東海村の施設で放射能漏れ 2
                             2013年6月9日 寺岡克哉


 前回は、

 日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)が、高エネルギー
加速器研究機構(以下、高エネ研)と共同で運営している、

 「大強度陽子加速器 J−PARK(ジェイパーク)」の、ハドロン実験施設
で起こった、「放射能漏れ事故」についてレポートしました。


 ところで、

 このたびの「放射能漏れ事故」に対して、国や県などいろいろな所から、
安全上の問題が指摘されており、

 「加速器」で起こったトラブルとしては、社会的な反響がとても大きなもの
になってしまいました。


 今回は、そのことについてレポートしたいと思います。


              * * * * *


 まず最初に、J-PARKセンターが5月25日に発表した、

 「原子力機構J-PARKハドロン実験施設におけるトラブルについて」という
資料に載っている、「事象発生の時系列」について見て行きたいと思います。

 (以下の時系列を読む前に、前回のエッセイ589を読んで頂くと、内容が
分かりやすくなると思います。)


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5月23日(木)

11:55  50GeVシンクロトロンにおいて、陽子ビームの異常警報により
       ビーム停止。5ミリ秒(1000分の5秒)の間に2×1013個(20
       兆個)の粒子(通常の400倍)が取り出される。(この時点で、
       金の標的に損傷があったと考えられる。

12:08頃 警報リセット。ビームの連続運転開始。標的で発生する2次粒子
       数に低下が認められたので、標的調整を実施。

12:30頃 調整終了。利用運転開始。K1.8BR実験グループが放射線検出
       器(中性子カウンター)の計数上昇を確認。調査開始。

13:30頃 ハドロンホール内エリアモニタ(γ線)の線量が約10倍(通常時
       0.4μSv/h程度から4μSv/h)に上昇していることが判明。

14:26頃 ビーム運転停止。エリアモニタ(γ線)の線量低下を確認。

15:15頃 ホール内の排風ファンを回したところ、さらに線量が低下すること
       を確認。

15:32頃 ある程度線量が低下した段階で、ビーム連続運転を開始し、標的
       位置を再調整した。同時に排風ファンを停止した。

16:00頃 線量計を用いてホール内の放射線量測定を実施した結果、全体
       の線量が4〜6μSv/hと高かった。また、ホール内のエリアモニタ
       (γ線)の線量に再度上昇傾向が見られた。

16:15  ビームの運転停止。

17:00頃 ホール内の汚染を確認。

17:30頃 ホール内の作業者について身体汚染検査のうえ基準値(4Bq/
       cm)以下であることを確認し、ホール外への退出を完了。

19:00〜20:00 放射線安全グループ主導の下で、ホール内の詳細な線量
           測定と表面汚染測定を実施。

23:30頃 施設内の全員が管理区域内より退去。ハドロン管理区域は閉鎖
       (入域禁止)とした。


5月24日(金)

9:00頃  安全ディビジョン長は、センター長、副センター長に昨日の状況
       について報告した。

10:00よりJ-PARK関係者による状況の報告と今後の対策等について議論。
       ハドロンのこの事象により、実験を停止することを知らせる報告
       を行なう方向で作業を開始。その時点では通報連絡に該当する
       事象とは考えなかった。

17:30頃 核燃料サイクル工学研究所のモニタリングポストデータの一部で
       23日15時過ぎに一時的に線量が上昇している件について、核
       燃料サイクル研究所から安全ディビジョンに問い合わせを行なっ
       た。

18:00過ぎ、管理区域境界に設置したエリアモニター(γ線)の記録に関する
       データが示され、そのデータを精査したところ、23日の15時頃と
       17時30分頃に放射線レベルが増加しており、この時間はハドロ
       ンホールの排気ファンを動作した時間とほぼ一致していることが
       判明。

19:00過ぎから再度関係者を集め、センター長、副センター長、安全ディビ
       ジョン長は、状況及びデータを確認し、放射性核種の一部が管理
       区域外に漏えいした可能性が考えられるので異常事象にあたる
       と判断し、21:10に原子力科学研究所の緊急連絡先に通報した。

21:11  現地対策本部を開設し、関係者を招集。現場指揮所を開設。

22:15  法令報告に該当するものと判断

22:40  関係機関への連絡 (以降、関係機関に適宜情報発信)

1:00頃  ホールボディカウンターの結果、約2mSvの被ばくを確認。
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 また、同「原子力機構J-PARKハドロン実験施設におけるトラブルについて」
という資料では、通報連絡が遅れた理由について、以下のように記述されて
います。

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 5月23日の段階では、金標的の一部が破損し、ホール内に放射性物質が
漏えいし、床等が汚染していること、また、作業者(職員及びユーザー)が放射
性物質による内部被ばくをした可能性があることを認識していたが、管理区域
内での汚染であり、また、被ばくも想定内のものであると考えられ、今回の事象
は法令報告には該当しないと判断した。5月23日の夜は、ハドロンホール内
にいた作業者の汚染検査を実施し、必要な作業者は服の着替え、手洗い等を
実施し、4Bq/cm以下を確認し全員退域した。

 24日午前中は、今後の対策等について、議論していた。

 24日の午後、管理区域境界に設置したモニターの記録を精査したところ、
23日15時過ぎ及び17時30分頃、モニターの記録で放射線レベルがわずか
に上昇していたことが判明した。この時間は、ホールの排風ファンを動かした
時間とほぼ一致している。したがって、放射性物質の一部が管理区域外に
漏えいした可能性が考えられるため、24日21:10に原子力科学研究所の
緊急連絡先に通報した。
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               * * * * *


 つぎに、国や県、市町村、市民団体、県議会、市議会などの反応に
ついて、見ていきたいと思います。



 5月25日の午前2時。

 水戸市の茨城県庁で急きょ行なわれた記者会見で、県原子力安全対策
課の服部課長は、「事業者側が安全管理をどう考えているか、正したうえで
検証したい」と強い口調で、原子力機構の姿勢を批判しました。

 県に事故を知らせる通報があったのは、5月23日の事故からおよそ1日
半が経過した、5月24日の21時40分です。

 県と原子力機構の間で結ばれている原子力安全協定では「直ちに通報」
する取り決めになっていました。服部課長は「可及的速やかにとお願いして
いる。(原子力施設の)事故や火災では、これまで経験的に30分以内に
通報があった」と指摘しています。

 その上で、「人の被ばくや環境への影響もあり、重要な事象だと考えて
いる」として、同日の午後に施設への立ち入り調査を行なうことを明らかに
しました。



 同日の未明。

 原子力機構は東京都内で記者会見し、国への報告が1日以上遅れた原因
を、放射性物質の漏えいが施設内にとどまっていると過小評価していたため
と発表しました。

 その上で、「トラブルへの対応の意識や連絡体制がきちんと機能していな
かった」と謝罪しました。



 同日の午前。

 水戸労働基準監督署は、現場の安全管理などに問題がなかったかを
調べるために、3人の職員を派遣して、原子力機構の実験施設への立ち
入り検査をしました。

 職員たちはおよそ2時間半にわたって、作業者が被ばくした場所や実験
室のコントロールルームなどを確認するとともに、関係する資料の提出を
受けました。

 また、原子力機構にたいし、これまでに内部被ばくが確認されている研究
者4人のほかに、実験施設に出入りした51人についても、内部被ばくの
検査結果を報告するように指示しました。

 労働基準監督署は今後、関係者への聞き取りなどを進め、原子力施設
で働く労働者の被ばく管理について定めた規則に、違反していなかったか
などを詳しく調べることにしています。



 同日の午後。

 茨城県と、東海村、水戸市、日立市など施設周辺の7市町村の担当者
計20人が、
 原子力機構の施設「J-PARK」への立ち入り調査を実施し、関係者から
装置の位置関係や事故当時の状況などの説明を受けました。

 調査に先立って、原子力機構の近藤 原子力科学研究所長は、「放射
性物質の漏えいという大きな事象を起こし、申し訳なく思っている。原因
の究明と周囲への影響を最優先に検討したい」と陳謝しました。

 自治体側は、事故から通報に1日半もかかったことを問題視し、「もっと
迅速に対応できたはずだ」と批判しました。

 J-PARKの斉藤 副センター長は、すぐに通報しなかったことについて
「研究者の被ばく線量が少なかったし、元々(実験施設は)放射性物質が
発生する場所なので、報告する必要はないと考えた」と釈明し、「当初の
認識が甘かった。事態の把握が遅れ、申し訳ない」と謝罪しました。
 施設内の放射線量が上昇しているにもかかわらず排風ファンを回した
理由を問われると「施設内の線量を下げるためだった」と回答し、「結果
的に、外部に放射性物質を放出することになった。適切ではなかった」
と語りました。

 高エネ研の家入教授は、排風ファンを作動させた理由について、「施設
全体の放射線量が上がっていたので測定機器の誤動作によるものか、
陽子線を調整する必要があるのか確認するため動かした」と説明しました。

 原子力機構の澤田准教授は、事故の上層部への報告について、「施設
で起こっていることを、J-PARKセンターの放射線管理室に報告したが、
(原子力規制庁への報告について)意思疎通はできていなかった」と回答
しました。

 調査後、松本 県原子力安全対策課技佐は記者団の取材にたいし、
「排気ファンがあるなど、放射性物質の漏えいを防ぐ構造になっていない」
などと施設の構造上の問題を指摘し、
 放射線量が上昇する状況で排気ファンを作動させたことについて「納得
できない」と不満を示しました。
 その上で、「放射性物質が外部に漏れ、被ばくした研究者が出たことを
非常に重く受け止めている。詳細な報告を求めたい」と語りました。

 東海村の担当者は、「施設の密閉性を高めて、事故が起こることを前提
とした対応マニュアルも作るべきだ」と強調しました。

 県は、この調査結果を踏まえて対応を検討します。放射性物質が外部
に漏れた経緯について、原子力機構にたいし、さらに詳細な説明を求める
考えです。



 同5月25日。

 実験施設内の放射線量が上がった際に、担当者が排風ファンを回し、
外部に放射性物質を放出していたことについて、

 許可を出した、高エネ研の三浦教授は記者会見で、「通常運転時も
半減期の短い放射性物質で線量が上がることがあり、すぐ減衰するとの
認識だった。結果として浅はかだった」と謝罪しました。



 同日。

 下村 文部科学相は、文部科学省で記者団にたいし、

 「事故が発生してから、文部科学省に通報するまで1日かかっているのは
相当遅く、緊張感と危機感に欠けている。国民が原子力発電に不信感を
持っているなかでもあるので、事故のレベルの大小を問わず、早く的確に
報告してもらいたい」と述べました。

 その上で、下村 文部科学相は、「事実関係を早急に確認するように指示
しており、今後の対応は、その結果を受けて判断したいが、日本原子力研究
開発機構の新しい理事長を早く選出し、根本から体質改善をしていくよう
お願いしていきたい」と述べました。

 ちなみに原子力機構は、高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)の点検を1万点
に及ぶ機器で怠っていたことが発覚し、鈴木理事長が5月17日付で辞任
しています。



 同日。

 村上 東海村長は、「放射性物質を扱っているという意識が低い。組織の
根本的な問題だ」と厳しく批判しました。

 週明けにも、原子力機構と高エネ研に、「住民を被ばくさせないことが、
施設を稼動させる絶対条件だ」との申し入れを行なう考えです。


               * * * * *


 5月26日。

 原子力規制庁は、新たに24人の研究者らの内部被ばくを確認したと
発表しました。
 内部被ばくが判明した人は計30人となり、原子力規制庁は「加速器の
実験で、これだけ多数が被ばくを受けた例は記憶にない」としています。

 被ばく者が多くなった理由について、J-PARKの担当者は「放射性物質
が遮蔽(しゃへい)材の隙間(すきま)などを通して漏えいしたが、気付く
までに時間がかかり、退避が遅れたのでは」と説明しています。


               * * * * *


 5月27日。

 原子力機構は、新たに3人の被ばくを確認したと発表しました。これで
被ばくが確認されたのは合計33人になりました。

 被曝量の内訳は、1.7ミリシーベルト2人、1.0〜1.5ミリシーベルト
5人、0.1〜1.0ミリシーベルト未満が26人となっています。



 同日。

 菅義偉 官房長官は記者会見で、「原子力規制庁が放射性物質の漏え
い状況、被ばくの状況の把握に努め、原因究明と再発防止策について
(運営者に報告を)求めている。厳正に対処する」と述べました。

 原子力規制委員会への事故の報告が遅れたことに関しては、「政府は
常に原子力の安全確保を最優先に進めている。極めて遺憾だ」と批判
しました。



 同日。

 茨城県の橋本知事は、定例記者会見で「大変遺憾」と述べました。

 運営する原子力機構などからの通報が1日半遅れたことには、「隠蔽
(いんぺい)ではないと思うが、状況を軽く考えていたことはあると思う」
と不快感を示しました。



 同日。

 文部科学省の丹羽 政務官が茨城県を訪れて、橋本知事や東海村の
村上村長と相次いで面会し、
 「地元住民の不安を真摯(しんし)に受け止めながら、二度と事故が起こ
らないよう体制作りを万全にしたい」と謝罪しました。

 村上村長らは、「事故を教訓に、運営体制をしっかり作ってほしい」と
再発防止を要請しました。

 また、丹羽 政務官は事故があった「ハドロン実験施設」も視察しました。
 施設内の放射線量が上がった際、排風ファンを回したために放射性物質
が漏れたことなどを挙げ、「働いている研究者の認識が甘かった。ヒューマン
エラー(人間のミス)的なものが大きな原因」と指摘しました。
 その上で、現在は義務付けられていないフィルターの設置など安全基準の
見直しを示唆しました。



 同日。

 原子力規制委員会は、このたびの事故にたいし、放射性物質の外部放出
を問題視して、

 国際原子力事故評価尺度(INES)における、「レベル1(逸脱)」に当たると
暫定評価しました。


                * * * * *


 5月28日。

 茨城県内外の5つの市民団体が、施設や作業者の安全対策に万全を期す
よう求める申し入れ書を、原子力機構に提出しました。

 これに対して原子力機構側は、「事故を重く受け止めており、いろいろな
対策を検討しなければならない」と述べて、事故原因の究明などを行なう
第三者委員会の設置を検討していることを明らかにしました。

 申し入れを行なった「脱原発とうかい塾」代表の、相沢 東海村議は、「原発
と違うことは分かっているが、放射性物質を発生することに変わりはない。村
民が安心できるよう、きちんとした対応をしてほしい」と話しました。



 同日。

 水戸市は通報が適切ではなかったとして、通報連絡協定を結ぶ原子力
機構にたいし、安全管理の徹底などを求める申し入れを行ないました。

 通報連絡協定は、市担当者に直接連絡するほか、ファクスの連絡をする
ことになっています。が、しかし今回は、5月24日の10時40分にファクス
の連絡があっただけだと言います。

 このため、申し入れ書では、「ただちに連絡がなかったのは誠に遺憾」と
指摘した上で、通報連絡体制の改善や対応策の取りまとめなどを早急に
行なうよう求めています。



 同日。

 茨城県那珂市の海野市長は、定例会見で、通報が事故発生から1日半
かかったことについて、

 「事象があった時点で速やかに連絡がないと、市民の安全を守るための
対策がとれない。緊張感がない」と批判しました。


               * * * * *


 5月29日。

 原子力機構と高エネ研は、新たに1人の内部被ばくが判明したと発表
しました。被ばく量は0.1ミリシーベルトです。これで、被ばくが確認された
のは合計34人となりました。



 同日。

 原子力規制委員会は定例会合で、事務局の原子力規制庁から現地調査
などの報告を受けました。

 規制庁は、原子力機構と高エネ研の聴取結果などから、実験機器の
誤作動時に放射性物質の漏えいを想定しない設計だったと報告しました。
 また、事故当時の汚染範囲や内部被ばくに関して、判断がどのように行な
われたかなどを、(今後)確認していくと説明しました。

 規制委の田中委員長は、「放射線や放射性物質を扱うことへの心構えが
欠如していたのではないか」と述べ、他の加速器施設の実態把握を進める
よう規制庁に指示しました。

 また同日。

 原子力規制委員会は、建屋内が放射性物質による汚染を想定していない
管理方法だったことを問題視し、放射線管理区域の設定や許認可あり方を
見直す方針を明らかにしました。

 田中委員長は記者会見で、「よく調査して(国の審査に問題がなかったか
を)判断したい」と述べています。



 同日。

 原子力機構の片山理事は、水戸市内で開かれた茨城原子力協議会
(県内全44市町村、原子力事業者、市民らで構成)の理事会に出席し、
 「関係者、国民への連絡が遅れ、周辺住民に不安を与えたことについて
深くおわび申し上げる」と謝罪しました。

 理事会後、「第三者を入れた検証を行い、信頼回復に全力を挙げたい」
と、第三者委員会の設置を正式に表明しました。

 片山理事は記者団にたいし、自治体への連絡が遅れたことについて、
「それぞれの機関で物事への認識の程度に差があった。価値観が共有
できていなかったことは極めて大きな反省点」と述べて、原子力機構と高
エネ研の認識のズレを要因の1つに挙げました。今後は認識や価値観の
共有化を図る方針です。

 第三者委員会については、日程などの詳細は未決定と説明し、地域住民
が第三者委員会に参加するかどうかについても、「これから真摯(しんし)
に議論していきたい」と述べるに留まりました。


               * * * * *


 5月30日。

 茨城県の東海村と那珂市が、相次いで原子力機構などにたいし、通報
連絡体制の改善などを求める抗議文を手渡しました。

 東海村は抗議文で、「安全確保に対する意識改革が十分とは言い難い」
と強く批判し、村民の健康調査のほか、通報連絡体制の改善などを求め
ました。

 また那珂市も、通報が30時間以上遅れたことに触れて、「到底許される
ものではない」として通報連絡体制の改善のほか、再発防止も要求しまし
た。

 2自治体の抗議文を受け取ったJ-PARKセンターの池田センター長は、
「今後は体制を再構築し、期待を裏切らない施設を作って行く」と強調し
ました。



 同日。

 日立市と日立市議会は、原子力機構と高エネ研にたいし、原因究明や
施設の安全管理、今後の対応策などを早急に構築するよう求める申し
入れ書を提出しました。



 同日。

 日本共産党の茨城県委員会(田谷委員長)は、原子力機構にたいし、
事故による被ばく調査と事故原因の徹底究明を求める申し入れを行い
ました。

 申し入れ書では、被ばくした原子力機構の職員だけでなく、村民の被ばく
調査と健康調査を行なうことなど4点を求めています。


               * * * * *


 5月31日。

 原子力機構などが、原子力規制委員会に事故の1次報告書を提出しま
した。
 しかしながら、この報告書は、すでに判明している事故の経過を記載した
のみで、報告遅れの原因や、放射性物質の総放出量については盛り込ま
れていません。
 「今後詳細な調査を行なう」として、2次報告書以降で明らかにして行く
予定です。

 ちなみに、実験で使われた「金の標的」は放射線量が高いため、取り出す
までに1ヶ月近くかかることから、事故原因の本格的な調査はそれ以降に
なるということです。

 また原子力機構は、事故の原因を究明し再発防止策を検証・検討する
第三者委員会を設置することを明らかにしていますが、この第三者委員会
は、文部科学省の指示に基づいて設置します。
 委員は加速器の専門家や社会科学、地方自治体、ジャーナリストなど
から人選して、6月上旬にも初会合を開く予定です。


               * * * * *


 6月3日。

 茨城県は、原子力機構と高エネ研にたいし、再発防止の安全体制を構築
するよう求める要請書を提出しました。

 この要請書では、放射性物質が漏えいした原因の徹底的な究明、すべて
の作業従事者に対する教育訓練の実施、通報連絡体制の再点検と原則
すべての事故報告の検討・・・ など、合計で6項目を求めています。

 高エネ研の野村理事は、「研究は県民の信頼を得て初めてできる。指示
された内容を肝に銘じ、信頼回復に努めたい」と述べました。


               * * * * *


 6月4日。

 原子力機構の松浦 新理事長が、就任のあいさつのため、茨城県の橋本
知事を訪問しました。

 松浦理事長は、J-PARKの放射能漏れ事故について、「周辺住民に心配
をかけ、非常に遺憾に思う」と述べました。

 橋本知事は、大学院生も実験に従事していたことに触れ、「職員だけの
意識改革ではダメだ」と指摘しました。
 自治体への連絡が遅れたことについては「原則すべて(の事故を)通報
というシステムを検討してほしい」と要望した上で、「対応策を講じて運転を
再開していただきたい」とも述べました。

 橋本知事との面会後、松浦理事長は、「運転管理などの面で不備が
あった」とした上で、「通報体制も含め、やり方を根底から考え直して事業
を進めたい」と述べました。


               * * * * *


 6月5日。

 民主党の県議会議員団(代表・長谷川県議)は、事故原因の究明などを
求める緊急要請書を、原子力機構と高エネ研に提出しました。

 要請書では再発防止のため、事故原因の徹底的な究明、放射性物質
漏えいの経緯の検証と安全管理体制の改善、事故発生時の通報連絡体制
の抜本的見直し、住民への情報公開と丁寧な説明の、合計4項目を求めて
います。

 民主議員団は同日、茨城県にも同じ内容の要請書を提出し、原子力機構
と高エネ研に安全対策の徹底を促すように求めました。


               * * * * *


 以上、ものすごく大変な事態になってしまいました!

 6月9日現在においても、J-PARKは全面的に停止しています。



 ちなみに、

 このたびの放射能漏れ事故では、最大で1.7ミリシーベルトの被ばく者
を出しましたが、

 原子炉も核燃料もない「加速器施設」において、1ミリシーベルト以上の
被ばく者を出したのは、世界的にも異例の事態です。

 以前に、加速器施設で作業をしたことのある私でも、1ミリシーベルト以上
の被ばくをしたら、「健康に影響はない」と聞かされても、顔が蒼(あお)ざめ
てしまうでしょう。



 一方、それに比べて・・・ 

 福島第1原発事故の場合は、「避難指示解除準備区域」というものを
策定して、

 年間の被ばくが20ミリシーベルトまでの場所に、人を住まわせようとして
いるのです。



 J−PARKの放射能漏れ事故が、大変な事態であればあるほど、

 「避難指示解除準備区域」というものに対して、ものすごく大きな疑問が

 湧かざるをえません。



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