敷地外でプルトニウムが検出
                           2011年10月9日 寺岡克哉


 9月30日の、文部科学省の発表によると、

 福島第1原発の「敷地外」の土壌から、「プルトニウム」が
初めて検出されました!

 検出された場所は、

 福島県の、双葉町、浪江町、飯館村における、合計で6ヶ所
の地点です。



 また、

 文部科学省の同発表によると、「ストロンチウム」も土壌から
検出されていました。

 が、しかし今回は、「プルトニウム」に的を絞って、見て行きたい
と思います。


             * * * * *


 まず、

 前々回のレポートで紹介したデータから、プルトニウムについて
のみを抜粋し、もういちど見てみましょう。


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    核種     3月11〜16日までに大気中へ放出した量(ベクレル)

プルトニウム238     1.9×1010        19000000000
プルトニウム239     3.2×109          3200000000
プルトニウム240     3.2×109          3200000000
プルトニウム241     1.2×1012      1200000000000


 参考資料: 平成23年6月6日付け、原子力安全・保安院。

 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号
機及び3号機の炉心の状態に関する評価について (13ページ目)」より
抜粋。
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 こんなに多くのプルトニウムが、大気中に放出されていたら、

 いくら原発の敷地外だったとしても、検出されなきゃ「ウソ」の
ような気がします。



 ちなみに、

 上の表のデータは、6月6日の時点で、すでに得られていたわけ
ですが、

 実際の土壌からの検出結果が、こんなに遅れた理由は、

 9月30日付けの、文部科学省の報道発表資料によると、

 「プルトニウム(やストロンチウム)は、放射性セシウムやヨウ素131
等のガンマ線を放出する放射性核種に比べて、分析前の試料調整等
に時間を要する」からだと、しています。



 上の表によると、

 プルトニウム238、239、240、241が放出されていますので、

 それぞれの核種における、「物理的な特性」を確認しておきましょう。

 そうすると、以下のようになります。


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    核種       半減期    出す放射線   エネルギー(MeV)

プルトニウム238  87.74年   アルファ線     5.5
プルトニウム239  24065年   アルファ線     5.157
プルトニウム240   6537年   アルファ線     5.256
プルトニウム241   14.4年   ベータ線      0.02078


エネルギーの単位MeVは、ミリオンエレクトロンボルト(百万電子ボルト)
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 ところで、

 9月30日付けの、文部科学省の報道発表資料では、

 プルトニウム238の測定結果と、

 プルトニウム239と240を、一緒にした測定結果が、示されて
いました。



 なぜ、プルトニウム239と240を、分離して測定しなかったので
しょう?

 その理由については、

 (たとえば上の表のように)プルトニウム239と、プルトニウム
240とでは、

 それぞれが出すアルファ線のエネルギーが、ほぼ等しいために、

 通常の分析では、区別して測定できないと説明されています。



 そしてなぜか、このたびの文部科学省の発表では、

 最初の表によると、プルトニウムのなかで、いちばん大量に
放出されていた、

 「プルトニウム241」についての測定結果がありません。


            * * * * *


 さて、

 土壌からプルトニウムが検出された、6ヶ所のうちで、いちばん
数値が高かったのは、

 プルトニウム238が、4.0ベクレル/平方メートル (福島県 
浪江町)であり、

 プルトニウム239+240は、15ベクレル/平方メートル 
(福島県 南相馬市)でした。



 また、

 プルトニウムが検出された場所で、いちばん遠かったのは、
福島第1原発から45キロ離れた飯館村で、

 プルトニウム238が、0.82ベクレル/平方メートル

 プルトニウム239+240が、2.5ベクレル/平方メートル

 という値になっています。



 一般的に、プルトニウムは粒子が重く、遠くまで拡散しにくいと
言われていますが、

 原発から45キロも離れた場所においてさえ、それが検出され
たという事実は、

 事故による爆発が、「かなり大きなもの」であったことを、明確に
示しています。


             * * * * *


 ところで、

 プルトニウムを体内に取り込んでしまったときの、「内部被曝」
の影響は、すごく大きいので、とても心配です。

 たとえば下の表は、プルトニウムの「実効線量係数」です。


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       緊急時に考慮するべき放射性核種に対する実効線量係数

              経口摂取           吸入摂取
          ミリシーベルト/ベクレル  ミリシーベルト/ベクレル

プルトニウム238  2.3×10−4        1.1×10−1
プルトニウム239  2.5×10−4        1.2×10−1


※1参考データ
ヨウ素131      2.2×10−5        7.4×10−6
セシウム134    1.9×10−5         2.0×10−5
セシウム137    1.3×10−5         3.9×10−5

※2
 申し訳ありませんが、プルトニウム240の実効線量係数は、私の
手持ちの資料に載っていませんでした。
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 「実効線量係数」とは、

 何ベクレルの放射性物質を、体内に取り込んだ場合に、

 何ミリシーベルトの内部被曝量になるのかを、

 換算する数値です。



 この、「実効線量係数」の大きさは、

 体内に取り込まれた、放射性物質の種類(核種)によって
違いますし、

 放射性物質を、食べて取り込んだのか(経口摂取)、肺に
吸い込んだのか(吸入摂取)によっても、違ってきます。



 上の表によると、

 プルトニウムは、とくに「吸入摂取」をした場合に、内部
被曝量が大きくなり


 たとえば、1ベクレルのプルトニウム239を「吸入摂取」した
場合は、0.11ミリシーベルトの内部被曝量になります。

 その10倍の、10ベクレルのプルトニウム239を、吸入摂取
した場合は、1.1ミリシーベルトの内部被曝を受けます。



 これは、おなじ量(おなじベクレル)で比べると、

 ヨウ素131を吸入摂取した場合の、およそ1万5000倍、

 セシウム137を吸入摂取した場合の、およそ3000倍の
内部被曝量になります。



 このように、

 プルトニウムは「実効線量係数」が大きいので、

 たとえ少量であっても、すごく心配な放射性物質なのです


           * * * * *


 上のような理由から、

 プルトニウムによる被曝量が、一体どれくらいなのか、もの
すごく心配になりますが、

 文部科学省は、このたび土壌から検出されたプルトニウム
「最高値」における、

 「50年間の積算被曝量」というのを見積もっています。



 それによると・・・



 プルトニウム238の最高値は、

 福島県の浪江町で検出された、4.0ベクレル/平方メートル
ですが、

 これによる50年間の積算被曝量は、0.027ミリシーベルト。



 プルトニウム239+240の最高値は、

 福島県の南相馬市で検出された、15ベクレル/平方メートル 
ですが、

 それによる50年間の積算被曝量は、0.12ミリシーベルトだと
しています。



 この、文部科学省が見積もった被曝量にたいして、

 「思ったよりも小さな値で、ちょっと安心した」と感じる人や、

 「その見積もりは本当なのか?」と、疑惑を感じる人も、いるかも
知れません。



 文部科学省は、この見積もりに対して、

 「IAEA(国際原子力機関)が提案している緊急事態時の被ばく
評価方法に基づき計算した」と、説明しています。

 そして、そのIAEAの評価方法について、

 9月30日付けの、文部科学省の報道発表資料では、次のよう
な注釈がつけられています。


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 IAEA−TECDOC-955、1162に記載されている被ばくの評価
手法。
 本手法では、放射性核種が沈着した地面上に留まると仮定し、
放射性核種が地表面に沈着した後のある期間(最初の1ヶ月間、
2ヶ月目の1ヶ月間、50年間)の積算実効線量を評価する手法を
定めている。
 なお、この実効線量には外部被ばく線量及び再浮遊した放射性
核種を吸入することによる預託線量が含まれる。
 また、積算実効線量の算出に当たっては、放射性核種の崩壊、
核変換ならびにウェザリングの効果が考慮されている。
 加えて、放射性核種の再浮遊のよる吸入被ばくを安全側に評価
するため、実際の事故時において観測されているよりも安全側の
浮遊係数として10−6/mを用いている。
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 なにやら専門用語が多くて、よく分からない説明ですが、もし
文部科学省による見積もりを信じるならば、

 50年間で、0.2ミリシーベルトにも満たない、プルトニウム
による被曝よりは、

 たった1年間で、1〜20ミリシーベルトの被曝を受けるかも
しれない「セシウム」の方が、

 ずっと大きな問題だと言えるでしょう。


           * * * * *


 ところが・・・ 

 プルトニウムは、「ホットパーティクル」と呼ばれる問題も、

 専門家から指摘されています。



 つまり、

 直径1ミクロン(1000分の1ミリ)ほどしかない、ごくごく小さな、
プルトニウムの微粒子(ホットパーティクル)。

 それを吸い込んで、たった1個でも肺に沈着してしまったら、

 ごく近傍の周辺の細胞に、10シーベルト(10000ミリシーベル
ト)以上の、ものすごく大きな被曝を与えて、

 細胞を「ガン化」させる可能性が、専門家から指摘されている
のです。



 たしかに、

 1個のホットパーティクルは、0.003ベクレルていどの放射能
しかなく、

 「1人の人間」として見た場合の被曝量は、0.0004ミリシー
ベルト程度にしかなりません。



 しかし、

 ホットパーティクルが沈着した近傍の、「1つ1つの細胞」から
見た場合・・・ 

 大きなエネルギーを持った、プルトニウムの「アルファ線」が、
周辺の細胞を突き抜けることにより、

 それらの細胞にたいして、10000ミリシーベルト以上もの、
莫大な被曝を与えてしまうのです。

 その結果、細胞内にあるDNAを深く傷つけて、ガンを発生させ
る可能性があるわけです。



 このように、

 どんなに少量であっても、安心することが出来ないのが、

 「プルトニウム」なのです。


            * * * * *


 ところで、

 9月30日付けの、文部科学省の報道発表資料ではまた、

 海外で過去に行われた「大気圏内核実験」によって、日本
に降りそそいだプルトニウム


 についても、言及しています。



 それによると、

 平成11〜20年度までに行われた全国調査により、

 採取された土壌1054サンプルのうちの、252サンプルで、

 プルトニウム238や、プルトニウム239+240が検出され
ています。



 その平均値は、

 プルトニウム238が、0.498ベクレル/平方メートルで、

 プルトニウム239+240は、17.8ベクレル/平方メートル
でした。



 しかに中には、同一地点のサンプルで、

 プルトニウム238が、8ベクレル/平方メートル。

 プルトニウム239+240が、220ベクレル/平方メートル

 と、いうのもありました。



 上の値は、これまでの全国調査における「最高値」ですが、

 福島第1原発の事故で、敷地外から検出された最高値よりも
大きく(プルトニウム239+240の場合だと、およそ15倍)、

 「大気圏内核実験」による放射能汚染の大きさが、うかがい
知れます!




 さらには、

 プルトニウム239+240の「平均値」(17.8ベクレル/平方
メートル)でさえ、

 福島第1原発の、敷地外で検出された最高値(15ベクレル/
平方メートル)よりも、大きくなっています。



 こんな大変な事実!

 つまり「大気圏内核実験」によって、日本国民がこれほど
被曝させられていた事実を、

 隠蔽(いんぺい)していたとしか思えないほど、国民に広く
知らされていないのは、

 
非常に大きな問題だと言えます。


            * * * * *


 しかし、それにしても、

 全国調査で「プルトニウムの最高値」が検出されたのは、

 一体どこの場所なのでしょう?



 そして、

 大気圏内核実験が行われた当時、その場所に住んでいた
人々・・・ 

 つまり、空気中に浮遊しているホットパーティクル(プルトニウム
の微粒子)を、吸い込んでしまった可能性が高い人々のなかで、

 一体どれくらいの人々が「発ガン」したのでしょう?



 さらにそれは、

 全国平均の「発ガン率」にくらべて、高い値だったのでしょうか?



 もしも、そのような追跡調査を行うことができれば、

 ホットパーティクルの危険性が、明らかになる(つまり定量化できる)

 のではないかと思います。



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