ホルムズ海峡が封鎖? その2
                          2012年1月15日 寺岡克哉



 日本が輸入している原油の、「およそ9割」が通過すると言われ
る「ホルムズ海峡」が、イランによって封鎖される可能性が高まっ
ています。

 今回は、引きつづき、

 ホルムズ海峡をめぐる、さまざまな動きについて、追いかけて
行きます。


             * * * * *


 1月7日。

 玄場外相は、

 サウジアラビアの首都リヤドで、アブドルアジズ外相代行と、
会談をしました。

 玄場外相は、「東日本大震災からの復興に向けて、日本が
必要とする原油の供給と、価格の安定をお願いしたい」という
要請をしました。

 それに対して、

 アブドルアジズ外相代行は、「原油市場の安定は重要だ。サウ
ジアラビアとしての役割を果たしていく」と述べ、協力する考えを
示しました。



 同日。

 イギリス国防省は、

 ペルシャ湾に、海軍の駆逐艦「ダーリング」を派遣すると発表
しました。

 以前から予定されていた、「通常の配備の一環」としており、
ペルシャ湾ですでに活動していたフリゲート艦の任務を、引き
つぐ予定です。



 同日。

 イランの、アッバシ原子力庁長官は、

 中部コム近郊のフォルドゥの地下に建設した、ウラン濃縮施設
での作業を、「近く開始する」と述べました。

 製造する濃縮ウランは、20%、4%、3.5%としており、がん
治療用のアイソトープを製造する、研究用の原子炉で使うと表明
しています。

 原子爆弾を製造するには、ウランの濃縮度を90%以上に高め
る必要がありますが、
 約20%に達すれば、濃縮行程の大半を終えたことになると言わ
れています。

 このフォルドゥの「地下ウラン濃縮施設」は、山腹をくりぬいたトン
ネルの中にあり、イスラエルなどによる空爆に、備えたものとされ
ます。


             * * * * *


 1月8日。

 イラン指導部の親衛隊的性格をもつ、革命防衛隊の高官は、

 「イランの原油輸出に制裁が科された場合、ホルムズ海峡の
封鎖を命じることを、指導部が決定した」と述べました。

 ホルムズ海峡の封鎖をめぐる発言としては、これまでで最も
強硬とみられます。



 同日。

 アメリカのパネッタ国防長官は、

 イランが海峡を封鎖すれば、「われわれは行動を起こす」と
述べ、軍事行動も辞さないと警告しました。

 「ホルムズ海峡の封鎖は、超えてはならない一線だ」と強調し、
封鎖には「対処する」と明言しています。

 また、パネッタ長官は、

 イランの核兵器開発についても、「超えてはならない一線」と
述べ、核の「兵器化」を容認しない考えを強調しました。

 ただ、「現時点での対応は、イランが正しい行動を取るように、
外交と経済で圧力をかけることだ」とも述べて、

 経済制裁などによる問題解決を、優先させるべきとだと言う
考えも強調しています。



 同日。

 アメリカのデンプシー統合参謀本部議長は、

 「イランは海峡封鎖能力獲得のために投資しており、一時的
に封鎖する能力がある」と指摘しました。

 その上で、「(ホルムズ海峡の)封鎖は世界的にも容認され
ず、われわれは行動を起こし、海峡を再開通させる」と述べ、

 軍事力を行使する考えを明らかにしました。



 同日。

 イランのアフマディネジャド大統領は、中南米への歴訪を開始
しました。

 5日間で、ベネズエラ、ニカラグア、キューバ、エクアドルの4ヶ国
を訪問します。

 核問題で対立する欧米諸国が、イラン産原油の禁輸措置に動く
なか、反米各国との関係を強化して、孤立打開をはかる考えです。

 とくに、アフマディネジャド大統領が、ベネズエラを訪問するの
は5回目で、ベネズエラのチャベス大統領(反米左派)とは、盟友
関係にあります。



 中南米において、イランが影響力を拡大することに、アメリカが
神経をとがらせています。

 アメリカ国務省のヌーランド報道官は、

 「今はどの国もイランと関係を深めるべきではない」と、けん制
しました。


             * * * * *


 1月9日。

 IAEA(国際原子力機関)は、

 イランの中部コム近郊の、フォルドゥにある地下ウラン濃縮
施設で、
 濃縮度を20%に高める作業が始まったことを、明らかにしま
した。

 地下施設では、348台のウラン濃縮用の遠心分離機が稼動
している模様で、
 同施設での核物質はすべて、「IAEAの監視下」にあるとして
います。



 同日。

 アメリカ国務省のヌーランド報道官は、

 「ウラン濃縮活動を直ちに停止することを求める。国連安全
保障理事会の決議に対するさらなる違反だ。イランは濃縮活動
をやめ、査察に完全に協力するべきだ」と述べ、イラン政府を
強く批判しました。

 また、「平和的に利用する目的であるならば、20%まで濃縮
する必要はない」と述べ、核の平和利用の権利を行使している
という、イランの主張を否定しました。

 欧米諸国は、イランの核兵器開発を疑っており、医学研究の
原子炉にウランを使用する技術を、イランは保有していないと
主張しています。



 同日。

 イランの最高指導者ハメネイ氏は、

 「(欧米の)帝国主義者どもは、イラン政府と国民を制裁で脅し
ているが、われわれは決めた道を歩みつづける」と述べ、

 核開発の放棄を「拒否する」姿勢を、改めて示しました。

 さらにハメネイ氏は、

 「すべての政府機関が、断固としてこの原則を守り、脅しに屈す
ることはない」と述べ、イランが核開発をつづけることを強調しま
した。



 同日。

 イランのアフマディネジャド大統領は、

 ベネズエラの首都カラカスで、チャベス大統領に迎えられま
した。

 アフマディネジャド大統領は、「あなたは、アメリカ帝国主義と
戦うチャンピオンだ」と、チャベス大統領をたたえ、

 チャベス大統領も、「世界を支配しようとするアメリカこそが
脅威だ」と、イランへの強い支持を示しました。

 このように、反米勢力としてイランとベネズエラが結束する
ことを確認し合っています。



 同日。

 UAE(アラブ首長国連邦)は、

 ホルムズ海峡を、迂回(うかい)して原油を輸出できるパイプ
ラインの運用を、半年以内に開始する方針を明らかにしました。

 UAEの、ハミリ エネルギー相は、

 「(パイプラインは)ほぼ完成し、今年の5月か6月には運用を
開始できる」と、述べています。

 UAEは、日本にとってサウジアラビアに次ぐ、原油の輸入先
ですが、
 このパイプラインによって、UAE産原油の「7割」を運ぶことが
出来るとされます。


            * * * * *


 1月10日。

 アメリカの、クリントン国務長官は、

 イランの地下施設で、ウラン濃縮を開始したことついて声明を
だし、
 濃縮度20%のウラン製造を「正当化する妥当な理由はない」
と強く非難するとともに、濃縮作業の即時停止を要求しました。

 クリントン長官は声明で、

 「こうした濃縮作業は、イランが武器に転用可能な高濃縮ウラ
ンの製造能力をもつための大きな一歩」と懸念を示しました。

 また、「この動きは、イラン政府のあからさまな責任放棄と
同国の孤立化を、自らひき起こしていることを改めて示すもの」
と、批判しました。

 さらには、高濃縮ウランが医学研究目的の原子炉に必要と
するイラン側の主張を、否定しています。

 またクリントン長官は、イランにたいして、

 国連安全保障理事会にドイツを加えた、6ヶ国協議への復帰
を求め、
 「最終的な目標が、交渉による包括的な解決であることを、
再確認する」と訴えました。



 同日。

 ロシア外務省も、

 イランが地下ウラン濃縮施設を稼動させたことについて、
「遺憾であり懸念する」という声明を出しました。

 濃縮施設の建設停止を求めた、国連安全保障理事会決議
などを引き合いに出し、
 「国際社会の要求を無視していると認定せざるえを得ない」
と指摘しています。

 しかしながら、この声明ではまた、

 イランは事前に、濃縮開始をIAEA(国際原子力機関)に通告
しており、その監視下で濃縮を進めていることから、
 「関係国(おそらくイスラエルや欧米諸国)に、軽率で過敏な
対応を自重するように呼びかける」と、しています。



 同日。

 EU(欧州連合)は、

 イラン産原油の輸入禁止措置について、決定することになっ
ている「EU外相会合」を、
 予定よりも1週間早めて、1月23日に開催することで合意
したと発表しました。



 同日。

 アメリカのガイトナー財務長官が、中国を訪問しました。

 イラン産原油の輸入禁止などの追加制裁に、中国の協力
を求める見通しですが、

 中国側は、それを「拒否する」ものと見られます。



 同日。

 玄場外相は、

 UAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビで、アブドラ外相と
会談しました。

 会談で玄場外相は、日本が必要とする量の原油供給と、価格
の安定、および日本企業がもつ油田権益の延長を、要請しま
した。

 それに対してアブドラ外相は、「日本に、追加供給と権益延長
の優先権を与える。国際市場が混乱しないよう、できる限りの
ことをしたい」と応じました。

 イランへの対応をめぐっては、

 アブドラ外相が、「イランがホルムズ海峡を閉鎖すれば、原油
価格に悪影響を与える」と、懸念を示したのに対し、

 玄場外相も、「イランは挑発的な言動を厳につつしむべきだ」
と述べています。


            * * * * *


 1月11日。

 国連の安全保障理事会が、

 イランの地下施設で、ウラン濃縮度を20%に高める作業を
開始したことについて、非公式の協議をしました。

 会合の後、アメリカ、フランス、ドイツは、濃縮の即時中止を
求める非難声明を、それぞれ発表しました。

 しかしながら、

 ロシアと中国は、イランへの制裁強化には反対の立場をとっ
ており、

 安保理として一致した行動をとるのは、難しい情勢になって
います。



 同日。

 ロシア外務省の、リャプコフ外務次官は、

 「イランが、ウラン濃縮を進めていても、いかなる状況でも、
(イラン産原油の禁輸などの)制裁措置をとることには反対
だ」と述べ、あくまでも否定的な立場を示しました。

 また、リャプコフ外務次官は、イランに対する武力行使に
ついて、
 「最も重い過ちであり、非常に重大な計算違いになるだろう」
と述べ、自制を呼びかけました。



 同日。

 中国外務省のテキ雋次官は、

 「(イランへの)制裁や圧力をかけるやり方には反対だ」と述べ、
拒否する姿勢を表明しました。


 温家宝首相は、北京で行ったガイトナー米財務長官との会談で、

 「中国は始終、対抗より対話、抑止より協力が良いと認識して
いる」と述べ、アメリカの対応をけん制しました。


 中国外務省の、劉為民 報道局参事官は、

 イランへの制裁強化について、「(アメリカの)国内法を、国際法
よりも優先させ、その履行を(中国に)求めるのは理屈に合わない」
と批判しました。
 その上で、イランとのエネルギー協力は、「核問題と関係がなく、
影響を受けることはない」と、明言しています。



 同日。

 アメリカ国防総省の、カービー広報官は、

 中東に2隻目の空母、「カール・ビンソン」を投入し、展開して
いることを明らかにしました。

 米軍筋によると、

 すでに展開中の空母、「ジョン・C・ステニス」との交代を延期し、
当面は2隻体制で運用する可能性もあります。

 しかしながら、カービー広報官は、

 「(イランとの)緊張が高まる以前から計画されていた定期派遣
であり、イラン情勢を懸念して2隻の空母の配備を急いでいると
の印象を与えるつもりはない。そうした理由ではない」と、説明し
ています。



 同日。

 イランのウラン濃縮施設で勤務していた核科学者が、爆弾テロ
によって殺害されました。

 ラミヒ第1副大統領は、

 「帝国主義者たちの工作員が関与した」と述べ、イスラエルや
アメリカが関与したテロとの見方を示しました。


 目撃者の話によると、バイクに乗った2人組みの男が、核科学
者が乗っていた車に接近し、マグネット式の爆弾を車に取りつけ
て走り去り、その直後に爆発が起こったといいます。

 バラトロ テヘラン州副知事は、「過去の事件と手口が同じで、
シオニスト(イスラエル)の犯行だ」と、断定しています。


 一方、アメリカのクリントン国防長官は、

 「イラン国内のいかなる暴力に関しても、米国の関与を否定
する」と述べました。



 同日。

 中南米を訪問中の、イランのアフマディネジャド大統領は、

 キューバにおいて、フィデル・カストロ前国家評議会議長や、
ラウル・カストロ国家評議会議長(二人は兄弟)と、会談をしま
した。

 この会談を受けて、アフマディネジャド大統領は、

 「両国の立場、世界観はとても近い。永遠の友人だ」と述べ
ています。


            * * * * *


 1月12日。

 アメリカのガイトナー財務長官が訪日し、安住財務相と会談
をしました。

 安住財務相は、ガイトナー長官にたいし、

 イラン産原油について、過去5年間で輸入量を40%削減した
ことを説明しました。
 その上で、「核開発の問題は世界にとって看過できない問題で
ある」として、イランに対する制裁措置を強化したアメリカの方針
に理解を示し、
 「わが国の原油輸入の10%はイランからの輸入だが、それを
できるだけ早い段階で計画的に減らして行く行動を、具体的に
取っていきたい」と述べて、アメリカに協力する考えを示しました。

 その一方で、イランのエネルギー業界や中央銀行と取引を
した、金融機関をふくむ企業や個人を罰する措置に関しては、
 「時間が必要だ」として、邦銀を対象から外すなど、「日本の
国情に合った対応」ができるように、アメリカ側に求めました。

 ガイトナー長官は、会談後の記者会見で、

 「イランの中央銀行を国際金融システムから切り離し、イランの
原油輸出収入をどうやって削減できるかということを検討している。
協議は初期段階だが、われわれは緊密に協力しており、日本が
この重要な戦略的な目標を支援してくれていることを高く評価して
いる」と、述べました。



 同日。

 ガイトナー長官は、野田首相を表敬訪問しました。

 野田首相は冒頭で、東日本大震災におけるアメリカの支援に
たいして、あらためて謝意を表明しました。

 イランの核開発については、「深刻な懸念を共有している」と
述べました。

 しかし、その一方で、

 アメリカの対イラン金融制裁強化について、「運用によっては、
わが国や世界の経済に深刻な影響を与えかねない」と、懸念を
伝えています。



 同日。

 安住財務相は、東京都内で講演をおこない、

 「金融機関などへの制裁措置の発動まで60日しかなく、時間的
な余裕がまったく無い」として、邦銀への適用例外を設けるように
アメリカ側へ申し入れたことを、明らかにしました。

 また、JBIC(国際協力銀行)による、対イラン融資の2000億
円が、返済されない可能性があることも指摘しました。

 その上で、「一律に制裁すれば、日本が被害を被ることもある」
と述べ、
 「日米間で詳細を詰め、日本経済のデメリットにならないような
着地点を見いだしたい」と語りました。



 同日。

 藤村官房長官は、

 安住財務相が、イラン産原油の輸入量を減らしていく方針を
表明したことに対し、

 「さまざまな対処の方法があり、1つだけではない。いま政府内
で検討しているところだ」と、述べました。

 その上で、「(安住財務相の表明は)さまざまな意見の1つだと
いうことだと思う」と述べ、ひきつづき政府内で対応を検討して
いく考えを示しました。



 同日。

 アメリカ国務省は、

 イランにガソリンなどの石油製品を輸出したなどとして、

 中国国営石油商社の、珠海振戎公司など3社にたいし、「イラ
ン制裁法」に基づく処分を科したと発表しました。

 「イラン制裁法」とは、世界有数の産油国であるのに、ガソリン
の精製能力が低いイランにたいして、
 ガソリンなどの供給を遮断することで、圧力をかけることを
目的として、おととしに成立していた法律です。

 3社のうち他の2社は、シンガポールのクオ石油と、UAE(アラ
ブ首長国連邦)のファール石油で、

 アメリカの銀行に、一定額以上の融資を禁じるなどの措置が
取られます。



 同日。

 イランの最高指導者ハメネイ氏が、

 爆弾テロによる、核科学者の殺害事件について声明をだしま
した。

 この声明でハメネイ氏は、

 「我々はテロ事件の犯人に必ず裁きを下す。テロは臆病者の
やることであり、CIA(アメリカ中央情報局)や、モサド(イスラエル
の対外特殊機関)が計画、支援したものだ」と述べ、

 両国の関与を明確に指摘するとともに、異例のつよい口調で
非難をしています。


 アメリカのパネッタ国防長官は、訪問先のテキサス州フォート・
ブリス基地で、

 「爆殺事件に関与した可能性のある人物について、ある程度の
見当はついている」と、発言しました。

 その一方で、「それが誰であったのか明確には分かっていない」
と述べており、
 また、「アメリカは、この事件に一切関与していない」と、強調して
います。



 同日。

 イランの核開発疑惑を解明するため、

 IAEA(国際原子力機関)の調査団を、今月中にもイランに派遣
する予定であることを、複数の外交筋が明らかにしました。

 調査団の派遣は、1月28日頃になると見られています。


            * * * * *


 以上ここまで、

 1月7日〜12日までの動向について、見てきました。



 イランは、地下施設でウラン濃縮をさらに進めており、核開発
を決して止めようとしません。

 それに対して、アメリカやイギリスは、中東へ空母や駆逐艦を
派遣し、軍備を増強しています。

 さらには、イランの核科学者が暗殺される事件なども起こり、

 「緊張度」が、ますます高くなってきました!



 また、

 イランへの制裁強化をめぐって、中国とアメリカの関係も、
ギクシャクしてきました。

 中国は、イラン産原油の輸入を、おそらく止めようとしないで
しょう。
 そのとき、もしも中国の銀行と、アメリカの銀行の取引ができ
なくなったら、
 中国とアメリカの貿易が、一体どうなってしまうのか、そして
世界経済にどんな影響を及ぼすのか、非常に気になるところ
です。



 そして日本にも、

 アメリカからの圧力を通して、影響が出始めてきました。

 おそらく、イランから原油が輸入できなくなるのでしょうが、

 その不足する分は、サウジアラビアや、アラブ首長国連邦
から、調達するつもりのように見えます。



 このように、

 いま世界中がめまぐるしく動いており、さらに目が離せない
状況になっています。



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