原発事故は継続中 7
                           2013年7月14日 寺岡克哉


 福島第1原発事故の収束作業を指揮した、吉田 元所長が、7月9日
に食道がんのために亡くなりました。享年58歳でした。ご冥福をお祈り
します。

 吉田さんに対しては、原子炉への海水注入の中断を求める東京電力
本店の指示を無視して独断で注入を続けるなど、事故対応への毅然(き
ぜん)とした態度が評価されています。


 しかし、その一方で、

 吉田さんが原子力設備管理部長だった2008年。従来の想定を大幅に
上回る「最大15.7メートル」の津波が原発に押し寄せるとの試算結果を
知りながら、
 「最も厳しい仮定を置いた試算に過ぎない」として、防潮堤などの津波
対策を取らなかったという過失もありました。


 とにかく吉田さんは、原発事故の真相究明において、最大のカギを握る
人物であり、
 まだまだ闇に隠された真実が、たくさんあるとしか思えない今の現段階
での早すぎる死は、ものすごく悔やまれてなりません。


               * * * * *


 さて、

 福島第1原発の敷地内に掘られた「観測用の井戸」の水から、高い濃度
の放射性物質が検出されている問題について、前回以降の経過を見て
行きたいと思います。

 しかし、その前に、

 話を分かりやすくするため、観測用の井戸にたいして、ここで便宜(べん
ぎ)的に名前を付け、前回の内容をまとめると以下のようになります。

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観測井戸A
 2号機タービン建屋の東側(海側)、海から約25メートルの距離に掘った
井戸で、東京電力が「地下水観測孔No.1」と呼んでいるもの。
 最初に問題になった井戸で、5月24日に採取した水から、ストロンチウ
ム90が1リットルあたり1000ベクレル、トリチウム(三重水素)が1リットル
あたり50万ベクレル検出された。

観測井戸B
 観測井戸Aよりも東側(海側)、海から4〜6メートル(報道によって違う)
の距離に掘った、海にいちばん近い井戸で、東京電力が「地下水観測孔
No.1−1」と呼んでいるもの。
 6月28日に採取した水から、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性
物質が1リットルあたり3000ベクレル、トリチウムが1リットルあたり43万
ベクレル検出された。
 また、7月1日に採取した水から、ベータ線を出す放射性物質が4300
ベクレル検出された。

観測井戸C
 観測井戸Aの南側約23メートル、海から約25メートルの距離に掘った
井戸で、東京電力が「地下水観測孔No.1−2」と呼んでいるもの。
 7月5日に採取した水から、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性
物質か1リットルあたり90万ベクレル検出された。
 この観測井戸Cは、2011年4月に高濃度汚染水が海に流出した場所
の近くにある。
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 それでは、前回以後の経過について、見て行きましょう。


              * * * * *


 東京電力は7月7日。

 観測井戸Bにおいて7月5日に採取した水から、トリチウムが1リットル
あたり60万ベクレル検出されたと発表しました。

 これは、国が定めたトリチウムの海への放出基準(1リットルあたり6万
ベクレル)に比べて10倍の濃度です。


 ちなみに、

 おなじ井戸において、これまで検出されたトリチウムの最悪値は、7月
1日に採取した水の、1リットルあたり51万ベクレルでした。

 東京電力は、「2011年4月に海に漏れた高濃度汚染水の一部が地中
に残留した影響とみられ、海に流出しているか確認中」としています。


              * * * * *


 東京電力は7月9日。

 観測井戸Cにおいて、放射性セシウムの濃度が3日間で90倍に急上昇
し、過去最高の値になったと発表しました。



 つまり、

 7月5日に採取した水では、セシウム134が1リットルあたり99ベクレル、
セシウム137が1リットルあたり210ベクレルだったのが、

 7月8日に採取した水では、セシウム134が1リットルあたり9000ベクレ
ル、セシウム137が1リットルあたり18000ベクレルに上昇したのです。

 この3日間で、セシウム134は90.9倍、セシウム137は85.7倍に
上昇しています。



 東京電力は、この濃度上昇について、

 原子炉や建屋内にたまっている汚染水が漏れた可能性があるほか、

 2011年4月の高濃度汚染水漏れで、土の中などにたまっていた放射性
セシウムがしみ出した可能性、

 あるいは、測定した水に、セシウムを含んだ井戸周辺の土などが混入
した可能性も考えられるとしています。

 その一方で、

 およそ25メートル離れた海に流出していることは、「現時点では判断でき
ない」として認めていません。


              * * * * *


 7月10日。

 東京電力は、観測井戸Cから7月9日に採取した水で、セシウム濃度が
さらに上昇したと発表しました。

 セシウム134が1リットルあたり11000ベクレル、セシウム137が1リット
ルあたり22000ベクレル検出されています。

 東京電力はこれまで、

 「セシウムは土壌に吸着しやすい性質があるため、地下水の濃度は低い
はず。測定時に汚染された泥が混入した可能性がある」との見方を示して
います。



 同日。

 原子力規制委員会は、「高濃度汚染水が地中に漏れ、海洋への拡散が
強く疑われる」という見解を表明しました。

 つまり、

 東京電力が、2011年4月に2号機の近くで海に流出した高濃度汚染水
が地面にしみ込み、検出された可能性があると説明していたのに対し、

 原子力規制委員会は7月10日の会合で、土に吸着されやすいセシウム
が3号機や4号機近くの井戸でも検出されているとして、2011年4月の
汚染水だけを理由とするのには疑問があるとしました。

 その上で、

 放射性物質が港で採取した海水からも高い値で検出されているとして、
「高濃度汚染水が地中に漏れ出したうえで、海へ広がっていることが強く
疑われる」という見解を示し、

 近く、専門家も参加したワーキンググループを立ち上げて、原因究明や
対策を検討することになりました。

 原子力規制委員会の田中委員長は、

 「原因を突きとめないと適切な対策ができない。最優先で対策を立てる
ために、専門的な検討を重ねていく必要がある」と述べています。

 一方、東京電力は、

 「規制委員会の指示に対し今後、真摯に対応したい」と話しています。



 同日の夕方。

 東京電力は、観測井戸Cで採取した水のセシウム濃度が急上昇した問題
について、
 高濃度のセシウムが付着した井戸周辺の土が、水に混入したことが原因
と見られると発表しました。

 東京電力が原因を調べるため、7月9日に採取した水(セシウム134が
1リットルあたり11000ベクレル、セシウム137が1リットルあたり22000
ベクレル検出された水)を「ろ過」して再検査したところ、

 セシウム134が1リットルあたり130ベクレル、セシウム137が1リットル
あたり270ベクレルに下がり、残った土などから高濃度のセシウムが検出
されました。

 東京電力は、「セシウム濃度だけが高かったので、どういうメカニズムか
調べるため、ろ過した。放射性物質がどう広がっていくか検討する必要が
ある」と話しています。

 しかしながら、「なぜ土が混入したか?」については説明していません。


              * * * * *


 7月12日。

 東京電力は、これまで低い値が続いていた3号機タービン建屋の東側
(海側)にある観測用の井戸(観測井戸Aの南約210メートル、海から
約25メートルの距離にあり、東京電力が「地下水観測孔No.3」と呼んで
いるもの)において、

 7月11日に採取した水から、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性
物質が、1リットルあたり1400ベクレル検出されたと発表しました。

 おなじ井戸で、7月4日に採取した水では、検出限界値未満(1リットル
あたり18ベクレル)だったといいます。



 同日。

 東京電力は、観測井戸Bにおいて7月8日に採取した水から、トリチウム
が1リットルあたり63万ベクレル検出されたと発表しました。

 この井戸における、これまでの最高値は、7月5日に採取した水の1リッ
トルあたり60万ベクレルでしたから、その記録を更新したことになります。



 同7月12日。

 東京電力は、観測井戸Aの西側(建屋側)にある井戸(東京電力が「地下
水観測孔No.1−3」と呼んでいるもの)において、

 同日に採取した水から、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が
1リットルあたり92000ベクレル検出されたと発表しました。

 観測井戸Aの南側(観測井戸C)だけでなく、西側の井戸でも高い濃度の
放射性物質が観測されたことで、
 2011年4月に漏れ出した高濃度汚染水の他にも、地中に漏れたルート
がある可能性が出てきました。


              * * * * *


 以上、7月12日までの経緯をみてきました。


 じつは、

 原子力規制委員会の田中委員長が、7月10日の会見で、

 「海洋汚染は大なり小なり続いていると思う」と、述べていたの
ですが、

 まったく、その通りだと私も思います。


 また、

 福島第1原発の北10キロ圏にある請戸漁港の復旧計画を立てて
いる、浪江町の馬場町長は、

 「汚染源を解明し、早急に対策を打つべきだ」と憤っていますが、

 これも、まったく尤(もっと)もなことだと思います。


 事故発生から2年以上経っているのに、

 福島第1原発は、いま現在でもまだ、このような状態なのです。



 今後、

 日本の各地で、原発再稼動に向けた動きが起こってくるでしょうが、

 再稼動に賛成している人々は、福島第1原発の現状から目を背(そむ)け
てはならないと、

 ここで強く主張したいと思います。



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