IPCCの特別報告書
                             2011年12月4日 寺岡克哉


 11月28日。

 国連の気候変動枠組み条約 第17回締約国会議(COP17)が、

 南アフリカの、ダーバンで開幕しました。



 このサイトでは、原発事故が発生して以降、

 「地球温暖化」の話から、すこし遠ざかっていましたが、

 これから数回にわたり、COP17に関連したことについて、

 追いかけてみたいと思います。



 まず、COP17に先立って、11月18日〜19日。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の、第34回総会が、

 ウガンダ共和国の、カンパラで行われました。



 (おそらく、COP17に向けたものと思われますが)このIPCC
総会では、

 「気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリスク
管理に関する特別報告書」

 の、「政策決定者向け要約」というのが承認されました。



 その政策決定者向け要約の「概要」が、日本語に翻訳されて、

 環境省のホームページに掲載されているのですが、

 なんとも抽象的な記述で、じつに分かりにくい内容でした。



 しかしながら、とくに重要だと思われる部分について、

 あくまでも「私の理解」の下に、「たぶん、こういうことを言って
いるのではないか」という感じで、

 意味を分かりやすくするために、言葉を変えたり、省いたり、
補ったりしながら、紹介してみたいと思います。

 ただし、「私の理解」が間違っている可能性もあるので、厳密
に内容を吟味したい方は、下の出典を当たってください。


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※出典
 「気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリスク
管理に関する特別報告書(SREX)」 政策決定者向け要約(SPM)
概要
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            * * * * *


 このたびのIPCC特別報告書は、地球温暖化による気候変動
によって、

 熱波、干ばつ、はげしい豪雨、巨大な台風などの、「異常気象」
の発生が、今までにどうなって来ており、これからどうなって行く
のか、

 そして、これらの異常気象が、社会へどのような影響や被害を
与えるのか、

 などに関する科学的な文献を評価し、政策を決定をする者が、
その対処に利用できるように、とりまとめたものです。


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※ここで言う「異常気象」は、原典では「極端現象」となっており、
 その定義は以下のようになっています。

 極端現象(極端な気象・気候現象): 気象あるいは気候変量
の観測された値の範囲の上端(または下端)付近の閾値を
上回る(または下回る)気象あるいは気候変量の値が発生する
こと。単純化のため、極端な気象現象および極端な気候現象
の両方を指して「極端現象」と総称する。
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           * * * * *


●背景について


 全体的な背景として、地球温暖化による気候変動が進むと、

 「異常気象」の発生が多くなり、強度が増し、範囲が広がり、
持続期間が長くなって、

 「前例のない異常気象」を発生させる可能性があります。


           * * * * *


●これまでに観測された異常気象と、その影響について


 1950年以降の観測により、いくつかの異常気象が、酷(ひど)
くなってきたという証拠があります。

 いくつかの異常気象は、大気中の温室効果ガス濃度の増加
を含めた「人為的影響」の結果として、酷くなってきたという証拠
があります。



 暑い日や、暑い夜が増加しており、寒い日や、寒い夜は減少
しています。(世界的規模、66〜100%の可能性)。


 「はげしい豪雨」の強さが、さらに増しています。(世界的規模、
中程度の確信度)。


 海面の上昇によって、「極端な高潮」が増加しています。(66
〜100%の可能性)。



 気候変動によって、台風が強力になりました。(低い確信度)。

 確信度が低いとされるのは、過去の観測記録に不確実性が
あり、

 人為的影響と台風との関係の、物理的な理解が不完全な
ためです。



 なお、1件1件の(個々の)異常気象を、人為的影響と直接に
結びつけることは困難です。

 (しかし、多件数の異常気象を集計した「統計的な分析」なら
ば、上で述べているように、人為的影響と結びつけることが可能
です。)


           * * * * *


●これまでの災害による損失について


 異常気象による災害の「経済的損失」は、場所や年によって
変動があるものの、だんだん増加しています。(見解一致度が
高い、証拠は中程度であり、確信度が高い。)


 異常気象や土砂崩れなどの災害による、保険を含めた経済
的損失は、先進国でより大きくなっています。


 死亡者数と、GDPに対する経済損失の割合は、途上国の方
が大きくなっています。(確信度が高い。)


           * * * * *


●気候変動に対する、リスクの管理や適応について


 (経済格差や、人種差別などの)不平等が、地域の対処能力
と、適応能力に悪影響をあたえ、

 災害リスクの管理と、地域レベルから国レベルにわたる対策
に、難題をつきつけています。(見解一致度が高く、証拠は堅牢。)


           * * * * *


●将来における異常気象と、その影響について


 さまざまなシミュレーションのもとで予測された異常気象の
変化は、一般的に今後20〜30年間では、大きな差がありま
せん。



 気候シミュレーションは21世紀末までに、「異常高温」の
発生数が、かなり増加すると予測しています。

 (20世紀末では20年に1回しか起こらなかった1日の最高
気温が、21世紀末では2年に1回以上の割合で起こるように
なります。)



 21世紀中に、「はげしい豪雨」の発生数や、「はげしい豪雨」
が総降水量に占める割合は、世界の多くの地域で増加します。
(66〜100%の可能性)。

 (20世紀末では20年に1回しか起こらないほどの豪雨が、
21世紀末では10年に1回の割合で起こるようになります。)



 平均的な台風の、最大風速が増加する可能性は66〜100
%ですが、すべての大洋で増加するわけではありません。

 世界的には、台風の発生数は減少するか、基本的には変化
しません。(66〜100%の可能性)。


 南北両半球で平均した、「温帯低気圧」の数は減少します。
(確信度は中程度)。


 降水量の減少や、蒸発量の増加によって、いくつかの地域
では、21世紀中に干ばつが強まります。(確信度は中程度)。


 「異常な高潮」は、海面の上昇によって、さらに高くなります。
(90〜100%の可能性)。



 高山地域における、熱波の増加や、氷河の後退、永久凍土
の縮小が、

 斜面の不安定化や、地すべり、岩なだれ、氷河湖崩壊による
洪水などを、増加させます。(確信度が高い)。


           * * * * *


●将来における影響と、災害損失について


 異常気象は将来的に、水の確保、農業、食糧安全保障、森林、
健康、観光のような、

 気候と密接な関係のある分野にたいして、より大きな影響を
あたえます。



 異常気象による災害は、人口の移動に影響を及ぼします。

 その結果、受け入れ側の人々と、移住してきた人々の間に、
(おそらくトラブル発生などの)影響をあたえます。(見解一致度
は中程度、証拠が中程度)。


           * * * * *


●変化しつつある異常気象や災害への対応について


 「後悔をしない対策」と呼ばれる、今すぐに行っても利益をもた
らすような対策は、

 将来予測されている異常気象や災害にたいする取り組みへ
の、有効な出発点といえます。

 それは、直ちに恩恵が得られると同時に、将来への取り組み
にとっての、土台となる可能性があるためです。(見解一致度
が高く、中程度の証拠)。



 より強力な国際レベルの試みは、必ずしも、

 地域レベルでの本質的で迅速な結果をもたらすものではあり
ません。(確信度が高い)。



 地元の知識を、科学的な知識や、技術的な知識と融合させ
ることによって、

 災害リスクの低減と、気候変動への適応が促進されます。
(見解一致度が高く、証拠が堅牢)。



 モニタリング、研究、評価、学習、革新といった、一連のプロ
セスを反復して行うことにより、

 災害リスクを低減させ、異常気象への適応管理を促進させる
ことができます。(見解一致度が高く、証拠が堅牢)。



 とにかく行動を起こすことは、

 序々にステップを踏むものから、転換的なものに至るまで、

 異常気象によるリスクを低減させるために、必要不可欠です。
(見解一致度が高く、証拠が堅牢)。


           * * * * *


 以上が、IPCCによる、

 「気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリスク
管理に関する特別報告書」の、

 「政策決定者向け要約」の概要を、

 (その全てではありませんが)できるだけ分かりやすく、(あくま
でも私の理解の下に)書き直してみたものです。



 ザッと見た感じの私の感想ですが・・・

 出典の文章を、かなり強引に「言い切った内容」に変えてみた
にもかかわらず、やはり、なんとも抽象的な表現ばかりで、

 本当にどれくらい、危機的な状況になっているのか、

 なんだか良く分からないというのが、正直な印象です。



 今までの気候変動による異常気象で、

 世界的な経済損失は、いったい何兆ドルに達しているのか?

 死者数や健康被害者数、災害難民は、何百万人あるいは
何千万人に達しているのか?



 そして、これから将来、

 異常気象による世界的な経済損失が、どれくらいになって
行くのか?

 熱波、干ばつ、洪水、土砂崩れなどによる、世界的な被害
者数は、どれくらいになって行くのか?

 世界的な水不足、食糧不足はどうなって行くのか?

 栄養不足や餓死者数、災害難民の数は、どれくらいになっ
て行くのか?

 難民の大量発生と流入によって、武力排除などの深刻な
トラブルは発生するのか?

 食料や水の争奪による、紛争や戦争が起こりえるのか?

 そして温暖化対策により、それらを、どれくらい避けたり、
低減することができるのか?



 というような、「もっと具体的な内容」でなければ、

 私だけでなく、多くの人々にとっても、

 なんだか良く分からなかったのでは、ないかと思います。



 ここのところ最近は、世界的な経済危機にくわえて、

 とくに日本では、大震災や原発事故が発生し、

 「温暖化対策への意欲が低下している」という印象が、

 どうしても否めません。



 IPCCの特別報告書で、地球温暖化による危機を、不自然な
までに「煽れ」と言うのではありませんが、

 温暖化対策の重要性と必要性を、ひろく人々に理解してもら
い、納得してもらいたいなら、

 「もっと万人に分かりやすいような表現ができないものか!」

 という不満が、どうしても残ってしまいました。



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