温暖化なのになぜ寒い 1
                           2013年1月13日 寺岡克哉


 近年・・・ 

 日本をふくむ東アジア、北アメリカ、ヨーロッパなど北半球の各地で、

 猛烈な寒波に襲われたり、記録的な大雪に見舞われたりすることが、
多くなっています。



 しかし、なぜ・・・ 

 「地球温暖化」が進んでいるというのに、冬がとても寒いのでしょう?

 地球が温暖化すると、夏が暑くなるのは当然として、冬も暖かくなる
と思うのですが、

 温暖化なのに「厳しい冬」になるというのは、どうにも理解しかねます。



 ところが最近、このような疑問に対して、1つの答えが得られつつ
あります。

 それは、「地球温暖化によって、北極海の海氷が減少すると、
北半球では厳しい冬になる」
というものです。



 ちなみに昨年の9月は、

 北極海における海氷の面積が、349万平方キロメートルにまで縮小
し、観測史上で「過去最小」となりました。

 なので、今回の冬がとても厳しくなる可能性は、もともと高かったと
言えるわけです。



 これから将来、温暖化がさらに進めば、北極海の海氷が、ますます
減少して行くでしょう。

 そのため、北半球で「厳しい冬」になることが、さらに多くなって行くと
思います。



 それでは、

 なぜ、北極海の海氷が減少すると、寒い冬になるのでしょう?



 これには、2つの理由が考えられています。

 1つは、海氷が減少すると「”北極振動”と呼ばれる現象が、”負の
状態”になること」
で、

 もう1つは、海氷が減少すると「バレンツ海を発生源とする低気圧
の進路が、北寄りになる」
ことです。


 以下、それらについて、すこし詳しく見ていきたいと思います。


              * * * * *


(1)北極振動


 まず「北極振動」というのは、

 北極〜北極周辺の高緯度で平年より気圧が低く、それと同時に、
中緯度〜亜熱帯では平年より気圧が高くなる状態(正の状態)と、

 その反対に、

 高緯度では平年より気圧が高く、それと同時に、中緯度〜亜熱帯で
平年より気圧が低くなる状態(負の状態)を、

 6年〜15年ていどの周期で変動し、行ったり来たりを繰りかえす現象
のことです。



 このように「北極振動」とは、

 たとえば「振り子」や「バネ」などのように、物体が振動する訳では
なくて、

 北半球規模の大気の状態が、「正の状態」から「負の状態」へ、ある
いは「負の状態」から「正の状態」へと、変動を繰りかえす現象のこと
なのです。

 そのような「行ったり来たりを繰りかえす現象」のことも、広い意味で
「振動」と呼ばれています。



 ところで、北極振動が「正の状態」になると、

 北極側の気圧が平年よりも低くなり、北極周辺の低気圧が発達して
強くなります。
 とくに北極付近では、気圧が異常に低くなり、「極渦」と呼ばれている
「北極の上空を西から東へ周回する風」が強まります。
 この「極渦」が強くなると、北極上空の寒気は、その渦に閉じ込められ
て、北極域に留まりやすくなります。

 また、北極振動が「正の状態」では、亜熱帯の気圧が平年よりも高く
なり、亜熱帯高気圧が勢力を強めます。そのため南の暖かい空気が、
北方まで入り込んできます。

 つまり北極振動が「正の状態」になると、寒気が北極域に留まり、さら
には南から暖気が入り込んでくるので、「温暖な冬」になるのです。



 その反対に、北極振動が「負の状態」になると、

 北極側の気圧が平年よりも高くなって、北極周辺の低気圧が弱いもの
になり、そしてまた、北極付近の「極渦」も弱くなります。
 「極渦」が弱くなるため、北極上空の寒気が閉じ込められず、南方に
流れ出していきます。

 また、北極振動が「負の状態」では、中緯度上空を西から東に向かっ
て吹く「ジェット気流」が弱くなり、南北に大きく「蛇行」するようになり
ます。
 この「蛇行」によって、ジェット気流が南に大きく張り出した場所では、
それに沿って寒気が、南方の奥深くまで侵入するようになります。

 つまり北極振動が「負の状態」になると、北極上空の寒気が南に流れ
だし、それが南方の奥深くまで侵入して、「厳しい冬」になるわけです。



 以上を簡潔にまとめると、

 北極振動が「正の状態」では暖冬になり、

 北極振動が「負の状態」では厳冬になります。


              * * * * *


 ところで、

 北極振動が「正の状態」から「負の状態」へ、あるいは「負の状態」から
「正の状態」へと変動するまでの期間、つまり「変動周期」については、

 実はたいへん複雑な話になっていて、数週間ていど〜数十年ていど
までの、さまざまな周期の変動が重なっていると考えられています。

 しかしそれでも、1970年以降のデータでは、とくに6年〜15年ていど
の周期が顕著に現れており、「準十年周期振動」と呼ばれています。



 ところが!

 地球温暖化によって、北極海の「海氷が減少」すると、

 北極振動の正常なリズムが乱されて、冬季には「負の状態」に
なりやすくなる


 ということが、最近の研究で分かってきたのです。



 そのメカニズムは、およそ以下のように考えられています。

 まず、夏に北極海の海氷が減少すると、より多くの海水が太陽光に
曝(さら)されて、海面の温度が上昇します。

 そして秋になると、海洋から余分な熱が、大気中に放出されるように
なりますが、
 その結果として、北極の気圧が高まり、湿度も高まり、北極と中緯度
地方の温度差も小さくなります。

 北極の気圧が高まり、中緯度地方との温度差が縮まることによって、
北極振動が「負の状態」になりやすくなるのです。



 また、北極振動が「負の状態」になると、上でも話したように、「極渦」が
弱くなり、「ジェット気流」が蛇行します。

 湿度の高い空気によっても弱められる「極渦」は、北極の冷たい空気
を留めておくことができず、それが中緯度地域に流れ出して、厳しい低温
と降雪をもたらします。

 さらには、「ジェット気流」が大きく蛇行した形を取りつづけるため、ジェッ
ト気流に近い場所では強い寒気がもたらされるのです。



 このような「北極振動」による影響は、アラスカ、カナダ、アメリカの中部
や北部、ヨーロッパ、ロシア、アリューシャン列島付近で、顕著に現れます。

 とくに、イギリスや北欧諸国においては、すごく大きな影響力をもって
います。

 ちなみに、日本を含めた東アジア北部にも、北極振動の影響は及んで
いますが、
 しかし影響範囲の辺縁にあたるため、エルニーニョなどの影響力が強く、
天候は複雑なパターンになりがちです。


               * * * * *


 以上、ここまで話してきましたように、

 「北極振動が”負の状態”になる」ことが、「北極海の海氷が減少すると、
厳しい冬になる」ことの、理由の1つです。

 もう1つの理由である、「バレンツ海の低気圧」については、次回でレポー
トしたいと思います。



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