北朝鮮リスクが減少か? 3
                               2018年5月20日 寺岡克哉


 やはり、

 北朝鮮問題をめぐる情勢は、二転三転するような「激動」をして
います。

 さっそく、それについて見て行きましょう。


             * * * * *


 5月16日の未明・・・ 

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、この日に予定されていた韓国との
閣僚級会談への参加を、中止すると発表しました。

 この閣僚級会談では、南北の経済交流や、離散家族など人道問題
をめぐる協議をする予定でした。



 北朝鮮側は、会談中止の理由として、

 アメリカと韓国の空軍が5月11日から開始している、「マックス・サン
ダー」という航空戦闘訓練を挙げています。

 朝鮮中央通信は、「我々に ”最大の圧迫と制裁” を加えようとする
アメリカと韓国の変わらぬ立場の反映で、板門店宣言(注1)に対する
露骨な挑戦だ」などと主張しました。

 その上で、「我々が示した努力と善意に非道な挑発で応え、全同胞と
国際社会に懸念と失望を与えている」と、反発しています。


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注1: 板門店宣言については、本サイトの「エッセイ843」で若干の
    説明をしています。
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 ちなみに、

 この軍事訓練は、アメリカと韓国の空軍が毎年実施しているもので、
今回は5月25日までを予定しており、

 アメリカ軍の戦略爆撃機B52や、最新鋭ステルス戦闘機F22など、
100機あまりの航空機が投入されるみたいです。


               ×  ×  ×


 また、同5月16日の午前。

 北朝鮮で核問題の交渉を統括する金桂冠(キム・ゲグァン)第1外務
次官が、朝鮮中央通信を通じて談話を発表し、

 6月12に予定されている米朝首脳会談に向けたアメリカ側の姿勢を
批判したうえで、

 首脳会談について「改めて考慮せざるを得ない」と、中止の可能性を
示唆しました。



 金桂冠(キム・ゲグァン)第1外務次官は、

 米朝首脳会談を前にボルトン大統領補佐官が、「核放棄先行後の
補償」や、「リビア方式(注2)」による核放棄、CVID(完全で検証可能
かつ不可逆的な非核化)を主張していると批判し、

 その上で、

 「トランプ政権が一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、われ
われはそのような対話にもはや興味を持たないだろう」と警告して、

 「首脳会談の再考」に言及しています。


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注2: リビア方式

 リビアのカダフィ政権は2003年に核計画を放棄した後、初めて制裁
緩和などの見返りを受けました。

 しかしアメリカは、カダフィ体制を保証をしたわけではなく、2011年
の「アラブの春」と呼ばれる反政府デモで政権は崩壊し、カダフィ氏は
反体制派に殺害されました。

 北朝鮮の金正恩政権は、このようなカダフィー政権の「二の舞(まい)」
になることを、ものすごく警戒しているのです。
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 ただ、

 「関係改善のため誠意をもって朝米首脳会談に臨む場合、相応な
対応を受けることになる」とも語っていることから、

 会談前にアメリカ側を揺さぶり、譲歩を引き出すための戦術である
可能性もあります。


             * * * * *


 一方、韓国の統一省によると、

 5月16日の未明に北朝鮮から、南北閣僚級会談について「無期限に
延期する」という通知文が届いたといいます。


 その通知文によると、中止の責任は全面的に韓国当局にあるとして
おり、

 「われわれ(北朝鮮)は、アメリカと韓国当局の今後の態度を鋭意注視
する」と、強調しています。



 これに対して韓国統一省は、同5月16日。

 「遺憾であり、朝鮮半島の平和と繁栄のために、速やかに会談に応じる
よう求める」とする、報道官声明を発表しました。

 そして同日中に、通知文を北朝鮮側に送付けしています。


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 さて、

 この北朝鮮側の揺さぶりに対する、「アメリカ側の反応」を見ていきま
しょう。



 トランプ大統領は5月16日。

 ホワイトハウスで記者団にたいし、6月12日に予定されている米朝首脳
会談で、あくまでも北朝鮮に非核化を求めていく方針だと明らかにしました。

 これより先に、北朝鮮の金桂冠(キム・ゲグァン)第1外務次官が、米朝
首脳会談を取りやめる可能性があると警告したことを、朝鮮中央通信が
発表しましたが、

 これについてトランプ大統領は、「私たちは通知を受けていない。何も見て
いないし、聞いていない」と述べて、

 米朝交渉の中で直接伝えられていないことを強調しており、北朝鮮側の
警告には譲歩しない構えです。

 また、

 北朝鮮の意図については、「これから何が起きるか見ていく。時間がたて
ば分かるだろう」と、述べています。


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 5月17日。

 トランプ大統領は、北朝鮮の核放棄の方法として、政権の存続を保証しな
かった「リビア方式」の適用を否定し、

 金正恩(キム・ジョンウン)体制の存続を保証する用意があることを、表明
しました。



 トランプ大統領は、

 「金委員長は、とても力強い保護を得ることになるだろう」

 「彼は国に居続けるし、国家運営も続ける」

 と述べ、金委員長が非核化に応じれば政権の存続を容認すると、公の場
で明言して、リビアとの違いを訴えています。



 しかしながら、

 CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)を、譲ったわけではあり
ません。

 トランプ大統領は、「もし合意がなければ(リビアのような) ”完全な破壊”
が起きる」

 と述べて、非核化に向けた合意の調整が頓挫すれば軍事行動も辞さな
いと、北朝鮮にたいして脅(おど)しもかけています。



 ちなみに、

 5月10日に米朝首脳会談の日程と場所が発表された以降において、
トランプ大統領が北朝鮮を威嚇(いかく)したのは初めてのことです。

 アメリカ国防総省は、北朝鮮が中止を要求している「米韓軍事演習」も、
予定を変えずに継続する方針であり、

 トランプ大統領は、「体制保証のアメ」と「軍事オプションのムチ」で、北
朝鮮に非核化を迫ろうとしているみたいです。


              * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが・・・ 

 やはり、北朝鮮問題は「一筋縄」では行かず、北朝鮮側がいろいろと
仕掛けてきます。

 それに対してアメリカ側も、ただ単に翻弄(ほんろう)されるのではなく、
主張するべき所は主張し、「軍事オプション」という威嚇(いかく)さえ行なっ
ています。



 たしかに、

 アメリカと北朝鮮の平和協定が結ばれれば、歴史的に素晴らしいことで
あるのは間違いありません。

 しかしながら、

 その道のりは平たんであるとは言えず、まだまだ見通しがきかない状況
であると、思わざるを得ません。



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