東京の新型コロナ抗体検査
                               2020年6月28日 寺岡克哉


 厚生労働省は6月16日。

 3都府県で合計7950人を対象に実施した、新型コロナウイルス抗体
検査の結果を発表しました。


 それによると、

 抗体陽性率(抗体を持つ人の比率)は、東京都で0.10%、大阪府で
0.17%、宮城県で0.03% と、なっています。


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 東京都における新型コロナの抗体陽性率が、たったの0.10%・・・ 

 私は、この、あまりにも小さな数字に、ものすごく驚きました。



 というのは、以前に書いた「エッセイ949」によると、

 感染症に詳しい久住英二医師が、東京都内で4月21日~28日に、
新型コロナウイルスの抗体検査を実施したところ、

 一般市民147人のうち、その4.8%にあたる7人が陽性(抗体あり)
という結果になっていたからです。



 これら、0.1%と4.8%とでは、

 なんと48倍もの開きがあり、そのため私は、ものすごく驚いたわけです。

 それで、

 なぜ厚生労働省の結果が0.1%となったのか、その理由について、
さらに詳しく見ていきたいと思いました。


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 さて、

 厚生労働省は6月1~7日にかけて、東京都、大阪府、宮城県で、

 それぞれ一般住民のおよそ3000人を無作為に抽出し、同意を得た
人から血液を採取して、

 過去に新型コロナウイルスに感染した人の割合を調べる「抗体検査」
を実施しました。



 その中で、東京都の場合は、

 およそ3000人のうち、1971人が採血に同意し、このたびの抗体
検査に参加しています。



 ところで一方、「抗体検査の試薬」は、

 アメリカ・アボット社製のもの、スイス・ロシュ社製のもの、アメリカ・
モコバイオ社製のもの、

 と、これら3種類が使用され、それぞれの結果は以下のようになっ
ています。


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 検査試薬          陽性者の数     抗体陽性率

 ロシュ社             6人        0.30%

 アボット社            4人        0.20%

 モコバイオ社         21人        1.07%

 ロシュとアボットの両方    2人        0.10%
-------------------------



 ここで、厚生労働省は上の結果のうち、

 モコバイオ社の1.07%は、参考値として取り扱い、このたびの結果
には採用しませんでした。

 さらには、

 ロシュ社とアボット社の、両方の試薬で陽性が確認された2人をもっ
て、抗体陽性率が0.1%としたのです。



 このようにして、

 東京都における抗体陽性率が0.1%であるという、ずいぶん小さな
値を算出したわけです。


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 ところで、この厚生労働省による抗体検査の結果について、

 日本感染症学会理事長の舘田一博さん(東邦大学医学部微生物・
感染症学講座教授)は、

 「各検査法の閾値(しきいち)前後の抗体価だった人が多いのでは
ないか」

 「閾値の設定によって陽性判定が変わることはあり得るため、陽性率
に数倍の幅がある前提で受け止める必要がある


 と、指摘しています。



 ここで、この「数倍」というのを、一般的に4倍ぐらいだとすれば、

 ロシュ社製の検査試薬では、抗体陽性率が0.3~1.2%

 アボット社製の検査試薬では、抗体陽性率が0.2~0.8%

 モコバイオ社製の検査試薬では、抗体陽性率が1.07~4.28%

 と、これぐらいの幅がある前提で、受け止める必要があると言えるで
しょう。


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 ところで一方、厚生労働省の発表より以前の6月4日。

 東京大学先端科学研究センターなどの研究チームからなる、
「新型コロナウイルス抗体検査利用者協議会」は、

 東京都内の医療機関で、5月25日に採取した500人分の血液
について、

 新型コロナウイルスの抗体検査を実施した結果を、公表しました。



 それによると、

 500人中、0.8%にあたる4人が、陽性だったといいます。



 ちなみに、

 その前に実施した、5月初旬の測定結果(500人分)と合わせると、

 1000人中、7人が陽性であり、抗体陽性率は0.7%となります。


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 以上、ここまで見てきた、さまざまな検査結果や見解を、総合的に
考察してみると、

 やはり、東京都の抗体陽性率が0.1%であるという厚生労働省の
発表は、あまりにも小さすぎる値であり、

 大ざっぱには、その10倍の、およそ1%ぐらいとした方が、おそらく
妥当でしょう。



 しかし、一方これは、

 東京でも「およそ99%の人が抗体を保有していない」と、いうことで
あり、

 日本感染症学会理事長の舘田一博さんは、

 「第2波の到来時には、第1波と同様か、それ以上に感染が拡大する
かもしれず、十分な備えが必要だ」

 と、警鐘(けいしょう)を鳴らしています。



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