ストロンチウムについて
                           2011年10月16日 寺岡克哉



 10月12日。

 福島第1原発から、およそ250キロも離れた横浜市で、

 放射性の「ストロンチウム」が検出されていたことが、

 テレビや新聞などのマスコミで報道されました。



 また、

 平成23年9月30日付けの、文部科学省の報道発表資料。

 「文部科学省による、プルトニウム、ストロンチウムの核種分析
の結果について」によると、

 前回でレポートしたプルトニウムの他に、「ストロンチウム」
ついても言及されています。



 なので今回は、

 それ(ストロンチウム)について、見ていきたいと思いました。


             * * * * *


 まず、原子力安全・保安院の分析によると、

 福島第1原発の事故では、以下のような「放射性ストロンチウム」

 が、大気中に放出されたとしています。


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    核種     3月11〜16日までに大気中へ放出した量(ベクレル)

ストロンチウム89    2.0×1015    2000000000000000
ストロンチウム90    1.4×1014     140000000000000
小計1                       2140000000000000


※参考データ
プルトニウム238    1.9×1010         19000000000
プルトニウム239    3.2×109           3200000000
プルトニウム240    3.2×109           3200000000
小計2                            25400000000


※参考資料: 平成23年6月6日付け、原子力安全・保安院。

 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故に係る1号機、2号
機及び3号機の炉心の状態に関する評価について (13ページ目)」より
抜粋。
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 この表によると、「放射性ストロンチウム」としては、

 ストロンチウム89と、ストロンチウム90が、放出されていました。



 また、それらの合計量(小計1)は、

 前回でレポートした、プルトニウム238と、プルトニウム239+240
の合計量(小計2)よりも、

 8万4000倍ほど多くなっています。(小計1/小計2 =84252)



 このようにストロンチウムは、じつは相当な量が放出されていた
わけで、

 (マスコミでは最近まで、ほとんど取り上げて来ませんでしたが)
けっして無視することは出来ない、

 「注意するべき放射性物質」であることが分かります。


             * * * * *


 つぎに、

 ストロンチウム89と、ストロンチウム90の、「物理的な特性」に
ついて、

 まとめておきましょう。


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    核種       半減期    出す放射線   エネルギー(MeV)

ストロンチウム89  50.52日    ベータ線      0.909
ストロンチウム90  28.90年    ベータ線      0.546


※参考データ
ヨウ素131       8.04日    ベータ線      0.606
セシウム134    2.062年     ベータ線      0.658
セシウム137     30.1年     ベータ線      0.514
プルトニウム238  87.74年    アルファ線     5.5
プルトニウム239  24065年    アルファ線     5.157
プルトニウム240   6537年    アルファ線     5.256


※エネルギーの単位MeVは、メガエレクトロンボルト(百万電子
 ボルト)
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 上の表のように、

 ストロンチウム89と90は、「ベータ線」(電子)を出す放射性核種
です。

 なので、アルファ線を出す「プルトニウム」よりは、内部被曝の影響
が小さいであろうと、

 まず推察することができます。



 また、原発事故によって放出された、これらのストロンチウムの
うち、

 ストロンチウム89は、半減期が50日ていどと短いので、まもなく
消滅するでしょう。

 しかし、

 ストロンチウム90の半減期は、セシウム137と同じように30年
くらいなので、これから何十年も残っていくことになります。



 さらに「ストロンチウム90」は、ベータ線を出して「イットリウム90」
という核種になるのですが、

 イットリウム90も放射性核種で、2.28MeVもの高いエネルギー
のベータ線を出します。

 このため、

 ストロンチウム90は、ベータ線をだす核種の中でも、「健康
への影響が大きい」


 と、言われています。


              * * * * *


 ここで、

 ストロンチウム89と90の、「実効線量係数」を見てみましょう。


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       緊急時に考慮するべき放射性核種に対する実効線量係数

              経口摂取           吸入摂取
          ミリシーベルト/ベクレル  ミリシーベルト/ベクレル

ストロンチウム89  2.6×10−6        7.9×10−6
ストロンチウム90  2.8×10−5        1.6×10−4


※参考データ
ヨウ素131      2.2×10−5        7.4×10−6
セシウム134    1.9×10−5         2.0×10−5
セシウム137    1.3×10−5         3.9×10−5
プルトニウム238  2.3×10−4        1.1×10−1
プルトニウム239  2.5×10−4        1.2×10−1


※「実効線量係数」とは、1ベクレルの放射性物質を体内に取り
 込んだ場合に、どれくらいの内部被曝量になるのかを、換算
 するための係数です。
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 この表をみると、

 ストロンチウム89や90の実効線量係数は、たしかにプルト
ニウムよりは小さくなっています。



 しかし、ストロンチウム90の場合は、

 ベータ線をだす核種どうしで比べると、とくに「吸入摂取」の
実効線量係数が、大きくなっています。



 なので、やはりストロンチウム90は、

 ヨウ素131やセシウム134、セシウム137など、他のベータ線
をだす放射性物質よりも、

 おなじ量(同じベクレル値)で比べれば、危険度が大きい核種
であるといえます。


             * * * * *


 さて、

 平成23年9月30日付けの、文部科学省の報道発表資料に
よると、

 ストロンチウム89と90が検出された「最大値」は、以下の
ようになっています。



 ストロンチウム89は、

 福島県の浪江町で検出された、22000ベクレル/平方メートル。


 ストロンチウム90は、

 福島県の双葉町で検出された、5700ベクレル/平方メートル
です。



 また、

 これら最大値が検出された場所における、50年間の積算
被曝量は、

 ストロンチウム89が、0.00061ミリシーベルト。

 ストロンチウム90は、0.12ミリシーベルトだとしています。



 上の数値を比べてみると、

 ストロンチウム90の検出量は、ストロンチウム89よりも少なく、
4分の1ほどなのに(5700/22000=0.26)、

 ストロンチウム90の被曝量は、ストロンチウム89の、197倍
にもなっています(0.12/0.00061=196.7)。



 このことからも、

 やはりストロンチウム90は、「危険な核種」だと言えるで
しょう。



 しかしながら、

 ストロンチウム90の最大値が検出された場所における、

 50年間の積算被曝量が、0.12ミリシーベルトだとする文部
科学省の見積もりを信じれば、

 たった1年間で、1〜20ミリシーベルトの被曝をするかも知れ
ない「セシウム」の方が、ずっと大きな問題です。



 しかし、そうではありますが、

 ストロンチウムは、カルシウムと似た性質をもち

 体内に摂取されると、一部は速やかに排出されますが、

 かなりの部分が骨に取り込まれて、長く残留すると言われ
ます。

 なので、やはり、

 心配が付きまとう放射性物質であることには、違いありま
せん。


            * * * * *


 9月30日付けの、文部科学省の報道発表資料ではまた、

 1980年まで行われた「大気圏内核実験」によって、日本
に降りそそいだストロンチウム90


 についても、言及しています。



 それによると、

 1999〜2008年度まで(つまり原発事故が発生する前)に
行われた全国調査により、

 2.3〜950ベクレル/平方メートルの、ストロンチウム90
が検出されていました。

 (どこの場所か分かりませんが、最大値の950ベクレル/
平方メートルとは、おどろくべき数値です。)



 このたびの原発事故では、

 福島県の双葉町において、5700ベクレル/平方メートルの
ストロンチウム90が検出されていますから、

 過去の大気圏内核実験で、日本に降ったストロンチウム90
の最大値(950ベクレル/平方メートル)よりも

 さらに6倍の量になっています。



 ちなみに、

 ストロンチウム90の検出値が、950ベクレル/平方メートル
を超えた場所は、福島県の双葉町を含めて、合計で8ヶ所あり
ますが、

 そのうちの7ヶ所は、

 福島第1原発の20キロ県内と、北西の方向へ30キロていど、
つまり「避難区域内」にありました。

 しかし1ヶ所だけは、

 原発から北北西に40キロほど離れた相馬市で、2400ベク
レル/平方メートルの、ストロンチウム90が検出されています。


             * * * * *


 ところで!

 10月12日の、新聞やテレビなどの報道によると、

 横浜市 港北区の、マンションの屋上にたまっていた土から、

 1キロあたり195ベクレルの、ストロンチウム90が検出されて
いたことが分かりました。



 一方、これまで話してきた文部科学省の調査では、

 ストロンチウム90の最高値が、福島県双葉町の5700ベクレル
/平方メートルでしたが、

 これを土壌1キロあたりに換算すると、およそ90ベクレルになる
と言います。



 土の採取条件(文部科学省の場合は地表5センチ)が、

 おそらく異なっていると考えられるので、厳密に言えば、単純に
比べることはできませんが、

 仮に上の関係を使って逆算すると、

 横浜市で検出された、1キロあたり195ベクレルというのは、

 12350ベクレル/平方メートルもの値になります。

 (5700/90 × 195 =12350)



 つまり、

 福島第1原発から、およそ250キロも離れた横浜市で、

 原発から、およそ5キロしか離れていない、福島県 双葉
町の、


 およそ2.2倍も高濃度の、ストロンチウム90が検出され
たわけです!


 (12350/5700=2.17 または 195/90=2.17)



 これは恐らく、

 単位面積あたりで、双葉町よりも多くのストロンチウム90が、

 横浜市に降ったという訳ではありません。



 たとえば、

 広い面積に降ったストロンチウム90が、雨水の流れによって
1ヶ所に寄せ集まったとか、

 雨水に含まれていたストロンチウム90が、水たまりを作った
り、蒸発したりを繰り返しているうちに、だんだんと蓄積して行っ
たとか、

 そのような、何らかの「濃縮メカニズム」が働いていたのだ
と思います。



 しかしながら、「局所的」ではありますが、

 福島第1原発から、250キロも離れた場所なのに、

 原発から5キロしか離れていない場所よりも、高濃度の
ストロンチウム90が検出されたというのは、

 非常に恐ろしい事実です!



 横浜市で、そのような場所が発見されたと言うことは、

 東京都を含めた、首都圏全域にも、そのような場所が存在
する可能性があること。

 そしてまた、

 ストロンチウムだけでなく、さらに大量に降った「セシウム」に
ついても、

 局所的には、ものすごく高濃度に濃縮された場所が、存在する
可能性があること。


 それらを、けっして否定することは出来ないでしょう。



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