イスラム国 3            2014年9月7日 寺岡克哉


 8月8日以降から、

 「イスラム国」にたいして、アメリカ軍による「空爆」が続けられています。



 その結果、

 8月18日には、イスラム国に制圧されていた、イラク最大のダムである
「モスルダム」を奪還し、

 さらに8月31日には、イラク北部にある都市の「アメルリ」が、イラク政府
の管轄下にもどりました。



 しかしながら「イスラム国」は、いま現在でもなお、

 シリアの国土の3分の1と、イラクの国土の3分の1を制圧しており、両方
を合わせるとイギリスの国土面積にも匹敵します。

 しかも、その配下には、8000人~20000人もの戦闘員を抱えている
といいます。



 さらに「イスラム国」は、多数の石油施設を占拠しており、国内や国外に
おいて「石油の密売網」を確立しました。

 そのような石油の密売により、推計で1日あたり100万~300万ドル
(およそ1億~3億1千万円)の収入を得るなど、安定した資金源を確保し
ています。



 アメリカのヘーゲル国防長官は、「イスラム国」について、

 「資金も豊富で、高度な戦術をもつなど、テロ組織の枠組みを超えてい
る。かつて見たことのない存在だ」

 と述べて、つよい警戒感を表明しています。



 ところで・・・ 

 なぜ「イスラム国」は、こんなにも勢力を拡大できたのでしょう?

 今回は、そのことについて調べてみたいと思いました。


              * * * * *


 まず第一に、2004年に入ると、

 「イラクとシリアのイスラム国(イスラム国の前身)」は、シリアの反アサド
政権組織から、武器の提供や、戦闘員の増員を受けました。

 このときに、「イラクとシリアのイスラム国」は、軍事力を急速に強化した
のです。


 さらには、アメリカ政府が、

 シリアのアサド政権を打倒するために、「イラクとシリアのイスラム国」に
武器を供与していました。

 アメリカ上院のランド・ポール共和党議員は、CNNのインタビューにたい
して、

 「”イラクとシリアのイスラム国”が強化された理由のひとつは、アメリカが
シリアのこの組織のメンバーに兵器を移送したことにある」と、証言してい
ます。

 また同議員は、「シリアの”イラクとシリアのイスラム国”は、アメリカと同盟
関係にあったが、アメリカ政府は、シリア政府を支持する勢力を後退させる
ため、シリアの民兵に兵器を供与し、彼らのために安全な場所を用意した」
という、証言もしているのです。



 そして、さらには、

 「イラクとシリアのイスラム国」が、イラクに侵攻するようになると、

 撤退したイラク軍が放棄した武器庫を押さえて、戦車や、携帯式地対空
ミサイル、ヘリコプターなどを奪いました。



 このような理由で、

 現在の「イスラム国」は、テロリストが一般的に使っている武器だけで
なく、

 アメリカから供与されたり、イラク軍から奪ったアメリカ製の武器、つまり
「性能が高くて強力な武器」を大量に持っているのです。

 まずこれが、勢力を拡大できた理由の1つだと考えられます。


            * * * * *


 つぎに、

 イスラム国は、敵対する兵士を殺害している映像を公開するなど、極め
て残虐な手口を見せることで恐怖心をあおり、服従をせまっています。

 異教徒にたいしては、イスラム教への改宗を強要し、それを拒否すれ
ば殺害もためらいません。

 イラクの北部では、少数派の「ヤジディ教徒」の住民が、500人以上も
殺害されたと言われています。

 このように「イスラム国」は、「暴力と恐怖による支配」によって、制圧
地域を拡大してきたとされています。



 ところが一方、

 「”イスラム国”が勢力を拡大した大きな要因は、効率的で、時として
極めて現実的でもある統治能力にこそある」と語る、現地住民たちもいる
のです。

 イスラム国は、無分別に暴力を行使している訳ではありません。

 たとえば、自分たちの利益になるのなら、敵対しているアサド政権に
忠誠的な実業家と取引することもあります。

 イスラム国が制圧した「ラッカ」という都市では、パン屋向けの小麦粉の
製粉と流通を担っているのは元アサド派であり、

 電気と水を供給している現地のダムでも、以前からの従業員たちが
職務を遂行しているということです。



 このように、

 元アサド派を積極的に使う姿勢は、イスラム国の「現実主義」を反映し
ており、

 現地の住民や活動家は、そのような現実主義こそ、制圧した地域の
支配を継続するのに不可欠な要素だと指摘しています。



 また、イスラム国は、

 長引く内戦で疲弊したシリアの住民に食糧を配ったり、イラクで制圧
した都市では住民にガソリンを配給するなど、生活の支援をしていると
いいます。

 貧困家庭への支援もあり、母子家庭には1人につき100ドルが支払わ
れることもあるそうです。

 物価も低く抑えられており、価格の操作をおこなう業者は罰せられ、
警告に従わない場合は店舗を閉鎖させられるということです。



 どうやらイスラム国は、

 「暴力と恐怖による支配」だけでなく、「住民に支持される政策」も行って
いるみたいです。

 もしも本当に、そのような「良い政策」も実行しているのなら、イスラム国
の勢力が拡大するのも当然でしょう。


             * * * * *


 さらにまた、

 イスラム国は、世界中から戦闘員を集めることに成功しています。

 アメリカ政府によると、「イスラム国」には、欧米などおよそ50ヶ国から
数千人が加わっているとされています。



 その要因の1つが、インターネットによる巧みな宣伝活動であり、おも
なターゲットは、社会に不満をもつ若者たちだといいます。

 欧米諸国への「移民の人々」が抱えている、差別や貧困、疎外感
などを刺激したり、

 裕福な家庭に育っても、社会になじめない若者の「現状を変えたい」
という、一種の「破壊願望」を刺激したりして、

 イスラム国は、「聖戦」への勧誘を続けているのです。



 イスラム過激派組織の動向について調べている専門家は、

 「現地の社会で自己実現の手段や機会を見いだせない階層を勧誘し、
あおって戦闘に使っている」

 「欧米社会が取るべき教育政策の矛盾や取りこぼしが、紛争地に押し
つけられている構図がある」

 と、指摘しています。



 また、イスラム国のバグダディ指導者は、

 自分を、預言者ムハンマドの後継者であるとして、「カリフ国家」の樹立
を宣言しましたが、

 これには、聖戦主義者たちを海外から呼び寄せる狙いもありました。

 バグダディの支持者たちによれば、この宣言にたいして、世界中の多く
の人が反応したということです。



 戦闘員の1人は、

 「3日おきに、少なくても1000人は迎えている」

 「宿泊施設は聖戦戦士であふれており、彼らを受け入れる場所が足りな
くなっている」と語っています。

 このように、

 世界中から戦闘員を集めるのに成功していることも、イスラム国の勢力が
拡大している、要因の1つとなっているのです。


            * * * * *


 以上、ここまで見てきて思ったのですが・・・ 


 そもそも「イスラム国」が台頭したのは、

 シリアの反アサド政権側の組織に、アメリカが武器を供与したためで、

 アメリカが「自分で蒔(ま)いた種」だという感が否めません。



 また、

 「暴力と恐怖による支配」だけなら、いつかは住民の支持を失って、
イスラム国は自然に崩壊すると思っていましたが、

 現地住民の支持が得られるような政策を行っているのなら、イスラム
国の勢力がさらに拡大する可能性も、けっして否定できないでしょう。



 アメリカのオバマ大統領は、

 「イスラム国を解体し、破壊する」という発言をしていますが、

 それを実現することは、なかなか難しいような気がしてなりません。



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