ホルムズ海峡が封鎖? その1
                          2012年1月8日 寺岡克哉


 先月の27日。イランのラヒミ第1副大統領は、

 もしも欧米諸国が、イランの原油輸出に制裁を加えた場合、

 「ホルムズ海峡を封鎖する」と警告しました。



 ホルムズ海峡は、中東の産油国に囲まれた「ペルシャ湾の
出入り口」になっており、

 アメリカ政府の統計によると、1日あたり約1700万バレル、
2011年に世界で海上輸送された原油の35%が、この海峡
を通過しています。



 とくに日本の場合は、

 
消費する原油の「8割」が、ホルムズ海峡を通るタンカー
によって運ばれています。


 なので、

 もしもホルムズ海峡が封鎖されたら、日本が大きな影響
を受けるのは確実です!




 それで今回は、

 いますごく緊張が高まっている、ホルムズ海峡をめぐる状況
に関連した、

 さまざまな動きについて、追いかけてみたいと思いました。


            * * * * *


 まず背景として、昨年の11月。

 IAEA(国際原子力機関)が、「イランに核兵器製造の疑いが
ある」
とする報告書を発表しました。

 それ以降、西側諸国はイランへの圧力を強めており、イラン産
原油の輸入禁止
を含めた、追加制裁をやろうとしています。



 そんな状況の中での、12月27日。

 イランのラミヒ第1副大統領が、「彼ら(西側諸国)がイランの
原油輸出に制裁を課すなら、原油1滴たりともホルムズ海峡を
通過させない」と、警告したのです。


             * * * * *


 12月28日。

 イラン海軍のサヤリ司令官が、

 「ホルムズ海峡の封鎖はイラン軍にとって非常にたやすい。ある
いはイラン人だったら、コップの水を飲むより簡単だと言うだろう」
と、語りました。

 しかし、その一方で、

 「ただ、現時点では、オマーン港を支配下に置いており、通行を
コントロールできるため、封鎖する必要はない」とも述べています。



 同日。

 アメリカ国防総省のジョージ・リトル報道官は、

 「ホルムズ海峡を封鎖しようとする、いかなる行為も容認しない」
と、警告しました。

 また、「ホルムズ海峡は、湾岸諸国にとって経済の生命線であり、
イランもその例外ではない」と指摘しました。



 同日。

 バーレーンに司令部を置く、米海軍第5艦隊司令長官も、

 「(ホルムズ海峡の封鎖を)容認するわけにはいかない」

 「航行の自由を確保するため、悪意ある行動に対抗する準備
はできている」と、警告しました。



 同日。

 フランス外務省のバレロ報道官は、

 「イラン当局に対し、とくに公海上の船舶の航行の自由に関する
国際法を順守するように呼びかける」と述べました。

 その上で、「ホルムズ海峡は公海上の海峡で、いかなる船籍の
船舶であっても、1982年の国連海洋法条約の恩恵を受けること
ができる」と、述べています。


             * * * * *


 12月29日。

 イラン革命防衛隊の幹部の、ホセイン・サラミ氏は、

 「脅威があれば脅威で対応する。どのような手段であれ、イラン
の重要な権益が侵された場合、われわれは戦略的な行動を断念
しない」と発言しました。

 また、「アメリカは、イランによるホルムズ海峡封鎖を容認する
かどうかを、決定する立場にない」とも述べました。


             * * * * *


 12月31日。

 アメリカのオバマ大統領は、

 2012会計年度(2011年10月〜2012年9月)の「国防権限
法案」に署名し、同法が成立しました。

 この法律により、

 イランの中央銀行と取引をした、世界各国の民間銀行や中央
銀行は、アメリカの金融機関と取引が出来なくなります。



 つまり、

 イランの中央銀行は、イラン産原油の取引における、決済の
大部分を担っているので、

 もしもイランから原油を輸入すれば、その決済をした(たとえ
ば日本など)輸入国の金融機関は、アメリカの金融機関との
取引が、一切できなくなるのです。

 アメリカ金融機関との取引が出来なくなれば、たとえば日本
の場合では、円とドルの為替ができなくなり、アメリカとの貿易
も不可能になるでしょう。



 この制裁措置は、アメリカ大統領の判断で発動することが
でき、イランとの取引内容によって、2〜6ヶ月の警告期間を
置いた後に、実施される見通しです。

 しかしながら、「制裁の発動」でイラン産原油の輸出が急減
すると、輸入国が原油不足に陥ったり、世界的な原油価格の
高騰が起こったりしかねません。

 そのため、アメリカ大統領が「米国の安全上不可欠」と判断
すれば、制裁を最大で4ヶ月間停止できるという、運用上の
余地も残されています。

 また、イランとの取引を著しく減らした金融機関は、制裁が
免除されます。



 これまで日本は、消費する原油のおよそ1割を、イランから
輸入してきました。

 そのため日本銀行や、日本の3大メガバンクも、イランの
中央銀行と取引をしています。


 なので、この制裁措置が、日本にどんな影響を及ぼすのか、
とても心配なところです。



 また、ちなみに、

 この制裁措置を定めた、「2012会計年度 国防権限法」に
よって、

 沖縄海兵隊のグアム移転費、およそ1億5600万ドル(およ
そ120億円)が、全額削除されました。


             * * * * *


 年が明けた1月1日。

 イランの原子力庁が、

 自国で製造した核燃料を、テヘランの原子炉に装填(そうてん)
する試験に、成功したと発表しました。

 核燃料は、イラン国内で20%に濃縮したウランを使用してい
ます。

 イランは2010年の2月から、ウラン濃縮に着手していました
が、このたび「核燃料の製造」にこぎつけたみたいです。



 またイランは、海外からの支援を受けず独自に、原子炉の
核燃料サイクルを開発しようとしていますが、

 それを欧米諸国は、「核兵器の製造」につながるのではない
かと懸念しています。



 同日。

 イランの潜水艦による、魚雷の発射実験が、成功したと
報道されました。

 (アメリカのアナリストによると、イランは23隻の潜水艦を
保有していると分析されています。)



 イラン海軍は、12月24日からホルムズ海峡で軍事演習を
行っていましたが、

 1月2日の演習では、「ホルムズ海峡での、あらゆる動きを
封じることを目的とした新たな戦術」を試すことが、計画され
ています。


             * * * * *


 1月2日。

 イラン海軍が、長距離ミサイル2発の、発射実験を行いま
した。

 海軍が試射したのは、「カデル」と呼ばれる長距離の地対艦
ミサイルで、実験は成功し、ミサイルが標的を破壊したと伝え
られました。

 イラン国防軍は、大量のカデルミサイルを、すでに配備済み
だとしています。

 (おそらく、イランがホルムズ海峡を封鎖するときは、潜水艦
による魚雷攻撃と、長距離の地対艦ミサイルによって、行われ
るのではないかと思われます。)


             * * * * *


 1月3日。

 イラン軍のサレヒ司令官が、

 ペルシャ湾からオマーン湾へ一時的に移動していた、アメリカ
海軍第5艦隊の空母「ジョン・C・ステニス」にたいし、

 ペルシャ湾へ戻らないように警告しました。



 サレヒ司令官は、

 「この警告を繰り返すつもりはない。」

 「敵の空母は、わが軍の軍事演習を理由に、オマーン港へ
移動した。」

 「アメリカの空母にたいし、ペルシャ湾に戻らないよう勧告し、
強調する」

 と、述べています。



 これに対して、アメリカ海軍は、

 このたびの空母の移動は、事前に計画されていた一時的な
動きだと説明し、ペルシャ湾への展開を従来どおり続ける方針
を示しています。

 アメリカ国防総省のリトル報道官は、イランの警告にたいし、

 「空母が(ペルシャ湾へ)展開することは、アメリカ中央軍が
任務を果たすために必要だ」と、強調しました。


            * * * * *


 1月4日。

 EU(欧州連合)が、

 核開発を進めるイランへの制裁を強化するため、イランから
の原油輸入を禁止することで「基本合意」しました。

 しかしながら、

 イランからの輸入が多いギリシャや、イランの油田開発に
権益のあるイタリアから、禁輸の「即時開始」には異論が出ま
した。

 そこで、

 1月5日の高級事務レベル会議で、禁輸の開始時期につい
て話し合い、
 1月30日の外相会議で、「正式合意」を目指すことにしてい
ます。



 同1月4日。

 イランの国営石油会社の幹部は、

 「(原油の)顧客を、(EUから他の国に)変更することは可能
だ」と述べました。

 すでに輸出先変更の検討を始め、EUによる禁輸分を、中国
やアジア諸国、アフリカ諸国などに、振り向ける可能性を示して
います。



 同日。

 アメリカ財務省の、ガイトナー長官が、

 1月10日〜12日の日程で、中国と日本を訪問することが、
明らかになりました。

 東京入りをするのは1月12日で、野田首相や、安住財務相
や、政府高官らと会い、

 イラン中央銀行にたいする金融措置などを通じて、イラン
への圧力を強める可能性についても、話し合う見通しです。


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 1月5日。

 玄葉外相は、

 同日〜1月12日までの日程で、中東のトルコ、サウジアラビア、
カタール、UAE(アラブ首長国連邦)を歴訪し、各国の外相らと
会談する予定です。

 「イランへの対応」についても、話し合うことになっており、

 サウジアラビア、カタール、UAEにたいしては、日本が輸入する
原油の6割を依存していることから、「原油の安定的な供給」を
要請することにしています。



 同日。

 イランのサレヒ外相は、

 EUが、イラン産原油の輸入を禁止する方向で最終調整を進め
ていることに対し、
 「かねてから、こうした敵対的な行動に対処する準備をしており、
まったく懸念していない」と述べました。

 その一方で、サレヒ外相は、

 停滞している核開発をめぐる欧米側との交渉について、「イラン
としては交渉再開の用意があり、隣国のトルコで交渉を行いたい」
という考えも示しました。



 同日。

 イギリスのハモンド国防相は、

 訪問先のワシントンで行った講演で、「(ホルムズ)海峡を封鎖
しようとするいかなる試みも不法であり、失敗するだろう」と警告し、

 イランが海峡封鎖に動けば、イギリスが軍事行動をとる可能性
を示唆しました。


            * * * * *


 1月6日。

 枝野 経済産業相は、

 アメリカやEUの、イラン産原油にたいする制裁の動きが強まっ
ていることについて、

 「日本だけでなく、国際的な原油価格に影響を与える可能性が
ある大変重要な問題だ」と述べ、

 アメリカなど各国と協力しながら、イランへの制裁が日本や
世界経済に影響を及ぼさないように、対応を検討していく考え
を示しました。



 また、自見 郵政改革金融担当相は、

 アメリカの制裁について、「日本の銀行も、制裁対象になり
かねないことを懸念している。今後、適切に対処したい」

 と述べ、アメリカにたいする懸念を示しました。



 同日。

 来日中のキャンベル米国務次官補が、

 外務省で、山口外務副大臣や、佐々江外務次官と、会談を
行いました。


 日本側は、

 核開発を進めるイランへの、アメリカ政府の経済制裁強化に
懸念を表明しました。


 それに対して、キャンベル国務次官補は会談後、

 「日本政府は制裁強化に懸念を示したが、イランが受け入れ
がたい核開発を進めていることは、日米で認識が一致している。」

 「我々の最終目標は、イランに圧力をかけることだ」と、述べて
います。


            * * * * *


 以上ここまで、

 昨年の12月27日から、今年の1月6日までの、経緯を見て
きました。



 アメリカやEUは、核開発を行うイランへの制裁を、強めてい
ます。

 それに対してイランは、核開発をさらに進めており、軍事演習
なども行って、強気の対立姿勢を止めようとしません。



 このように、

 1月6日現在までの大局的な状況をみると、「ますます緊張が
高まってきた」というのが、正直なところだと思います。

 このままでは、イランが本当にホルムズ海峡を封鎖する
かも知れません!




 ところで1月12日に、

 アメリカ財務省のガイトナー長官が、日本を訪れます。

 そのとき、イランへの制裁について、

 アメリカ側が、日本にどんな要求を突きつけてくるのか、すごく
気になるところです。



 もし、イランがホルムズ海峡を封鎖しなかったとしても、

 アメリカの圧力により、日本がイランの原油を輸入できな
くなる可能性は、かなり高いでしょう。


 それだけでも、

 日本で消費する原油のおよそ1割を、イランからの輸入に
頼っているので、

 石油やガソリンの「値上がり」などの影響が、出るかもしれま
せん。



 そのため、

 これらのイランに関する問題は、ますます目が離せない状況に
なっています。



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