25%削減を国際公約
                              2009年9月27日 寺岡克哉


 9月22日に鳩山首相が、国連の「気候変動首脳級会合」で演説し、

 温室効果ガス削減における「日本の中期目標」として、

 「2020年までに、1990年比で25%の削減をめざす」ことを、

 表明しました。

 各種の報道によると、これは「事実上の国際公約」になるそうです。


                * * * * *


 鳩山首相の演説は、英語でなされたのですが、

 以下に、演説全文の日本語原稿から、中期目標に関するところを抜粋して
おきます。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 まず、温室効果ガスの削減目標について申し上げます。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)における議論を踏まえ、先進国は、
率先して排出削減に努める必要があると考えています。わが国も長期の削減
目標を定めることに積極的にコミット(関与)していくべきであると考えています。


 また、中期目標についても、温暖化を止めるために科学が要請する
水準に基づくものとして、1990年比で言えば2020年までに25%削減
を目指します


 これは、我々が選挙時のマニフェストに揚げた政権公約であり、政治の意思
として国内排出量取引制度や、再生可能エネルギーの固定価格買取制度
の導入
地球温暖化対策税の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員
して実現を目指していく決意です。


 しかしながら、もちろん、我が国のみが高い削減目標を揚げても、気候変動
を止めることはできません。世界のすべての主要国による、公平かつ実効性
のある国際枠組みの構築が不可欠です。

 すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際
社会への約束の「前提」となります。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


               * * * * *


 この演説によって、

 温室効果ガスを2020年までに、1990年比で25%削減。
 国内排出量取引制度の導入。
 再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入。
 地球温暖化対策税の検討。
 すべての主要国の参加が、国際公約の前提。

 と、いうことを、世界各国の首脳を前にして明言したことになります。



 鳩山首相の演説は、とても好評だったようで、

 「1990年比25%削減」に言及したところでは、一斉に拍手がわきおこり
ました。

 これは、ほかの首脳の演説には見られなかった光景で、おそらく、オバマ
大統領の演説よりも好評だったのでしょう。

 鳩山首相は、地球温暖化対策における「日本の存在感」を、国際社会に
アピールすることに「大成功した」と言えます。



 ちなみに9月7日に、

 東京で行われたシンポジウムの講演(エッセイ395)から、今回の演説で
変わったところは、

 国内排出量取引制度の導入、再生可能エネルギーの固定価格買取制度
の導入、温暖化対策税の検討が、演説の中に加わったことです。

 しかしこれらの政策は、衆議院選挙におけるマニフェストにも書かれていた
ことなので、べつに民主党の政策が、急に変わった訳ではありません。


               * * * * *


 さて、

 このたび表明した「国際公約」において、すごく重要なポイントは、

 「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の
国際社会への約束の前提となる」


 という部分です。

 なぜなら、いくら日本やヨーロッパが削減努力をしても、

 二酸化炭素を大量に出しているアメリカ中国が、「実際に効果のある
対策」を行わなければ、地球温暖化を食い止めることが出来ないからです。


 たとえば、私が知っている最新のデータ(2006年)によると、

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        二酸化炭素     世界に占める  1人あたりの二酸化
        排出量(億トン)     割合(%)    炭素排出量(トン)

アメリカ     57.66        21.1        19.3

中国       56.27        20.6         4.3

日本       12.42         4.5         9.7
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 と、なっています。

 アメリカと中国を合わせると、世界の二酸化炭素排出量の、じつに
41.7%を占めます。

 なので、この2つの国が何とかしなければ、ほかの国がいくら頑張っても、
「焼け石に水」なのです。



 とくに、

 「1人あたり20トンちかくも二酸化炭素を出しているアメリカには、
今すぐにでも50%の削減をやってもらいたい!」


 と言うのが、私の正直な気持ちです。



 また中国も、1人あたりの排出量から大ざっぱに考えて、

 少なくても現在より2倍の排出量を超える前くらいには、

 二酸化炭素の排出を、増加から減少に転じてもらう必要が、

 絶対にあるでしょう。




 もしも中国の排出量が、現在の1.9倍を超えてしまったら、

 その他すべての国の排出量を、ゼロにすることが出来たとしても、

 世界全体における二酸化炭素排出量を、1990年にくらべて半分以下
にすることが、不可能になってしまいます。

 そんな事態は、絶対に避けなければなりません!



 もちろん中国にも、出来るだけ早い時期に、排出量の増加から、減少に
転じてもらいたいのは当然です。

 しかしながら、1人あたり9.7トンも排出している日本の現状では、

 1人あたり4.3トンしか排出していない中国にたいして、あまり偉そうな
ことは言えません。

 そのためにも、日本の排出量の削減を、可能なかぎり急ぐ必要があるの
です。

 鳩山首相の本意も、

 アメリカや中国に、「効果のある温暖化対策」を早急にやってもらうこと
なのでしょう。



 ところで、国連の「気候変動首脳級会合」では、当然のことながら、

 アメリカのオバマ大統領や、中国の胡錦濤(こきんとう)主席も演説し、

 温室効果ガス削減についての考えを表明しています。


 つぎに、それを見てみましょう。


                 * * * * *


 以下は、オバマ大統領の演説要旨からの抜粋です。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ○今日この場に大勢集まったのは、気候変動の脅威が深刻で、緊急で、
  高まり続けているとの認識からだ。

 ○中国、ブラジル、インド、メキシコなどとの外交関係で、気候変動は米国
  にとっての最優先課題である。


 ○われわれは気候変動の脅威の重大さを理解しており、断固として行動
  する。


 ○(先進国と発展途上国間の)旧来の断絶が進展を阻害することは許さ
  れない。


 ○今後の排出量増加の原因となる、急速に成長している国々も役割を
  果たさなければならない。


 ○温室効果ガスの排出量が大きな国々が共に行動しなければ、気候変動
  問題に対処することはできない。残された時間は少ない。
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 このオバマ大統領の演説を見ていると、

 「われわれは断固として行動する!」

 「先進国と発展途上国の対立によって、温暖化対策の進展を阻害する
ことは許されない!」


 「(中国やインドなどの)新興国も、役割を果たさなければならない!」

 と、「かなり強い圧力」を、国際社会にかけて来たように思えます。

 もしも世界の国々が、アメリカの言うことを聞かないならば、「実力行使も
辞さない」と思えるほどの剣幕に、私には感じられました。



 しかしその一方で、アメリカが2020年までに何をするかという、

 「具体的な新しい対策」が、まったくありませんでした。

 このままでは、おそらく、

 「2020年までに、1990年比で±0%の削減」と言うことになるので
しょう。

 アメリカは1人あたり、およそ20トンもの二酸化炭素を出しているのに
です。

 これでは、まったく見劣りする内容だと言わざるを得ません!



 しかしながら、

 ブッシュ政権のときに比べれば、アメリカは天と地ほど「まとも」になった
ので、

 現状では、さらなる贅沢は言えないのかも知れません。


                  * * * * *


 つぎに、中国の胡錦濤(こきんとう)主席の、演説要旨からの抜粋を

 挙げておきましょう。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 胡主席は「発展途上国の声に耳を傾け、発展途上国の訴えを尊重する
べき」などと強調し、当面堅持すべき以下の4点を挙げました。

 (1)各自の責任の履行が核心である。先進国と発展途上国は、気候変動
対策において共に積極的な行動をとるべきだ。

 (2)互恵・ウィンウィンの実現が目標である。いかなる国も独りよがりで
あってはならない。

 (3)共同発展の促進が基礎である。発展途上国に、実際の能力を超えた
義務の負担を求めてはならない。

 (4)資金と技術の確保が鍵である。先進国は約束額以上の、十分な資金
援助を提供するべきである。



 さらに胡主席は、「今後、中国は気候変動を経済・社会発展計画にさらに
組み込み、引き続き力強い措置を講じていく」と指摘して、以下の4点を挙げ
ました。

 (1)省エネを強化し、エネルギー効率を引き上げ、2020年までに単位GDP
あたりの二酸化炭素排出量を2005年比で著しく引き下げるべく努める。

 (2)再生可能エネルギーと原子力エネルギーの発展に力を入れ、一次エネ
ルギー消費にしめる非化石エネルギーの割合を(現在の9%程度から)
2020年までに15%前後に引き上げる
べく努める。

 (3)森林の二酸化炭素吸収量の増加に力を入れ、2020年までに森林
面積を2005年比で4000万ヘクタール増やし、森林蓄積量を同13億
立方メートル増やす
べく努める。

 (4)エコ経済の発展に力を入れ、低炭素経済と循環型経済の発展を積極的
に進め、気候にやさしい技術を開発し、普及させる。
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 胡錦濤主席の演説内容をみて、私が驚いたのは、

 「一次エネルギー消費にしめる非化石エネルギーの割合を、(現在の9%
程度から)2020年までに15%前後に引き上げる」

 「2020年までに森林面積を2005年比で4000万ヘクタール増やす」

 と、具体的な対策を示してきたことです。



 たとえば上の表にありますが、2006年に中国が排出した二酸化炭素
は、56億2700万トンです。

 このとき、非化石エネルギーの割合が9%だとして、それがもし15%に
上がったと仮定すれば、3億7100万トンの二酸化炭素が削減されること
になります。

 ちなみに2006年における、日本の二酸化炭素排出量は、12億4200
万トンです。
 なので、3億7100万トンというのは、日本にとって30%の削減に
相当する量
なのです。

 しかし実際には、2020年における中国のエネルギー消費量は、現在
よりも増えているでしょう。
 だから、その15%が非化石エネルギーになるとすれば、それによる
二酸化炭素削減の正味量(絶対量)は、さらに大きなものになります。



 また中国は、「2020年までに、森林を4000万ヘクタール増やす!」
と表明しています。

 この面積のすごさを、私たち日本人が把握しやすいように、

 たとえば我が国における、道路、宅地、工業用地など、「都市的に利用
されている土地」のすべてを、森林に変えるとした場合と比べてみましょう。

 ちなみに日本において、「都市的に利用されている土地」の総面積は、
490万ヘクタールです。

 だから4000万ヘクタールの森林というのは、日本の道路や市街地
のすべてを森林に変えるとした時の、そのおよそ8倍の面積
になるの
です。



 これから2020年まで、中国の二酸化炭素排出量は、どうしても増えて
いくでしょう。

 しかし上のように、「具体的な対策を表明している」ところを見ると、

 「中国は中国なりに、かなり努力して行くつもり」ではないかと思い
ます。


                 * * * * *


 今年の12月に、

 「気候変動枠組み条約 第15回締約国会議(COP15)」というのが、
行われます。

 この会議が、京都議定書後における各国の削減量を決める、時間的
なリミットだとされています。

 そのCOP15に向けて、一体どのような合意がなされて行くのか?

 ますます、この問題から目が離せなくなっています。



      目次へ        トップページへ