量に占める再生可能エネルギーの割合を、
2020年までに10%程度の水準まで引き上げる。
上で挙げた、「固定価格買取制度」を十分に駆使して、10%などと言わ
ず、ぜひとも、それ以上の目標を達成してほしいと思います。
* * * * *
☆安全を第一として、国民の理解と信頼を得ながら、原子力利用に
ついて着実に取り組む。
民主党は、原子力発電の利用を、否定していないみたいですね。
たしかに、今すぐ原発をゼロにするのは、無理があるでしょう。しかし
ながら、原発を積極的に推進するべきではなく、せめて「現状維持」に
留めてほしいものです。
エッセイ275に書きましたが、原発事故の心配だけでなく、大地震や、
テロや軍事標的にされる可能性まで考えれば、
上にあるような「安全を第一として、国民の理解と信頼を得る」ことなど、
とうてい不可能でしょう。
その証拠に、東京などの大都市の近くには、絶対に原発を作ろうとしま
せんし、大都市の住民も、そんなことは絶対に認めないでしょう。
また、数千年もの保管が必要といわれる、「放射性廃棄物」の問題も、
まだ未解決です。
民主党には、「原子力利用の着実な取り組み」よりも、「再生可能エネル
ギーの拡大」に、全力をそそいで頂きたいと思います。
* * * * *
☆キャップ&トレード方式による実効性のある国内排出量取引市場
を創設する。
この、「キャップ&トレード」というのは、
まず最初に政府が、温室効果ガスの総排出量(総排出枠)を定め、
それを個々の企業に「排出量(排出枠)」として分配します。
これを「キャップ」といいます。
個々の企業は、はじめに分配された排出枠(キャップ)よりも、温室効果ガス
の排出量が少ない場合は、余った排出枠を、ほかの企業に売ることが出来
ます。
その逆に、はじめに分配された排出枠(キャップ)よりも、温室効果ガスを
多く出してしまった企業は、キャップを超えた分の排出枠を、買わなければ
なりません。
そのような「排出量の取引(つまりトレード)」を通し、企業全体として、政府
の定めた総排出量を守ろうというものです。
当前のことですが、政府の定めるキャップが厳しいほど(各企業に分配
される排出枠が小さいほど)、温室効果ガスの削減量は大きくなります。
ところが、この「キャップ&トレード」という方法には、
各企業の排出枠を、政府が決定することになれば、政府の権限が
あまりにも大きくなり過ぎるのではないか?
各企業の排出枠を、はたして公平に決めることが出来るのか?
排出量の取引が、「マネーゲーム」に発展してしまわないのか?
と言うような疑問や危惧が、指摘されています。
しかし、それでも、
「キャップ&トレード」や、あるいは「炭素税(環境税、地球温暖化
対策税)」などを導入しなければ、
「温室効果ガスの大幅な削減」が、実現されにくいのも事実です!
私は、それらの制度が導入されなければ、2020年までに1990年比で
25%の削減など、ほとんど不可能ではないかと思っています。
* * * * *
☆ガソリン税、軽油取引税などの暫定税率の廃止。
☆将来的には、ガソリン税、軽油取引税は「地球温暖化対策税(仮称)」
として一本化。
☆地球温暖化対策税の導入を検討する。
ガソリン税や、軽油取引税を廃止して値段が下がれば、ガソリンや軽油
の需要が増して、二酸化炭素の排出も増える可能性があります。
しかしながら、それに代わる「地球温暖化対策税」を導入すれば、二酸化
炭素の増加を、食い止めることが出来るでしょう。
地球温暖化対策税を、ほんとうに導入できるのか?
温暖化対策税の税率が、暫定税率にくらべて、見劣りすることはないか?
そのような所が、ポイントになるのではないでしょうか。
とにかく、
「再生可能エネルギー」よりも、ガソリンや軽油を使う方が、すごく有利に
なることだけは避け、
まちがっても、二酸化炭素の増加を助長することの無いように、するべき
です。
* * * * *
☆割引率の順次拡大などの社会実験を実施し、その影響を確認しな
がら、高速道路を無料化していく。
高速道路を無料化すれば、自動車の利用が増え、二酸化炭素の排出も
増えることが考えられます。
1人あたりの輸送にたいして、二酸化炭素の排出がずっと少ない、「公共
交通機関」の利用も減ることでしょう。
こと、「温暖化対策」という観点から見た場合、この政策は、後退に向かっ
ているとしか思えません。
* * * * *
以上のように、民主党の政策は、温暖化対策の観点から見ると、
暫定税率の廃止や、高速道路の無料化など、いろいろ不可解な点が
あります。
が、しかし、自民党政権のときに比べれば、全体として「画期的な前進」
が期待できるでしょう。
EUなどヨーロッパ諸国も、そのように見ているようです。
たとえばEU議長国であるスウェーデンの、カールグレン環境相は、民主党
の温暖化対策について、「期待が持てる」と高く評価しています。
EUの中期目標が、2020年までに1990年比で最大30%減であること
から、カールグレン環境相は、民主党の公約を「欧州の目標と極めて近い」
と位置づけ、「日本と緊密に協力する用意がある」と言いました。
さらに、日本とヨーロッパの連携で「国際交渉に弾みがつき、他の先進国
への刺激や、新興国への圧力になる」と指摘しました。アメリカや中国などに
温暖化対策の強化を促す、波及効果が生まれるとの認識を示しています。
また、フランスのサルコジ大統領は、「気候変動など世界的な課題で、
日本とフランスの協力が深まることを期待する」との声明を発表しました。
そして、「気候変動枠組み条約 第15回締約国会議(COP15)」の議長国
であるデンマークの、ヘテゴー気候変動・エネルギー相も、民主党の勝利を
「非常に良いニュースだ」と歓迎しました。
ところで・・・
9月22日にニューヨークで行われる、国連の気候変動ハイレベル会合に、
鳩山由紀夫代表が、首相として出席する見込みです。
その場で、日本の中期目標が、1990年比で25%減であることを、
「国際的な約束」として公言できるかどうか・・・
それが地球温暖化対策における、民主党の「本気と覚悟」が試される、
まず最初の「試金石」となるでしょう。
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