バター

Butter うっとりとする豊かな味わい。たちのぼる芳香、なぜかぜいたくな感じのするバター。 事実、機械文明が普及するまでは作るのに大変な労力のかかるぜいたく品でした。

歴 史 バター、チーズ、ヨーグルト等の分類は西洋近代の世界での分け方で、その他の文化圏ではこれらの中間的な物の方がむしろ普通です。 だから"バター"の歴史と言っても本当はよくわかりません。

バターは牛、羊などの乳がかき混ぜられて偶然にできる事もあるので、太古の昔から利用されていたと思われます。 バターが文献に最初に登場するのは、紀元前15世紀〜20世紀頃のインドの経典。 ヨーロッパでは紀元前5世紀にヘロドトス(ギリシアの歴史家。)が黒海北部でのバターの生産の様子を記したものが最初です。 しかし長らくの間、バターは食用ではなく髪や体に塗る薬、潤滑油として使われてきました。 バターが食用にされるようになったのは6世紀。フランスの貴族の間です。 その後、非常にゆっくりとしたペースでバターの食用は広まっていきますが、本格的にバターが普及するようになるのは14世紀。 さらに17世紀後半に水車動力などによって製造工程が機械化されると生産量も飛躍的に増えて一般に人々に使われるようになります。 このようにバターの普及に非常に時間がかかったのは、バターよりもはるかに入手が簡単で保存性も高いオリーブ油やラードが 食用油脂として昔から広く普及していたからです。

日本には4〜6世紀頃、中国から酪と言われるバターらしきものが入っていますが、その後はほとんど食べられる事はありませんでした。 再びバターが持ち込まれたのは14〜15世紀頃。オランダ経由だと思われます。 その後、江戸時代中期(18世紀)には現在の千葉県畜産総合研究センター嶺岡乳牛研究所でバターが試作されたという事です。
原材料・造り方 乳は赤ん坊のための完全食品として、三大栄養素であるタンパク質、炭水化物、脂肪を含んでいます。 このうち特に水と脂肪は混ざりにくいものですが、それらがうまく混ざって消化されやすい状態になっているのが乳の特徴です。 細かい脂肪の粒子をタンパク質の膜が取り囲んで水に混ざりこんでいる状態です。 しかし、しぼった牛乳を静かにガラス容器などに入れておくと、2〜3日で脂肪を含んだクリームが上層に浮かび、 脱脂乳(スキムミルク)と分離します。このクリームを攪拌(かくはん)して、 脂肪の粒子を包んでいるタンパク質の膜を壊し、脂肪分をよせ集めたものがバターです。 1kgのバターを作るのに必要な牛乳は24リットルです。
  • 現在では遠心分離機でクリームとスキムミルク分離します。
  • 分離したクリームを毎分20回ぐらいの速度でかき混ぜます。この作業をチャーニングと言います。 30分ほどでクリームの中の脂肪がより集まって固まりとなります。 残りの部分はバターミルクと言われてケーキの材料などに使われます。バターミルクを水で洗い流してバターだけを取り出します。
  • 必要に応じて塩を加えて味を整えます。
上記の他、モンゴルのウルムのように牛乳をゆっくりと加熱濃縮してから一晩放置して脂肪分を分離する製造方法もあります。
種 類
  • 非発酵バター−日本で普通に売られているバター。ミルクの香りとほんのりとした甘味があります。 アメリカ、オーストラリアでも非発酵バターが一般的です。
  • 発酵バター−クリームを乳酸発酵させてから作るバターで、ヨーグルトのようなわずかな酸味があり、非常に香り高い。 ヨーロッパでは発酵バターが一般的です。遠心分離機が無かった時代ではクリームの分離に2〜3日かかったので、 この間に自然にクリームが発酵して発酵バターができました。現在では乳酸菌を加えて人為的に発酵させてバターを作ります。
成 分 バターの脂肪酸は少し加熱しただけで蒸発しやすく、芳香をただよわせます。 バターのコレステロールが問題にされた事もありませんが、通常の使用量ではあまり問題にはなりません。
市場 バターの国内消費量は2000年現在、年間8万トン(生産量は9万トン)。微増傾向です。 ちなみにフランスは50万トン、ドイツは54万トン。アメリカは61万トンです。 オリーブオイルが好まれるイタリアでは10万トン。また、バター消費量世界一はインドの195万トンです。
雑学 醍醐味(だいごみ)という言葉の由来はなんだと思いますか?古今和歌集を作った醍醐天皇も有名ですね。 醍醐とは乳製品で、バターとチーズとクリームの中間ようなものだったと言われています。 この世のものとは思えない美味しさが、醍醐味という言葉の由来です。



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制作日:2003月7月6日
上田 泰久