台風の最新予測     2010年5月9日 寺岡克哉


 4月22日。

 海洋研究開発機構と、東京大学の大気海洋研究所が、

 台風についての、最新の予測結果(シミュレーション結果)
発表しました。

(※ 独立行政法人 海洋研究開発機構 2010年4月22日付
   プレリリース。)



 それによると、気候が温暖化すれば、

 地球全体での熱帯低気圧(台風およびハリケーンを含む)の発生数
は減少しますが、

 しかしその一方で、勢力の強いものの割合が増えるという、

 IPCCの第4次報告書で記述されていた内容を、裏付ける結果が
得られました。


             * * * * *


 さて、

 今回のシミュレーションで、いったい「何が新しいのか」といえば、

 それは「雲」の振る舞い。

 つまり、「雲の生成や消滅」が、直接に計算できるようになった
ことです。



 従来のシミュレーションでは、

 計算の精度が粗(あら)くて、「雲の様子」のことまでは、分かりま
せんでした。

 しかもそれが、「予測の不確定さ」を大きくする要因になっており、

 IPCCの第4次報告書において、「今後の課題」とされていたの
です。



 しかし、

 今回のシミュレーションは、計算の精度をすごく高めることにより、

 今まで未解決だった「雲の問題」を、世界で初めて克服しま
した!




 このことによって、

 台風の発生する数や、発生した台風の強さが、

 今までよりも正確に、予測できるようになったのです。



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 ところで、

 今回、シミュレーションが行われたのは、

 「A1B」と呼ばれる、未来シナリオについてです。



 この「A1Bシナリオ」は、2100年の時点において、

 大気中の二酸化炭素濃度が720ppmになり、

 産業革命前にくらべて気温が3.4℃上昇する

 というものです。



 そしてこれは、

 二酸化炭素の排出量を、とくに多く見積もったシナリオではなく、

 あるていど二酸化炭素の削減に成功しても、これくらいの状況に
なるかも知れないというシナリオです。



 たとえば・・・

 昨年に行われた、COP15(気候変動枠組み条約 第15回締約国
会議)のように、

 もしも、このままずっと、

 「温室効果ガスの意欲的な削減」にたいして、拘束力のある世界的
な合意がされなければ、

 A1Bシナリオよりも、もっと悪い状況になってしまう可能性が、十分に
考えられます。



 ちなみに、

 現在の二酸化炭素濃度(2008年)は、385.2ppm で、

 産業革命前から現在(2005年)までの気温上昇は、0.76℃

 となっています。


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 さて、

 とにかく、上で話した条件(A1Bシナリオ)で、

 雲のことまで計算できる、最新のシミュレーションを行った
わけです。



 その結果は、最初でも話したように、

 地球全体での、熱帯低気圧の発生数は減少しますが、

 勢力の強いものの割合が、増えるということでした。



 しかしながら一体、

 台風の発生が、どれくらい減少するのでしょう?

 そして、

 強い台風の割合は、どれくらい増えるのでしょう?



 海洋研究開発機構のプレリリースでは、

 そのことについて、直接に明言していなかったので、

 私なりの考察を、加えてみたいと思いました。


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 まず、熱帯低気圧の発生数ですが、

 これは、4月22日付の共同通信によると、

 「21世紀末には、2004年のデータとの比較で65%に減少」

 と、なっています。

 海洋研究開発機構のプレリリースには、そんなことは書いていない
のですが、

 おそらく他の資料か、記者会見か、独自の取材によって、得られた
情報なのでしょう。



 これを、海洋研究開発機構のプレリリースと読み合わせると、

 2004年における、大気および海水の温度条件でシミュレーション
した結果と、

 21世紀末(A1Bシナリオ)における、シミュレーションの結果を比較
したら、

 熱帯低気圧の発生数が、65%に減少していたと理解できます。



 ちなみに、

 2004年における、実際の台風の発生数(ハリケーンやサイクロン
などを含まず、日本で「台風」と呼ばれるものの発生数)は、

 気象庁の観測によると、29個です。



 だから、その数(29個)が、65%に減ると考えれば、

 29×0.65 ≒18.9 なので、

 21世紀末には、台風が毎年、だいたい19個くらい発生する

 と、思えば良いでしょう。


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 つぎに、強い台風の割合ですが、

 これについては、海洋研究開発機構のプレリリースに、

 詳しいデータが載っていました。



 それによると、

 A1Bシナリオにおける、21世紀末の時点で、

 最低気圧が900ヘクトパスカル以下(つまり800ヘクトパスカル
台)の、「ものすごく強烈な台風」が発生する割合は、

 全体の34%にもなります!



 そして、上で考察したように、

 21世紀末での、1年間に発生する台風の数は、およそ19個
見積もられるので、

 19×0.34 ≒6.5 だから、

 最低気圧が900ヘクトパスカル以下の強烈な台風は、

 21世紀末の時点で、毎年6〜7個発生すると考えられます!


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 以上、ここまで私の考察をまとめると、

 A1Bシナリオ(2100年における大気中の二酸化炭素濃度
が720ppm、産業革命前からの気温上昇が3.4℃)を想定
した場合、

 最低気圧が900ヘクトパスカルを下回る (つまり800ヘクト
パスカル台の)、「ものすごく強烈な台風」が、

 21世紀末において、毎年6〜7個くらい発生するようになり
ます!




 ちなみに、

 1959年に日本を襲い、4697名の死者を出した「伊勢湾台風」
最低気圧は、895ヘクトパスカルでした。

 21世紀末には、そんなすごいレベルの台風が、毎年毎年、6〜7個
も発生するようになる訳です。



 しかも、最新の科学的な知見によれば、

 2100年には、海面が最低でも、1メートルくらい上昇すると予測
されています。



 なので、

 900ヘクトパスカルを下回る強烈な台風が、21世紀末の日本に
上陸すれば、

 「高潮による洪水被害」は、計り知れないものになるでしょう!




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