北極海の熱量が3倍超!
                         2012年11月18日 寺岡克哉


 北極海において、「海水」に含まれる「熱量」が、

 1990年代にくらべて、最大で3.25倍になるほど温暖化した
海域があることが、

 11月10日に分かりました。



 これは、

 島田浩二准教授(東京海洋大 海洋環境学)たちの研究チームに
よる、現地調査で分かったものです。

 島田准教授の研究チームは、今年の7月〜9月に、韓国とカナダの
砕氷船で、北極海を広範囲にわたって観測しました。

 およそ200ヶ所の地点で、海水の温度や、塩分の濃度を、測定した
といいます。



 そのデータを分析した結果、

 アラスカ沖の北緯75度を中心にした海域の、水深20メートル〜
100メートルにわたって、

 水温が0℃〜0.5℃の温かい海水の層が、広範囲に存在している
ことが確認できました。

 さらには、この同じ海域において、

 1平方メートルあたり(※注1)、最大で約650メガジュール(※注2)
の熱量が含まれていることも、明らかになったのです。

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(※注1)
 島田准教授のホームページによると、水深20メートルから150メー
トルまでの積分値となっています。
 つまり「1平方メートルあたり」というのは、面積が1平方メートルで、
水深20〜150メートルの間の、130立方メートルの海水に含まれて
いる熱量になります。

(※注2)
 島田准教授のホームページによると、1平方メートルあたり300
メガジュールの熱量で、
 1メートルの氷が融けるか、または、1メートル分の氷形成が減少
するとしています。
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 ちなみに、氷の減少が顕著ではなかった1997年以前だと、

 上と同じ海域における熱量が、1平方メートルあたり約200メガ
ジュールだったといいます。

 なので、その当時と比べれば、今年に観測された1平方メートル
あたり約650メガジュールというのは、

 海水に含まれる熱量が、3.25倍にも増えたことになるのです。



 島田准教授は、

 「床下暖房の上に、氷が載っているような状態だ。」

 「いったん温められた海水は、冷めにくく、今後も氷の減少がつづく
恐れがある」と、警告しています。


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 ところで例年だと、

 じつは北極海には、太平洋からベーリング海峡を通って、比較的
温かい海水が流れ込んでくるのですが、

 その温かい海水は、北アメリカ大陸に沿って、東側に向かっていま
した。



 しかし近年では、

 氷の減少に伴って、海水の回流が起こりやすくなり、

 太平洋から流れ込んできた「温かい海水」が、北側へ向かうように
なったといいます。



 その他にも、氷が減少する要因としては、

 「気温の上昇」や、低気圧の発生による海面の「うねり」などの影響も、

 考えられています。


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 このたびの研究結果について、国立極地研究所北極観測センター
の、榎本浩之センター長は、

 「”海の温暖化”が具体的に判明したことは、氷減少のメカニズムを
解明する上で重要な手がかりとなる。」

 「海水の温度が上昇すると、水蒸気が発生して低気圧ができやすい
環境が生まれる。今年の8月に北極圏で発生した、台風並みの強力な
低気圧は、”海の温暖化”が影響している可能性がある。」

 「氷の減少には、海水のほかにも大気などが複合的、連鎖的に影響
している可能性があり、総合的な解析をしていく必要がある。」

 と、話しています。


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 私は思うのですが・・・ 


 エッセイ559でレポートしましたように、今年は、北極海の海氷面積
が、観測史上で最小になりました。

 そして今回の研究結果により、北極海における「海水の温暖化」が、
「熱量の増加」として具体的に示されたのです。



 なので当然といえば当然ですが、もうすでに、

 北極海の温暖化は、決して疑うことのできない「確定した事実」
である!


 と断言しても、まったく問題がないように思います。



 ところで、このような北極海の温暖化は、

 地球全体の温暖化をさらに加速させる「正のフィードバック」として
働くと思いますが、

 その「正のフィードバック」が、どれぐらいの大きさで、地球全体に
影響してくるのか、

 今後の、さらに進んだ研究が求められています。



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