ゲノム編集された人間が誕生?
                               2018年12月2日 寺岡克哉


 日産自動車の元会長だったカルロス・ゴーン容疑者が、今後どう
なって行くのか、とても気になるところですが、

 これとは別に、ものすごく驚くべきニュースが、11月26日に報じら
れました。

 それは、

 「ゲノム編集(注1)」の技術を、ヒトの受精卵に使って、双子の
女児が誕生したというのです!



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注1 ゲノム編集:

 DNAにたいして、狙った特定の部分だけを、切り取ったり、置き
換えたりする技術です。

 まるで文章を編集するように、DNAの狙った通りの部分を「切り貼り」
できる技術なので、

 遺伝子の「組み換え」ではなく、「編集」という言葉が使われているの
です。

 ゲノム編集の技術は、2000年代に研究が本格化し、世界中に急速
に広まって行きました。

 農産物の品種改良や、病気の治療への応用などが期待されています。
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 11月26日。

 中国の南方科技大学(広東省・深圳市)の賀建奎(が・けんけい)
副教授が、

 ゲノム編集の技術を、人間の受精卵に使って、双子の女児が
11月に誕生したと主張していると、AP通信などが伝えました。



 もしも、これが本当なら、

 ゲノム編集で遺伝子を操作した子供が生まれたのは、世界で
初めてになります。



 賀建奎・副教授によると、

 エイズウイルス(HIV)が細胞に侵入する入り口となる、たんぱく質
の働きを遺伝子操作で抑えることで、エイズの感染を防ぐ狙いだと
いいます。

 男性全員がHIVに感染している、不妊治療中の7組のカップルが
実験に参加し、その中の1組が妊娠し出産しました。

 実際のところ、女児がHIVの耐性を持って生まれてきたかどうかは、
まだ不明であり、これから追跡調査をするといいます。


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 また、賀建奎(が・けんけい)・副教授は11月28日。

 香港で開催されているヒトゲノム編集国際会議で研究発表し、

 不妊治療中の8組のカップルから受精卵の提供を受け、「ほかにも
一人が妊娠中だ」と、明らかにしました。


 今後18年間、生まれた双子の経過を観察するといいます。


 賀建奎・副教授は、「エイズは特に途上国で患者が多く深刻な病気
であり、子に感染しないようゲノム編集を使う必要性を感じた」と、意義
を強調しました。

 (しかしながら、父親から、生まれてくる子供にエイズが感染するリスク
を減らす方法は、すでに存在しているので、会議の参加者からは疑問
の声が出ています。)



 また、人間への応用に先立って、動物を使った手法の安全性や効果
を確認したことを、実験データを示して説明しました。

 さらには、生まれた女児の細胞が、エイズに耐性を持つことを示す
結果も、得られたとしています。


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 ところで!

 ゲノム編集の技術そのものは、まだ実験段階であり、

 それを人間に適用した場合、人生の初期や後期に遺伝的な問題が
生じたり、ガンが発生したりするなど、

 予想できない突然変異が発生するのではないかという危惧(きぐ)が、
まだ十分には払拭(ふっしょく)されていません。


 また、

 ゲノム編集は、直接生まれる子供だけでなく、未来の子孫にも影響
を与える可能性があります。


 さらには、

 親が希望する容姿や能力を持つようにゲノム編集された、「デザイナー
ベイビー」の誕生につながる可能性も、問題視されています。



 そのため、現在の段階では

 多くの国で、ゲノム編集した受精卵を、人や動物の胎内(たいない)に
戻すことが禁止されています。


 そして中国の場合、

 体外受精による「ヒトの受精卵」を使った、ゲノム編集の研究におい
ては、


 受精後14日以内の利用しか、認められていないと言います。


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 ゲノム編集を使った研究には、上のような問題があるので、

 賀建奎(が・けんけい)・副教授が、ゲノム編集によって双子の女児を
誕生させたことに対して、世界中から非難が殺到しています。



 まず11月26日に、国内外の中国人科学者122人が連名で、非難
声明を発表しました。

 その声明では、「狂っているとしか形容しようのない人体実験だ」、
「人類全体に対するリスクは計り知れない」などと、糾弾(きゅうだん)して
います。



 また、

 賀建奎・副教授が発表した、ヒトゲノム編集国際会議は11月29日。

 研究に「深い憂慮」を感じると非難する声明を、閉幕前に発表しました。

 この国際会議の組織委員会は声明で、主張の真偽を確かめる必要が
あると指摘したうえで、

 賀建奎・副教授への名指しは避けつつも、「手続きは無責任で、国際的
な基準に合致していない」と批判しています。

 また、「被験者保護の倫理的な規範を満たしておらず、臨床面などで
透明性に欠ける」と問題点を列挙しており、

 実際に実験が行われたのかどうかを含めて、第三者機関で調査する
ように求めています。



 さらに、中国科学技術省の徐南平・次官は、同11月29日。

 「中国の関連法に公然と違反した」と非難して、研究者の活動を停止
させるように、関連部門に指示したことを明らかにしました。

 中国の習近平指導部は、賀建奎・副教授の研究が「中国の科学技術
界のイメージと利益を著しく傷つけた」と問題視しており、

 賀建奎・副教授の「法的な責任」を追及していく構えです。


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 以上、ここまで見てきましたが・・・ 


 もしも、

 賀建奎(が・けんけい)・副教授の研究発表が、「事実である」と断定
されたなら、

 「とんでもない人体実験が行われた」と、言わざるを得ません!



 というのは、

 生まれた双子の女児が、この先、予測できなかった遺伝的な問題が
生じたり、ガンなどが発生する恐れが、完全には払拭できていないから
です。

 今後18年間、生まれた双子の経過を観察すると言っていますが、これ
こそまさに、人体実験に他なりません。



 そしてもしも、

 双子の女児が大人になるまで成長できたら、結婚して「子供を産むこと」
が、許されるのでしょうか?

 もしも許されなかったら、ものすごく大きな人権問題となるのは、絶対に
間違いありません。



 そして一方、

 賀建奎(が・けんけい)・副教授の行なった実験が事実なら、中国の
法律に違反しているのは明白です。

 おそらく、

 賀建奎・副教授は、研究者生命を絶たれることになるでしょう。

 しかしそれも、

 (行なった実験が事実なら)「当然の報い」だと、言わざるを得ません。



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