25%削減でも所得増加
                              2009年11月1日 寺岡克哉


 もう半年くらい前になりますが、今年の6月に、 前 麻生首相は、

 温室効果ガス削減における、「日本の中期目標」を決めるとき、

 2020年までに、1990年比で25%削減する場合は、

 温暖化対策をやらない場合にくらべて、

 「家庭の負担が36万円増える!」と説明していました。



 これ、言ってることは間違いないのですが、しかしながら

 「2020年までに家庭の可処分所得が、現在よりも36万円減る!」

 というような、誤解を与えかねません。



 実際、そのように誤解した人も、多いのではないでしょうか?

 もしも、そんな誤解をしてしまったら、

 「25%削減では、かなり生活が苦しくなる!」と感じる人も、

 決して少なくないでしょう。



 しかし、そんなことはありません!

 「25%削減」をする場合でも、家庭の可処分所得は、

 現在より増えると、見積もられています。




 前政府による、中期目標に関する検討において、そのように試算
されていたことが、

 最近になって、明らかにされました。


 今回は、そのことについて、お話したいと思います。


               * * * * *


 まず、前政府による試算では、

 温暖化対策をやらなかった場合、2005年〜2020年の間に、

 GDPがおよそ21%成長することが、前提になっています。



 そうすると、

 2005年では479万円だった、1世帯あたりの平均可処分所得が、

 2020年には、591万円までに増加するとしています。



 ところが、温室効果ガスを25%削減する場合は、

 2020年における、1世帯あたりの平均可処分所得が、

 555万円になると試算されました。



 つまり、2020年における家庭の所得が、

 温暖化対策をやらなければ、591万円になるところが、

 25%削減の場合は、555万円に目減りするわけです。

 その差額分 (591万円−555万円=36万円)をもって、

 前政府は、「25%削減における、家庭の負担額は36万円」だと説明
していたのです。



 しかしながら、「25%削減」を実行して、

 たとえ2020年における家庭の所得が、555万円になったとしても、

 2005年と比べれば、(555万円−479万円=76万円)ぶんの

 所得が増えることになります。



 このように、

 2020年における温室効果ガス排出量を、1990年比で25%
削減した場合であっても、

 1世帯あたりの平均可処分所得は、2005年に比べて76万円
も増加するというのが、


 前政府による試算の、「真相」だったのです!


               * * * * *


 その上

 前政府が主張していた、「家庭負担 36万円」の内訳は、

 「可処分所得の目減り」が22万円で、

 再生可能エネルギーの導入などによる「光熱費の負担増」が、14万円
でした。

 この22万円と、14万円を足し合わせて、家庭の負担増が36万円だと
していたのです。



 しかし実は・・・

 「光熱費の負担増」である14万円は、

 「可処分所得の目減り」である22万円のなかに、

 あらかじめ含まれていたことが判明しました。

 つまり、光熱費の負担増である14万円のぶんは、

 二重計上だった(二重に数えられていた)のです!




 そのことが、10月27日に開かれた、

 新政府による作業部会の検討で、明らかにされました。


               * * * * *


 さらには、前政府による試算では、

 温暖化対策への投資によって、プラスの経済効果が出ること。

 たとえば対策の進展によって、エコカーや、太陽電池パネルの価格
が低下することなどは、

 想定されていませんでした。



 また、これから「低炭素社会」を構築して行くにあたって、

 新たな技術開発がおこなわれ、

 新たな産業が育成され、

 新たな雇用が生まれることでしょう。



 これらの要因を加えれば、温室効果ガスを25%削減しても、

 家庭の所得がさらに増える可能性さえ、十分に予想されるのです。



 と、言うよりは、

 旧態依然とした、二酸化炭素を大量に排出する、社会構造や産業構造
のままでは、

 経済が「ジリ貧」になって行くというか、「ドン詰まり」になって行くというか、

 未来において「経済破綻」を来たしてしまうのは、絶対に確実です!



 なぜなら、

 温暖化がどんどん進み、地球環境や生態系が壊滅してしまったら、

 経済もなにも、あったものでは無いからです!



 これを認めないのは、

 「地球温暖化に関する、科学的な観測事実や分析」が、正しく理解
できない者か、

 そのような科学的知見を、「あえて正しく理解しようとしない」者に、

 ほとんど限られています。


               * * * * *


 私が以前から、ずっと指摘してきたことですが・・・ 

 今までは、温室効果ガスの大幅な削減にたいして、

 ことあれば、国民の負担(家庭の負担)を、できるだけ大きなものに
しようとする

 「何らかの力」が、働いていたように思えてなりません。



 今回ここで取りあげた、

 「25%削減」でも、所得が増加することの隠蔽(いんぺい)。

 光熱費増加の二重計上。

 なども、その氷山の一角なのでしょう。



 しかし、

 政府が新しく代わって、「そのような勢力」が衰えつつあることが、

 傍(はた)から見ても感じられるように、なってきました。



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