原発事故は継続中 10
                           2013年9月1日 寺岡克哉


 本サイトでは、

 福島第1原発でトラブルが発生するたびに、「原発事故は継続中」
という記事をシリーズで載せており、

 原発事故が、けっして「終息」などしていないことを、訴えつづけて
います。


             * * * * *


 東京電力は8月24日。

 300トンの「高レベル汚染水」が漏れたタンクは、最初に設置した場所
で地盤沈下が起きたために、解体して移設し、「使い回したもの」だった
と発表しました。

 東京電力は、「移設したことと汚染水漏れとの因果関係は不明」とした
うえで、地盤沈下によって鋼材がゆがみ、接合部から漏えいした可能性
があることを認めました。



 ちなみに、

 このタンクに関して、原発事故の復旧作業を行なっている東電協力会社
の会長(72歳)は、毎日新聞の取材にたいして、

 「タンクは工期が短く、金もなるべくかけずに作った。長期間耐えられる
構造ではない」と証言しています。

 この会長が、東京電力の幹部やゼネコン関係者から聞いた話では、この
たび水漏れを起こしたタンクは、設置工事の時間が短かったうえ、東京
電力の財務事情から安上がりにすることが求められていました。

 タンクは組み立て式で、猛暑によってボルトや水漏れを防ぐパッキンの
劣化が、通常よりも早まる可能性も指摘されていたと言います。

 この東電協力会社の会長は、「野ざらしで太陽光線が当たり、中の汚染
水の温度は気温より高いはず。(タンクの)構造を考えれば水漏れは驚く
ことではなく、現場の感覚では織り込み済みの事態だ。
現場の東電の
スタッフも心配はしていた」と明かしています。


             * * * * *


 東京電力は8月26日。

 300トンの汚染水が漏れたタンクを含む、26基のタンク群が設置されて
いる区画(H4区画)を調べた結果、

 最初に水たまりが見つかった地点とは反対の南側で、毎時16ミリシーベ
ルトの高い放射線量を計測したと発表しました。



 東京電力によると、

 社員3人が同日、H4区画を囲む漏出防止のための「堰(せき)」に設けら
れた排水用の開閉弁24ヶ所の空間線量を測定しました。

 その結果、漏れたタンクから約30メートル南側にある弁の近くで、高い
放射線量が確認されたのです。

 水たまりは出来ていませんでしたが、開いたままの弁から汚染水が漏れ
出た可能性があります。

 東京電力は、「汚染が拡大している可能性が高い」とみて、周辺の土壌
を回収する予定ですが、時期や範囲などは決まっていません。


             * * * * *


 8月27日。

 この日に、原子力規制委員会の汚染水対策作業部会が開かれました
が、

 その場で東京電力は、これまでのパトロールで、タンクから離れた所に
ある水たまりの放射線量を、測定していなかったことを明らかにしました。



 東京電力によると、

 パトロールは1日2回行なっていましたが、担当者が9人しかおらず、
2人で1回に930基のタンクの見回りを行っていました。

 タンクから離れた所にある水たまりなどは、降雨の影響と判断して、
線量計で測定していませんでした。記録も残していないと言います。

 東京電力は、「異常の検知は(個人の)経験に頼る面が大きかった」
と説明しており、

 パトロールで担当者が同じ区画を巡回するのは、5日に1回程度に
すぎず、問題があったことを認めました。


             * * * * *


 8月28日。

 東京電力は、この日までに、

 タンクからの漏出は、7月9日前後に始まった可能性が高いとの見方
を明らかにしました。

 付近にいた作業員の被ばく量が、7月9日ごろから上昇したことを、
その根拠として挙げています。

 それが事実だとすれば、300トンの汚染水漏れが見つかる8月19日
までの1ヵ月以上にわたって、漏出を見逃し続けていたことになります。


 漏出が見つかった「H4区画」のタンク群から、およそ20メートル離れた
無線中継所では、2人〜3人の作業員が、毎日およそ2時間、構内の無線
中継に当たっていました。

 7月8日までは、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質による
被ばくがほとんどなかったのに、

 7月9日には、1回の作業で最大0.1ミリシーベルトの被ばくが確認され
ました。

 その後も、被ばく量はだんだん上昇していき、8月の中旬には、一回の
作業でおよそ1ミリシーベルトに達し、建屋内の作業なみの被ばく量となっ
たのです。

 無線中継所は、H4区画から漏れた汚染水が、排水溝に流れた経路の
近くにあり、中継所付近の土の表面からは、毎時96ミリシーベルトのベー
タ線が計測されています。

 このため作業員は、中継所近くを流れた汚染水や、汚染された土で
被ばくしたと見られます。


 もしも東京電力が、こうした異変を重視し、タンク周辺の放射線量を調べ
るなどの対応を取っていれば、

 少量のうちに水漏れが把握でき、300トンもの大量漏出にはならなかっ
たと考えられます。

(しかしそれ以前に、漏出を防ぐための堰(せき)の排水弁を、開けっ放し
にしてたことの方が、さらにもっと問題なのですが・・・ )



 同8月28日。

 原子力規制委員会は定例会合を開き、このたびの汚染水漏れ事故に
たいして、

 INES(原子力事故の国際評価尺度)における「レベル3(重大な
異常事象)」とすることを、正式に決定しました。


 INESは本来、健全な施設で発生した事故を想定しています。そのため
規制委員会は、「レベル1」から「レベル3」への再評価案を保留し、今回
のような事故処理の過程で発生したトラブルに適用できるかどうかにつ
いて、IAEA(国際原子力機関)に問い合わせをしていました。


 IAEAからの回答は、

 1.事故収束に向けた応急施設にもINESは適用される。

 2.漏えい問題を原発事故と切り離して検討することも可能。

 というものでした。

 それで規制委員会は、8月28日の定例会で、「レベル3」とすることを
正式に決めたのです。


             * * * * *


 以上、ここまで見てきて思ったのですが、

 たった2人で、930基ものタンクを見回っていた・・・ 



 前回の「エッセイ601」で私は、点検記録が残されていなかったことに
ついて、

 「点検記録は、わざと残さなかったか、あるいは過失の証拠が残らない
ように闇に葬(ほうむ)ったのではないか?」という憶測を書きました。

 しかし、たった2人による点検では、人員が足りなすぎて記録を取るどこ
ろではなかったでしょう。



 さらに、その一方では、

 漏出したタンクに関して、原発事故の復旧作業を行なっている東電協力
会社の会長(72歳)が、毎日新聞の取材にたいし、

 「タンクは工期が短く、金もなるべくかけずに作った。長期間耐えら
れる構造ではない」


 「(タンクの)構造を考えれば水漏れは驚くことではなく、現場の感覚
では織り込み済みの事態だ」


 「現場の東電のスタッフも心配はしていた」

 などなどの証言しています。



 つまり東京電力は、

 タンクから「高レベル汚染水」が漏れ出しても、当然だと考えていた
わけです。


 それなのに、汚染水の流出を防ぐ「堰(せき)」の排出弁を、開けっ
放しにしていたのです!




 さらには、

 排出弁を開けっ放しにしていたがために、300トンもの「高レベル
汚染水」を、堰の外部へ流出させてしまい、


 INESの「レベル3(重大な異常事象)」という評価が、決定的となっ
たわけです。




 タンクからの漏出を当然と考えていながら、堰(せき)の排出弁を
開けっ放しにしていた!


 この過失責任は、ものすごく大きいと言わざるを得ません。

 しかも、こんな「デタラメ」で「ムチャクチャ」なことをする会社が、原発
の再稼動を目指しているわけです。

 それを思うと、ほんとうに心の底から「ゾッ」とします。



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