北極振動            2010年4月4日 寺岡克哉


 この冬は、

 ヨーロッパやロシア、東アジア北部、そしてアメリカなどで、

 30年以上に1回しか現れないような、「異常低温」になった地域

 が、ありました。



 これらの地域では、たびたび「寒波」が襲来し、ずいぶんマスコミ
を賑(にぎ)わせたものです。

 たとえば、3月18日付けの朝日新聞によると、

 アメリカのワシントンでは、2月に積雪が141センチとなり、およそ
100年ぶりに記録を塗りかえました。

 温暖な気候のフロリダでさえ、1月に−4.4℃を記録したのです。

 またヨーロッパでは、「異常低温」による凍死者が続出しましたし、

 韓国のソウルでは1月に、およそ26センチの積雪を観測しました。
これは、1937年に観測を始めてからの最高記録です。



 このような報道は、今年の1月〜2月ころだと、テレビでもずいぶん
されていたように思います。

 そんな感じで、マスコミの報道が賑わっていたので、無責任な懐疑論
者たちが、

 「地球温暖化なんてウソだ!」

 「地球は寒冷化しているのだ!」

 などと、ずいぶん騒ぎ立てています。


              * * * * *


 しかし、地球全体として、

 この冬の期間は、ほんとうに「異常低温」だったのでしょうか?



 その答えは「NO!」です。

 なぜなら、気象庁による3月3日付けの報道発表資料によると、

 カナダの東北部から、グリーンランドにかけては、著しい高温に
なっていたからです。

 (東北部ではないけれどカナダのバンクーバーも、暖冬で雪不足
になり、オリンピックの開催に苦労していましたね。)



 さらには、同じく気象庁の報道発表資料によると、

 北半球を全体的にみれば、30年以上に1回という「異常高温」
なった地域が、その他にもたくさんあります。

 たとえば・・・

 モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプト、モーリタニア、セネガル、
コートジボワール、ガーナ、ニジェール、コンゴなどの、アフリカの国々。

 イラク、サウジアラビア、イエメンなどの、アラビア半島の国々。

 タイ、マレーシア、インドネシアなどの、東南アジアの国々。

 パラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島などの、南の島々。

 エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、ドミニカなどの、南米の国々。

 などなど、これらたくさんの国々で、

 2009年12月〜2010年2月までの、3ヶ月間の平均気温が、

 30年以上に1回という、「異常高温」を記録しているのです。



 また日本も、

 この冬は、各地で大雪が降ったのですが、しかしそれでも「暖冬」
でした。

 エルニーニョ現象の影響で、「アリューシャン低気圧」が平年よりも
日本から離れたことや、

 南の海上で、「温かい高気圧」が強かったことにより、

 日本付近では、冬型の気圧配置がいつもの年より弱くなり、全国的
に高温となったのです。



 けっきょく「地球全体」としては、

 気象庁の発表によると、世界全体における1月の平均気温が、

 1891年に統計を開始して以来、3番目の高い値となっています。



 以上から、この冬の期間は、

 地球全体として見ると、けっして異常に寒かった訳では
ありません!


 だから、

 懐疑論者たちが騒いでいるような、「地球が寒冷化して
いる」などというのは、

 「デタラメな大ウソ」です!



              * * * * *


 しかしながら、

 ヨーロッパやロシア、東アジア北部、アメリカなどで、

 なぜ、「異常低温」になった地域があったのでしょう?

 その理由も、ちょっと知りたい所であります。



 これについても、気象庁はちゃんと説明しており、

 「北極振動」と呼ばれる現象が、その原因でした。



 この「北極振動」というのは、

 高緯度で平年より気圧が高く、中緯度で平年より気圧が低くなる
状態(負の北極振動)と、

 その反対に、

 高緯度で平年より気圧が低く、中緯度で平年より気圧が高くなる
状態(正の北極振動)

 を、行ったり来たりする現象のことです。



 上のような「北極振動」は、

 たとえば「振り子」や「バネ」などのように、物体が振動する訳では
なくて、

 ある状態から、ある状態へと、行ったり来たりを繰りかえす現象の
ことなのです。

 そういうのも「振動」と呼ぶのですね。



 さて、

 この冬は、ものすごく顕著な「負の北極振動」が現れました。

 それは、比較できるデータが存在する1979年以降で、もっとも
顕著なものです。

 つまり、

 北極付近の高緯度では、平年よりも気圧がとても高くなり、

 それより南方の中緯度では、平年よりも気圧がとても低くなった
わけです。



 そうすると、

 北極付近の「冷たい空気」が、中緯度の地域に「吹き出す」よう
になります。

 なぜなら空気というのは、気圧の高い場所から、気圧の低い場所に
向かって流れるからです。

 そのため、

 ヨーロッパ、ロシア、東アジア北部、アメリカなどに、寒波が襲来した
わけです。

 また日本でも、

 負の北極振動が、この冬でもとくに顕著になったときは、一時的に
つよい寒気が南下して、日本海側の一部では大雪となりました。


             * * * * *


 ところで今回の冬は、

 なぜ、ものすごく顕著な「負の北極振動」が、現れたのでしょう?



 まず第一に、「直接的な原因」としては、

 12月初めにアラスカで、そして、その直後に北大西洋で、
「偏西風の蛇行」が、ものすごく大きくなりました(ブロッキング現象)。

 そのため、アラスカ付近と、グリーンランド付近で、「高気圧」が発達しま
した。つまり、高緯度の気圧が高くなり、「負の北極振動」が発生したわけ
です。

 このような状態(つまり負の北極振動の状態)になると、北半球全体とし
て、偏西風が北緯30〜40度帯で強くなり、北緯50〜60度帯で弱くなり
ます。
 そうすると、これらの帯域で発生する、さまざまな高気圧や低気圧の
形や、発達する位置が、いつもの年とは異なってきます。

 また逆に、そのような、

 さまざまな高気圧や低気圧の「いつもの年とは異なった気圧配置」に
よって、
 偏西風が北緯30〜40度付近で強められ、北緯50〜60度付近では
弱められます(つまり、負の北極振動の状態が強化される)。

 このように、

 原因と結果が、お互いに強め合うこと(正のフィードバック)に
よって、

 顕著な「負の北極振動」という状態を、持続させたのでした。





 そして第二に、上のようなことが起こった「遠因」としては、

 昨年の11月に、カナダ北部上空の「成層圏」で気温が上昇し、その
ため高緯度の成層圏において、西風が弱まったこと。

 12月上旬に東シベリア上空の成層圏で、また1月下旬には北極上空
の成層圏で、大規模に気温が上昇したこと(成層圏突然昇温現象)。

 また「対流圏」では、昨年の夏以降、北緯30〜40度帯で「偏西風」が
平年より強い傾向がつづいていたこと。

 エルニーニョ現象によって、中部から東部太平洋の、赤道域の海水温
が平年よりもかなり高かったこと。

 さらにはインド洋や大西洋でも、平年より海水温がかなり高かった
こと。


 等々が、考えられていますが、

 それらの要因の重要性や可能性についての評価は、今後の研究が
待たれます。


            * * * * *


 とにかく以上のように、

 この冬、ヨーロッパやロシア、東アジア北部、アメリカなどに
寒波が襲来したのは、

 「北極振動」という、「大気の部分的なゆらぎ」が原因だった
わけで、

 地球全体が寒冷化している訳では、絶対にありません!



 そう言うことなので、

 懐疑論者たちが吹聴している、「デタラメな大ウソ」には、

 けっして、騙されないようにしたいものです。




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