世界中の食卓で料理にアクセントをつけ、多くの人々から愛されているピリッと辛い香辛料。 アナトール・フランスは「愛のない物語は、辛子のない牛肉のようなもの(天使の反乱)」 と書いています。 日本でもカツや納豆、おでん、シューマイなどには欠かせない、少量でも大きな存在。 |
品種 |
和辛子はアブラナ科アブラナ属セイヨウカラシナ(からし菜)の種子。種子の粒のままでは辛味はありませんが、
すりつぶして水分を加えると強烈な香りと辛味が出てきます。 洋辛子(マスタード)は近縁の黒辛子、白辛子の種子ですが、ペースト状の商品に加工するときに酢や甘味を加えたり、一部加熱して辛味を抑えています。 |
種類 | ホワイト、ブラウン、イエロー、ブラック、と色名で呼ばれていますが、国によって呼び方が違うので非常に混乱しています。 以下は日本での一般的な分類。
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原産地 | 黒辛子は中東のレバノン近辺、白辛子は地中海沿岸が原産地。 |
利用の歴史 |
有史以前からレバノン近辺で栽培され、エジプトや中国に伝わっていったと考えられています。(ピラミッドや中国の洞窟からも種子が見つかっているそうです。)
エジプトでは種子を砕いて現在の粗びき胡椒のような使い方をしたようですが、ギリシアではすりつぶして使うようになり、
ローマでは蜂蜜や酢でのばして肉用のソースに入れたり、
塩漬けの鮪(まぐろ)と混ぜ合わせたり、と早くも現在と同じような使い方をしていました。さすが元祖グルメの国。 中世にはカトリック教会の神父がマスタード調合の品評会を開くなど、 貴族・教会・富裕層の間では基本的な香辛料としての地位を確立していました。 しかし一般にはなかなか香辛料としては普及せずに、もっぱら湿布薬など薬用に使われていました。香辛料として普及したのは意外に新しく、 17世紀のフランスで油を絞ってから製粉する方法が考案され、 1720年にイギリスのクレメンツ夫人という人がきめ細かく黄色の粉末に加工する技術を完成させてからです。 辛子の種子は油を40%も含んでいるので、すりつぶしてもペースト状になってしまい、粉末にはなりません。 粉末化が香辛料として広く普及するきっかけになったという事です。 日本でも奈良時代から香辛料として使われ(もちろん朝廷・貴族で)、大日本古文書(739年)、 延喜式(平安時代の法典、納税の記録。927年) などに芥子(本来はこの字を使います)の記述が見られるのですが、 どうも鎌倉時代まではカラシ菜の葉をそのまま薬味として使っただけで種子は使われなかったらしいです。 初めて実芥子の文字が見られるのは四条流庖丁書(1489年)です。 |
主産地 | 世界中の温帯で広く栽培。日本で使われている辛子はほとんどがカナダからの輸入物です。 |
成分 |
和辛子・黒辛子と白辛子では辛味の主成分が違います。 和辛子・黒辛子はアリール辛子油。白辛子ではパラハイドロオキシベンジル辛子油が辛味成分ですが、これらは種子や乾燥粉末の状態ではそれぞれシニグリン、 シナルビンという配糖体の形で存在していて、香りや辛味がありません。この点が他の香辛料と大きく異なる点です。 これらに水を加えるとミロシナーゼという酵素の働きで糖分が分離し、辛味成分を含んだ精油が生成されます。精油の含有量は0.5%〜1.0%程度。 |
利用方法 |
和辛子も最近ではチューブ入りの練り辛子が主流ですが、使う度に粉から練り上げると鮮烈な香り・辛味が楽しめます。
ぬるま湯で練ってから器を逆さまに伏せて5分ほどおくとアクが抜けます。
練ってから白味噌や醤油などを少量加えると、辛味が
やわらぎ味に奥行きが出ます。 洋風料理では、マスタードはロースト・ビーフ、ホットドッグ、ハムサンドなどの肉に合わせる香辛料として定番。マヨネーズ、ドレッシング、 ソース、などにもよく使われます。また、ピクルスやマリネには風味付けのために粒のまま加えられます。 マスタード焼き:肉や魚にマスタードを塗って焼くと、その香りが肉・魚のうまみをひきたてます。 マスタードを塗った上からパセリやにんにくのみじん切りを混ぜたパン粉をまぶして焼いてもいいですね。肉は鶏、 豚、羊。魚は鱸(すずき)、鮃(ひらめ)、 鯖(さば)、鰤(ぶり)、鰯(いわし)など、様々な食材に使える調理法です。 マスタードは焦げやすいので、塗る前に素材には半分火を通しておく事。加熱で辛味が抜けるのでマスタードはたっぷりと使う事がコツです。 |
市場 |
年間9,000トン程度がカナダから輸入され、消費されます。 |
雑学 |
カラシには本来”芥子”という字をあてていたのですが、これはケシと同じ漢字です。色々な漢字辞典を調べても、
確かにカラシにもケシにも同じ”芥子”があてられています。
昔の文献では”芥子”と書いた後で”からし”とふり仮名をふっているものもあります。これでは漢字の役目を果たしていないと思いますが、
なぜかこうなってしまっているのです。 |