アメリカ大統領選 6
                              2016年11月6日 寺岡克哉


 アメリカ大統領選挙の投票日が、目前に迫ってきました。

 今回のエッセイをアップロードした3日後(日本時間)に、投票が
行われるので、

 このエッセイを読むときには、すでに選挙結果が分かっている読者
の方も、いるかも知れませんね。


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 とにかく、

 これまで本サイトで述べてきましたように、

 トランプ候補というのは、ほんとうに滅茶苦茶な人間です!



 もしも、トランプ候補が大統領になってしまったら、

 日本だけでなく、世界中が大混乱に陥ってしまうでしょう。

 そして、アメリカの地球温暖化対策も、大きく後退してしまうのは
確実です。



 私は、何としても、クリントン候補に当選してもらいたいと願っている
のですが、

 しかし、このエッセイを書いている時点でも、まったく予断を許さない
状況になっています。


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 というのは、

 トランプ候補の「女性蔑視発言」や「セクハラ疑惑」によって支持率
を下げ、

 クリントン候補がリードを広げて、すこし安心していたのも束の間・・・ 

 FBI(アメリカ連邦捜査局)が、クリントン候補の「メール問題(注1)
を蒸し返したからです。



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注1 クリントン候補のメール問題:

 クリントン候補が、国務長官在任中の公務に、私的な電子メールアド
レスを使っていたという問題。


 それの何が問題なのかというと、

 アメリカ政府の文書は「国民が所有するもの」で、いずれは報道陣や
研究者に公開されることになっています。

 そのためアメリカ政府は、自動的に文書を収集するメカニズムを整えて
おり、

 これには、政府のシステムを通過する「電子メールの保管」も含まれて
います。


 なので、

 クリントン候補が、「国務長官在任中の公務」に私的なメールアドレス
を使用していると、

 それらのメール内容が「連邦政府の公文書」として保管されず、アメ
リカ国民の目に触れることが、永遠にできなくなる可能性があるのです。
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 さて、FBIのコミー長官は10月28日。

 メール問題を追求してきた共和党のチェイフェッツ下院監視・政府改革
委員長たちに書簡を送り、

 「FBIは別の事件を調べる中(注2)で、捜査に関わると思われるメール
の存在を知った」と、議会に報告しました。


 この場で、コミーFBI長官は、

 「これらに機密が含まれていないか調べ、捜査に与える影響を評価する
ため、捜査上の必要な措置を取る」と説明しています。


 しかしながら、

 「この素材が重要かどうかは評価できず、追加の作業を終えるまでに、
どの程度の時間を要するのかも予測できない」と、付け加えました。



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注2:

 民主党のウィーナー元下院議員と、別居中の妻でクリントン候補の
側近であるアベディン氏が使っていた、ノートパソコンの中から見つ
かったデータによって、

 クリントン候補が国務長官時代に使っていた私用アドレスとの間で
送受信されたメールが、大量に含まれている可能性が浮上しました。


 ウィーナー元下院議員は、未成年の女の子に、わいせつなメールを
送信していた疑いでFBIの捜査を受けており、

 押収したノートパソコンの中に、アベディン氏とクリントン候補との間
で交わされたメールが含まれている可能性が出てきたのです。


 アベディン氏が、クリントン国務長官の下で働いていた時期の仕事に
関係するものが、あるかどうかを特定するには、

 (つまり、公文書に匹敵する内容のメールが存在するかどうかを特定
するには)、最短でも数週間かかる見通しだといいます。

 (このように、大統領選挙の投票日までには白黒の決着がつかず、
そのような ”何も分からない状態” であるにもかかわらず、クリントン
候補の選挙戦にダメージを与えたわけです。)
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 この、コミー長官の言動にたいして、

 FBIの上部機関である「アメリカ司法省」が、「長年の慣行に反する」
として、前もって反対していたことが分かっています。



 ワシントン・ポスト紙によると、

 10月27日に新たなメールが見つかったと知った、FBIのコミー長官
は、「捜査の再開を議会に伝えるつもりだ」と司法省に報告しました。

 これに対して、司法省の複数の高官が、

 「進行中の捜査についてはコメントせず、選挙に影響を与えるような
対応は取らない」のが、司法省の政策(注3)だと伝えていたのです。



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注3:

 大統領選挙前の60日間は、「候補者が関わる訴追や関連捜査情報
の開示を避ける」という、長年の「覚書」がアメリカ司法省にはあるそう
です。

 もちろん捜査や透明性も大事ですが、しかし、結果的に有罪になら
ない案件によって、政治的な手続きを阻害してしまう危険があるから
です。
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 また、10月30日。

 アメリカ上院の、民主党のトップであるリード院内総務は

 再捜査を公表したコミーFBI長官にたいして、「書簡」を送付けしま
した。


 その「書簡」では、メール問題に対するFBIの対応について、

 「一つの政党に肩入れしており、公的な権限を使って選挙に影響を
与えることを禁じた法に違反する可能性がある」

 と指摘して、コミー長官の言動を激しく非難しています。


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 しかし残念ながら、

 ABCニュースと、ワシントン・ポスト紙が11月1日に、

 大統領選挙で投票を予定している有権者1128人を対象とした、

 世論調査の結果を発表したのですが、



 それによると、

 10月27~30日の時点における支持率は、

 トランプ候補が46%、クリントン候補は45%で、

 トランプ候補の、1ポイントのリードとなってしまいました。



 この調査における「統計上の誤差」は3ポイントで、

 トランプ候補のリードは、誤差の範囲内に十分収まる数字です。

 が、しかしながら、

 ABCニュースとワシントン・ポストの合同調査において、トランプ候補
が優勢となったのは、今年の5月以来で初めてのこととなりました。



 トランプ候補の支持者たちは、

 クリントン候補のメール問題にたいして、FBIが「新たなメールを調べ
ている」と発表したことが、

 「追い風になった」という見方を示しています。


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  オバマ大統領は11月2日。

 FBIによるクリントン候補のメール問題に対する捜査について、

 「国民の意見に影響を与えるような、示唆やほのめかしがあっては
ならない」として、

 クリントン候補を擁護する立場を、鮮明にしました。


 オバマ大統領は、ラジオのインタビューで、

 「捜査は、ほのめかしや不十分な情報、漏出情報に基づいて行う
のではなく、具体的な決定に沿って行うという原則があるはずだ」

 と、語りました。


 その上で、この問題をめぐっては、

 FBIや司法省、議会の調査団が過去に徹底的な捜査を進め、

 「クリントン氏が間違いを犯したものの、起訴に値する事件ではないと
結論付けている」と指摘しています。


 さらには、

 「クリントン氏の誠実さや、若い世代のためにより良い未来を築きたい
とする熱意に絶対的な自信がなければ、擁護していない」

 と、オバマ大統領は強調して、クリントン候補を擁護する立場を鮮明に
しました。



 その一方で、オバマ大統領は11月4日。

 クリントン候補の、メール問題をめぐる捜査の再開について、

 FBIのコミー長官が「選挙に影響を及ぼそうとしたとは思わない」と、
テレビのインタビューで述べました。

 オバマ大統領は、コミー長官にたいして、「真面目な公僕であり、正し
いことをしたいと考えている」と評価しましたが、

 しかし、「捜査当局は、政治から独立していなければならない」と述べ、
しっかりと釘(くぎ)を刺しています。


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 ところで、

 このエッセイをアップロードするまでに発表されている、最新の世論
調査は、

 政治専門サイトの「リアル・クリア・ポリティクス」によると、11月5日の
夜の時点での全米支持率が

 クリントン候補は46.6%、 トランプ候補が44.9%となっており、

 辛(かろ)うじて、クリントン候補がリードしているのですが、その差は
わずか1.7ポイントしかありません。



 なので、ほんとうに予断の許さない状況になっているのです!



 最後に繰り返しますが、

 私は、何としても、クリントン候補に当選してもらいたいと、願って
います。

 トランプ候補のような滅茶苦茶な人間に、世界に強い影響力もつ
「アメリカ合衆国の大統領」を任せることなど、絶対にできません。

 もしも、そんなことになれば、世界中が滅茶苦茶になってしまう
でしょう。



 ちなみに、大統領選挙の結果が判明するのは、

 早くても、日本時間で11月9日の午後だと言われていますが、

 それまでは、なかなか落ち着かない状況が続きそうです。



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