温暖化影響評価 2014報告書
                             2014年3月30日 寺岡克哉


 環境省は3月17日。

 環境省環境研究総合推進費 戦略研究開発領域 S−8 温暖化影響
評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 を発表しました。

 サブタイトルとして、地球温暖化「日本への影響」 −新たなシナリオに
基づく総合的影響予測と適応策− というのが付けられており、

 平成22〜25年度までの、4年間の研究成果を取りまとめたものです。



 ちなみに、この研究プロジェクトは、

 茨城大学の三村信男さん(学長補佐・地球変動適応科学研究機関長)
をプロジェクトリーダーとし、

 茨城大学のほか、国立環境研究所、筑波大学、独立行政法人海洋研究
開発機構、北海道大学、東京大学、東北大学、国立保健医療科学院、
東洋大学、福島大学、国土技術政策総合研究所、静岡大学、森林総合
研究所、農業環境技術研究所、農業・食品産業技術総合研究機構果樹
研究所、埼玉県環境科学国際センター、大阪府立大学看護学部、長崎
大学、国立感染症研究所、名城大学、東北文化学園大学、兵庫県立大学、
日本総合研究所、法政大学、東京都環境科学研究所、長野県環境保全
研究所、九州大学、山梨大学医学工学総合研究部、地球環境戦略研究
機関(IGES)、国際連合大学サステイナビリティと平和研究所、高知大学、
京都大学霊長類研究所、神戸大学、慶応義塾大学

 の、34もの研究機関や大学が参加している、とても大規模なものです。


                * * * * *


 この報告書は、A4版で42ページもあり、

 洪水や高潮、熱中症、生態系など、地球温暖化のさまざまな影響や被害
について、

 各都道府県の地域別に、細かく分析されています。



 ところで、地球温暖化による被害は、

 温室効果ガスの排出シナリオの違い(つまり、大気中の二酸化炭素濃度
の違い)、

 あるいは、気候モデル(シミュレーション・ソフト)の違い、

 さらには、温暖化対策(適応策)を行なうのか、行なわないのかによって、

 大きく変わってきます。



 それら、すべての場合について紹介するのは大変なので、

 ここでは、「最悪の場合」における、日本全国の「総合的な被害」
ついてのみ、

 紹介することにしましょう。


               * * * * *


 この報告書における「最悪の場合」というのは、

 2100年の時点で、大気中の二酸化炭素濃度が936ppmになり、

 基準期間(1981〜2000年)にたいして、今世紀末(2081〜2100年)
には、

 日本における1年間の平均気温が、6.4℃上昇し、

 日本における1年間の降水量が、1.16倍になり、

 日本における周囲の海面上昇が、63センチになり、

 さらには、温暖化対策(適応策)を、まったく行なわなかった場合
です。



 このような条件で、

 温暖化のさまざまな影響による、日本全国の1年あたりの被害額
(基準期間との差)は、

 以下のようになっています。


     −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        被害の種類     基準期間との差

         洪水被害     4809億円/年

         斜面崩壊       31億円/年

         高潮被害     2592億円/年

         砂浜消失     1251億円/年

         干潟消失      150億円/年

         ブナ林消失    2719億円/年

         熱中症死亡    5218億円/年

         合計      1兆6770億円/年
     −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 なんと、合計で1兆6770億円!

 「最悪の場合」は、毎年、毎年、これほどの被害が出るようになるの
です。


               * * * * *


 もちろん、

 上で紹介したのは「最悪の場合」であり、実際には、もっと小さな被害額
で済むかもしれません。

 しかし、

 温暖化が進めば、現在よりも被害が大きくなるのは、絶対に間違い
ないのです。

 たとえば、

 「洪水被害」の場合、じつは基準期間(1981〜2000年)においても、
毎年2000億円の被害が出ています。

 「最悪の場合」は、それに4809億円が加算されて、毎年6809億円
の被害額になるということです。

 だから「最悪の場合」でなくても、温暖化が進めば進むほど、毎年2000
億円の被害額に、さらに加算される被害額が大きくなって行くわけです。



 しかも、

 温暖化による被害は、この報告書で挙げられているものだけで、全て
ではありません。

 報告書では、今後の課題として、

・スーパー台風、集中豪雨、渇水など、極端現象による最悪な場合の
 影響の推定。

・海外で発生した被害が、貿易等を通じて我が国に波及する影響の予測。

・少子高齢化など、他の社会的、環境的変化と合わせた総合的なリスク
 評価。

・生態系の変化や、文化への影響など、長い時間をかけて徐々に生じる
 影響の評価。

 などが、挙げられています。



 つまり、

 温暖化による被害の「全体像の把握」は、まだまだ研究途上で、
よく分かっていない種類の被害も、多々存在しているわけです。


 だから「実際の被害額」が、上で紹介した「最悪の場合」よりも、
さらに大きくなる可能性は、けっして否定できません!




 なので、

 温暖化による被害を把握するための研究を、さらに進めていくのと共に、

 温室効果ガスの排出量を、世界的な規模で削減して行くこと(温暖化
対策における「緩和策」)と、

 あるていど温暖化が進んでしまった場合でも、堤防を強化したり、暑さに
強い農作物を作るなどして、被害をできるだけ小さく抑えるように手を打つ
こと(温暖化対策における「適応策」)が、

 今後、どうしても必要になって行くのは、絶対に間違いありません!



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