これから米が心配!   2011年8月7日 寺岡克哉


 1945年の8月6日は、広島に原爆が投下された日です。

 今年は、福島の原発事故による放射能汚染もあり、

 反核関係のイベントが、大いに盛り上がったようです。



 しかし、マスコミがまったく取り上げないので、ここで、ちょっと
紹介したいのですが、

 今年の4月現在までに、福島第1原発から放出された放射性
物質の量は、

 セシウム137換算で、広島型原爆の80発分にも相当します。

   (出典: 原発のウソ 小出裕章 著  扶桑社新書 p65)



 それほどたくさんの「死の灰」が、すでに飛び散ってしまった
のです。

 もちろん、広島や長崎の大悲劇を、絶対に忘れる訳には
いきません。

 しかし、こと「放射能汚染」に関して言えば、

 福島第1原発の事故による汚染は、広島や長崎の原爆投下
による汚染よりも、

 ずっとずっと大きなものであることを、

 この機会に今いちど、認識を新たにして頂きたいと、思った
次第です。


           * * * * *


 さて、8月1日。

 政府は岩手県にたいし、「原子力災害対策特別措置法」に
基づいて、

 県内全域からの肉牛の出荷を停止するように、指示を出し
ました。



 さらには8月2日。

 政府は栃木県にたいしても、県内全域からの肉牛の出荷
を停止するように、

 指示を出しています。



 これまでに政府が、肉牛の出荷停止指示を出したのは、

 福島、宮城、岩手、栃木の4県であり、

 合わせて、およそ15万9000頭の肉牛が、出荷停止の対象
となりました。

 (ちなみに、2009年の肉牛の出荷頭数は、福島3万3121
頭、宮城3万3303頭、岩手3万6807頭、栃木5万5353頭
の、4県を合わせて15万8584頭でした。)



 こんなにたくさんの肉牛が、出荷停止になったのは、

 放射性セシウムに汚染された「稲わら」を、

 牛に食べさせてしまったことが、そもそもの原因です。



 なので、

 「これから収穫時期に入る米にも、じつは放射性セシウム
が含まれているのではないか?」


 と、多くの人が疑惑を持ったり、不安に感じたりするのは、

 まったく当然のことでしょう。



 高級品で、あまり食べない黒毛和牛にくらべて、

 とくに米は、たくさんの人々が「毎日食べるもの」です!



 だから、もしも、

 放射性セシウムに汚染された米が、市場に流通してしまっ
たら、

 その社会的な影響が、肉牛とは比べものにならないくらい、

 ものすごく大きなものに、なってしまうでしょう。


            * * * * *


 日本政府も、そのようなことは、すでに認識していたのだ
と思います。

 農林水産省は8月3日。

 今年に収穫される米について、「放射性セシウム濃度の
検査方法」というのを発表しました。



 その骨子(こっし)は、以下のようです。

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         米におけるセシウム検査の骨子


1.(収穫前の)予備検査と、(収穫後の)本検査の、2段階で検査
 を実施する。

2.予備検査は、土壌の放射性セシウム濃度が1キログラムあた
 り1000ベクレルを超えるか、
  または、空気中の放射線量が平常時(0.1マイクロシーベルト
 /時)を超える市町村が対象となる。

3.予備検査は、収穫の1週間前をめどに刈り取って、玄米の段階
 で実施する。

4.予備検査で、1キログラムあたり200ベクレルを超えた場合
 には、約15ヘクタールごと、
  200ベクレル以下の場合は、合併前の旧市町村ごとに本検査
 をする。

5.暫定基準値の1キログラムあたり500ベクレルを超えた場合
 は、政府が旧市町村単位で出荷停止を指示する。

6.出荷停止が指示された場合は、全量の廃棄を義務づける。

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             * * * * *


 上の骨子によると、

 米の場合は、収穫前の「予備検査」と、収穫後「本検査」の、

 2段階の検査を行うようになっています。



 これは、

 たとえば小麦の場合だと、ほぼ全量が製粉会社など特定の
買い手に渡るため、

 農協の貯蔵施設や保管倉庫などで検査をすれば、十分に
状況が把握できました。

 (ちなみに小麦の検査は、6月末から始まっており、これまで
14都県を対象に行われましたが、放射性セシウムに汚染され
た小麦の流通は無いとのことです。)



 しかし一方、

 米の場合は、自家消費のほか、農協や他の流通業者を通じ
た販売や、農家による直接販売など、

 いろいろな流通ルートが存在しています。

 そのため、収穫前と収穫後の「2段階の検査が必要」だと、
判断されたのです。



 収穫後の「本検査」によって、

 放射性セシウムが、暫定基準値の1キログラムあたり500
ベクレルを超えた場合は、

 合併前の旧市町村単位で、政府が出荷停止を指示します。



 この出荷停止は、じつに「強制的なもの」で、

 政府の指示に従わない場合は、1年以下の懲役などの、

 「罰則規定」が設けられています。



 そしてまた、

 政府から、出荷停止の指示が出された場合は、

 その地域(旧市町村単位)の、「すべての米を廃棄すること」が

 義務づけられています。



 検査対象となった地域は、8月4日までに、

 山形、福島、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉、東京、神奈川、
長野、新潟、埼玉、山梨、静岡

 の、14都県に上っています。


            * * * * *


 以上ここまで、

 米における、放射性セシウムの検査方法について、見て
きました。



 やはり米は、日本の主食であるので、

 予備検査と本検査の、2段階による検査システム。

 出荷停止指示に従わない場合の、懲役などの罰則規定。

 出荷停止指示が出された場合の、全量廃棄の義務づけ
など、

 政府は、野菜や牛肉などに比べると、ものすごく強い対応
で、臨(のぞ)んでいるのが分かります。



 これで、

 暫定基準値を超えるような米が、いっさい流通しなくなると、

 良いのですが・・・


            * * * * *


 ところで先日。

 神奈川県で、中華料理店を経営している友人と、10年ぶり
くらいに札幌で会いました。

 彼の話によると、東日本大震災の前までは、なんとか店が
やって行けるほど、経営もそこそこ順調だったそうです。

 ところが震災後は、消費の自粛ムードや、原発事故による
食品の風評被害などで、

 めっきり客足が減ってしまい、店の経営が、ずいぶん苦しく
なったそうです。



 その上さらに、

 放射性セシウムに汚染された米が、市場に流通してしまっ
たら、

 もちろん、一般家庭で食べる「ご飯」も、すごく心配になりま
すが、

 (友人の店だけでなく)外食産業全般や、弁当販売などへの
打撃も、そうとう大きなものになるでしょう。



 やっぱり、米は日本の主食です。

 その社会的な影響は、計り知れないほど大きく、

 セシウム汚染米の流通は、絶対に阻止しなければ
なりません!




 そしてまた、

 出荷停止の指示が出された地域の、農家の方々には、十分
な補償をすることが必要です。

 なぜなら、原発(事故)さえ無ければ、

 このような事態には、絶対に、ならなかったはずですから・・・



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