日韓関係が悪化 7
                              2019年2月24日 寺岡克哉


 すこし前に書いた、エッセイ881「日韓関係が悪化 2」でレポート
しましたが

 第2次世界大戦中に強制労働をさせられたとして、韓国人の4人
(3人はすでに死亡)が、新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を
求めた訴訟で、

 昨年(2018年)の10月30日に、韓国大法院(最高裁)が、

 請求金額である合計4億ウォン(約4千万円)を、4人に支払う(1人
あたり1億ウォンを支払う)ことを命じる「確定判決」を言い渡しました。


 今回は、その後の経過について、見て行きたいと思います。


             * * * * *


 1月8日。

 韓国の南東部にある大邱(テグ)地裁の浦項(ポハン)支部は、

 原告側が行った、新日鉄住金の韓国内資産の「差し押さえ申請」を、

 認める決定をしたことを明らかにしました。



 原告団は、昨年(2018年)の12月31日に、「差し押さえ申請」を
行なっており、

 今年の1月3日に、その「差し押さえ申請」が認められたということ
です。



 「差し押さえ」の対象は、

 新日鉄住金が韓国内で保有している、韓国鉄鋼最大手「ポスコ」
との合弁会社「PNR」の株式、およそ8万1000株で、

 原告4人のうち、2人分の損害賠償額(2億ウォン・約2千万円)に
相当するといいます。



 ちなみに原告団は、

 新日鉄住金が保有するPNR株を、およそ234万株と見積もって
います。



 差し押さえの効力は、PNRに書類が届いた時点で発生し、

 新日鉄住金は、株式の売買や譲渡の権利を失ってしまいます。

 ただし、

 新日鉄住金側は、決定への「異議申し立て」ができるといいます。



 裁判所が命じれば、差し押さえた株式を、賠償金として現金化する
ことが可能ですが、

 原告側は、協議での円満解決を望んでいて、売却命令は求めて
いません。



 しかしながら、

 「新日鉄住金が協議に応じない場合、売却命令を申請せざるを得な
い」

 というコメントも出して、警告をしています。


            * * * * *


 一方、これより2日前の1月6日。

 安倍首相は、韓国側による「差し押さえ申請」を受けて、

 「具体的な措置」の検討を、関係省庁に指示したと明らかにしました。



 ただし現時点では、

 「株の売却による現金化」などの「実害」が生じていないことから、

 「日本政府は、韓国政府の対応をぎりぎりまで待つ」(外務省幹部
の話)として、

 引きつづき様子を見守る構えです。


            * * * * *


 それから1ヶ月ちょっと経った、2月15日。

 原告側の弁護士は、東京都内で記者団にたいし、

 すでに差し押さえた新日鉄住金の韓国国内の資産(PNRの株式
1万800株)の、「売却命令」を裁判所に申請すると表明しました。



 弁護士たちは同日、東京都・千代田区にある新日鉄住金の本社
を訪問して、協議を要請しましたが、

 対応を拒否されたため、実力行使に踏み切る形となりました。



 弁護士は、「売却命令を申請しても、手続きの完了と現金化には、
3ヶ月程度かかる」と予想しており、

 「新日鉄住金が協議に応じる最後の期限となる」と、警告してい
ます。

            ×  ×  ×  ×  ×


 一方、これに対して新日鉄住金の広報担当者は、

 「要請書は受け取った。日本政府とも相談の上、適切に対応して
いく」

 と、コメントしています。



 また、菅(すが)・官房長官は、同2月15日の記者会見で、

 原告側代理人(弁護士)が、新日鉄住金の資産売却手続きの開始
を宣言したことについて、

 「正当な経済活動保護の観点から、関係企業と緊密に連携を取り
ながら適切に対応したい」と、述べました。


 その上で、

 「韓国政府が日韓請求権協定に違反する状態を是正するための
具体的な措置をとらず、原告側による差し押さえの動きが進んでいる
ことは極めて深刻なことだ」

 と、韓国側の対応を批判しています。


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 以上、ここまで見てきましたが、

 新日鉄住金の徴用工問題は、「損害賠償の支払い命令」から
「韓国内資産(株式)の差し押さえ」、

 さらには「韓国内資産(株式)の売却」にまで、悪化してしまいそう
です。



 もしも、

 「株の売却による現金化」などの「実害」が生じてしまったら、

 日本側は、一体どのような「具体的措置」を取るというのでしょう?


 さらには、

 その「具体的措置」によって、日韓関係が一体どうなって行くので
しょう?


 この「徴用工問題」については、これから先も、なかなか目が離せ
ません。



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