地球温暖化によるサンゴへの影響
                            2013年6月23日 寺岡克哉


 文部科学省、気象庁、環境省が合同で公表した、

 「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」という統合レポートの
内容について、本サイトではシリーズで紹介していましたが、

 今回は、その中の「サンゴに対する影響」について記述されている
部分を、紹介したいと思います。


              * * * * *


 まず最初に、統合レポートに書かれている結論の部分を抜粋すると、
以下のようになっています。

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 海水温と酸性度に着目し気候変動予測シナリオを用いて日本
沿岸のサンゴ礁の分布域について将来予測を行なったところ、

 分布域は北上するものの、同時に、白化現象の増加域とサンゴ骨格
の形成に適さない酸性化域
に挟まれる形となった。

 結果として、日本沿岸の熱帯・亜熱帯サンゴ礁の分布域は、2020〜
30年代に半減し、2030〜40年代には消失する
と予測されている。
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 上の文章は、ものすごく簡潔に書かれていますが、

 しかしその裏には、実にたくさんの内容が暗黙に含まれています。

 なので、私なりの説明で恐縮ですが、上の太字の部分について補足を
してみたいと思います。



海水温と酸性度に着目し・・・ 

 温室効果ガスである二酸化炭素が大量に排出されると、地球が温暖化
して「海水温の上昇」が起こりますが、
 二酸化炭素が海水に溶け込むことによって、「海水の酸性化」も起こり
ます。

 これら「海水温の上昇」と「海水の酸性化」は、すでに現実に起こって
いることが確認されており、
 たとえば日本付近の海面水温は、1900〜2012年までの観測で、
100年あたり0.63〜1.72℃上昇しています。

 また、日本の南方海域(東経137度、北緯10〜30度)における、
表面海水の水素イオン濃度(pH)は、
 1984〜2012年の冬季の観測で、10年あたり0.014〜0.018の
ペースで低下しています(海水が酸性化するとpHは低下します)。



気候変動予測シナリオを用いて・・・ 

 ここで使われていたシナリオは、「A2シナリオ」でした。

 これは、2100年の時点で、大気中の二酸化炭素濃度が840ppmに
増加するというシナリオです。
 (ちなみに、産業革命前の二酸化炭素濃度は約280ppmで、2011年
現在では390.9ppmになっています。)

 IPCCの第4次評価報告書によると、この「A2シナリオ」では、

 21世紀末(2090〜2099年)における「世界の平均気温」が、1980
〜1999年の平均と比較して、3.4℃上昇すると予測されています。



白化現象・・・ 

 岩やテーブル、草木のような形をした、いわゆる「サンゴ」と呼ばれるもの。
それは、「サンゴ虫」という小さな腔腸動物(1ミリ程度のイソギンチャクのよ
うな生物)が分泌する、炭酸カルシウムが蓄積して出来た「サンゴの骨格」
です。

 「サンゴ虫」は、自分の体のなかに、「褐虫藻(かっちゅうそう)」と呼ばれる
植物プランクトンを取りこんでいます。つまり、サンゴ虫と褐虫藻は「共生」を
しているわけです。
 「褐虫藻」は、100分の1ミリほどの大きさで、植物と同じように光合成を
して、余分にできた栄養を「サンゴ虫」に供給しています。
 一方、「サンゴ虫」は、呼吸によって生じた二酸化炭素や、窒素やリンなど
の老廃物を「褐虫藻」に与えます。褐虫藻としては、それらを利用して、効率
よく光合成が行なえるのです。

 サンゴは、高温に弱い生物で、水温が30℃以上になると「白化現象」と
いうのが起こります。これは、サンゴ虫と共生している褐虫藻が、体外に放出
されることによって起こります。
 褐虫藻を放出した「サンゴ虫」の体は、透明になり、炭酸カルシウムの骨格
が白く透けて見えるようになります。それが「白化現象」です。(ただし色は、
黄白色に見えることも多いそうです。)

 水温が30℃以上になると、サンゴ虫が褐虫藻を放出するのは、褐虫藻の
光合成の「効率」が悪くなるからです。
 光合成の効率が悪くなると、褐虫藻は光のエネルギーを有効に使いきれな
くなり、余った光エネルギーで有害な「活性酸素」を作るようになります。
 その活性酸素が、さまざまな弊害(へいがい)をひき起こすため、サンゴ虫
は仕方がなく褐虫藻を放出すると考えられています。

 ところで、サンゴが必要とする栄養の50〜90パーセントが、褐虫藻から
の供給によってカバーされています。だから白化現象が長くつづけば、栄養
不足になって、サンゴが死滅してしまいます。

 白化現象が6ヶ月以上つづくと、サンゴの回復は難しいと言われています。



サンゴ骨格の形成に適さない酸性化域・・・ 

 水深300メートルよりも浅いところの海水には、ふつうに溶ける量よりも
多くの炭酸カルシウムが「過剰」に溶けています。それを「過飽和の状態」
といいます。

 ふつうに溶ける量の限界、つまり「飽和の状態」よりも、さらに多くの炭酸
カルシウムが溶けているなんて不思議ですが、微妙な条件のもとに「過飽
和の状態」は起こりえるのです。

 海は、そのような「過飽和の状態」になっているので、ちょっとしたキッカケ
さえあれば、簡単に炭酸カルシウムを海水から取りだすことが出来ます。

 それでサンゴは、炭酸カルシウムを利用して骨格を作っているわけです。

 ところで、海水のpHが下がる(酸性化する)と、海水の「炭酸カルシウムを
溶かす能力」が大きくなります。つまり、海水の「過飽和の度合い」が下がる
わけです。この「過飽和の度合い」を表すのに、「過飽和度」という値を使い
ます。

 過飽和度が1のときが「飽和」の状態。過飽和度が1より大きくなれば
「過飽和」の状態。そして過飽和度が1より小さいときは、まだ飽和に達して
いない「未飽和」の状態です。

 現在、日本沿岸の海水は、過飽和度が2.0〜3.4の状態にありますが、
しかしこれは、飽和量の2.0倍〜3.4倍の炭酸カルシウムが、海水に溶け
ている訳ではありません。「過飽和度」は、難しい理論によって求められる
値なのです。

 しかしとにかく、過飽和度が大きければ大きいほど、海水から炭酸カル
シウムが取り出しやすくなり、もしも過飽和度が1より小さくなれば、逆に、
炭酸カルシウムが海水に溶け出すようになります。

 海水のpHが下がる(酸性化する)と、この「炭酸カルシウムの過飽和度」
が小さくなるわけです。
 しかしながら、pHが同じ値であっても、海水の温度が変われば、「過飽和
度」の値は違ってきます。
 たとえば現在、海水の平均的なpHは8.06ぐらいですが、それがもしも、
pHが7.84まで下がっとしたら、
 水温が25℃のときは過飽和度が2.5ぐらいですが、水温が2℃のとき
は過飽和度が1になってしまいます。
 つまり炭酸カルシウムは、水温の低い方が溶けやすいのです。だから、
冷たい北の海域ほど、酸性化の問題が深刻になります。

 ちなみに、サンゴの育成に適した過飽和度は3.5以上であり、過飽和
度が3.0以下になると、サンゴの成長は著しく悪くなります。

 そして一方、A2シナリオの下でのシミュレーション結果(統合レポート 
47ページの図3.2.26)によると、
 2040年までに、日本沿岸の過飽和度は、もっとも高い海域でも2.8
以下となってしまいます。

 このため、日本沿岸におけるサンゴ礁の生息域は、消失してしまうと
予測されています。



2020〜30年代に半減し、2030〜40年代には消失する・・・ 

 統合レポート 46ページの図3.2.25をみると、熱帯・亜熱帯性サン
ゴ礁の生息域は、2020年代で半減し、2030年代で消失しています。

 なので、上の文は、「2020〜30年に半減し、2030年〜40年には
消失する」の、記述間違いではないかと思われます。


              * * * * *


 以上、ここまで見てきて、私は思うのですが・・・ 


 世界のサンゴ礁には、地球の海に生きる魚のうち、その3分の2の
種が棲むといわれています。

 このようにサンゴ礁は、とても豊かな生態系を作っているのです。


 なので、

 日本沿岸の熱帯・亜熱帯サンゴ礁の生息域が、2040年までに
消失してしまうというのは、


 生態系の保全にとって、ものすごく深刻な事態だと言わざるをえ
ません!




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