最新の気候変動予測 1
                            2011年3月6日 寺岡克哉


 海洋研究開発機構の、2月23日付けプレリリースによると、

 IPCC第5次評価報告書(2013年9月発表予定)に向けた、

 地球温暖化による「気候変動の予測」についての、

 「最新の研究結果」が
出はじめています。



 この研究プロジェクトは、

 海洋研究開発機構や、東京大学の大気海洋研究所、および気象庁
の気象研究所が、2007年度から取り組んできたもので、

 地球科学に利用されているスーパーコンピューターとしては世界
最高水準の、「地球シミュレータ」が駆使されており、

 この分野における、「日本の総力を挙げた研究」だと言えるでしょう。



 研究プロジェクトの名称は、

 文部科学省「21世紀気候変動予測革新プログラム」といい、

 世界に先駆けた、気候変動にたいする予測研究を進めています。



 さらに、この研究プロジェクト(21世紀気候変動予測革新プログ
ラム)は、

 (1)地球環境予測。

 (2)近未来予測。

 (3)極端現象予測。

 の、3つの研究課題に分かれており、それぞれ以下のような結果
が得られています。



 (1)の地球環境予測では、

 産業革命前にくらべて、気温上昇を2℃以下に抑えようとする
場合、

 今世紀の後半には、化石燃料の使用による二酸化炭素の
排出をゼロ以下(人為的回収)にしなければならないこと。




 (2)の近未来予測では、

 これからの10年は、地球温暖化が本格化すること。



 (3)の極端現象予測では、

 今世紀末において、台風の発生数は減るけれども、台風の
強度は増加すること。

 また台風の経路が、現在よりも東寄りになり、東南アジアへ
接近する台風の数が減ること。




 以上のことが、最新の研究により分かってきました。

 つぎに、それぞれの研究結果について、もうすこし詳しく見ていき
ましょう。


             * * * * *


(1)地球環境予測

 この研究では、「新しい地球システム統合モデル(新EMS)」
という、

 地球環境の予測を行うための「シミュレーションソフト」を開発し、

 それを地球シミュレータに計算させました。



 この、「新EMS」というシミュレーションソフトは、

 気候の変動と同時に、陸上に生えている植物種の変化などの、
「生態系の変動」を予測します。

 また、

 大気中の二酸化炭素濃度の変動や、オゾンホールに関係する
さまざまな化学物質の変動も、予測します。



 ところで、2005年の時点までは、

 二酸化炭素や、オゾンホールに関係した化学物質の、

 実際の排出量や、実際の大気中の濃度が、観測データとして
分かっています。



 まずはじめに、その「実際のデータ」に基づいて、

 「新EMS」が、過去の気候を再現できるかどうか試してみました。

 (つまり、このシミュレーションソフトが、まともに作動するかどうか
の確認テストです。)



 そうすると「新EMS」は、

 20世紀に観測された気候変動の特徴を、うまく再現しました。

 (つまり、事前のテストに合格したわけです。)



 そこで次に、

 産業革命前からの気温上昇を、2℃以下に抑えるためには、

 人類が排出する二酸化炭素を、どれくらい削減しなければなら
ないのか、

 「新EMS」によって、シミュレーションしました。



 そうしたら、

 大気中の二酸化炭素濃度を410ppm(メタンなどの温室効果ガス
を含めると450ppm相当)で、安定化させるためには、

 2040年代のうちに、化石燃料の使用による世界の二酸化
炭素排出量をほぼ「ゼロ」にし、


 さらに20世紀の後半には、排出量をマイナスに(二酸化炭素
を大気中から人為的に回収)しなければならないことが、


 分かったのです!


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(※注)
 産業革命前からの気温上昇を、2℃以下に抑えるためには、
大気中の温室効果ガス濃度を、450ppm相当で安定化させる
必要があると言われています。
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            * * * * *


 ところで、

 気温上昇を2℃以下に抑えるための「社会シナリオ」では、

 トウモロコシなどから作る「バイオエタノール」の生産を増やす
ことによって、

 化石燃料の使用を減らすことも、想定しています。



 そうすると、

 森林を伐採して、耕作地に転換しなければならない必要性が、

 どうしても出てくるでしょう。



 「新EMS」によるシミュレーションは、

 そのような「土地利用の変化」も考慮して、将来予測をします。



 その結果、2030年以降になると、

 バイオエタノールを作るための「森林の減少」によって、

 陸域に蓄積されている炭素の量が、減少して行くことが分かり
ました。



 つまりそれは、土地利用の変化による森林減少によって、

 陸上生態系の二酸化炭素を吸収する能力が、低下するだけ
でなく、

 むしろ陸上生態系が、「二酸化炭素の排出源」になってしまう
ことを意味します。



 そしてこれは、21世紀の後半において、

 マイナスの二酸化炭素排出量(人為的回収)にしなければ
ならない原因の、

 一つとなっているのです。


             * * * * *


 ところで・・・

 これまで一般的に知られていた科学的知見によると、

 産業革命前にくらべて、気温上昇を2℃以内に抑えるためには、

 世界の温室効果ガス排出量を、2050年までに、1990年比で
50%削減する必要があり、

 そのために先進国全体では、2050年までに、1990年比で
80%の削減が必要である

 と、なっていました。



 ところが・・・

 このたびの「新EMS」を使った、最新の地球環境予測によって、

 そんな程度の削減量では、ぜんぜんダメなことが示された
わけです!




 中国やインドなどの新興国もすべて含めて、

 2040年代のうちに、化石燃料の使用による世界の二酸化炭素
排出量を、ほぼゼロにしなければならないと言うのは、

 「ものすごく困難なこと」のように思えてなりません。



 この研究結果により、

 産業革命前からの気温上昇を、2℃以下で安定させることは、

 「とても厳しいハードル」に、なってしまったと言えるでしょう。


             * * * * *


 申し訳ありませんが、この続きは次回にお話したいと思います。



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