原発について思うこと 4
                           2012年5月20日 寺岡克哉


 政府は、5月18日に行われた「エネルギー環境会議」(議長・古川
国家戦略担当相)で、今夏の電力需給対策を決定しました。

 その要旨をまとめると、以下のようになります。


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            電力需給対策の要旨まとめ

     (原発を再稼動させず、2010年なみの猛暑を想定)


1.節電目標は2010年の夏に比べて、関西は15%以上、九州は10
 %以上、北海道と四国は7%以上。

2.中部、北陸、中国の3電力にも5%以上の節電を要請し、関西に
 電力を融通する。

3.東北と東京は、数値目標を伴わない節電をする。

4.節電期間は、北海道は7月23日〜9月14日。東北と東京は、7月
 2日〜9月28日。中部、北陸、中国、関西、四国、九州は、7月2日
 〜9月7日。どの電力管内も、お盆の8月13〜15日は節電対象外
 とする。

5.節電の時間帯は、どの電力管内でも、平日の午前9時〜午後8時
 まで(北海道の9月10日〜14日は、午後5時〜午後8時)。

6.北海道、関西、四国、九州の4電力は、想定外の火力発電所の
 トラブルに対応するため、計画停電の準備に着手する。

7.計画停電を実施する場合は、原則として、1日1回、2時間程度と
 する。

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 上の要旨をまとめていて、私が思ったことですが・・・ 

 たしかに「節電」は必要です。

 また、実際には「計画停電」の必要がなくても、万が一の不測の
事態に備えて、

 その「準備」だけは、前もってやっておくべきでしょう。



 しかし、なぜ、

 太陽光発電などの「再生可能エネルギー」を、大々的に普及させる
という視点が、

 「スッポリ」と抜け落ちているのでしょう?



 たとえば政府の主導によって、

 太陽電池の設置費用を、「無利子」で貸付ける。

 一般家屋に、太陽電池を「無料」で設置する。(太陽電池の費用は、
従来通りの電気料金を徴収し、それでまかなう。)

 さらには、太陽電池を無料で設置するだけでなく、「屋根借り代」を
払って
までも、一般家屋に太陽電池を設置する。(屋根借り代は、正規
の電気料金よりも割り引くことで支払う。)



 このような対策を、政府が行えば、

 太陽電池の設置費用が捻出できない人々でも、太陽電池を設置する
ことが可能になり、再生可能エネルギーが爆発的に拡大するでしょう。

 そうなれば、5%や10%の電力不足など、「あっ」という間に解消する
のでは、ないでしょうか。



 このような、

 再生可能エネルギーの大々的な普及に対しては、あえて最大限の
努力や対策をやろうとせず、

 原発の再稼動か、さもなければ節電か計画停電かというように、

 わざと国民を、そのような状況に追い込み、威(おど)しているように
思えてなりません。


            * * * * *


 さて、前々回のエッセイ531に引きつづいて

 原発について私が5年前に思っていたことと、いまの原発の状況を、
比べてみるという作業をやって行きます。

 それによって、福島第1原発の事故が起こったことにより、原発という
ものの認識がどれほど変わったのかや、

 原発をめぐる政府の動きについての不信な点を、明確にして行きたい
と考えています。



 まず以下に、

 原発に対して、私が5年前にもっていた、おおよその認識を挙げておき
ましょう。

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       (2007年5月27日付 エッセイ275より抜粋)


 近ごろ、原子力発電所を増やそうとする動きが、どんどん活発になっ
ているように感じます。

 しかもそれは、日本だけでなく、中国やインドでも原発を大規模に導入
しそうですし、またヨーロッパでも、原発化への動きが活発になっている
みたいです。

 だからそれは、「世界的な動き」になりつつあり、このままでは原発に
押しきられそうな勢いです。

 しかも今後さらに、その勢いが増して行くのは間違いありません!



 私は何とかして、原発をこれ以上増やさなくても、「何とかなるよう
な状況」にするべきだと考えています。


 なぜなら、使用済み核燃料などの「高レベル放射性廃棄物」が、世界
中でどんどん増えて行くからです。

 それらは少なくとも、数千年の保存管理が必要なのです!

 一体、そんな何千年も、もつような「容器」が存在するのでしょうか?
 いまの人類が知っている物で、1000年以上もった容器は、せいぜい
「陶磁器」ぐらいです。しかしそれは、衝撃にとても弱い(すぐに割れて
しまう)ので、放射性廃棄物の容器としては使えないでしょう。

 そしてまた、いったい誰が、その管理を維持すると言うのでしょう?
 今で考えれば、「縄文時代」からずっと現代まで、維持管理を続けて
来ることに相当します。たとえ「国家」でさえ、そんなに長続きした例が
ないでしょう。



 さらに原発は、放射性廃棄物の問題のほかに、「大事故」の起こる
心配
がどうしても付きまといます。

 たしかに、科学技術的には、だんだん安全性が増しているのだと
思います。

 しかし、原発を運用する「人間」の側に問題があれば、科学技術
ではどうにもならないのです!


 たとえば・・・
 定期点検を怠ったり・・・
 交換するべき部品を、交換しなかったり・・・
 事故の発生を隠したり・・・
 警報装置のスイッチを切ったり・・・
 壊れた警報装置をそのままにしていたり・・・
 人員をあまりにも削減したり・・・
 少ない人員に、過酷な労働を強いたり・・・
 経験不足な人員(アルバイトやパート)を現場に投入したり・・・

 もしもそんなことが、将来いつかの時点から常態化して行われたら、
「大事故」が必ず起こってしまうでしょう。



 そしてまた原発は、「テロの標的」や「軍事的な標的」にされる
心配もあります。


 これらの問題は、いくら科学技術が発達しても、どうにもならないの
です!

 それらを総合して考えると、まだ日本では大部分の人(原発を推進し
ている政財界の上層部でさえも)が、「原発の安全性」を十分に信頼
していないと思います。

 その証拠に、たとえば東京などの大都市には、絶対に原発を作ろう
としないでしょう。
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 以前に書いたエッセイ531では、上に挙げた内で、

 5年前には、いきなり原発をゼロにするのは、とうてい無理だと思って
いたのに、
 いざ実際に、原発がゼロになってみると、それほど大きな影響が出な
かったことについて、お話しました。



 そして前々回のエッセイ533では、

 使用済み核燃料などの「高レベル放射性廃棄物」を、すくなくても数千
年の間、保管しなければならず、

 さらに、安全なレベルにまで放射能が低下するには、10万年もの間、
「高レベル放射性廃棄物」を保管しなければならないことについて、お話
しました。



 今回は、上に挙げた内で、

 原発は「大事故」の起こる心配が、どうしても付きまとうことについ
て、考えたいと思います。


            * * * * *


 原発の大事故・・・

 5年前では、大事故が起こる可能性を、「心配」する程度で済んで
いましたが、

 すでに現在では、大事故が本当に起こってしまいました!

 これは、5年前と、現在とで、

 原発というものの認識が、いちばん大きく変わったところです。

 もう、原発の「安全神話」など、完全に吹き飛んでしまいました。



 福島第1原発の事故によって、

 (原子力安全・保安院の発表によると)放射性物質のキセノン133
が、1100万テラベクレルも大気中に放出されました。(ノルウェー
大気研究所の分析では1670万テラベクレル。)

 チェルノブイリ原発事故で放出されたキセノン133は、650万テラ
ベクレルですから、

 福島の放出が1100万テラベクレルだとしても、チェルノブイリの
1.7倍に相当し、

 核実験を除けば、過去最大のキセノン133の放出となったのは、
おそらく間違いありません。



 また、放射性セシウム137の汚染によって、何十年も人が住めない
「死の土地」が出来てしまい、

 かつて、その土地に住んでいた人々の、生活、コミュニティ、産業、
文化などが、根こそぎに消え去ってしまいました。



 大地と海が、ひろく放射能に汚染され、

 野菜、魚、牛肉、米などの食べ物も、放射能に汚染されてしまい
ました。

 日本国民は、いま現在でも、放射能に汚染された食品を、食べ続け
なければならず、

 人々の被曝量が、毎日、毎日、増加しつづけています!

 たとえば原発事故が起こる前では、無農薬の作物でなければならな
いとか、有機栽培でなければならないとか、そのようなことも言われて
いましたが、

 現在では、そんな贅沢なことは言っておれず、ただただ放射能汚染
の低い食品を、血眼(ちまなこ)になって探さなければならない世の中
に、なってしまいました。



 メルトダウンした核燃料は、今でも回収することが出来ず、

 原子炉には穴があいて、「高レベル汚染水」がジャジャ漏れになって
います。



 以上のように、原発事故の影響は、ものすごく甚大です!

 しかも、昨年に起こった原発事故は、現在も継続中であり、けっして
終息などしていません。

 そして国民の多くが、今でも被曝しつづけているのです。(食品の摂取
による内部被曝や、線量の高い場所に住んでいる人は外部被曝も受け
ています。)



 それなのに「原発の再稼動」とは、とても正気の沙汰には思え
ません!


 この点も、政府の方針や考え方に、ものすごく違和感を感じるところ
です。



 最近は、(おそらく故意的なのか)あまり報道されなくなり、印象が薄く
なってきたので繰り返しますが、

 福島第1原発の事故は、いま現在も継続中であり、けっして終息
していません。


 そして日本国民は、いま現在も被曝しつづけており、毎日、毎日、
人体への被曝総量が増加しています。


 そんな状況下で、政府は、「原発の再稼動」をやろうとしているの
です。



 私たちは、このことを一時たりとも、忘れないようにしなければなりま
せん。



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