貿易戦争の危機 4
                                2018年7月1日 寺岡克哉


 アメリカのトランプ大統領は、中国との間だけではなく、

 じつはEU(ヨーロッパ連合)との間でも、「貿易戦争の危機」を高めて
います。



 そのことは、

 以前に書いた、エッセイ836「貿易戦争の危機 1」で紹介しましたが、

 しかし、エッセイ389「貿易戦争の危機 2」の冒頭で紹介したように、

 アメリカのホワイトハウスが、EUにたいする関税の適用を猶予したので、

 アメリカとEUとの貿易戦争は、ひとまず回避された形になっていました。



 ところが!

 最近また、アメリカとEUとの間で、「貿易戦争の危機」が、ものすごく
高まってきたのです。


             * * * * *


 事(こと)の始まりは、今からおよそ1ヶ月前の、5月31日・・・ 


 アメリカのトランプ政権は、EU(ヨーロッパ連合)から輸入する鉄鋼と
アルミニウムにたいして、追加関税を発動すると発表しました。

 通商交渉で圧力をかけるため、関税の適用を5月31日まで一時的
に猶予していましたが、

 しかし、「譲歩が引き出せない」という判断のもとに、「猶予を打ち切る」
としたのです。

 これにより、

 6月1日から、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税が、かけられ
ることになりました。



 これを受けて、EUのユンケル欧州委員長は、同5月31日。

 WTO(世界貿易機関)に提訴するとともに、

 「アメリカ製品に報復関税を課すための手続きを進める以外に、
選択肢はない」

 という考えを、表明しています。


            * * * * *


 それから、しばらく経った、6月22日。


 EU(ヨーロッパ連合)の欧州委員会は、この日の午前0時(日本時間で
午前7時)をもって、

 アメリカの鉄鋼製品やオートバイ、ウイスキーなど、28億ユーロ(およそ
3600億円)規模の輸入品にたいして、報復関税を発動しました。



 EUは、それに加盟している28の国々において、

 アメリカにたいする報復関税の適用を、一斉に開始します。



 EUのユンケル欧州委員長は、

 「6月1日に発動した、アメリカによる鉄鋼やアルミニウムへの追加関税
は、自国(アメリカ)産業の保護が狙いで、”明らかなWTOルール違反
だ” 」

 と、非難しています。



 ちなみに、「WTO(世界貿易機関)ルール」では、

 自国の産業を保護する目的で、高い関税を導入した加盟国にたいして、

 他の加盟国は、その影響を相殺(そうさい)するための追加関税を課す
ことを、認めています。



 EUは、「ハーレー・ダビッドソン社」のオートバイや、バーボンウイス
キーにも、25%の追加関税を課します。

 これによって、

 アメリカ共和党議員の選挙区の産品を狙い撃ちにして、トランプ政権に
揺さぶりをかけようと、しているみたいです。


               ×  ×  ×


 一方、アメリカのトランプ大統領は、同6月22日。

 EU(ヨーロッパ連合)から輸入される自動車に、20%の関税を課すと
警告しました。



 トランプ大統領はツイッターに、

 「ヨーロッパ連合が、長らくアメリカに課してきた関税と貿易障壁に
基づき、これらの関税と障壁が早期に撤廃されない場合、われわれは
アメリカに輸入されるすべてのEU産自動車に、20%の関税を課すこと
になる。」

 「ここで自動車を作れ!」  と、投稿しています。


             * * * * *


 6月25日。

 アメリカのオートバイ製造大手である、ハーレー・ダビッドソン社は、

 ヨーロッパ向けのオートバイの生産を、アメリカから海外に移す方針
だと明らかにしました。



 ハーレー・ダビッドソン社は、

 EUの報復関税によるコスト増での値上げは実施せず、生産場所の
海外移転によって対応する方針で、

 「拡大するコストを販売業者や顧客に転嫁(てんか)すれば、ヨーロッパ
での事業において、即時かつ永続的な悪影響が及ぶと確信している」

 という認識を示しています。



 これに対して、トランプ大統領はツイッターで、

 「全ての企業の中で、ハーレー・ダビッドソンが最初に白旗を振るとは
驚きだ」

 「同社のために最大の努力をしてきたが、最終的にヨーロッパへの販売
で同社は関税を支払わないことになる」と述べ、

 「税金はハーレーの言い訳に過ぎない、忍耐強くあるべきだ」と、批判
しています。


              * * * * *


 同6月25日。

 フランスのルメール経済・財務相は、

 「アメリカ政府がEU(ヨーロッパ連合)内で組み立てられた自動車への
関税を引き上げた場合、EUはこれに報復する」という考えを示しました。



 ルメール経済・財務相は記者会見で、

 「アメリカが自動車に追加関税を課してEUを再度攻撃するなら、再び
報復する」

 「争いをエスカレートさせたくはないが、われわれは攻撃される側にある」

 と、語っています。



 また、ルメール経済・財務相は、

 ハーレー・ダビッドソン社が、EUによる報復関税の発動を受けて、ヨー
ロッパ向けのオートバイの生産を、アメリカから海外に移す方針を発表し
たことについて、

 「EUでの雇用創出につながるものは、すべて正しい方向に進む。われ
われは貿易戦争を望まないが、自らの防衛はする」と、述べました。


              * * * * *


 6月26日。

 トランプ大統領は、ヨーロッパ向けのオートバイの生産をアメリカ国外に
移転させる方針を示した、「ハーレー・ダビッドソン社」にたいして、

 「高額の税金を課す」と警告し、国民の反発でアメリカ国内の事業が危うく
なると攻撃しました。



 トランプ大統領はツイッターへの投稿で、

 「ハーレー・ダビッドソンのバイクは、絶対にアメリカ国外で製造すべき
ではない!」

 「社員や顧客は、すでに怒り心頭だ」

 「生産をアメリカ国外に移転するのであれば、見ているがよい」

 「終焉(しゅうえん)の始まりとなり、ハーレーは降伏し、終わりを迎える!」

 「オーラを失い、かつてない重税を課されることになる!」

 として、

 「高額の税金を払うことなく、アメリカで販売することは、できなくなることを
よく覚えておくべきだ!」

 と、攻撃しました。



 しかしながら、

 ハーレー・ダビッドソン社は、アメリカ国内での生産を維持する方針も示し
ていることから、

 トランプ大統領が言及している税金が、何を意味しているのか明確では
ありません。


              * * * * *


 以上、ここまで見てきましたが、

 トランプ大統領による関税措置は、相手の国々だけでなく、

 アメリカ国内の企業をも、窮地(きゅうち)に追いやっているみたいです。



 こんなことを続けていれば、

 トランプ大統領は、世界の国々から非難を浴びるだけでなく、

 アメリカ国民(つまり自国民)の支持をも、失ってしまうのでは、ないで
しょうか。


 そしてまた、

 どんなに巨大な力をもつアメリカでも、国際社会をまったく無視するよう
な「やり方」をすれば、

 それはアメリカ自身をも、苦しめることになってしまうのでは、ないでしょ
うか。


 最近の、世界経済の動向を見ていると、何となく、そのように感じてしまう
次第です。



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