メキシコ湾の原油流出 1
                           2010年6月27日 寺岡克哉


 今年の4月20日。

 アメリカ南部の、メキシコ湾の海上で、

 石油を掘っていた施設が爆発事故を起こしました。

 この事故で、海底から大量の原油が流れ出すようになり、

 2ヶ月以上経った現在でも、原油の流出が止まっていません!



 推定によると、

 1日あたり最大で、950万リットル(ドラム缶で4万7500本)の原油
が流出しつづけていると見られ、

 これまでに「流出した原油の総量」は、3億8000万リットル(ドラム缶
で190万本)を、超えている可能性があります。



 これは、今から21年前の1989年に、

 アラスカ沖で座礁したタンカーから流出した原油、およそ4000万リッ
トル(当時最悪)の、ほぼ10倍の量であり、

 史上最悪の原油流出事故となりました!

 汚染された海域は、日本の首都圏がすっぽりと入ってしまうほどの
広さです。



 今回の事故は、

 原油の噴出場所が、水深1500メートルという、すごく深い海底に
あり、流出を止める作業が難航しています。

 そのため、このまま順調に行っても、8月までは原油の流出がつづく
見通しです。



 流出しつづける原油のうち、1日あたり390万リットルは、回収され
ているみたいです。

 が、しかし1日の流出量は、最大の推定で950万リットルなので、

 950−390= 560万リットル(ドラム缶で2万8000本)の原油が、

 今年の8月まで毎日、海洋に流出しつづける可能性があります。


 そのぶん、海洋の汚染も拡大して行くことでしょう。


            * * * * *


 ところで、今回メキシコ湾での事故を起こしたのは、

 国際石油資本(石油メジャー)の1つである、イギリスの「BP社」
という企業です。



 この事故の影響で、BP社の株が暴落しており、

 また、石油の値段も上がるのではないかと言うような、

 「経済への影響」が懸念されています。



 しかしそれは、

 人間の側の、自らによる、

 「身から出た錆(さび)」というか、「自業自得」というものでしょう。


              * * * * *


 それよりも、

 取り返しがつかないのは、「生態系への影響」です!

 メキシコ湾は、豊かな海と、広大な湿地が広がる、

 「生き物の宝庫」になっていますが、

 それが、「壊滅的な被害」を受けてしまうかも知れません!




 現在すでに、

 ウミガメや、ペリカン、アジサシ、カモメなどの鳥たちが、

 「油まみれ」になる被害を受けています。



 しかし、それだけでなく、

 アメリカ屈指のエビの漁場や、大西洋クロマグロの産卵海域なども、
「大打撃」を受ける恐れがあります。

 また、メキシコ湾に棲むマッコウクジラが、絶滅してしまう可能性も
指摘されています。



 さらには、

 ハリケーンが接近して、海が大荒れになり、高潮が発生すると、

 内陸の湿地帯にまで、原油が打ち寄せられるかも知れません。



 この先、どこまで被害が拡大するのか、まったく分からない

 という状況です!



              * * * * *


 ところで・・・

 海に流出した原油を分解するために、

 「分散剤」という化学物質が使われていますが、

 その「毒性」も、問題になっています。



 この「分散剤」とは、

 流出した原油を、小さな油の粒に分解して、海中に分散させるため
の薬品です。

 これを海に散布すると、細菌による原油の分解を、促進させること
ができます。

 つまり分散剤は、

 原油を細かく分けることにより、海に棲んでいる細菌が、それを食べ
やすくする訳です。



 このような理由から、6月の中旬までに、

 492万リットルを超える分散剤が、メキシコ湾に散布されたとも、

 言われています。



 ところが分散剤は、それ自体が「有毒物質」であり、

 海の生態系に与える影響も、ほとんど未知数なのです!




 たしかに分散剤を散布しても、ひろい海に拡散していくので、
毒性は薄まります。

 しかしなから・・・

 プランクトン、小魚、中型魚、大型魚という「食物連鎖」を通して、
その毒性が濃縮されていくのです。

 また、魚を食べる鳥たちにも、毒性の影響がでる可能性がある
でしょう。


              * * * * *

 さらには、

 流出した原油を、うまく細菌が分解したとしても、

 そのときに「酸素」を消費します。



 このため、

 原油を食べる細菌が急激に増えると、「酸欠の海域」が生まれ、

 ほかの海洋生物が死んでしまう恐れがあります。



 さらにまた、べつの問題として、

 原油の流出場所では、「メタン」も一緒に吹き出しているのですが、

 そのメタンを食べる細菌が増えても、水中の酸素を消費してしまい
ます。

 このことによっても「酸欠の海域」が出来て、さくさんの生き物が
死ぬ可能性があります。


              * * * * *


 以上のように、

 原油そのものや、分散剤の毒性、酸欠海域の発生など、

 海洋の生態系は、さまざまな打撃を受けます。



 そして・・・

 いちど「壊滅的な被害」を受けてしてしまった生態系は、もう二度と、
完全に元には戻らないでしょう。

 あるていどの「回復」を見るまでにも、おそらく、「何十年」という長い
時間がかかると思います。



 たとえば、

 21年前にアラスカで起こった、タンカーの座礁による原油流出
では、

 25万羽の野鳥が死に、2800匹のラッコが犠牲になりました。

 さらにはニシンの漁場が、壊滅的な打撃を受けました。



 そして、21年経った現在でも、

 ラッコの数は事故前の水準にもどらず、ニシン漁も復活して
いません。




 すでにメキシコ湾では、その10倍もの原油が、流出している
のです!


 この先・・・

 どれくらいまで被害が拡大し、その回復にどれくらい時間が
かかるのか、

 まったく分からない状況だと言えます。




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