指定廃棄物の問題点 2
                           2014年11月23日 寺岡克哉


 前回に引きつづき

 「指定廃棄物の問題点」についてレポートしたいと思います。


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 さて、

 
廃棄物に含まれる放射性物質が、1キログラムあたり8000ベクレル超
~数10万ベクレルにまで及ぶもの(つまり指定廃棄物)は、

 環境省によると、12都県で今年の6月末現在において、

 およそ14万6000トンにも上っており、その内訳は以下のようになっ
ています。

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     福島県  12万1340トン
     栃木県   1万 510トン
     茨城県     3532トン
     千葉県     3663トン
     宮城県     3291トン
     群馬県     1186トン
     新潟県     1017トン
     東京都      981トン
     岩手県      468トン
     静岡県        8.6トン
    神奈川県       2.9トン
     山形県        2.7トン
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 この表を見ると、

 まず第1に、やはり指定廃棄物は福島県がものすごく多くて、なんと
全体の83%を占めています。

 また、栃木、茨城、千葉など関東の県が、東北の宮城県よりも多いの
には、すこし驚きました。

 そして東京都も、かなりの量の指定廃棄物が存在しており、放射性
物質にずいぶん汚染されていることが分かります。


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 ところで、

 14万6000トンにも上っている、これらの「指定廃棄物」は、

 現在のところ、ごみ焼却施設や浄水施設、下水処理施設、そして農家
の土地などに、「仮置き」されています。



 この「仮置き」というのは、

 指定廃棄物を袋詰めにしたり、ビニールシートをかぶせたり、あるいは
ビニールハウスの中で保管するなどの「簡易的」なもので、

 環境省は、「短期的な安全性は確保されているものの、長期的な安全
性を確保するための対策が必要」としています。



 そして、

 たとえば栃木県は、指定廃棄物が1万510トンと、福島県に次いで多い
県ですが、

 この県では現在、農家や事業所など県内の「およそ170ヶ所」ものたく
さんの場所に分散して、「仮置き」がされています。



 そしてまた、

 たとえば宮城県では、指定廃棄物として「稲わら」が多いのですが、

 それらは「個人の農地」を借りて、ビニールハウスに遮光性のカーテン
をかぶせた状態で保管しています。

 しかし、2014年の3月で、当初に約束した保管期限はすでに切れて
いるのです。



 このように、指定廃棄物の「仮置き」は、

 長期的な安全性が確保されていないこと。

 何100ヶ所もの多数の場所に、分散して保管されていること。

 個人と契約した保管期限が、すでに切れていること。

 これらの理由から国は、「最終処分場の必要性」を強く主張している
のだと思います。


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 そして国は、

 福島県を除いた、廃棄物が比較的多い、栃木、茨城、千葉、宮城、
群馬の5県について、

 「放射性物質汚染対処特措法」と、「国の基本方針」に基づいて、

 各県に1ヶ所ずつ、指定廃棄物の「最終処分場」を建設する計画を
立てています。



 一方、福島県については、

 富岡町の民間の施設で最終処分する方針が示されており、協議が
進められています。

 また、1キログラムあたり10万ベクレルを超えるものについては、
「中間貯蔵施設」に保管することになっています。



 しかし何故(なぜ)か、

 東京都を含む、その他の県については、指定廃棄物の「処分方針」が
決まっていません。


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 ところが!

 栃木、茨城、千葉、宮城、群馬の5県における、最終処分場の候補地
をめぐっては、

 栃木県(塩谷町)と、宮城県(栗原市、加美町、大和町)の候補地の、
それら全てが最終処分場の建設に反対しており、

 茨城、千葉、群馬の3県においては、候補地の提示にさえ至っていま
せん。



 そのような状況の中で11月6日。栃木県の候補地となっている塩谷
町は、

 指定廃棄物を各県で処理するという「国の方針」を見直し、

 福島第1原発周辺の「帰還困難区域」にまとめて中間貯蔵を行い、

 最終的には、「原発の敷地内」で最終処分を行うように求める提案を
まとめたのでした。



 しかしながら環境省は11月9日。栃木県の宇都宮市で、6回目になる
「県指定廃棄物処理促進市町村長会議」を開き、

 その中で、望月義夫・環境相は、「候補地の選定をやり直すべきだと
いう意見が出ているが、きょうの会議で選定手法を再確認したい」と述べ、
候補地の詳細調査について改めて理解を求めたのです。

 これに対して、塩谷町の見形和久・町長は、候補地の見直しを求めた
うえで、「廃棄物は居住が困難な区域に集めるべきだ」と述べて、福島第1
原発の周辺で最終処分を行うことを提案しました。

 これに対して、望月・環境相は、「原発事故で大きな被害が出た福島県
にこれ以上の負担を強いることは到底理解が得られない」と述べて、
 「特措法(放射線物質汚染対処特措法)に基づく基本方針である、(各県
1ヶ所に最終処分場を作るという)県内処理を見直すことはない」と明言
し、議論は平行線をたどっています。


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 また、同11月9日。上の会議が開かれるのを前に、塩谷町の住民たちが
宇都宮市内の中心部でデモ行進を行い、候補地の撤回を訴えました。

 デモ行進には、主催者側の発表で500人以上が参加し、プラカードや、
のぼり旗を掲げて、

 「栃木県に処分場はいらない!」、「自然を壊すな!」などのシュプレヒ
コールを上げました。



 参加した塩谷町の78歳の男性は、「処理は塩谷町ではなく福島県で行う
べきだ。とにかく賛成はできない」と話しています。

 また、塩谷町で働いている宇都宮市の43歳の女性は、「自然が豊かな
場所なので、絶対に処分場を作ってほしくないと思い参加した。環境省には
考え直してほしい」と語っています。


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 一方、

 このような最終処分場の問題について、福島県の反応ですが・・・ 



 たとえば中間貯蔵施設の候補地となっている、福島県大熊町の自治
会長を務める吉田邦夫さん(66歳)は、

 「福島県から出たものだから福島県で始末をするべきということだろうが、
原発事故は国策の結果なので大熊町民としては気分はよくありません」
と述べています。

 しかし、その一方で、「ひと言でよしあしはいえない。栃木県の人たちの
気持ちも分かるので、国がしっかりと受け止めてほしい」とも話しています。



 また、11月12日付の福島民報では、以下のような記事(抜粋)が掲載
されました。

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 東京電力福島第一原発事故で発生した放射性物質を含む指定廃棄物の最終
処分場建設をめぐり、廃棄物を本県に集めて処分する「福島集約論」がくす
ぶっている。建設候補地を抱える栃木県塩谷町の町長は今月に入り、指定廃棄
物は福島第一原発周辺で集約・処分すべきと提案した。

 同じ被災県にもかかわらず、なぜ、分断を助長するような言動がなさ
れるのか。ため息が出る。


 本県でも事故後、除染廃棄物の処理の在り方や中間貯蔵施設の建設をめぐ
り、議論がなされた。「甚大な被害を受けた地域に、さらに負担を強いるのか」
「東電の電力消費地で処分するのが筋だ」…。意見集約は難航し、県が中間
貯蔵施設の建設受け入れを国に伝えたのは9月1日だ。感情論や建前論だけで
は何も変わらない。復旧・復興に向けて進むには自前で処理するしかない。
「苦渋の決断」(佐藤雄平知事)の背景にはそんな県民の思いがある。

 最終処分場の候補地を抱える地域には風評被害や環境汚染、補償などについ
て不安や不満があるようだ。それは本県も同様だ。共通の課題があるならば、
関係する自治体が手を組んで国や東電に必要な措置や対応を求めていくべきだ。
国にとって複数の自治体に声を上げられるほど嫌なことはあるまい。逆に被災
地が対立、分断されてしまうと国への圧力も弱まる。

 望月義夫環境相は7日の記者会見で「福島県にこれ以上の負担をかけること
は理解が得られない」と述べ、現行方針を見直す考えがないことを強調した。

 当然だ。193万人余りが暮らす本県はごみ箱ではない。

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 しかしながら、

 日付が前後しますが、11月11日付の下野新聞(栃木県の地方紙)には、
以下のような記事も掲載されています。

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 指定廃棄物の最終処分場問題で、福島県富岡町の安藤正純町議(無所属)
は9日、塩谷町船生の道の駅湧水の郷しおやで開かれた講演会で

「核のごみは拡散させるべきではない。原発立地町の責任を考えたら、
栃木や宮城が困っているとなったら、私は引き受けるべきだと思う」


 と述べ、他県分の指定廃棄物を含めた富岡町での集中管理を容認する姿勢
を示した。同町内には東京電力福島第2原発が立地し、同第1原発事故に
伴う帰還困難区域などが設定されている。


 講演会は民主党の福田昭夫衆院議員事務所が主催し、町民ら約200人が
参加した。


 安藤氏は「町民へのアンケートでは約1万5千人のうち『戻りたい』は
11・9%で、高齢者が多かった。高齢者ばかりでは10年で終わり」と指摘。

「国がしっかりした処分場を富岡町に造るなら、他県の廃棄物受け入れに
反対しない」

「国は腹を決めて(帰還困難区域は)もう帰れない土地と言い、買い
上げる選択肢を住民に与えてほしい」
と注文した。

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 以上、ここまで見てきましたが、

 「これはとても難しい問題だ!」と、私には思わざるを得ませんでした。



 まず第1に、

 何100ヶ所にも分散した「仮置き」の状態を、いつまでも続けるのは
すごく危険であり、

 一刻も早く「最終処分場」を作り、そこに指定廃棄物を集めて、「長期
的な安全性」を確保しなければなりません。



 しかしながら、

 放射性物質に汚染されていない「きれいな土地」に最終処分場を
作り、わざわざ指定廃棄物で汚染させることが、

 「国が取るべき方策」であるとは、けっして思えません。



 もしも、福島の人々の気持ちを無視して「合理的」に考えるならば、

 指定廃棄物の最終処分場を、「帰還困難区域」や「福島第1原発の
敷地内」に作るのが妥当でしょう。

 しかしそれでは、福島の人々が「我慢の限界」を超えてしまうかも
知れません。



 しかしやはり、それでも国は、

 帰還困難区域の中でも、とくに汚染がひどい場所。

 たとえば、年間の被曝量が100ミリシーベルトを超えるような地域を
買い取って「国有化」し、

 十分な補償の下に、そこに最終処分場を作るのを、何とかして福島
の人々に理解してもらうこと。

 苦渋の選択ですが、それこそが「国が取るべき方策」ではないかと
思えてなりません。



 しかし国は、現在のところ、

 各県1ヶ所に最終処分場を作るという「県内処理」に、あくまでも固執
しており、

 いま上で挙げたような方策など、考えるつもりは全くないのでしょう。

 ほんとうに、「非合理的」であると言わざるを得ません。



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